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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
12 ユノマチ温泉郷
119/267

12−8



「…この“届け物”に心当たりは?」


 ピシリと固まり動かないままのこちらの気配を伺うように、その時、彼はそう言って袋を一つ机に乗せた。小綺麗な手提げ袋は小箱のような塊を一つだけ中に入れていて、その角がピンと張っている。

 手に乗るサイズの小箱の中身、それには心当たりは無かったが。ふと、届け物…届け物…とテンパった頭でゆっくり話を辿っていくと、うすぼんやりと町で出会った占いのお姉さんが思い出されて。

 

 ———お礼、するわ!絶対に!だからちょっと待っててくれる!?


 な、慌てたセリフが頭の裏でリピートされた。


——あ…お礼?あの時の??


 そういやあのお姉さん、町の中に居てくれればいいとか言ってたような気がするな…。

 それから、後で届ける的なニュアンスで……。

 あれ、そういや最後らへんに、お土産付きとか…言ってた…よう、な………?


 ふと思い出しながら、終わりの辺りで気付いた予感に、まさかと思って目線を上げると、それに合わせて勇者様がバッチリ視線を合わせてきたり。

 そして私は。


——ひぃっ…!!


 と戦き、その場でゴツン。


「すすすす、すみませんっ!!」


 思いっきり心当たりがございます!

 と、机に額をぐりぐり押し付けながら、心の底から謝罪した。


——魔女さま!魔女さま!!お土産の方が大きいですっ!!!お礼とお土産の比率というのが完全に逆転してるんですがっ!?


 そもそも勇者職ともあろうお方がそのポジションお土産って…絶対何かが間違ってるよね!?

 いやもう大陸中のファンの方から怒られそうで怖いですっ!!

 すみません!勇者様!!

 貴方様が風呂ボッチャン、そしてここに閉じ込められてしまったのは間違いなく私のせいです!!ごめんなさいぃぃ!!!でも勇者様に怒られるのが怖いので、ほんとの事が言えないです…!!


「とっ、とりあえずそれ、開けてみましょうか!!もしかしたら部屋から出られるようになるかもしれませんので!」


 私は青ざめた顔になんとか愛想笑いを浮かべると、さっそく袋をたぐり寄せ中身の小箱を引き出した。前の世界の桐箱よろしく何かの木で作られた箱の蓋をそおっと開けて、中に収められていたお礼の中身を持ち上げる。

 その時、ふわっと風が吹き———カラ、カラン……と。

 耳に涼しいその音が、二人きりの空間に優しく響いたのだった。


「……これって、風鈴?ですかねぇ」


 魔女さまからのお礼がステキな夏の風物詩…と何となく落ち着いた心で思えば、勇者様がおもむろに手を伸ばしてきたので、そちらの手に委ねてみる。

 と。


「死霊(ゴースト)系を寄せ付けない効果があるらしい。それと、鎮静の効果も持つようだ」


 なんと親切な勇者様、アイテムの効果とかを確かめてくれたらしい。


——おぉお…!お姉さぁああん!!((☆д☆))


 ものすごく欲しいと願っていたものを、ピッタリ当てて届けてくれたあの魔女さまに、私の好感度はぶっちぎりでMaxである。

 そういや前の世界でも、風鈴っていうアイテムは魔除けだとか聞いた事があるもんなぁ。

 マジ最高です!!これで怖い思いとか、しなくて済むようになるんだな!!!

 感動のまま目の前の人に「ありがとうございますっ!!」とお礼を言うと、こちらの気迫にわずかにたじろいだ気配の後に、「よかったな」という幻聴が聞こえた気がした。


「それでは扉を確認してきます!」


 あがったテンションで鼻息荒く、私はさっそく密室解除を確認するべくその場に腰を持ち上げる。

 風鈴の出現に意識を殆ど乗っ取られていたために、ちょっと前まで漂っていた気まずい空気は敵ではなかった。

 そして余裕のよの字を抱え、気付いたら大胆にも勇者様に視線を合わせ、あろうことか満面の笑み付きで前言を発言していたりした。

 そんな私を無言で見ていた勇者様当人は、こちらが立ち上がろうとしたのを少し慌てて止めに入る。いや、慌てたと言ったって、普段から彼をよく見ている私のような人から見れば、いつもより反応早いな!な程度であって…まぁ、普通にナチュラル制止だったんだけど。

 まさかそこで「行かなくていい」と言われるなんてこれっぽっちも思いはしなかったから、え?となって私は停止した。

 一応、聞き間違いかもしれなかったし、立ち膝のまま、しばし待ってみたのだが。微妙に観念(?)したらしい勇者様、扉の方で魔力が動いた気配がしたからたぶん解錠されている、旨の話を呟いた。

 その割に、さっきみたいに急いで帰ろうとしないので。

 何となく釈然としないまま、上げた腰をゆっくり戻して私はその場に留まった。


——何だろう…?どうしたのかな?勇者様…。


 心の問いがそのまま顔に出たのだろう。

 彼は気まずそうにして、けれど決意したのだという雰囲気を滲ませながら、出しっ放しで既に冷めてしまっただろうお茶をひとくち、口にした。

 それから真っすぐこちらを向いて。


「確認しておきたいことがある」


 そんなお硬いセリフを吐いた。

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