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「それでは、夕刻までには戻りますので」


 翌日、動きやすそうな衣類を纏い、やはり細身の剣を腰に下げた姿で現れたエデル姉さんは、朝食を済ませると勇者様らを連れ立った。

 記録碑なる石の在処は、今となってはモンスターが徘徊する場を越えて行かねばならないらしく、戦力外な私とイシュはエイダちゃんと待機を選ぶ。留守番には慣れている、と自信満々に言われても、さすがに小さい子供一人を置いて行くとかできないし、夕方間近に準備を始めた急誂えな寝所の具合をどうせなら改善しておこう、とか思ったりしたのである。

 一晩経って、人数が人数だけに朝食の手伝いを申し出てみた所、エデルさんは快く受け入れてくれたりして。実は最も先ん出て親睦を深めた仲である、と自信満々の私であった。軽〜く今日の予定とか朝食作りを手伝いながら伺いを立てておいたので、キッチンの使用だったり寝具類の手入れなどその範疇で許される筈である。加えてエイダちゃんを伴った城内の徘徊や、蔵書庫への立ち入りなども、しっかり許可を求めておいた。家事を終えたら私は私の知識を以て、地上への帰還方法などを調べ始めるつもりである。

 それというのも頼みの綱の幼なじみのイシュルカさんが、帰還についてはノータッチ、な姿勢をこちらに見せたので。ここでやっておきたい事とか色々とあるのかな?とこちらも触れない事にしたのだ。ある意味、何も伝えて来ないイシュの姿は、ちょっと調べればどうあっても帰れるよ、と言っているようなものなので。

 とはいえ、奴の陰謀で訳も分からずこんなところへ連れて来られた勇者様とか、ホント気の毒を通り越して、身内が大変な苦労を強いまして…<(_ _;)> な心地になってくるために。こちとら全力で帰還方法調べますから!夜とか全然睡眠時間も削ります!!な気合い漲るベルさんなのだ。


 そして何事も無く勇者様らを見送ってから、私は家事に精を出し、布団類を干したりだとか昼食、夕食の準備など気合いを入れて行った。

 ぱっと見、眠そうな目をしている妹のエイダちゃん。私が朝食の片付けを終え、各々の部屋の布団を干しに廊下をパタパタ走っていたら、定位置らしい椅子に腰掛けじっとこちらを眺めていたので。殆ど見ず知らずの人がいきなり家で働き出したらそりゃあ対応に困るかなぁ?と、昼食後、少し時間が空いてから「何かして遊ぼうか?」とか誘ってみたりした。そして、おやつの時間あたりにイシュが取り出したお菓子を伴い三人でお茶する頃には、エイダちゃんと呼んだりしてもごく普通の反応が返って来るようになり、そこそこ懐いてくれたような雰囲気だった。

 そのうち彼女は少し眠そうな素振りを見せたので、本格的に寝入る前にと蔵書庫を教えて貰う事にした。またしても玉座の間っぽい威厳に満ちた場所を横切り、相変わらず美しい装飾の回廊を進んだその先に、薄暗い蔵書庫がドンと構えていたりして。

 入る前は「へぇここか」なあっさりとした感想は、扉を開けて「マジですか…」な驚愕に塗り替えられて、一体私はどれだけの量を読まなければならないのかと、ちょっと意識が遠ざかる。

 回廊の窓から見える壁までの厚みからして、あぁ、魔空間な雰囲気ですね、と暗い奥行きと高い天窓に貯蔵量を予想して。再び意識が遠ざかったが、的を絞って読めばいいさと閲覧許可な棚の数を少女に伺い立てたのだ。

 朝食の作成時、一気に気安い口調になったエデル姉さんは「読んじゃいけない本なんか、あそこには無いわよ」とあっけらかんと語っていたが、責任者の確認を二重に取る意味とかでエイダちゃんに聞いたなら、やっぱり「読んじゃいけない本なんか存在しない」と返された。


——いえ、ちゃんと読み込んだなら、弾いた方がいい書物とか普通にあると思うのですが…。


 ここは持てる良心で、ヤバそうな書物の棚はなるべく触れないようにして…まかり間違って読んでしまっても“秘密”は墓まで持って行こう、と。密かに決意を固くする。

 とりあえず場所も分かったし、そろそろ勇者様達が帰って来る頃なので、と。いよいよ眠そうに目を擦ったエイダちゃんをイシュが優しく抱き上げて、私達は居室に戻る。

 リビングに着いたなら少女はソファーに寄っていき、背もたれに掛けられた毛布を引いて寝転んだ。

 最後の寝所の調整と各部屋を伺って、おそらく仕事の指示を飛ばしに庭先へと出て行ったイシュの姿を眺めていると、ほどなく勇者様達の姿が見えた。


「おっ、お帰りなさい」


 と、ちょっとどもって声をかけたら。


「あぁ」


 という返事を貰い。

 不謹慎かもと思いつつ、舞い上がった私が居たり。

 エデルさんは眠ったエイダちゃんを見て、まぁ、という顔をして。部屋へ消えるとその後すぐにリビングへと舞い戻り、夕食の準備をするためキッチンへと消えて行く。

 私もすぐに彼女を追いかけ、疲れていると思ったのでこういう準備をしておいた、等、報告しながら夕食作りに勤しんだ。そもそも泊めて貰っているし、多くないだろう彼女らの蓄えを削る訳にはいかないと思っていたため、イシュに例の食料袋を提供して頂いたのだが、エイダさんは袋の中の調味料の種類を知って好奇心でいっぱいだという顔をした。

 だから、下ではこうやって使われていますよー、とか、色々と紹介するために、私の方が作る品目をやや多めにしたりして。実際、久しぶりに距離を歩いて結構疲れてしまったのよね…と、自分の他に家事の手がある事とかを喜んで貰ったり。

 帰って来た彼等の空気で、成果はあまり芳しくない…と察する事ができたのだけど、それを払拭するように食卓は明るい雰囲気作りとか心がけてみたりした。


「帰る手がかりは何も掴めなかった」


 と、難しい顔で語った勇者様だったけど、深刻さの具合とか、まだそれほど悪くないと思われた。

 当然ながら、次はどこを調べてみるか。そんな話題が持ち上がり、お昼寝から目覚めた少女が食卓に加わって、エデルさんがあーだこーだと探る場所の提案をする。

 では明日はどこそこ高原と、何々神殿に行ってみよう、とオチがついた雰囲気に、そろそろしゃべってもいいかなぁ?と食卓の上を見渡して。


「あの…私も微力ながらお手伝いします…というか」


 言ってみて、急に集った視線の多さに「うわっ」とビックリしながらも。


「蔵書庫にある記録書などから、手がかりを辿っていこうと思います…ので」


 と。

 久しぶりに右手を上げて、宣誓とかしてみたり。




 そして私は夕食後、順番にお風呂を貰い、各々が就寝までの短い時を思いのまま過ごす様子を雰囲気で感じ取りながら、やや暖かい格好をしていつもの鞄を引っさげて、そっと蔵書庫へ向かって行った。

 今日は特に長距離移動も運動もしなかったので、体力的にはバッチリだ。午前二時…いや三時くらいはイケるかな、と大体の時間を見積もって、月明かりが差し込んでいる美しい夜の城を堪能しながら足を進めた。

 取りあえず他種族さまの蔵書庫という事で、怪しい事はしてないですよなアピールをするためにドアは開けっ放しにしておいて、廊下から覗いたらばっちり見える位置とかに仕事場所を決定し、どうせなら揺れない方が都合がいいなとイグニスさんの炎が灯った燭台付きのロウソクを、広い机の上に置く。


——あの死霊さま、無償の契約条件で、好きな時にこっちにこれるとほざいていたが…まぁ、このロウソク経由で居場所とかバレたって、今ならこき使ってやるさ!


 と鼻息を荒くしながら、前の世界に比べるとあまり質のよろしくない黄みがかった白紙の束と、イシュに頼んで作ってもらったインクペンを取り出した。


——こちらの準備はオーケー、と。


 それじゃあ、ちょっと気が遠のくが、何冊あるとも知れない海に一丁飛び込んでみましょうか。

 まずはどんなルールを以て並べられているか、から。

 これだけ立派で曲がりなりにも王様の城の蔵書庫なので、ジャンル無視とかある訳が無い。

 そう強く確信しながら魔空間な広い書庫を端から端まで歩いて行って、書棚に刻まれた目印だとか、背表紙の疲労具合だったり、時には一冊抜き出して読める文字かの確認をひたすら地道に行った。


 そんな風に記してみたなら、まぁ、何となくでも察せられると思うのですが。

 初日はそういう分類の書庫における位置情報取得のみ、で終わったりとか。

 終わったりとか…。

 もうね。

 紫(ネブラ)のエルフ様の城…蔵書量が半端ないのです。

 歴史書っぽい棚とかで「どんだけあるの!?」な量ですし。記録を大事にしてる、ってのはものすごく尊敬するんですけど…。

 いかんせん量とかが…量とかが、ですね、もう、アレで。


 ちょっと泣きたくなったとか、泣き言を言ってもいいですか…?

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