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——もう怒りましたよ!!許しませんっ!!!


 久しぶりに噴火した私の脳は、その時ふらっと現れた闖入者により、幾許温度を下げられた。


「何かあったの?」


 そう言いながら気安い感じでホールの扉を押し開けてきた職員さんは、「妙な気配がしたから」と補足して、ふと階下を見下ろした。


「あー…ダグラス・ファーミュアかぁ。じゃあもしかしてあの中に勇者とか居ちゃったりする?」


 そんな軽〜い口調を受けて、え、入り口で会ったはずじゃ…?とちょっと疑問が湧いたけど。


「あの黒髪の男性が勇者です」


 と、頷きついでに肯定を返しておいた。

 きっとここに派遣されてる職員さんだし、もしもに対する備えとかきっと持ってる筈ですよね、と。無事に下がり始めた脳内温度のおかげさまで、無謀な行動に出なくて済んだ私はちょっとホッとした。


「そっかー…そりゃ運が悪かったねぇ。ボスとの戦闘中にどこかのランプ消したでしょ?」

「あ、いえ。そこまで詳しくは見てなかったですけど…なるほど、そういう呼び水だったんですか」

「うん。ちょっとでも綻びができちゃうとさぁ、簡単に気配が伝わるからね。あそこまで恨みを抱いて死んじゃうと、そりゃあ強い死霊になるし。そっかー…あの人を封印する時、結構手間取ってたもんなぁ、人間さん。手だれが二十人くらいは居た気がするよ」

「そんなに頭数が必要でしたか…。でも、そうなんですよ。せっかくランプに火を灯しても、うめき声みたいな攻撃で全部消されてしまうんです。こう、ゴーッと風みたいなのが湧いてきて。この距離を一人で走ってあっさり無に帰されるのとか、ほんと頭にくるんです」


 最後の方は何やら愚痴っぽくなってしまったが、“誰か”さんに吐き出せて少しスッキリした私。

 ここまで情報通な人なら、きっと何か良策があるはずだ。


——例え無くても走るのとかを手伝って貰えるだろうし。


 そんなことを考えながら、続く言葉をめいいっぱい期待して待ってると。


「まぁ、要するに、さ。その炎が“消えなきゃ”いいんでしょ?」

「いやまぁ…普通に、そうなんです、けど……っ」


 言いかけながら、にっこりと笑顔を見せる職員さんに、何故か鳥肌が立った私は。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「……、あの、“職員”さん…」

「ん?」

「……“無償”って、こういうこと、なんですか…?」

「………(にこっ)」

「………(ひくっ)」


 ここへきて漸く気付いた怖い予感に、固まった私を前に。

 “職員”さんはおもむろに手を自分の頭に置いて。

 次の瞬間、スポッ!!な感じで胴体からその首を切り離す。


——っ、くびもげたっ!?


「うっ…やああぁあっ!?!!!」


 おかしいと思ったんだよ!!

 史跡でも何でもないのに職員さんが居るとかさ!!!

 何で居るんだろう?とか!!もっと深〜い疑問を持っていたらさあ!!?


——…って、だからってどーにもならない気がしますけどっ。


 涙目でビクッと戦く私を見下ろし、職員さんのフリをした例のあの人(?)は、きゃはははは☆と甲高い声で笑って、ふわっと回転。いつか見たあの懐かしい単純フォルムに姿を戻し。


「あのときボクの影ってば、ちゃんと落ちて無かったんだよ。確認した?まぁ今は置いとくけどさ。———“力”をかそーか?ご主人さま☆」


 と、背景を透過する白い体をふるると揺らし、契約しちゃった死霊な人(?)が「くわっ」と赤い口で言う。

 思わず。


「うぐっ…」


 と言葉に詰まるが。

 ぐうぅうぅっ…という苦渋の末に、私はなんとか結論を出す。


「………お願いします、イグニスさん」


 ほんとに小さい、小さい声だが。

 願いを聞いたゴーストさんは、可愛らしくも不気味な声で「ケキャキャキャキャキャキャッ!」とひと笑い。


「さぁ!ボクを使って!ご主人さまっ☆」

「……(えぇい、ヤケだ!!どうにでもなれ!!)———イグニスさん!この部屋の燭台全てに“消えない”炎を灯して下さい!!!」

「ケキャキャキャキャ☆おやすいごようさっ♪愚者火(イグニス・ファトゥス)の名にかけてっ!!」


 ノリノリの発言の後、妙になつかしいセリフが聞こえ、ひとりジーンとなってると。

 消えない炎を纏った死霊な人(?)がホール中を飛び回り、透かし彫りのランプへと次々炎を灯していく姿が見えた。

 イグニスさんが灯した炎は、怨霊の叫び声でも一切揺れることはなく、床に描かれた魔法陣は二度と消されることが無かった。

 あ〜、愚者火ってこういうことか。納得する私を他所に。

 魔法陣発動中にとどめをさされた怨霊さんは、そのまま無事に封印されて、長く続いた連戦も終わりを迎えたのだった。

 思いがけない戦闘で苦しめられたメンバーは、ようやくホッと息をつき。

 特にレベルの観点から激戦を強いられたウルラギくんとアーシュリーちゃんの両名は、そのまま床に腰を下ろしたようだった。

 その後、何やら下の方から。


「…何なんですの…あの女…」

「………(じ〜)」

「あぁ、まぁ、うーん…あれがベルだよ」

「某もいつも驚かされるのでござる」


 とか、そんな囁きと気配を感じたが。

 それからほんの少しの休憩をとり、勇者パーティはそそくさとボス部屋を後にしたのであった。

 実はその時、もの言いたげな雰囲気を約一名から感じたのだが、走った疲労が思い出されて私は素知らぬフリをした。

 そして壁際に腰を下ろして、ふわふわ漂うゴーストさんへと心の底からお礼を述べる。


「助かりました。イグニスさん、どうもありがとうございます」

「いいよー!ボクと君の仲じゃない☆」

「そういえば。よく此処が分かりましたね」

「だって君、ボクの屋敷のロウソクをまだ所持してるでしょー?」

「……はっ(゜゜ ;)」


 しまった。そういう仕掛けだったのか。

 いつか使える日とか来るかも、ただそれだけで持ってたのだが。

 よし決めた。あのアイテム即捨てよう。

 そんな気持ちが出たのだろう。

 さも愉快そうにポンポン跳ねて、イグニスさんが言葉を返す。


「あ、もう捨てたりとかできないからね♪限定化しちゃったし〜」

「!!!」

「あ〜、一応言っとくけどさ、そもそもココってボク達のフィールドだから。契約者が入ってきたらすぐ分かるんだよね♪」

「!!!」

「死霊(ゴースト)系ダンジョンに入る時はボクのこと喚んでよねっ☆これでもけっこー強いから♪まー、喚ばなくても勝手に来るけどね〜!」


 無償ばんざい!と、白いお人(?)は愉快に笑う。


「そういうやファントム・ロードには会ってきた?」

「あっ、すみません。お会いしませんでした。その…なんて言いますか、都合がつかなくて…」

「そっかー、残念。パパも君に会えるのを楽しみにしてたんだけど」

「(えっ。ロードがパパさまですか)っ!?」

「まぁいいか!また来年も呼ぶからね♪♪」

「(えぇっ!?また来年)っっ!?」


 いや、お願いします、呼ばんでいいです。

 謹んで遠慮しておきますから、と言いかけた私を制すと、ふよふよ漂うゴーストさんは一方的に「じゃー、またねっ☆」と不吉な言葉を言い残し…死霊の街へと帰って行ったのだ。

 取り残された私はポツリ。


——やっぱイシュの言う通り…


「無償(タダ)ってすごく恐ろしい……」


 とか。

 がっくり肩を落とす勢いで呟いたのだった。

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