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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
1 失意の森
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1−7



 ほどなくして日が落ち、各々が野営の準備を始めていた。

 覗き見るのに丁度いい茂みに身を潜めて、いつものようにうっとりとその勇姿を眺めていると、彼がこちらの方に歩いてくるのが見えた。

 薄闇の中にいても後光を纏うように光り輝くその人は、この世の神霊が認める“勇者”という神聖な存在であることを如実に物語っているようだった。

 彼は壁一枚ならぬ茂み一つをかき分けると、私が起こした小さな焚き火の向かい側に腰を下ろした。


——勇者様がこちらを訪ねて来るなんて初めてじゃないですか!?どーしました!?


 いつもなら気持ちいいくらい私のことなどスルーで通しているのに。や、別に私がマゾヒストというわけではないけどね。

 鍛え抜かれた四肢からはえもいわれぬフェロモンが吹き出していて、思わず抱きつきそうになる。いや、フェロモンは耳の後ろか!と突っ込みつつ、そんなことをしたら立派な痴女だよ!抱きつくなら今日みたいにどさくさにまぎれてやらないと!待て待て、痴女と蔑まれようともここは抱きついてしまうのが真の女なんじゃないか?そもそも彼はわざわざこちらまで出向いてどんな用があるのだろう。私に抱きつかせるためか??やはりそうか。よし私、女になれ!と脳内テンションは上がりに上がる。

 何から話そうかと考えているらしい勇者様を焚き火を挟んで見つめつつ、どこかに抱きつく隙はないのかと、少し緊張しながら相手の出方を待つ。タイミングを逃してうっかり躱されたらものすごく寂しいことになるからだ。


「……今日は助かった。礼を言う。借りたアイテムの分を埋め合わせたいのだが」

「え!?そんなこと??いいい、いりませんよー」


 普通に真面目な彼の言葉に我に返った私は、自分の邪な考えに理性でふたをして、あはは、と笑って返す。


「だが…精霊石まで使わせて貰った」


 拾い物なのでいいんです、私の財布はちっとも痛んでませんから!と言うのもアレなので、一つ腕を組んで真剣に考える。

 しかし、一瞬でひらめいた。

 私はお金をもらうより価値のあるものを、すでに彼に貰っているのである。


「勇者様の唇を頂きましたから、それで充分です」


 言うと、ちょっと面食らったような顔をして勇者様は黙ってしまった。


——ごちそぉさまでした!なんと初恋の味がしました。レモン味とか言われてますけど実際なんの味もしないあれです。はっきり言ってレモン味は妄想です。でもとっても美味しかったのです☆


 キャッ(*ノノ)と身をよじらせる。

 実は私、転生してから初めてのキスでした。

 でもこの世界じゃキスというのは挨拶程度。地域によっては頬じゃなくて、もろちゅーです。加えて勇者様はどこへ行ってもめっぽうおモテになるので、露天のおねぇさんから宿場のおねぇさん、お貴族さまに王族さまと、キスの相手は果て知らず。なのでちょーっと強引に奪うくらいなら、いちいちこだわったりしないハズ。実際スルーされましたしね。

 かくいうこちらは、前世の記憶が結婚して子供を産んで育てきったところまであったりするので、キスくらいへっちゃらだったりするんですけど……。

 なんだか、久しぶりのドキドキはとても新鮮で。

 世界のすべてがキラキラ輝いてみえるこの恋心は、とても懐かしいものでした。


「だから、何もいりません」


 狙うは強く賢く美しい、だれもが羨む職業:勇者。

 どんなに険しい道のりだとしても、いつかきっと!と意気込む私。

 顔がちょーっと熱いのは気のせいじゃないけど、気のせいです。



*.・*.・*.・*.・*.・*


 勇者の嫁になりたくて。

 異世界からの転生者、ベルリナ・ラコット18歳。

 明日も物陰から愛する勇者様の勇姿をうっとり眺めて過ごします☆

Aug.11, 2011 短編投稿


特殊スキル持ちの主人公の話が書きたくて始めました。

がんばってストーリーの整合性を考えたくなかった+読む人に優しい軽いノリなものがいいと思った+そういやストーカー(してる方)なファンタジーってあんま見ないな=これ。

な小説です。

ギャグ・コメディーは大好きなのですが、書こうとしたら思った以上に難しく...

投稿した当初、がっかりさせたら悪いなと思っていましたが、他に投稿しているものと比較して意外と人気がありました。

ちなみに、短編では3話まで投稿していましたが、一番評価が高かったのが1話目です。

ノリって大事なんですね。

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