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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
12 ユノマチ温泉郷
120/267

12−9



 ちょっと確認しておきたいんだけど———。

 前の世界の会社な職場で上司がよく言うセリフのような、そんなフレーズが反芻されて、私はサッと居住まいをその場に正してみたりする。


——何でしょう、部長殿!


 心の中で勝手にそう呼んで、雰囲気的に部長がいいなと心の中でニヤッと笑う。

 もちろんそんな内部の動きはおくびにも出さないが、従順な部下のフリはじんわり滲んだかもしれない。

 それをどう取ったのかは知れないが、どことなく微妙な空気を纏いながら勇者様は口を開いた。


「旅費は足りているのか?」


 と、思いがけない質問に、は?旅費??何故に旅費???と頭の中で疑問が駆け巡ったが。


「えぇと…心配して頂いてありがとうございます。おかげさまで旅費の類いは足りています」


 と、取りあえず下手に出ておいた。

 勇者様はこちらの虚を衝く質問が得意だな。

 ふと考えて。

 あぁ、違うのか。これはおそらく遠回しにこちらの事情を知りたいという要求なのだな。

 そこへ至った私はすぐに、付け加えるのが不自然にならない間合いで、それとなく補足してみせる。


「勇者様を追いかけながらフィールドを移動している時に、薬草を見つけたら引っこ抜いておいたりだとか、ダンジョンに入った時に、見つけた宝箱を開けてみたりとかして、売れそうなアイテム類を結構な頻度で手に入れてるんですよ。売却先も大体固定してるんで、売値を安く見積もられたりとか騙される事も少ないですし。収入は結構安定しています。あ、そうです。実はですね、その売却先の一つというのが商人をやっている幼なじみだったりしまして…」


 初めは勇者様を安心させるために話し始めた私のお金事情だったのだが、何か気付けば楽しいおしゃべりに変化していたりして。結構長い時間をかけて、あーだこーだとしゃべっていたり。

 宝箱系アイテムや拾い物系アイテムを買い取ってくれる幼なじみ(イシュ)のこと、それからいつも薬草を買い取ってくれるのは腕利きの調合師さんで、いつぞやの領主さんに渡してもらった依頼状がどうのとか。

 そういう話を、いつの間にか穏やかな気配を纏い、先を促すようにして聞いてくれていた勇者様。そんな思いやり溢れる行動に、普段話し相手とかあまり居ない私はうっかり、延々と語ってしまう。

 途中、ハッと意識が戻り、やっちまった…と反省するも、今までに披露したアイテム類の入手もと、どうやって手に入れたのかとか、薬草類の知識はどこから得たのかとかをさり気なく質問されて答えるうちに、あれ?これって根掘り葉掘りというやつか?とか。まぁ、ある意味イーブンなのかと思い至ると、そのうちどうでもよくなった。


——誰かと話すって、こんなに楽しい事だったんだなぁ。


 なまじ相手が好きな人なら、尚のこと気合いが入るよね。説明させて頂きます!とか。率先して思ってしまう。

 そう内心で苦笑してると、和やかな会話の終わりはごく自然に訪れた。

 トントンと扉を叩き、食事を運んできた旨を伝える中居さんの声がして。


「そろそろ戻る」


 借りた浴衣は後で返す、と彼は言い、食事を運び始めた中居さんをすり抜けて、この部屋を出て行った。

 腰を上げる少し前、話を聞いて安心した、と言っていたので。よほど私に関する借り(?)が気になっていたんだな、と。その真面目さ加減に今更ながら苦笑する。


——なんだか普通に知人っぽい気安さで勇者様と会話してしまったよ。


 何となく拍子抜け…といいますか。

 あれ?もっと照れたりとかして良かったんじゃないですか?な気付きはすぐに封殺し。並べられた料理を食べながら、段々と“照れの何たるか”を思い出していった私は………。

 彼との会話を辿っていって、タオルがはらり、としたとこで。


——………のっ…ノーブラのまま向き合ってたよ…!!?


 そういえば!!とか。

 自分の残念具合にかなりの時間、料理の味を忘れていたりした。

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