12−10
それから一日後。
鬱陶しいと思われても仕方ないほどおしゃべりしちゃったよ…しかもだらしない格好で……と落ち込みながらも、しっかり熟睡した翌日。
私は前日に引き続き、転生orトリップ系の前人の気配探しに町の歴史館に赴いた。
この町には図書館が無かったために仕方なくなチョイスだったけど、詳しい所は分からないまでも、こちらの記憶と似通ったところを見つけては嬉しいやら懐かしいやら、思った以上に幸せな気分になれた。
お昼はSUSHI-YAっぽい店に入ってSUSHIっぽい食べ物を食べ、宿で小休憩を取った後、今度は銭湯にでも入ろうと夕涼みしながら下町へ。さっそく買った浴衣を身に着け、マイ桶を抱える私は、さながらユノマチ温泉郷の達人観光客の佇まいだっただろう。
そうして有名だと聞いた銭湯・フジ屋へやってきて、願いが叶う異界の青い山、の実物にクッと息を漏らされた。
——まずい。これはフジサンだ。見紛う事なきフジヤマだ。やっぱこの町へ飛ばされた転生者かトリッパーって…同じ出身国の人ですね!
しかもあそこ。あそこに一人。
願いが叶う、を信じてしまい、両手を合わせている人が!!
——うわぁ、本気で拝んでる…( ̄△ ̄;)
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「って、シュシュちゃんですか!?」
な悲痛な叫びは、風呂場のせせらぎを塗りつぶし、男湯までも届いたという話。
シュシュちゃんとの思わぬ出会いとフジ屋のお風呂を堪能し、冷たい飲み物を探すべく連れ立って町を行く。
かき氷的な食べ物を並んで食べた後、買い物がしたいと呟いた彼女の言葉に乗っかって、二人でぶらぶらし始めた。
隣に並んだ美少女効果か、夕ご飯一緒にどう?とか声をかけられること三度ほど。普段そういうイベントが起きない私は内心で終始オドオドしていたが、さすがと言うべきか、お隣の美少女さまは一部の隙も見せる事無く「行かない…」と一言でぶった切る。そしてさっさと先へ行くから、ぽかんとしながら出遅れた私が慌てて後を追う。そのとき背中に突き刺さる、お前のせいで、な八つ当たり雰囲気は…たぶん、気のせいじゃないんだろうな。
まぁそういうのは気にしても仕方ないので、さっさと気を取り直し、散策再開。
温泉街につきもののの温泉まんじゅうを試食して、半熟ぷるぷるな温泉卵を試食して、値段の割に造りがチープなお土産を冷やかしながら、言葉少なな彼女と歩く。
余りにも発言が乏しかったので、思わず、私と一緒で楽しいのかな?と疑ったのだが、よーく観察してみれば行動が年相応な感じになっていて、それなりに浮かれてるんだな〜、と。普段見られない少女の様子に微笑んでしまう私がここに。
そのうちアクセサリー屋を見つけると、ツンツン裾を引っ張って「私は先に行ってるから」と目力で伝える彼女は、元々の美貌もあってかなり可愛い。
これで惚れた相手というのが、あの残念そうな気配が滲むエルフ男子じゃなければなー…と、少し遠い目になったけど。人の好みはそれぞれだ、他人の恋路は邪魔しまい、と頭をフルフル思考をやめた。
——さぁて、追いかけていきますかー。
もう少し町の中へ入っていくと、高級な装飾屋さんもあったんだけど。このあたりが普段使いで悔しくない程度の品物かもな、と思い出作りの品探し。折角、綺麗な金髪なのだから、結って飾ってと楽しまないと。また休暇の日ができたなら誘って一緒に遊びに行こう、その日のために何か飾りを買っておこう、と私の方も自然と気合いが入る。
踏み出した夕暮れ時の道ばたに、ふっと“それ”に気が付いて、何となく歩み留まると。
次にはハタ、と視線が合った、私と黒髪の勇者様。
「…っ」
うっ、と恥ずかしい気持が湧いたが、私は相当頑張った。
「シュシュちゃんと食べたんですが、あっちの温泉卵屋さん、美味しかったですよ」
と。
よければご賞味あれな感じで、サササと近づき、サササと去るという行動に出てみたり。
まぁ、近づいてからは恥ずかしすぎて顔を見る事はできなかったが、知人っぽいやり取りができ、アクセサリー屋に逃げてきてから内心かなり喜んだ。
——ふっ…普通の会話ができました!!
後で冷静に鑑みてから、返事を貰ってなかったよ…よってあれは会話じゃない…と落ち込みはしたけれど。
この関係の充分な前進に、自画自賛ながら一人感動に浸ってみたりしたのです。
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勇者の嫁になりたくて。
異世界からの転生者、ベルリナ・ラコット18歳。
このまま少しずつ…少しずつでも勇者様と仲良くなれたらいいな〜♪とか。
能天気に思った夜なのでした。
何だか視線が合い過ぎじゃ…?と焦りながら投下した12話ですが…。
さっそく二人きりシーンが書けて作者は割と幸せです。
一度はやってみたかった「タオルはらり」イベントは、当初勇者側にさせようと思ってましたが、良心がベルをそこまで痴女にしてはいけない!と叫んだためにノーマルイベントになりました(笑
得したね、勇者様!