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「城…ですね」
前の世界の某アニメらしく、しかしそれとは全く異なる様相で鎮座している空飛ぶ城(ラピュータ)を見て、私はポツリと呟いた。
「こんなにお城が隣接してるの、初めて見ましたよ」
遠目にも豪華絢爛な“天上人”が築いた城は、只今視界に入るだけでも四棟は見て取れる。
よくよくと凝らしてみればそこそこ距離はありそうなのだが、それにしたってこれだけの城、それに数を頭に入れるとどれだけの時間を掛けて、そして労力をつぎ込んで創造されたものなのか。ちょっと気が遠くなる。
「オレもこういう光景は初めてだなぁ。とりあえず…まずは何処に行こうかねぇ」
全員が乗れる小島に各々が立ち尽くし、徐々に迫り来る立派な城に呆然としていると、私の言葉を受けたらしいライスさんが囁いた。ふと全員がシュシュちゃんを見て、彼女も計り兼ねているのを雰囲気で悟ったら、再びその場に何とも言えない静寂が漂った。
——…何をどうしたらいいのだろう。
ここは定番のお城探索しちゃいます!?きっとレアなアイテム類が手に入ったりしますって!≧(´▽`)≦ な軽〜い私の提案は、場の空気を一発でぶち壊しにするだろう。とか。真面目に思ってしまった後は、ひたすら口を噤むだけ。
神聖で厳かな浮き島の雰囲気からして、どう鑑みてみても…今の私の発言は勇者様の好感度とか凄い勢いで下げそうだ。そういう訳で、と黙り込む。
真面目な顔で先を見ていたお隣のイシュルカさんは、少し進むとふっと雰囲気を軟化させ。
「…人が立っているようです」
と、目頭揉みで自身の“眼鏡”を強調しつつ、勇者パーティに語ってみせた。
「人だ。しかも、エルフっぽい」
動く小島が次の島に近づくと、人の姿がより鮮明に我々の目に入り込む。
視力が凄い少年は彼女等の耳でも見えたのだろう。呆然と呟いて無意識に自分の耳に触れていた。
私の視力がようやく彼女等の面立ちを捕らえると、対する二人はやや硬い表情でこちらを真っすぐ見定めていた。髪の色や面立ちからして彼女等は姉妹に見えて、年の頃はお姉さんが私と同じか少し上、妹さんはソロルくんより数歳下と思われた。
相手方の緊張はこちらの方にも伝わって、彼女等が待つやや大きめの移動小島に全員が足を下ろしても、しばし沈黙が降り注ぐ。浮かない顔のお姉さんの警戒色が色濃く出ており、さすがの勇者様でも声を掛けるのはものすごく躊躇われたようだった。
——しかもこちとら冒険者。得物がばっちり見えてしまったら、余計怖いと思いますよね…。
一応というようにスッキリとしたドレスの裾にレイピアっぽい細身の剣を忍ばせている様子が見えるが、丸腰の妹さんを守りながら戦う腕ははっきり言って無いと見た。
——やはり、ここは女性から。さしあたり最年長の私が声をかけるべき、か。
そろそろ腹をくくらなければ、と大陸の公用語とかちゃんと通じますように!な願い事をかけながら、一歩を出そうとした瞬間。ふら〜っと危うげな足取りで前に出て行くシュシュちゃんを見る。
初め、そんなシュシュちゃんを見てハッと力んだ彼女の方も、徐々に何かを感じたらしく、ふと肩から力を抜いた。妹さんも不可思議ながらシュシュちゃんを敵だとは思えなくなった雰囲気で、気怠そうな目元を開きお姉さんと繋いだ右手をゆるりとほどく。
そうして歩み寄った彼女等は、両手をそれぞれと重ね合わせて、何かを確かめ合うように、心で言葉を交わすようにと、しばし無言で寄り添った。
景色は変わらず城をバックに、空と緑に囲まれて。
エルフ女子の三人がただそこに居るだけなのに、その空気の神秘的な事といったら。見えない何かに気圧されて、声を掛けるのがものすごく畏れ多い、みたいな事になっている。
——あぁ、これが、セレイドさんが語った所の、王象(レガリア)というやつか…!
三人から滲み出ている何ともいえない圧力は、彼女等の血に刻まれた霊気(オーラ)なのだな。そう考えて横を見遣れば、訳が分からないままに脂汗を流している少年が。
「えっ、どーしたのソロルくん?」
なんか心配とかしてしてしまい、思わず声をかけてみたなら。
「知らないよっ!」
と、逆ギレ気味に返された。
何だよもう!と憤慨しながら再度彼女等に視線を向ければ、少年の荒い声を聞き我に返ったらしい乙女が、ふとそちらに視線を向けるとこだった。
お姉さんはソロル氏を目を見開いて眺めていたが、たぶん彼は普段の目つきが悪いままで——加えて不機嫌オーラとかばらまいてみたりして——そちらにきつい一瞥とかを投げてしまった雰囲気だった。薄紫の髪をなびかせ、彼女はちょっとたじろいだ。けれど再びそおっと見ると、今度はどこか恥じらうようにサッと視線を泳がせる。
——あぁ!そうきますかぁ…!!(//>_<//)
その行動の何ともいえない初々しさに、貰い照れとかしちゃったが。
人の気配の薄いこの地に、迎えに来たのが女子二人。すると考えられる事には、もしやこの地に男子は居ない…?で。なんか同じ種族の男子が急に目の前に現れたなら、そりゃあ確かに少しくらいはキュンとするかもしれないなぁ、とか。
彼女だけが知らないままで場の全員が二人の様子を微笑ましく見守ってたら、そこで漸く本当に我に返った姉上は、やっぱり恥ずかしそうにしてか細い声で囁いた。
「あなた方が私達に害をなそうとしている方ではない事がわかりました。なにぶん客人は久方ぶりで、長いこと二人暮らしをしておりますので、大したおもてなしもできませんが…」
そして聖地観光隊は自身をエデルリーナと語った彼女に連れられて、今現在唯一の居住区だという城の一つに、畏れ多くも招待されたのだった。