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ステップ3 急展開!? 彼女のヒミツとセーラー服

「星奈さん、いる!?」


 僕は東階段の階段下の空間、すなわち星奈さんの『家』のすぐ横まで駆け寄ると、叫んだ。


「あら、こんばんわ」


 そこには、しっかりと布団に潜って眠っている星奈さんと、そのすぐそばで正座している女の子がいた。

 声をかけてきたのは、その正座している女の子のほうだった。


「え~っと……」


 キミは誰?

 そう尋ねるよりも早く、昨日星奈さんから聞いた名前を思い出す。


「キミが、レイ子さん?」

「え? れいこ……ああ、うん、そうね、そう呼ばれてるよ」


 少々戸惑い気味には見えたけど、僕の言葉を肯定する彼女。

 レイ子さん――どんな字を書くのかはわからないから、こう記載しておく――は、星奈さんが眠る横に座布団を敷いて、ちょこんと正座していた。

 僕は面識がなかったけど、この学園の高等部の制服を着ている。名前を聞いたときに考えたとおり、別のクラスの子なのだろう。


「ここで、なにをしてるの? それに星奈さん、寝ちゃってるみたいだけど」


 もしかして僕はお邪魔だったのかな、とか変な想像までしてしまった。


「詩穂、ちょうど今、現場に向かったところなのよ」

「現場?」


 僕には、レイ子さんがなにを言っているのかわからなかった。


「う~ん……」


 と、布団をかけて眠っている星奈さんが寝返りを打つ。

 布団がまくれ上がり、星奈さんの上半身があらわになった。

 といっても、もちろん服は着ている。着ているのだけど……。

 僕は思わず顔をそむけた。


 べつに露出度の高いような服を着ていたわけじゃない。

 普通のパジャマだ。薄いピンク色の可愛い柄物のパジャマ。


 ただ、暖かい陽気にもかかわらず布団を肩までしっかり掛けていたからなのか、ほのかに赤く汗ばんでいて、胸の部分のボタンも上からふたつ目までは留められていない状態。

 その隙間から、星奈さんの綺麗な白い肌が見え隠れしていた。

 顔を真っ赤にして、じろじろと見てはダメだと思いながらも、ついつい目線は星奈さんの肌へと吸い寄せられてしまう。


「……ちょっとぉ。あんた、詩穂をいやらしい目で見ないでよね」


 ジト目で僕を睨むレイ子さん。

 そうだった、すぐそばにはこの子もいたのだ。

 それに気づいた僕は余計に恥ずかしくなり、さらに真っ赤になっているのが自分でもわかった。


「えっと、その……。べつに、僕は……」


 なにか弁解の言葉を、とは思うものの、まともな声にすらならず、僕はただひたすら焦りまくる。

 そんな様子を、レイ子さんは薄ら笑いを浮かべて見つめていた。


「ふふふ。なんだか新鮮だわ。……まぁ、とりあえず落ち着いて」


 そう諭されてから実際に僕が落ち着きを取り戻すまで、優に数分はかかった。


「そろそろ落ち着いた?」


 レイ子さんはいたずらっぽい微笑みを浮かべながら、僕の顔をのぞき込む。


「え~っと、どうにか……」


 答えつつも、ついつい視線はちらちらと星奈さんのほうに向いてしまう。

 単に暑いからなのかと思っていたけど、どうやらそうではなさそうで、さっきから星奈さんは身をよじったり大きな寝返りを打ったりしていた。

 額にはかなりの汗が浮かんでいるのも見える。


「う~……ん……」


 再び身をよじった星奈さんの腕が布団から投げ出され、白くて小さめの手のひらがあらわになった。

 その手のひらも、暑さからほのかに赤みを帯びているのがわかる。

 星奈さんが動くたびに、汗で額に張りついた髪の毛が、決して発育がいいとは言えない星奈さんを妙に色っぽく感じさせていた。


「……全然落ち着いてないじゃない」

「あっ、いや、その……」


 レイ子さんの声で我に返り、星奈さんから視線を逸らす。

 でもこの状況では、どうしても気になってしまうわけで……。


「だ……だいたい、どういうことなの? こんなに騒がしく話してるのに星奈さん全然起きないし、それに汗もかいてて苦しそうに見えるんだけど……」


 僕は戸惑う気持ちを抑えるために、レイ子さんに食ってかかる。


「だから落ち着いたら話そうとしてたのに。ほんっと、新鮮だわぁ~」


 レイ子さんはそんな僕の様子を見て、コロコロと大口を開けて笑い始めた。

 そこまで笑わなくてもいいのに……。

 ついつい不満顔になってしまったけど、それもレイ子さんを喜ばせてしまう結果になるだけだった。


「ま、それじゃあそろそろちゃんと説明しましょうかね。う~ん、でも、ごちゃごちゃ言うよりも見てもらったほうが早いかな」


 レイ子さんは、あごに右手の人差し指を添えて考える仕草をする。

 星奈さんのことばかり気になっていたからか、今までよく見ていなかったけど、レイ子さんは長い黒髪で、座っているからわかりづらいけど背も少々高めのようで、すらっと細い感じなのに出るべきところは出ていて……。

 なんというか、星奈さんよりもずっと女性らしく綺麗な印象だった。


 ……って、僕はいったいなにを考えてるんだか!


 思わず顔に出てしまっていたのだろう、そんな僕の様子にレイ子さんはジト目を向けていた。

 視線がとても冷たい気がする。

 レイ子さんの「レイ」の字は、「冷」って書くのかな。なんて、ちょっとひどいかもしれない思考が頭をかすめた。


「……ま、無礼は見逃してあげるとして」


 背筋が凍る思い。

 本当に考えていることが筒抜けなのでは……。

 そんな僕の思いをよそに、レイ子さんは言葉を続ける。


「とにかく、あなた。詩穂と手をつなぎなさい」

「え?」


 思いもよらなかった言葉に、驚きの声を上げる。


「詩穂、寝てるってわけでもないのよ。ま、手をつなげばわかるわ」


 レイ子さんの目には、さっきまでの僕をからかっているような様子はない。

 至って真剣な眼差しを向けている。

 だからこそ僕は、促されるまま素直に星奈さんの手を握っていた。


 少々汗ばんだ温かな手。

 柔らかい。

 そう感じた、刹那。


 …………!?


 脳裏にまばゆいばかりの光がほとばしる。

 次の瞬間、視界は一変した。



 ☆☆☆☆☆



 ここは、どこだ?

 薄暗い空間にうごめく巨大な物体が、僕の目の前にはあった。

 漆黒の中にあってなお暗い塊、その物体の上方には赤い不気味なおぼろげな光がふたつ、こちらを見下ろすかのように輝いている。

 それが目であるのは、直感的にわかった。

 とすると、この巨大な物体はなんらかの意思を持ってうごめいているということか。


 と、その物体の周囲を飛び回る小さな影の存在に気づく。

 ひらり、布のようなものが空気の流れに弄ばれるかのように舞っていた。


 ――あれは……星奈さん!?


 そう、その影は、星奈さんだった。


 薄暗くてよくはわからなかったけど、どうやらセーラー服を身にまとい、巨大な物体の周りを飛び回っているようだ。

 顔もよく見えないけど、それが星奈さんだというのは確信できた。


「なんだよ、このでっかいのは!? それに、星奈さんはなにを……」


 思わず疑問が声となって溢れ出ていた。


「その巨大な物体は『魔流(まりゅう)』よ。そして、詩穂はその魔流と戦っているの」


 僕の疑問に答えるレイ子さんの声が、すぐ近くから聞こえた。

 ということは、今目の前に見えている映像は、幻?

 ……いや、違う!


 今見えているこの場所は、薄暗くて気づかなかったけど、この広さと囲っているフェンスや周辺に見える建物の影から察するに、桜草学園高等部の校庭だ。

 さらにその巨大な物体――『魔流』は、校庭の地面から生えてきているかのように見えた。

 実際には別の空間から校庭を通じてこの世界に現れた、といったところか。


「あら、なかなか理解が早いわね」


 レイ子さんの満足そうな声が響く。

 もちろん、ちゃんと理解しているとは言えない。

 それどころか、これは夢なのでは、という思いのほうが強いのは確かだったのだけど。


 それでも、星奈さんとつないだ手の温もりはしっかりと僕に伝わってきていた。

 魔流と呼ばれた巨大な物体を翻弄するかのように飛び回り、手のひらから光を放つ星奈さん。

 その光の筋は、か細く、巨大な魔流に大した痛手を与えられていないのは明白だった。


「手数で勝負なの。詩穂にはそれしかできないから。今までもずっとそうだった」


 つぶやくレイ子さんの声は、少し苦しそうに聞こえた。


「でも……」


 星奈さんが飛ぶ。

 魔流の一部が、まるで巨大な腕のように伸び、振り回される。

 それを星奈さんは軽々と避け……るかと思った刹那、反対側から伸びていた魔流の別の腕が星奈さんの背中に襲いかかる。


「きゃっ!」


 星奈さんの悲鳴が、響いた。

 僕は思わず、ぐっと力を込める。

 つながったままになっていた手のひらに。


 汗ばんだ柔らかな星奈さんの手のひらを、力強くぎゅっと握る形となった。

 多分、痛いと思われるほどに強く。


 ……と。


 ドクン。


 つながった手のひらを伝って、星奈さんの鼓動が感じられた。

 そしてそれは、僕の鼓動でもあった。

 重なり合ったふたつの鼓動が、汗で滑りそうになる手のひらを伝って彼女に――星奈さんに流れ込む。


「うん、やっぱりそうだわ! 今は、あなたがいる!」


 レイ子さんの力強い声を感じながら、僕はその光景を眺めていた。

 星奈さんの手のひらから放たれる、さっきまでとは比べ物にならないほどの光の奔流を。


 光は一直線に魔流を貫いた。

 地面をも揺るがすほどの激しい咆哮を響かせ、真っ黒な巨体が崩れていく。

 魔流は校庭の中へと沈み込むかのように潰れていき、あっという間に消え去った――。



 ☆☆☆☆☆



 辺りは闇に包まれていた。

 だけど、目に飛び込んでくる薄暗がりの景色は、さっきまで見えていた校庭ではない。

 階段下の、星奈さんの『家』。

 もうすっかり闇に溶け込んだこの場所で、僕は横たわっていた。


 この場所で横たわっているということは、その下は冷たく固い廊下……かと思ったらそうではなく、むしろ柔らかかった。

 そうか。掛け布団までは掛かっていないけど、星奈さんが敷いた布団の上だからか……。

 ぼーっとした頭で考える。


 右手が温かい。

 さっきまでつないでいた手のひらの感触。それはまだ残っていた。

 残っていた、というよりも……今でもまだ温かく、ほのかに湿っていて、その上、柔らかい。


 あれ?


 気づけば僕の右手は、今もしっかりと星奈さんの右手を握っていた。


 え……? あれ?


 まだ頭がはっきりしていなかったけど、僕はしっかりと目を開く。

 と、目の前には、星奈さんの寝顔があった。

 薄暗くはあったものの、窓から月明かりでも差し込んでいるのか、星奈さんの顔は微かな光に照らし出されていた。


 安らかな寝息を立てるたびに、その吐息が感じられるほどの至近距離で、今、星奈さんが眠っている。


 って、わああああっ!?


 慌てて起き上がろうとする、よりも早く、目の前の星奈さんのまぶたが動いた。


 パチ……パチ、パチ。


 三回ほど、目をパチクリと。

 長い上下のまつげが重なり、バサッと鳴る音が聞こえるかのようだった。


「えっ、あっ、なん……えええっ!?」


 慌てて飛び起きる星奈さん。

 僕も同じように飛び起きていた。


「いや、あの、これは……その……僕はべつになにも……!」


 ふたりとも布団の上に正座したまま顔を真っ赤にして焦りまくる。

 それなのに、手はしっかりと握ったままだったことに、遅まきながら気がついた。


「わわわっ、ごめんっ!」


 僕は慌てて手を離す。星奈さんも、汗ばんだ手をすっと引っ込めた。

 と、そんな様子をニヤニヤしながら眺めている観客の存在に、ここでようやく気づく。


「う~ん、やっぱりなかなか新鮮だわぁ」


 ニコニコニコ。

 中腰になって自分の膝の上に両ひじをつき、手首を合わせて形作った両手の上にあごを乗せ、微笑み浮かべながらこちらをのぞき込んでいるのは、言うまでもなくレイ子さんだった。


「レイ子さん!」「れーこちゃん!」


 僕と星奈さんの声が重なる。


「息もピッタリね!」


 相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべたまま、そんなことを言うレイ子さん。


「ちょっと、れーこちゃん、なんで、その……富永くんが……」

「ん? なんか、来ちゃったから。まぁ、いいかなぁって」

「え~~っ!?」


 僕のほうも全然状況はわかっていなかったのだけど、それは星奈さんも同じのようで。

 一番状況を理解しているであろうレイ子さんを問い詰め、説明させる流れとなった。


 とりあえず、僕のほうは置いといて、星奈さんの混乱を解消するのを優先させる。

 レディーファーストだ。

 僕の混乱の度合いのほうが大きいから後回しにしただけ、ってのもあるのだけど。


 星奈さんが飛び回って『魔流』と戦っているときに僕がここに来たこと。

 レイ子さんに言われて手をつなぎ、星奈さんが戦っている場面を見ていたこと。

 後ろから迫ってくる魔流の腕に吹き飛ばされそうになったとき、つないでいた手をぎゅっと握ると鼓動が重なり大きな光の流れとなって星奈さんの手から放たれ、魔流を校庭に沈めたこと。


 レイ子さんはときどき大げさに囃し立てたりしながらも、これまでの経緯を説明した。

 それを聞いた星奈さんは若干首をかしげながらも、どうにか状況は理解したようだった。


「僕は、生徒手帳を落としたみたいだったから、探しに戻ってきたんだ」

「あ……そっか。そうだったのね。うん、落ちてたよ。はい」


 星奈さんはそう言って、生徒手帳を手渡してくれた。

 受け取るときに指が触れて、さっきまで握っていた手の温もりを思い出し、一瞬ドキッとしてしまう。

 星奈さんも同じだったのか、ほのかに頬を染めているように見えた。月明かり程度の薄暗い中だし、よくはわからなかったけど。


 さて、問題は僕の混乱のほうだ。

 どこからどう説明していいものか、レイ子さんも星奈さんも困っている様子だった。

 ともかく、まずはレイ子さんについて。

 星奈さんが『れーこちゃん』と呼んでいたのは、レイ子という名前だから、ではなかった。


「まぁ、俗に言う、幽霊ってやつなのよね、私」


 事もなげに言ってのける、当のレイ子さん。つまり、幽霊の霊子さん、だったと……。


「正確に言うと幽霊とはちょっと違うのかもしれないけど。でもほら、冷たいでしょ?」


 レイ子さんがそっと僕の手を握ってくる。

 確かに冷たい手のひらだった。

 極端な冷え性、というのを通り越して、明らかに体温がない感じではある。

 ……って、幽霊なのにどうして触れるの!?


「ん? まぁ、強い霊力の賜物って感じ? 体温も再現できなくはないんだけど、疲れるからねぇ」


 今どきの幽霊っていうのは、昔よりも技術が進歩しているのかもしれない。

 ちょっと現実逃避気味な僕だった。

 確かに、よく見ないとわからないけど、レイ子さんの体は微妙に透けているようにも見えた。


「私も最初に会ったときは、びっくりしたんだよ~」


 と星奈さん。


「そうそう、驚いておしっこ漏らしちゃってたし」

「そ、そんなことしてないもん!」


 星奈さんが慌てて否定する。

 ニヤニヤ顔のレイ子さんを見る限り、真っ赤な嘘なのだろう。


「富永くん! 今のは、れーこちゃんの嘘だからね!?」


 僕の両腕をつかんで必死にそう訴えてくる。

 うんうん、そこまで必死になって否定しなくてもわかってるのに。

 そんな星奈さんの様子も新鮮で可愛いかも、なんて思ってしまう。

 クラスではすごくおとなしい星奈さん。ここまで必死に喋っている姿なんて見たことがなかったからだ。


 それはいいとして、他に訊きたいのは……。


「で、あの『魔流』ってのはなに? それにどうして星奈さんが戦ってたの? なぜ星奈さんはここでパジャマで寝てたのに、校庭のほうに行ってたの? なんで校庭のほうではセーラー服だったの? それから……」


 矢継ぎ早の質問に、顔を見合わせるふたり。


「う~ん、私もね、あまりよく知らされてないんだ。れーこちゃん、私にもちゃんと説明してほしいんだけど」


 そのまま星奈さんも、僕と同じく質問する側に回った。

 ふたりから詰め寄られたレイ子さんは、それでも怯むことはなかったのだけど。


「校庭で戦ってた詩穂はね、幽体なの。幽体離脱とかって言うでしょ? その幽体ね。あっ、でも体から離れてると弱って死んでしまうとかはないから安心して。セーラー服を着てたのは、最初に詩穂に幽体になってもらったのが中学生の頃だったからかな。そのときのクセで、今でも無意識にセーラー服になっちゃってるんじゃないかしら」


 幽体……だからあんなに高く飛び回れたりしたんだ。


「でも、どうして手をつないだら、校庭の状況が見えたの?」

「それは、文字どおりね。『つながり』によってふたりの気が同調して同じ空間を共有したの。もちろん、誰でもそうなるってわけじゃないけど。それはきっと、あなただから……」

「え? それってどういうこと?」

「……ううん、なんでもない」


 気にはなった。

 でも、このことはそれ以上訊かないでとレイ子さんの瞳が語っているようで、僕はその件についてはなにも言えなくなってしまった。

 ともかく、まだ訊きたいことは残っている。


「……それで、魔流ってのはいったい……」

「う~ん、魔界から流れ出てくるもの……って感じかなぁ?」


 レイ子さんも首をかしげる。


「れーこちゃんでも、よくわからないの?」

「……うん、そうね。そんな感じ」


 どうも曖昧な答えが返ってくる場合が多い。

 とはいえ、今まで聞いた内容だけでも、にわかには信じられないような状況だ。

 これ以上のことが怒涛のように押し寄せてきても、常識という名の防波堤が決壊しかねない。


 夜はもうすっかり更けていた。


「あっ、富永くん! こんな時間だよ? 大丈夫?」

「うわっ!? 十二時回ってる!?」


 腕時計を見て驚いた。

 ……あれ? 星奈さんはどうして時間がわかったんだろう?

 そう思って視線を向けてみると、星奈さんは可愛いピンク色のウサギをかたどった置き時計を操作していた。


「目覚まし時計……。私、朝弱くって……」


 見ると、うさぎ型の他にも、いくつかの目覚まし時計がすでに配置されていた。


「ごめんね、こんな遅くまで」

「ううん、私のほうこそ、ごめんなさい。その……」


 一瞬目を伏せる星奈さん。


「私、富永くんにあんなところを見られちゃって……恥ずかしい……」


 そんな言い方をすると、かなり誤解を招きそうな……。


「でも、その……、気味悪がったりしないで、また来てほしいな……」

「……うん、また来るよ」

「私も待ってるから!」


 幽霊とは思えない元気な笑顔を振りまくレイ子さんと、眠気のためかトロンとした目の星奈さんに見送られながら、僕は階段下の『家』をあとにした。

 はたして、あんなことがあったあとでちゃんと眠れるのかな。そんな心配もしていたのだけど。

 星奈さんとの『つながり』によって疲れていたためなのか、伯母さんの家に無事たどり着き、部屋に滑り込んでベッドに寝っ転がった僕は、まるで瞬間技のように眠りに落ちていた。


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