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「もう一回、あれやるの…?僕の魔力、結構削られてるんだけど…」


 高レベルダンジョンでもあまり聞かないボス戦の三連戦目は、そんな少年の呟き声で始まった。

 とはいえ、前の戦闘で要領を得たパーティはすんなりとスタイルを再構成し、先戦の半分ほどの時間をかけて手堅く勝利をもぎ取った。どこにどれだけの魔力を振って戦えばいいのかを各々センスで掴んだ彼らは、無駄な消費を抑えながらの賢い戦闘をしたらしい。

 そんな証拠に、再び深い唸り声にて、またしても“連戦”が発動したと知った彼らは、面倒そうな雰囲気ながら特に問題はないという素振りを見せた。同じ敵で三戦目ともなると、より効率を考えて動く彼らがそこにいる。

 何度も目にし、怨霊のオドロしい部分を見慣れた私は、その辺りでカーテン内を脱出し。

 四戦目を終え五戦目へ、そして六戦目が始まりそうな雰囲気の時、不安になってギャラリーの手すりを掴む。

 ほんの少しだが身を乗り出すような格好になったのは、ついにソロルくんが魔薬を所望し、ウルラギくんとアーシュリーちゃんが連戦に次ぐ連戦により疲労を見せ始めたからだった。


——さすがにここまで連戦って…やっぱり何か変ですよねぇ…?


 あの怨霊が起き上がって来ないための条件でもあるのだろうかと、私は頭を動かし始める。


——とどめはこの属性じゃないとダメ、的な?


 でも、いつもとどめをさしてたレプスさん、毎回用いる攻撃魔法の属性が違っていたな…。あぁ、あれって意図してなのか、と感嘆の思いにかられ。


——じゃあ、職種…?って。いやいやいや。なんかそれって繋がらないし。


 と、落胆がじんわり滲む。

 この世界のダンジョンは意外と優しく出来ていて、前の世界のゲームのように、ダンジョン攻略、ボス攻略に“必要”な事柄は、よく調べればその辺にちゃんと配置されてある。だから、散りばめられたヒントをもとに、それらを繋げ話を読めば、確実にクリアできるものなのだ。

 私は勇者パーティに追いついた後も、それとなく彼らが飛ばした部屋なり通路なりを脳内マップに入れてきた。若いからそこそこ記憶力には自信があるし、直感スキルも珍しく順調にランクアップしてるので、思い当たるものとかあればパッとひらめくハズなのだけど。


——うぅーん…こういう時は一番最初からかなぁ…?


 まずはダンジョンの入り口で珍しいと思った職員さん。

 えぇと…ランプに火を入れて、扉を開けてもらったんだよ。あれはやっぱり職員さんが立ってないと分からないよね…まさかランプに火を入れて魔法陣を現すとかさ。


——で、次は屋敷の部屋だけど…良くも悪くも“普通”だったしなぁ…。


 トラップも無かったし、宝箱も見つかりにくい場所とはいえど、置いてあるだけだったのだ。

 ギルドで目にしたダンジョン情報の中にさえ、隠し部屋の類いの話はなかったし。

 いや、そういう意味からすると、ダンジョン・ボスに連戦はなく、いま勇者様達が相手にしている怨霊さんとの戦闘も情報に含まれてはいなかったけど。


——なんだろうなぁ…この状況…。


 変則的にもほどがある…と、悶々と考え込んでいた所、ふと階下から攻撃を弾くような鈍い音がして、思わずそちらに目を向ける。

 と、アーシュリーちゃんがウルラギくんを敵から守った姿が見えた。

 そして、危機を脱したウルラギくんが、炎系の攻撃魔法を発動しようとしたのを見遣り…。



 私の中で、炎がゆらり、と大きく揺らめく姿が見えたのだ。



——あぁ!!そういうこと!?それなら邪魔せずできますよ!!


 むしろそれこそ私みたいな追っかけの仕事だろう!と、ひらめきに輝いた心を抱き、動いた私は早かった。

 鞄からチャッキーさんをサッと取り出し、最寄りのランプへ即、投入。

 拡大魔法か拡散魔法かよく仕組みは知らないが、大きめランプに灯された小さな炎はそれ相応の大きさになり、ホールの床へと光を落とす。それが意味深な模様を呈していたのをそのとき初めて知ったのだけど、思ったよりも確証を得た気持ちになれて、ホッと胸を撫で下ろす。


——次は奥だな!


 そして若さよ、風になれ。そんな心地で猛ダッシュ。

 ギャラリーの奥に掛けられた大きめランプへ手際よく火を灯し、一度戻らなきゃならない道を一心不乱に駆け抜けた。入り口付近のもう一つへと急いで豆火を投入すると、ラスト一本!な心の声でその奥のランプへ走る。

 ボス戦のフロア、二階部分の四隅に設置されたランプというのは、きっとこのためにあるのだと。だから怨霊の登場シーンでかき消されてしまったのだと、妙な確信が湧いてくる。


——それから最後に…


 呼吸を一つ。

 私はそれを取り出して、ホールの上へと投擲し。


「シャンデリアに火を灯して下さい!」


 そんな願いを小石に託す。

 火の加護石からにゅっと現れた人型は、私の願いを聞き届け、螺旋を描くようにして全てのランプへ火を灯し、そのまま世界へ溶け消えた。


——やりました!思った通り!!


 途端、ホールの床面に浮かび上がった光と影は、単に美しいだけでなく。

 それはそれは緻密な陣を計算高く重ねて描いた、いかにも効果がありそうな大魔法陣だったのだ。


——おぉー。上から見ると迫力あるなぁ。


 いやはやなんとも。

 この仕掛け、意図的にじっくり見ないと魔法陣だなんてわかりませんよ。

 まして下で戦っている彼らの方は、もっと気付くのが難しい。

 これできっと大丈夫、連戦はたぶんおしまいですよ!と心の中で語っていると、急にフロアが照らされたのに気付いた彼らが、ちらちらとこちらの方を伺ってきた。それにd(>_・ )ぐっ!とサインを返すと、ライスさんとレプスさんから「ありがとう」な視線が返る。

 主力二人が“終わり”の予感に安心し、ふと厳しい視線を緩めた気配が伝わったのだろう。難しい顔をしていたウルラギくんと、肩で息をし始めたアーシュリーちゃんもホッとして、これで最後だと気持ちを新たに集中する姿が見えた。

 思えばこうして勇者様を手伝えたのは、随分と久しぶり。

 “春の渓谷”以来だなぁ。ちなみにダンジョンでいいますと、“フェツルム坑道”以来だよ。しかも、直接的な介入じゃなかったし。いつもこのくらいなら勇者様にも睨まれずに済むんだろうな、と考えて。大将な怨霊さんには手を出しても無駄だから、と、取り巻きのモンスターへと刃を向けるその人を…その人の後ろ姿をぼーっと眺め、なんとなく意気消沈。


 アーシアでの硬い視線が脳裏とかに思い出されて、ふと視線を下ろした私は。

 オォオオォ…!な叫びついでに起こされた不慮の事態に「えっ」と思って、すぐさまそれを上向けた。


——え、なにこれ、えぇっ、嘘でしょ!?


 確かにそんなに手間がいらないささやかな労働だったが、妙に不気味な一声で“かき消しちゃう”とか止めて欲しい。

 ちょっと沈んでた私の視線は、気味の悪い声を叫んだ怨霊さんに釘付けである。

 奴は私に「オラオラ、テメェに休んでる暇なんかねぇんだぞ」な鞭を打つかのごとく、暗い叫びの一声でホール内のランプの炎をかき消したのだ。

 おかげでせっかく配置した連戦止めの魔法陣、あっさりと床から消えちゃいました。


——これってつまり、やり直しなの?


 まさにポカーンな効果音さまが私の頭上を通り過ぎ。

 あっ、皆が怨霊さんにとどめとかさす前に、もっかい炎を灯してこなきゃ…とぼんやり思ったベルさんは。

 ふらふらと最寄りのランプへ近づいた後、そこに灯った赤い炎に「頑張って!」な叱咤を受けて。

 そりゃあもう全速力でホールの端へと駆けたのでした。


 そんな客観が入った頭に。


 全灯→(安心)→(休憩)→叫び→消灯→(驚愕)→疾走

 全灯→(安心)→叫び→消灯→(愕然)→疾走

 全灯→(安心)→叫び→消灯→疾走

 全灯→叫び→消灯→疾走

 全灯→叫び→消灯………


 な流れがきたトコで。

 息も絶え絶え弾む体を、カーテンを掴んだ右手さんに辛うじて支えられながら。


——いい加減に……しろやぁっっっ!!!!!


 と。

 思わず声を響かせたのは。


 たぶん、仕方なかった事なのです。

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