15−3
さすが大空洞と言うだけあって、洞窟系にしてみてはダンジョン内が馬鹿広い。
前の世界では考えられない高い高い天井を見て、グラデーションのち深い闇色で塗りつぶされた穴の末端部分を見遣る。洞窟系ダンジョンとしては有名な部類であっても、一つミスれば致命的なダンジョン・カラーの毒の霧。通りすがりのギルドにおいて簡易地図を見てきたが、この調子なら見つかってない岐路が複数ありそうだ。
——どうしようかな、マッピング…。
しらみつぶしに探すとか、結構趣味であるのだけれど。
——入る前から心配されてて、急に後ろから居なくなったら、さらに余計な心配とかさせそうだしさ。
うーむ。
ここは折半案で、さり気なくレプスさんとかに「ちょっとウロウロしてきます!」と伝えてから行こうかな。
そうと決まれば善は急げだ、と何回目かのエンカウントを無事に終了した人に、私はそそっと近づいて。大丈夫でござるか?と若干しおっとした耳をした獣人レプスさんとかに、行ってきます♪をしたのである。
とまぁ、文字で書くなら簡単だけど、現実は少しだけ難しかったりしましてね。
軽〜い調子で「行ってきまーす」と踵を返してみたならば、愛しい人から強い視線が飛んできた。
まるで、「この危険なダンジョンで、しかも私の目が届く範囲で別行動をするつもりか?」と。完全仕事モードな彼は背景に僅かな怒りを立ちのぼらせた訳なんです。
レプスさんは「ほらね」な空気で苦笑だけを浮かべてくれたのですが、さすがの私も予想外に縮こまっちゃいましたよねー…(´▽`) 勇者って眼力も凄いんだな、と。
だから仕方なく、パーシーさん…は、今も大切なイベント中らしいので。イグニスさんを召喚した訳です。
丸っこい見慣れたボディに今日も今日とてハイテンションな、ファントム・タウンにお住まいの透けた白い死霊さま。本当に来てくれるのか若干不安だったんですが、「面白そうなところに居るね?」とあっさり出てきてくれました。しかも、「ちょっと暗いんじゃない?」な第二声を放ったら、パアッと炎で照らしてくれて。その辺になり、彼のお方の眼力も弱まった…かに見えたので。まぁ、呼び止められないうちにと逃げるように別行動っす。
どちらかというと私って、入り口からこまめに調べる質(たち)なので。
そう言う訳で、今現在、ふよふよ浮いたゴーストさまと並んでダンジョン探索中。
今回は普通に出て来てくれたので、さほど恐怖心も煽られず。
ちょっとしたマスコットを連れている気分です。
洞窟内にはうっすらと、おそらく毒気を孕んだ霧が所々に漂っていて、ムード満点なんだけど。何故か白い死霊さまと並んで歩いてしまったら、コメディ感が漂うような軽い雰囲気になってしまう。
エンカウントもするんだけれど、彼が扱う攻撃手法がどれも手品のようなので、なんとなく終了時には「おぉー」と拍手をしてしまったり。だいぶふざけた攻撃だけど、きっちり勝利を収めるために、これでも意外と強いんだなと私は感心しまくりだ。
「ところで君さ。なんでこのダンジョンに入って来たの?」
入り口付近の岐路を進んで、奥へ奥へと向かって行って。ちょっとした宝箱とか見つけてみたりして、元来た方へ戻っていたら。横から聞こえた素朴な問いに、思わずそちらを見上げて返す。
「あっ、はいです。それは勇者様が…な感じなんですが、たぶんそういう問いじゃないんですよね?」
イグニスさんは「ケキャキャ」と笑うと、肯定を表すように上下にふわんと浮き沈み。なので、詳細は分からないですが…と、私は元の話を語る。
「なんでも最近、ここに挑んだ冒険者な人達がどうやら帰って来てないと、噂になってるみたいなんです」
そりゃあ、基本ダンジョン入りは自己責任…なんだけど。
加えて此処は“毒”とかあるし、攻略には難がある、と思われても仕方ないんだけれど。
充分勝てると思われていた有名なパーティが、帰って来てないようだ、とか。
あれ?そういや誰々が挑戦するとか言ってたが、それ以来会ってない気がするな、とか。
ポツポツと浮上してきたよくあるような話を集め、そういえばと思い至った近場の受付嬢さまが、いざ記録を見てみると。
なんと驚くべきことに、ここ七年間、大空洞に挑戦しに出た冒険者の旅の記録が、そこでぷっつり途切れていたらしい。
「いくらなんでも誰一人として戻らないのはおかしい、と。それで勇者パーティに探索依頼が出たみたいなんですよ。挑んだ人の遺品探しと、ダンジョンが変質してないかとかの確認をするそうです」
だからもしイグニスさんが誰かの遺品を見つけたのなら、私に教えてくださいね。と、取りあえずお願いしとく。
以前挑んだ人達は、おそらく死体も残らない状態だとは思うのだけど——まぁ、徘徊しているモンスターさんが、踏みつぶしたり食したりとか、ね——、割と武器とかアイテム系は残っていたりするのである。
そこは暗黙の了解で見つけた人が拾って良いけど、よほど困ってない限り強い人達は手を付けない。一般的に無骨に見える冒険者だが、彼等の中にも死者に対する礼儀はあって。けれど命も大事であるので、そんな風習になったらしい。
中には読まない人等もいるが、経験上、そういう人等は最終的にその程度で終わると聞いた。どんな世界も礼儀がなければ極める事は難しいのだと、ちょっと身につまされたのは余談である。
ふとそんな思考から戻ってくると、イグニスさんが一方を見て、無言の点滅を始めたり。
——えっ!なになに?どういう意味が!?
これはゲームな場面でいうと、話しかけろのサインかな??w(゜o゜;)w
そう思ってドキドキしながらそおっと声をかけてみる。
と。
「ここで一人死んでるよ♪死因は戦死。毒で体力が減った所をモンスターにやられたみたいだ☆」
そんな明るい解説が。
「……因に何年前ですか?」
と、一応ながら聞いてみりゃあ。
「う〜ん…今から十六年前?」
意外と詳しい情報が。
——死霊な白い契約者さま、何だか特技(?)がございましたよ!
人の死に場所。
そして死因と。
何年前に死んだかとかが、割と詳しく分かるとは。
——なんて今回の依頼とかに“もってこい”な人材か!
あ、いや、私じゃなくて勇者パーティの依頼だけども。
微力ながら、しかもこっそり手伝えるんじゃ?と思ってしまった、ある意味、懲りないベルさんは。
「イグニスさん、ここ十年間、ダンジョン内で死んだ人達の死に場所とかを、これから教えていって欲しいんですが!」
取りあえずそんなお願いを述べていたりしたのである。