15−5
——まずい!まずい!!まずいですっ!!!
途端、脇目も振らない感じで走り出した私の後を、まってよー!な軽〜い声がちょっと慌てて追いかける。
——ボス戦フロアは左でしたね!?
誰に確認するでもなしに自己完結でルートを決めて、来た道を必死に戻っていくと、危ないよー!?な声が聞こえて急に体が浮遊する。
——え!?
と思ってハッとして。
——そういやこの道トラップあった!!?
と、アホみたいに考える。
——知ってたくせに踏んじゃうとかさ!!もう私ってば馬鹿でしょう!?
まさに救いようがねぇ!ですな!!と憤慨しながら落下してると、きたる痛い衝撃は思いのほか軽かった。
「ほらー、ボク、ちゃんと危ないって言ったじゃん?」
珍しくもフワフワしながら怒りを表現するソレに、反射的に「すいません!」と頭を下げて。
落ちた自分を拾ってくれた、浮かぶピンクの炎に触れる。
「……なんなんですか?この素材。炎なのに熱くなく…それでいて柔らかい…」
「ボクが作った炎だよ☆ね♪ボクってやっぱりすごいでしょ?」
確かに燃えてる感じはするが、熱さは無くて火載(?)も可能。
前の世界の来迎図にある五色の彩雲さまっぽく、乗ってると、なんだか妙に有り難いような気持ちになってくる。
相当に焦った心も一発で落ち着くほどの、癒し系なフワフワ炎に囲まれて。近づく地面に「よいしょ」と降りたら、天井付近の黒塗りの穴を「あーあ…」な気持ちで見上げる私。
「はぁ…何だか落ち込みますが、急がば回れというやつですね」
空洞内のモンスター・レベルは30〜40台。ボスは50に近いというが、平均80を越しているらしい東の勇者パーティだ。“何か”が起きてもしばらくは、きっと耐えてくれる筈。そう自分を納得させて、どうせなら実験するゼ!とナイフをいくつか引き出した。
それを左手でぶらぶらさせて、上の階へと登れる道をウロウロしながら探しだす。
ダンジョンらしく、下階に落ちたらモンスターのレベルも上がり、イグニスさんの一発の攻撃で勝てる相手も減ってきた。
けれど難なく守ってくれるふよふよ浮いたゴーストさまに、ちょっぴり感動してきた頃に、手に持ったナイフの異変に気がついて。
想像通り、殆ど使い物にならなくなったそれらの様子に、やはり悠長にはしていられない、と緊張感を呼び戻す。
あの炎に乗ったまま飛べたりします?と一応聞いてみたけれど、君がこっち側の存在になったなら、と言われたら。
まぁ、楽をせず、地道に探すしかないですよね…と。
それでもいろいろ“飛んだ”炎に、どうなってるの?と問い掛けたなら、「そりゃあボクが愚者火(ボク)だから☆」という、よく分かるような分からないような、そんな答えが返ってきたのだ。
イグニスさんとの問答に脱力しながらも、行き止まりを避けて行き、ちょっと雰囲気が変わったなぁ、なダンジョン・フロアに踏み込んだ。
何となく色は茶色いけれど、前の世界の鍾乳洞な見た目の具合のフロアを進み、ふと、視線を移した時だ。
——…ん?何か挟まってる??
天井から垂れ下がるつらら石と石筍(せきじゅん)が、上手い具合に織り混ざる奥の部分に、何かが引っかかっているようで。
——あそこまで進んで行くの…ちょっと面倒くさそうだけど…。
と、足場が悪いその場所を「うーん…」な気持ちで見つめつつ。
でも気になるし…と気にし始めたら、どうしても見てみたくなり。
——よし、行くか。
な、心を決めると、体を捻ってその岩々の隙間を掻いた。
狭い!刺さる!うわ、折った!?と内心で暴れつつ、イグニスさんに「何してるの〜?」な呆れた問いをかけられつつも、必死の思いでその場に着くと。
まさに今、天と地が繋がりますよなシチュエーションで、上手い事その部分に収まった、革製の腕輪が一つ…。
「………」
なんつう場所に掛かってるのか…しかし素晴らしい偶然の産物だな、と感心しつつ、まぁ、ここで会ったのも何かのご縁、と思う事にし。
そっと後ろの留め金を取ると。
——シンプルながら、なかなかイケてるデザインじゃ?
と。
手にしたそれをしばし見つめて、私は腕輪を鞄に入れた。
再び体を捻りまくって元の通路に出てみれば、気は済んだ?な声をかけてくる愛らしい死霊さま。
結局そのルートの先も行き止まり…だったのだけど、気を取り直し道を戻ると、ほどなく選んだルートの先に上へと登れる坂を見る。
——やっと助けに行けますよ!!
心の中でガッツして。
——待ってて下さい!勇者様!!
と。
生き残ったナイフを握り、今度は罠を回避して、見覚えのある通路の先へ。
奥へ、奥へ、少しでも早くボス戦のフロアへ!と。
私は逸る心を抑え、疾走して行ったのだ。
※火載(かさい?):もとは炎だし、車載のノリでお願いします。




