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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
2 エディアナ遺跡
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2−2



「うぅむ…ここで“創星(そうせい)の杖”を差し出されても困るのでござるが……」


 勇者パーティの魔法使いレプス・クローリクは、受け取った杖に視線を落とし困惑しきった声で呟いた。


 この世界でステータス・カードに「職業:魔法使い」と刻まれた人たちは、自分たちの武器——主に杖——を手に取ることでそれに与えられた名前を認識することができるという。

 これは魔法使いに限らず、剣士なら剣の名前、弓士なら弓と矢の名前、槍士なら槍の名前がわかるという仕組みになっている。ちなみにこの能力はスキル欄に記載されるものではないため、恩恵(ギフト)の一種であろうと言われている。ギフトはステータス・カードには記載されない。だから、いまいち原因がわからない事象についての議論は大抵ギフトのせいにされる(実際それで丸く収まるそうなのだ)。

 また、職業を持ちつつレベルが上がると認識できる武器の名前が多くなる、というのはこの世界の人たちの語られない常識の一つである。まぁ、ダンジョンに入るために冒険者に登録しているものの、その実タダの一般人である私には縁のない能力なのだが。


 受け取ったものを手にしながらどことなく渋るレプスさんの姿を見て、浮かんだ疑問を口に出す。


「あれ?もしかして使えないアイテムでした?」

「いや、普通に使えるのでござる…」

「それは良かった。どうせ私が持ってたって使えないので差し上げますよー。返してもらわなくてもいいですから」


 胸の高さほどに持ち上げた手のひらをブンブン振って気軽さをアピールする。

 この時点で用を終えた私の視線は、既におじいさんの背後におわす愛しい勇者様を捕捉していた。


——あぁ…今日もカッコイイ(はぁと)


 自然と顔がほころぶのがわかる。


「そう簡単にくれると言われても複雑な気分でござる…ベル殿はこの杖に一体どれだけの価値があるか分かっているでござるか?手にしなくとも尋常じゃない魔気(まき)が漂ってくるのでござる…“創星の杖”は世界宝レベルの杖なのでござるが。なぜベル殿のアイテム袋に入っていたのでござろうか……」


 耳が悩ましい声を拾って、ふとレプスさんに視線が戻る。

 魔法使いのおじいさんは普段ならピンと伸びている耳をへにゃっと下げて、うんうん唸りながら八の字眉毛をつくり盛大に困った顔をしていた。


「すごい杖なんですねー。じゃあやっぱりレプスさんにプレゼントしますよ☆」


——さぁそれを持っていってこれ見よがしに使って下さい!そしてさり気なく勇者様の私に対する好感度アップにご協力を!!


 汚れなき好意どころか下心満載の笑顔で答える私。


「地味な棒だったんでちょっと可愛く装飾しちゃいましたが、気にしないでいただけると助かります」


 あはは、と爽やかな笑いが空気に溶ける。

 なにせこの杖、拾った時はただの地味な棒だった。そんなものがレアアイテムであるなどと、一般人が思い至るわけがない。

 たまたま家の戸締まりに使っていたところ、知り合いの商人が「それ魔法使い用の杖みたいだよ」というので、ならば前の世界では不可能だった魔法少女の杖というものをリアルに再現してみよう!と思い立ったのだ。失敗しても元はただの地味な棒。だからちっとも悔しくない。

 記憶を辿れば、魔法少女の杖ならば何より可愛くなくてはいけない!という信念のもと、その地味な杖に様々な細工を施したのを思い出す。

 前世では娘も1人育てており、幼児期の洗礼を受けているのだ(休日の朝のゴールデンタイムにキラキラしい魔法少女たちのアニメ番組を見ること)。魔法少女がガチで存在するファンタジーな世界に転生したからには、夢と語られたものを現実にしなければ気が済まない。

 そういうわけで、今おじいさんの手の中にある杖は、透明と緑と紫の三つの星形の結晶石が頂きに配置され、棒との繋ぎ部分はレースや真珠で可愛らしく飾り付けられているという、世にもファンシーな状態だった。


——まぁ、見ようによってはこの組み合わせ、無くはない。なにせレプスさんはとても可愛いおじいさんな訳なのだし……。


 内心で取り繕うように言葉を並べ、その人の様子を恐る恐る伺うと、思いがけずキュートな笑みが付加されて言葉が返る。


「確かに飾りはついているでござるが、使う分には問題なさそうなのでござる。そうでござるな。深く考えずに、レアアイテムが手に入って得したと思うことにするでござるよ」


 ベル殿ありがとうなのでござる、と言いながらパーティメンバーが待つ方へと戻っていくレプスさんを物陰から見送って、物思いにふける私。


——今日もいい仕事したなぁ!


 これで勇者様の私への評価はうなぎ上り!と、一人こくこく頷いて悦に入っていると、遠くの方——その距離10メートル——で聞き慣れた少年の声がする。


「じいさん、いい歳して何ニヤついてんの?」


 エルフ耳を生やした萌葱色のボブカットの少年シルウェストリス・ソロルくんが、短剣を宙に放り投げながら鬱陶しそうに呟いた。


「幸せそう…」


 何を思ってそう言っているのか想像もつかない抑揚のない声で、金髪ポニーテールのシュシュ・ベリルちゃんが続く。


「杖まで持ってるなんてさすがベルだな」


 青銀の髪を強力なワックスで固めたように垂直に逆立てた美中年、ライス・クローズ・グラッツィアさんが感心したように頷いた。


「思わぬところでレアアイテムを手に入れることができたのでござる。生きているうちに世界宝レベルの杖を手にすることができるとは、魔法使い冥利に尽きるのでござるよ」


 小さいお目めをキラキラと輝かせながらレプスさんは幸せそうに杖を握りしめて言う。

 そのセリフにヒクッと顔を引きつらせ、ソロルくんがこちらを見たような気がしたが……ま、気のせいだろう。

 時間は短い。乙女の時期はあっという間に過ぎ去るもの。

 だから今は子供にかまけている場合ではない。


——1分1秒をも無駄にせず、愛しい勇者様の姿を見つめるべきだ。なぜならそれこそが私がこの世に生を受けた意味なのだから!


 意気込みよろしくグッと見えないところで拳を握り、物理的に無理がありそうな大剣を背負う黒髪短髪、右分けちょい前髪長めなイケメンさんに再び熱い視線を送る。

 しばらくざわめきが上がっていたが、それを収めるように低く落ち着いた声があたりに響いた。


「出発しよう」


——あぁもうっ、なんという美声でしょう!(はぁと)


 やはり恍惚と身もだえている私を置き去りにさっさと彼らは移動を始める。

 今回もあっという間に姿が見えなくなるのだが…。

 大丈夫!私には愛の力があるからね!

 なんと言ってもこのダンジョンはエディアナ遺跡という“遺跡系”。なので石畳のほぼ一本道。モンスターレベルも低めの30台ということで、前回の“森系”ダンジョンとは違いトラップといえばせいぜい落とし穴程度のもの。あとは隠し部屋を開くための仕掛けがあるかもしれない、くらいのものなのだ。

 通常、ダンジョンは冒険者ギルドに登録していなければ入ることができないようになっている。レベルこそへっぽこな私だが冒険者登録は済ませているし、特殊スキル持ちなので命の危険はそれほど深く考えなくても大丈夫。

 よって、気分は前の世界で言うところの中世ヨーロッパ風お姫様。

 ツイと両手の指先でロングスカートを優雅につまみ上げ、役者よろしく灰色の石畳を駆け出す私。

 好きだったラブソングのメロディを口ずさみ、スキップ&ターンを走りの間に織り交ぜながら彼らの後を追って行く。


——貴方の後をどこまでも付いて行くのが、私なりの愛の表現方法なのですわっ!!

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