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 そんな訳でさらに翌日。

 ちょっと早い時間から門の辺りで出待ちしていた私の前に彼らが集い、それじゃあ出発しようかと珍しくも穏やかな空気が流れ、勇者様とアーシュリーちゃんを先頭に彼らは町を出て行った。

 アーシア以降、気まずい私はいつもの倍は距離をとり、慎重に行動しているところをライスさんとレプスさんに不思議そうに見つめられ、その度に曖昧に誤摩化した。何かあったと簡単にバレただろうが、彼らは大人な対応で気付かないフリのまま居てくれている。そこで余計に何か言ったり、茶茶を入れないでくれる辺りが本当にありがたい。

 そんな態度の二人を見遣って、ソロルくんとシュシュちゃんも特に触れないでいてくれた——まぁ、普通に興味ないって話なだけかも知れない——のだが、急遽パーティに参加した少年少女はえらくこちらが気になるらしい。

 あからさまな完全スルーで、むしろこちらを気にしてますなオーラ全開アーシュリーちゃんと、あれ?知り合い…?あれ?挨拶は…?しなくていいの…?な、人の良さ全開の「ちらっ」と具合を見せているレプスさんのお孫さん。

 まぁ結局、完全にこちらの方を無視とかできない辺り、すれてない人の良さが窺い知れると言いますか…と。こちらの方を気にし続けて歩き続ける彼らを追って、目的のダンジョンへと付いて行く。


 と。


 そんな二人の“気のそぞろ”が少し心配になったのか、休憩を取るパーティに「ちょっと来て」と手招きをされてしまう。正確には手招きしたのはライスさんだけだったのだけど、レプスさんにも穏やかな視線で促され、何となくだが拒否するのを躊躇われてしまったのである。

 仕方ないので、少し離れた場所に居て我関せずな様子を見せる勇者様をちらっと見遣り、大丈夫かな…?とそっと近づいた。


「御用ですか?」


 と最寄りの木立に体を隠し、顔を覗かせて伺うと。


「彼女はベルリナ殿と言うでござるよ」


 と、レプスさんがすぐ隣に腰を下ろしたお孫さんに私の事を紹介してくれる。

 それに慌てて「ベルリナ・ラコットです。どうぞよろしくお願いしますっ」と頭を下げると、短めの黒いうさ耳をひこひこさせて。


「…ウル・ラギです」


 と少年はぺこりな背景音で頭を下げた。

 瞬間、この子可愛い!!と私の頭が急騰したが、別の場所からの冷たい視線に理性の糸が補強され、引かれそうな発言がなされる前に落ち着いた。

 顔を戻したウルラギくんはサラサラな黒髪に深い青色の瞳を持っていて、こちらを見上げ、動きを止めた瞬間に、とても純粋な雰囲気がそこはかとなく漂った。顔つきは優しげで、黙っていればあるいは少女に見えるほど。そんな容姿にレプスさんの昔の面影が重なって、なるほど、やっぱりレプスさんてばここまで美味しい素材でしたか!逸材ですな!と気持ちがアガる。

 思わず「黒毛も可愛いですね」とつるっと口が滑ったら、兎の獣人で黒毛はとても珍しく、月の女神に愛されている彼らは普通、生まれながらに“月の祝福”を受けているのだとレプスさんが教えてくれた。

 神様の祝福なんてめっちゃレアじゃないですか!な驚きを、別の言葉で伝えてみたら、おじいさんは白いウサ耳をひこひこさせて「この子が生まれた時は一族皆が喜んだでござるよ」と、とても嬉しそうな顔をした。それはそれは盛大にお祝いをして、一族の長の権力を振りかざし、レプスさんが命名権を得たそうだ。故に数居る孫の中でも特に思い入れの強い子であるらしい。レプスさんに次ぐ魔法使いの素養と魔力が、より親近感を覚えさせるのだとか…さらっと孫自慢を入れるくらいに。

 まぁ実はその前に、え…?権力…??振りかざし…???と思わず疑問が浮かんだが、拳を振るって「命名するのは某じゃあ!」と叫ぶ姿も——叫んでないかもしれないが——とても可愛い感じがしたので、ツッコミを入れるのはやめといた。

 ここで一息、会話を区切ると。


「ほら、アーシュも挨拶して」


 と、穏やかに促すライスさんの声がする。

 えっ、紹介してもらえるの?((・・*))と嬉しい気持ちで振り向けば。

 フイッと音がしそうなほどに風を切って顔を背ける、アーシュリーちゃんがそこに居る。


——あ。やっぱり私、嫌われてるんですね…。


 うっすらとガッカリしたこちらの顔を伺って、ライスさんは視線で「ごめんね」と申し訳なさそうな顔をしたので、いえいえこれくらい大丈夫っすd(>_・ )と親指立ててお伝えすると。


「あのような怪しい者に礼を尽くすなど不要ですっ」


 と、キッと睨まれ再びフイッ。

 そんな様子にライスさんも「しつけがなってなくてごめんね」と再度申し訳なさそうな顔をしたので、いやぁ、確かに怪しいのはこちらの方ですし…と半笑いで返しておいた。

 場が微妙な空気になったので、それを払拭しようと思い、もうこの際どうせだし「どのダンジョンへ行くんですか?」と直球で聞いてみる。

 と。


「リート・ルーヴェン卿の屋敷だよ。“英霊の館”の方が有名かな?」


 さらっとライスさんが教えてくれる。


「ラギ君の魔法試しとアーシュリーの訓練が目的なんだ。二人のレベルから考えて、この辺りだとそこが丁度良いんだよねぇ」

「へ〜。そうなんですか」

「あぁ、そうでござる、ベル殿。英霊の館はベル殿の苦手なアンデッド系モンスターが多く徘徊してるのでござる。大丈夫でござろうか?」


 それほどレベルの高くないダンジョンでもあるし、仕事でもないので良ければ一緒に入っては?

 そんな気配を含めたセリフに、私はブンブン両手を振って「とんでもない!」と遠慮する。

 いかに勇者様が我関せずでも、それはさすがに後が怖い。気まずさも拭いきれていないし、こんな状態で近くに居るなど心的疲労の度合いもヤバい。


「そんなに気にしなくても大丈夫なのに…」


 ライスさんが訳知り顔でポツリとこぼしたが、気にしなくても大丈夫なんて到底思えなかった私は、アーシアでの体験を思い出してゾッとする。

 硬い表情。

 見た事無い顔。

 いつもならうっすらな壁がとても分厚く見えた空気に、これが拒絶かと思い知る。

 勇者様が拒否してもしつこくパーティに入れてくれとか懇願してきた冒険者達に、やや強い言葉を用いて拒絶を見せたシーンとか…それなりの回数を普通に見ていたはずなのに。

 細かくいうと実はそれともちょっとだけ違うんだよな…受け入れ難そな空気ってのは同じなのだけど…と。むしろあれこそ真の拒絶なんじゃないかと至った私は、腫れ物に触るより慎重に追っかけをしなきゃならないと考えているのである。


——……だって、まだまだ好きですもん。


 たとえ勇者様が私のことを本気でウザいと思い始めてたとしても。

 何だかそう思ったら、私達から離れた場所で休憩している彼の姿を盗み見るのも憚られ、やはり曖昧に笑んだ私は、そろそろいつもの場所に戻ると四人にしばしの別れを告げる。


 そして、休憩を終えたパーティの後を追い、英霊の館へと向かったのである。

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