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14−10



 それからさらに三日経ち、進展がないままに微妙に落ち込んでいる雰囲気の勇者様。

 次に調べるべき場所も特に思いつかないと、本日は仕方なく休みとなった。

 皆が遠征している間はイシュがエイダちゃんの相手とか積極的にしてくれて、連日書庫で寝こけてしまう失態をおかしたのだが…まぁ、勇者様に見られなければオッケーか、と肩に掛かったブランケットに親切な幼なじみの姿を思う。

 いや、待て、自分。特定の人物に見られなければ、な発想は、現世での気のたるみ。うっかりそれを放置しちゃうととんでもない事になる…!


——私ってばまだ十代!私ってばまだ十代なの!


 そんな意味不明な叫びを上げて「はっ」と目覚めた爽やかな朝。

 ちゃちゃっと身なりを整えたなら、朝食の準備とかいそいそ始めてみたりした。

 そして、皆で食卓を囲み込み、どことなく落ち込んでいる?勇者様を知ったのだ。

 まぁ、確かに、帰る手段が見つからなくて凹む理由も、分からなくはないけれど。いや、むしろアレだな、アレ。どうせ真面目な勇者様の事なので、自分というよりパーティのメンバーを家族の元に帰さなくては的な辺りが。彼だって彼の家族が待ってるだろうに、何となく薄いんだよなぁ執着が。

 そう思えども上手いフォローを口から出せる訳もなく、こうなりゃ私が当ててみますよ!!ちょうど今、史実的にもいいとこですし!と。休日という自由時間の宝庫に感謝して、私はさっさと家事を片付け再び書庫へと戻ったのである。




——あれ?そういや日蝕は??うーん、うん?


 それは正午を少し回った頃だった。

 私は不意に浮かんだ問いを、誰にでもなく問い掛ける。

 そしてこれまで見た書を開き、その痕跡を探し出す。

 このファンタジーな世界様がどういう公転周期とやらに乗っているかは知れないが、太陽一つ、月一つ、と前の世界と似たような星巡りにあるためだろうか、地上にある歴史書にはいくつかの“蝕”の記録が残されている。

 この島も同じ星のうちなのだ、しかも同じ大陸の上にあるなら、これまた全く同じ日に日蝕だって見られるだろう。

 そう思って該当しそうな時代を細かくチェックするけど、何故か記録が見つからない。


——あっ…!もしや、直近と思っていたこの記録、予想より遥かに前の時代だったり、ね?


 仮にそうなら、歴史的に有名な千と少し前の日蝕が記録書に記載されていないことも頷ける。


——なんだ。それならこの記録の最新項は、下界のものとは少なくとも千年ちょっとの開きがあるってことか。


 考えてみて何となく、腑に落ちはしたけれど。

 何かが気になる不思議な気持ち。

 平素からこんな時、私は自分の直感を信じる事にしているために。

 的として絞った項をひらめきのまま調べ出す。

 本当は、エルフが地上に降りたっぽい時代の辺り、それを特に念入りに調べるだけでも良いのだろうけど。

 実はこうした違和感は初めてではなかった為に、一応の確認と言い聞かせて指を動かす。

 思えば、この書庫にある記録を綴った蔵書の量。同じ装丁のものというので観察すると、素晴らしく多い、と思えるのだが。ここへ来て私が手に取ったのはせいぜいが十数冊。一番若い本の辺りと、飛び飛びで引き抜いて、およそ五十冊前の“地上へ降りた時代”の辺り。

 記されてまだ時代の浅い一冊は、古いものに比べると驚くほど書き込み方が乱雑だ。場所によっては年代も年号も記されていない箇所があり、記録書としてどうなのだろう…と思わない訳でもない(どうした天空エルフ様…)。それでも記録がある事は幸運な事なのかもしれないが、そこに何か重大な…思いもかけない穴がある…ような気がして。私は捲ったページと共に、簡単にだがその年の目印になりそうな出来事を白い紙に書いていく。


 そうしてどれだけ経っただろう。


 すっかり闇に覆われた空に控え目に浮かぶおぼろげな月。

 そんな月の明かりを頼りに、私は足早に廊下を進み。

 しっとりとした薄鼠に神秘的な藤を浮かべた幼なじみの居室を訪れ、違和感しかない時間の流れをそのままに問うていたのである。


「時間軸がおかしいんです」


「時代が若くなるほどに、どうやら時間が間延びしている」


「そんなこと……」


 この世界で、あり得ます———?


 急に現れたこちらの様子に彼は腰を下ろしたままで、静かに、静かに視線を上げた。

 それから全てを見通す瞳を意味深に揺らした後に。


「よく、気付いたね」


 と通る声音で。

 私の体を貫いたのだ。

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