11−9
あれからひとり町に戻って、夕方の観光タイム。
今日は早起きだったので体が少し疲れているが、この気怠い感じとかが暗くなり始めた町に合う、と。私はラフな格好でふらりと宿屋から飛び出した。
ポツリポツリと軒先に灯り始めた光を見ながら、洋風だけど風情がある、とぼんやり町を散歩する。旅行は嫌いじゃなかったが、前の世界じゃ機会がなくて、あまり行った事がなかったのである。
こうして勇者様を追いかけて大陸中を歩いていると、旅行みたいでとても楽しい。
いや、これは実際に旅行なのかも。しかも大好きな人と一緒に同じ景色をみてるのだから、と。
そして、疑似デートだ♪やっほい!などと踊った所で、私は思わぬ人物を見たのである。
紺色のローブを纏ったその少年は不安げに耳を折っていて、通り過ぎる人達にちらりと視線を向けてみるも、声をかける事がいまいちできず、立ち尽くしたままだったのだ。
道にでも迷っちゃったかな〜?と、何だか放っておけなくて。
顔見知りだし、ちょっとは信用してもらえるかも、と私は自然に近づいた。
「よかったら送っていきましょうか?」
と声をかけると、私の姿を視界に収め、ウルラギくんは耳を戻した。ヒコヒコまではいかなかったが、二つの黒耳がヒココな感じで交互に動きを見せたので、ちょっとは喜んでもらえたようだ。
加えて。
「………(こくり)」
と頷いたので、なにこの子可愛い過ぎるわ!とテンションが上がったが。
ふいに上げた視線の先に勇者様とか見つけてしまい、あー…そうか、と落ち着いた。
「どうやら探しに来てくれたみたいですよ」
ほら、あっち、と目線で差すと、ウルラギくんはそちらを向いて、こちらの方を振り返る。
「勇者様に付いて帰ればバッチリですね」
それじゃ、私は、この辺で。
どうぞこっちは気にせずに、と無言で返すと、元来た道の方へと歩き始める。
背中の辺りに少し視線を感じたものの、そちらに進んだ気配がしてきてホッと一息。そのまま何事もなかったように町歩きを再開する。
——探してくれる人が居て羨ましいなぁ…。孤児ってそういうところがちょっと寂しい。
この世界に家族が居たら…と妄想する一歩手前で、不意に掛かった手の感触に驚いて声が出た。
「わっ」
と跳ねた体に触れていたのは、予想外な人物で。
振り仰いだ瞳の中に、まさかそこまで驚くとは、と困惑を混ぜていて。
「っ…」
何か私に用ですか?と返そうとした口は、緊張しすぎて上手く言葉を紡げずに。
お互いにしばし無言の時間を見送って。
ようやく会話になったのは。
「少し…話がしたい」
と。
勇者様が語った後だった。