閑話 果ての島にて
「ねぇお姉ちゃん」
スミレ色の髪をツインテールにした少女が、膝の上に広げた絵本から顔を上げて呟いた。眠そうな目で、先ほどから忙しく部屋の中を動き回っている自身の姉に視線を合わせる。
「なによ?」
白い三角巾を頭にのせた姉とおぼしき人物は、少女と同じスミレ色のポニーテールを揺らしながら振り返る。その顔はハッキリと「迷惑だ」と告げていたが、邪険な態度ながらもちゃんと返答をよこすあたりに姉妹愛を思わせる。
「三つ数えるうちに星が流れたらオフロ掃除代わってくれる?」
「はぁ?なに馬鹿な事いってんの?」
「代わってくれる?」
「昼間なんだから流れ星なんか見えないわよ」
「代わって…」
「あぁもうっ!うっとうしい!!」
そう叫んだ姉は妹の首根っこをつかむとずるずると窓際まで引きずっていき、曇り始めた空が見える位置に少女の顔を突き出した。
「さっさと数えなさい!絶対見えないんだから!」
「見えたらオフロ掃除…」
「いくらでも代わってあげるわよ!ほら、早く数える!私はあんたと違って暇じゃないの!!」
妹は姉の目の見えない位置で眠そうな目をさらに細くし、小さな口の端をわずかに上げた。
「いーち」
開いた窓から、ふわりと柔らかい風が部屋の中へ運ばれる。
「にー」
何かの光が見上げる至空に瞬いたと思った瞬間。
「さーん」
猛烈な勢いで赤い尾を引く流星の一群が、薄雲を纏った空に広がった。
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姉:ぽかーー( ゜Д゜)ーーん...
「じゃあオフロ掃除よろしく」
少女は隣に立つ姉にそう伝えると短い足で定位置に戻り、未だ固まったままの彼女の後ろ姿を相変わらず眠そうな目で伺いながら、小さく漏らす。
「お姉ちゃんは釣りやすい…(´m`)」
………えぇ。
流星が落ちたシーンを別の誰かが見ていたというのを書きたかったがための閑話です。
後悔はしていない…のです。




