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ステップ13 愛は勝つ!? 心模様は雨模様

 僕と星奈さんは、校庭に降り立つ。


「あっ、星奈さんに富永くん!」


 と同時に、いつもの仲間が駆け寄ってきた。


「お手々つないで仲よしこよし、って感じね! どうでもいいけど、なんで星奈さんはセーラー服なの?」


 中和田さんが、これから戦いに赴く身の僕たちにはそぐわない感想を述べる。

 というか、いつもどおりで気にしていなかったけど、そういえば星奈さんは確かにセーラー服姿だった。

 過去の中学校に飛んでいるせいでセーラー服姿になるのだと、桜さんは言っていたような気がするけど……。

 幽体だから精神的な部分も反映していて、習慣になっているいつもの姿になったってことなのかな?


「でも、すごい状況よね。理事長のペンダントの力で、あのてるてる坊主みたいなのは、飛び回ってるだけでしかないけど」


 小松さんが信じられない景観になっている校庭を見回す。

 巨大なコンピューターの周りを飛び回る無数のてるてる坊主と、その周りに集まった幾多の生徒や先生たち。

 どうやら中等部や初等部の生徒もまざっているようだ。


 危険もあるだろうにこんなにも大勢集められたのは、さっき伯母さんが言ってたように『気』を高めるためってことか。


「それだけじゃないわ。今は魔流の力によって空間が歪められている状態だからね。学校の敷地内からは出られなくなっているのよ。逆に外から入ってくることもできない。仮に自衛隊なんかが来たとしても、あの魔流を倒すことはできないのよ」


 そんな解説をしてくれたのは星野さんだった。すぐ横には鳥河も並んで立っている。


「ともかく本体を頼む。あいつを倒せるのは、お前たちだけだ」

「富永くんは、ここで私たちと一緒にいればいいわ。あなたの力が必要なのは、最後のトドメだけなんだから」


 星野さんはそう言って、僕の腕に絡みついてくる。

 幽体になっていても、触れられたりできるんだね。

 ……それにしても星野さん、やけに詳しいような。鳥河もすべて理解しているような顔をしているし。

 昨日桜さんが詳しく語ってくれたときにはいなかったはずのふたりが、どうしてこんなにも状況を把握しているのだろうか?


「それじゃあ、星奈さん。頼むわね」


 まだ僕と手をつないだままだった星野さんが、視線を星奈さんに向けて言う。


「う、うん……」


 なぜか複雑な表情をしている星奈さん。

 僕の手をぎゅっと握り返しているのが伝わってきた。


「星奈さん……?」

「こら、詩穂! 急ぐのよ!」


 桜さんが怒ったような声を上げる。その声は頭の中に響いてくるように感じた。

 そうか、桜さん自身は階段下のあの場所から離れられないんだった。

 おそらく霊力を使ってこちらの様子を見ているのだろう。

 桜さんの声は、彼女の近くに体がある僕と星奈さんにしか聞こえていない、ということか。


「……わかった、行ってくる!」


 星奈さんは僕とつないでいた手を離し、でっかいコンピューターのような魔流のもとへと飛び立つ。

 魔流の周りには、無数のてるてる坊主が飛び交っている。

 それらを避けつつ、星奈さんはいつもどおり魔流の周りをぐるぐると飛び回り、手のひらから光を放って『削り』に入る。

 ただ、なんだか動きが鈍いような気も……。


 それもそのはず、星奈さんは何度も、ちらちらとこちらに視線を送っていた。

 いったい、どうしたのだろう?

 どうして戦いに集中しないのか……。


 ふに。

 なにやら柔らかな感触。

 僕は腕に視線を落とす。


「ん? どうしたの?」


 微かに首をかしげ笑顔を向けてくる星野さんは、さっきから僕の腕にしがみついたままだった。

 星野さんの豊かな胸のふくらみが、僕の腕に柔らかな感触を与えていた。


 って、これが原因か!

 周りの状況に焦っていたからか、それとも幽体になっていると触れられている感覚が薄れるのか、僕はまったく気づいていなかった。

 素早く星野さんを振りほどく。


「きゃっ! ちょっと富永くん、ひどいよ……」


 慌てて腕をつかんで振り払ったからか、力が入りすぎていたのだろう、星野さんは痛みに顔をしかめながら抗議の目を向けてきた。


「あっ、ごめん……。でも、星奈さんが……」

「ふふふ。ま、いいわ、これくらいにしとく。あまりやりすぎると、逆効果になっちゃうもんね」


 ???

 僕には星野さんがなにを言いたいのか、よくわからなかったけど。

 ともかく今は星奈さんのほうだ。


 星奈さんは、僕と星野さんが離れたのを見て安心したのか、いつものように華麗に飛び回り、光を放ち続けていた。

 光はコンピューターの表面で完全に弾かれているように見えるけど、これでいいのだろう。

 いつもどおり、魔流の力を少しずつ削っているはずだ。


 そんな星奈さんの様子を見守る僕とクラスメイトたち。

 いつも思うけど、星奈さんに戦わせて見ているだけっていうのは、やっぱりどうしても気が引ける。

 とはいえ、僕は必要になるまで待つしかない。そういう役割なのだ。


「詩穂、ほんと元気になったなぁ。やっぱり富永くんがいるからなのかな」


 ぽつりと小松さんがつぶやいた。

 そう……なのかな……?


「いろいろあったみたいだけど、多分以前のあの子だったら気が小さいから押し潰されていたと思うの。でも今ではあんなに元気に飛び回って」


 星奈さんから目を逸らさず、小松さんは続けた。


「詩穂のことは、ずっと私が面倒見てあげないとって思ってたけど……。もう、大丈夫みたいね」


 小松さんの声は、少し寂しそうに感じられた。


「さてと、そろそろ準備しておきなさいよ!」


 不意に、桜さんの声が頭の中に響く。

 僕は黙って頷いた。


「富永くん、お願い!」


 星奈さんからの合図。

 それに合わせて、僕は本体のほうに気を集中し、ぎゅっとつないだ手のひらに力を込める。

 幽体としては離れている星奈さんの手の温もりが、しっかりとこの手に感じられた。


 いつものように手のひらを通じて、『力』が僕の体から星奈さんへと流れ込むのを感じる。

 いや、いつも以上に力は高まっていた。

 校庭に集まった生徒たちの『気』が影響しているのだろうか、あまりにも強力なパワーの奔流に、一瞬星奈さんがバランスを崩す。


「星奈さん!」

「だ……大丈夫!」


 体勢を立て直した星奈さんは、それを抑えつけるかのように両手を前に――魔流のほうに向けて突き出した。


『行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 僕と星奈さんの声が重なる。

 星奈さんの両手から強烈な光の流れが溢れ出した。

 それは一直線にコンピューターのモニターのような場所に向かって空気を震わせながら飛び、そして――、


 キュイィィィィィィィィィィィィィィン!


 光はモニターに、あっさりと吸い込まれた。


「あ……あれ?」

「どうやら、吸収されただけみたいね……」


 そうつぶやく星野さんの額には、玉のような汗がいくつも浮かんでいた。


「どうして……? なんで効かないんだよ!?」

「魔流も進化してるってこと……?」


 驚愕の声を漏らしているのは、僕だけでなく桜さんもだった。

 僕と星奈さんの力を吸収したらしい魔流。その全身に備えつけられた計器類やらの光が強烈に輝き出した。

 魔流の全身から溢れ出る力は周りの空気をも飲み込もうとするかのように、放電を始めていた。

 もう、近づくことすら危険だ。


 ――って、星奈さんは!?


 慌てて姿を探す。

 星奈さんはまだ魔流の周りを飛び回り、右手をかざしながら光の『削り』攻撃を続けていた。


「星奈さん! 危険だよ、戻って!」

「で……でも……」

「いいから戻るのよ!」


 桜さんにも諭され、星奈さんは僕のもとへと戻ってきた。

 疲れ果てているのだろう、僕に倒れかかるように寄り添ってくる。


「大丈夫?」

「……うん、でも……」


 僕たちの力が通じなかった。

 どうすればいいんだ……?


「仕方ないわ。桜さんはあの人の力との融合で成り立っているんだもの。過去の時間軸に戻ってこそ、星奈さんの力は強くなる。だから、今の時間軸では不完全なのよ」


 星野さんは言う。

 どういうことなのか、よくはわからなかったけど。

 それにしても、星野さんは詳しすぎだ。

 キミはいったい何者なんだ……?



 ☆☆☆☆☆



「やっぱり、ダメだったのね」


 伯母さんが、いつの間にかすぐそばまで寄ってきていた。

 星のペンダントをかざして、てるてる坊主の力を抑えている伯母さん。かなり苦しそうだ。


「理事長さんのほうも、そろそろ限界みたいね。てるてる坊主のレーザー攻撃まで始まったら、打つ手なしかな……」


 星野さんが諦めを含んだ声を漏らす。


「でもなんで、てるてる坊主なんだか」


 鯖月がふと、そう言った。


「てるてる坊主……」


 中和田さんが復唱する。

 そこで、なにかに気づいたように大声を上げた。


「そうだよ! てるてる坊主!」


 えっ? どういうこと?


「つまり、あの機械みたいな魔流は、雨が怖いんじゃないか、ということですよ」


 初吉さんが、中和田さんの説明不足な言葉を受け継ぐ。


「そんな……。わざわざ自分の弱点を示していたってことにならない?」

「そう思われないために、レーザー攻撃なんてさせていたのかもしれないですわ。魔流というのはもともとこの世界のものではないようですから、こちら側に出るときに無意識に苦手なものの姿で具現化してしまったのかもしれません。なんにしても、試してみる価値はあると思いますわ」


 その声に、みんな頷いていた。

 そうだ、もう手はないと思っていたのだ。

 あらゆる可能性を考えて、あがいてみるしかない!


「そうね。といっても、雨なんて降りそうにもないけど……」


 適切なツッコミを入れたのは星奈さんだった。

 疲れ果てて僕が支えていなければ立てない状態のはずなのに、精神的には意外と余裕があるのかもしれない。


「あっ、校庭なら、スプリンクラーがあるよね? 水をまいてるの、見たことがある!」


 この僕の言葉で、伯母さんがすかさず状況を分析する。


「そうね、体育倉庫の並びに制御室もあったはず。カギは職員室にあるわ。琴崎先生、お願いします!」

「は……はい!」


 生徒たちは私が守るのぉ~~~~!

 伯母さんに指示された琴崎先生は、そんな叫び声を残しながら、オリンピック選手並みのスピードですっ飛んでいったように見えた。

 やがて、再び全速力で戻ってきた琴崎先生が制御室に入り操作したことで、校庭には広範囲に渡ってスプリンクラーから大量の水がまかれ始めた。

 水をその身に浴びた魔流の本体は、煙を出しながら奇怪なうめき声のような音を響かせる。


 ウグオオオオォォォォォォォォン…………。


 これで、終わるのか……?

 だけど―――。


「ダメみたいね、スプリンクラーでは弱いのよ。あの水の量だと、全部を一ヶ所に集中させるくらいでないと。でも、スプリンクラーに、そんな機能はないし……」


 伯母さんが苦しそうな声をこぼす。

 確かにスプリンクラーでは広範囲に水をまき散らすだけで、一ヶ所に集中できるわけじゃない。

 かといって、例えば消防車を呼んだとしても、空間の歪みで学校の敷地内に入ってくることはできない。

 やっぱり、成すすべはないのか……。


「いいえ、あるわ!」


 星野さんが叫ぶ。


「富永くんと星奈さんが力を合わせれば!」


 え……?

 すでにさっき、ふたりで力を合わせて放った攻撃が魔流に吸収されてしまったばかりだけど……。


「別の力よ! 星奈さんが身に着けているペンダント、あれに力を込めて! 両手を握って『つながり』を深めるのよ!」


 と、そのとき。

 ドサッ!

 不意に伯母さんが倒れた。


「伯母さん!」

「もう限界だわ……。てるてる坊主たちがレーザーパワーを溜める前に、早く……!」

「わ……わかった!」


 僕は星奈さんの両手を握る。

 星奈さんと両手をつなぎ、向き合う形となった。


「あ……ペンダントが」


 星奈さんの制服の下にかけられていたハートの飾り部分が、もぞもぞと動き出していた。

 そして星奈さんの制服の胸もとから飛び出し、空中へと浮き上がる。

 ハートの飾りは、清々しくも思えるような青白い輝きを放っていた。


「なによ、それは!?」


 桜さんの驚く声が響いた。

 その声をかき消すかのように星野さんが叫ぶ。


「イメージするのよ。どしゃ降りの大雨が校庭に降り注いでいる場面を!」


 イメージするったって……。

 と思ったけど、目の前の星奈さんは素直に従い、目をつぶってイメージし始めたようだ。

 両手を握り合い、僕のすぐ前で目をつぶっている星奈さん。思わずドキドキしてしまう。

 って、そんなことを考えている場合じゃない!

 僕も素早く目をつぶり、イメージする。


 雨。

 大雨。

 大雨といったら、真夏の夕立かな?


 すぐ目の前さえも見えないほどの、どしゃ降り。

 雷も鳴っている。雷が光るたびに隣で僕の腕に寄り添っている星奈さんが、きゃっ、と小さい悲鳴を上げて震える。

 大丈夫だよ、僕がついてるから。そう言って肩を抱き寄せる……。


 なんだか余計なイメージまで浮かんできていたような気がするけど。

 それは、ともかく。


 ふと気がつくと、周りには突風が吹き荒れていた。

 僕と星奈さんを中心に凄まじい風が上昇気流となって舞い上がる。

 上昇気流は雲を形成する。

 急激な気圧の変化に稲光も発生した。

 そして――。


 ドザアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!


 雨が。

 とてつもない量の大雨が。

 校庭の中心、コンピューターの魔流を目がけて降り注ぎ始めた。

 スプリンクラーとは比べ物にならないほどの水量に、コンピューターはバチバチと弾けるような音と光を放ちながら煙をもくもくと上げる。


 ビシャ、ビシャ、ビシャ。

 飛び回っていたてるてる坊主たちが、地面にできた水溜りに落ち、力なく横たわっていく。


 星奈さんは、目をつぶってイメージし続けていた。

 僕も星奈さんの両手を強く握り力を込める。

 ペンダントのハート型の飾りからは、一筋のまばゆい閃光が空へと向かって舞い昇っていた。


 ピカッ!


 空から激しい光が降り注ぐ。

 それに合わせて轟音が鳴り響いた。

 雷がコンピューター型の魔流に落ちたのだ!


 ドオォォォォォォォォォォォン!


 地響きの中にバチバチという機械のショート音を混ぜ合わせながら、魔流の巨体は、校庭に空いた空間の歪みの大穴へと沈み込んでいく。

 周りに落ちていたてるてる坊主も、その穴に次々と吸い込まれ、消えていった。

 まるで、大雨によってすべてが洗い流されるかのように。


 ぎゅっ。

 僕は星奈さんの両手を、強く握りしめていた。


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