第99話「敵の目的は」
前回のあらすじ……。
担当:アーク・シュナイザー
ハリスとバトった!
うぇぇ! やっぱこいつハンパねぇ強さ!!
何が凄いって大抵俺の攻撃見切られてっから!
こいつ後ろに目でもついてんのかよ!
最初の一撃防がれてからのあのシビれる攻撃はマジ反則!
あれはさすがに死んだと思ったわ……。
あそこでスライディングしてもコケないし、その後の一撃は防がれる上にバランス崩れるし。
でもたまたま後ろに蹴れるものがあったから助かった…。
あのコンテナなかったらもう俺死んでるよ。
んで結構全力で頑張ったのにさぁ……。
なんで耐えちゃうかなぁ…。
ダガーで牽制までしたのにさぁ。
マジバケモンかよ。
本当は着地と同時にダガー回収しようと思ったのにビックリして回収し損ねるし……。
最後の突然武器を分離した攻撃にはしてやられたね。
無理だ……コイツには勝てる気がしねぇ……。
……と思っていたら、紅蓮の覇王の大艦隊!?
なにがどうなってんだ!?
――倉庫――
「艦橋に戻る! おいスコード、お前も来い! 全艦隊、迎撃態勢! その他の団員は艦内全ての団員に戦闘準備を取らせろ!」
「分かりました! 行きましょう!」
そう言うとスコードとハリスは駆けだして艦橋へと向かった。
それ以外の人も各自の役割を果たしにこの倉庫から出ていき、俺達だけが取り残された。
さっきまでうるさい位の喧騒が急に無くなり当たりが静まり返る。
えっ、なんだこれ、なんだこれ。
いきなりこんな空気になんの?
っていうか誰も居なくなったんだが。
「え~と……なんかヤバ気な感じ?」
ルネが苦笑いをしながら場の状況を確認してきた。
「どう見てもヤベェ! 俺たちも行くぜェアーク!」
ジャミルは真剣な顔のまま駆け出した。
「ちょっ、どこ行くんだよ!」
「決まってらァ! 艦橋だァ!」
「場所分かる?」
リナがそう聞くと、ジャミルの動作は完全に停止した。
おい、シリアスなのにそんなボケはいらないぞジャミル。
「甲板に出てみよう! 状況ぐらいは分かるだろ!」
という俺の提案が採用され、俺達は甲板へ向かった。
――艦橋――
「おい! 状況どうなってる!?」
ハリス達は艦橋になだれ込み、もともとここにいた人に状況を尋ねる。
「はい団長! 今『紅蓮の覇王』の艦隊20隻ぐらいが接近して、俺達に砲身を向けてます!」
疾風の翼の艦隊は6隻だけで船自体の規模も紅蓮の覇王には劣る。
例えるならば、紅蓮の覇王の船は戦艦か重巡洋艦のような特性を持っている。
動きは遅いが反面長射程、大口径の砲弾と重装甲を誇っている。
そして疾風の翼の船は、軽巡洋艦や駆逐艦に近い。
小口径の砲弾で、装甲は比較的薄い。
だが高機動で大きさもコンパクト。
さらに主砲も連射が効くので機動砲撃戦に特化していると言える。
だがそれでも、数の優劣は覆せないほど差が開いていた。
「団長! すぐにアタイらも砲撃準備を始めましょう!」
ハリスがいない間船の指揮をとっていたアイリが言う。
「もちろんだ! さっきスコードに伝えた! だが射程は恐らくあちらに分があるだろうな……、こっちの武器は機動性だ! 『疾風』の名が伊達じゃないところを奴らに思い知らせろ!」
「「「はい!!」」」
ハリスはそう叫び艦橋にいる全ての団員を激励する。
その時、ついに紅蓮の覇王艦隊の大砲が火を噴いた!
「砲撃――来ます!」
「かわせッ! 面舵一杯!!」
迫りくる砲弾を、持ち前の高機動を生かして避ける。
「被害は?」
「ありません。全艦無事ですぜ」
ガイスが被害を報告。
「団長!! 全ての団員戦闘配置につきました! 砲撃いつでもOKだそうです!」
サクマが艦橋に戻って、反撃可能な事を伝える。
距離的にももう十分砲弾が届くほど敵艦隊は迫っていた。
「分かった。全艦! 動きまわりつつ一斉砲撃開始! 撃てぇぇ!!」
テレス伝いに全艦にハリスは告げる。
疾風の翼艦隊の反撃が始まった。
――甲板――
俺達はさっきスコード達に絡まれた甲板まで向った。
ここなら外の様子が分かる筈だ。
「オイ! アレ見ろよ!!」
ジャミルが外を見て言った。
見ろよと言われなくたって嫌でも目に入ってたが。
「すっごい数!! ヤバくない!?」
ルネも言う。
うん、やばい。
船の進行方向には、数えるのも嫌になるくらいの艦隊がいた。
あの真っ赤な船体……間違いない、完璧に紅蓮の覇王艦隊だ!!
こりゃやばいって!!
「砲身こっち向いてる。撃つ気満々。ここ危ないかも」
リナがこんな時でも淡々と伝えてきた。
その冷静さマジで見習いたい……。
「そうだな、一回中に戻った方が――ってうわぁぁぁ!」
俺が戻ろうとした瞬間、船が急に方向を変えた。
急旋回した為、思わず倒れる俺達。
そして――
「うおおおぉぉぉぉぉ!?」
砲弾が船のすぐ脇をかすめた!!
あぶねぇぇぇぇ!
「チッ! マジで撃って来やがった!! こりゃあとっとと中に戻った方がイイぜェ!」
振り落とされないように、俺達は必死で壁にしがみ付いていた。
その次の瞬間には、船全体が震えたと同時に、心臓に響くような重低音が連続で聞こえた。
「こ、今度は何よ~!」
もう嫌だと言わんばかりに耳を塞ぎながらルネが言う。
「疾風の翼の砲撃だァ! 撃ち合いなら尚更ここに居たら巻き込まれそォだな!」
「まったくだ! 生きた心地がしない!」
ジャミルの意見に全面同意しながら中を目指す。
ホント戦争だろこれ!
――艦橋――
「撃てぇぇ!」
ハリスは艦橋の中央に立ってそう叫ぶ。
急旋回で紅蓮の覇王艦隊の砲弾群をかわし、反撃にこちらも砲撃する。
疾風の翼の主砲。
1発1発の威力は小さいが、その分連射が利くのが利点だ。
その機動力を生かし、敵艦に次々と打撃を与えていく。
「……どうしたクリスフォード、数だけ揃えても俺達は倒せんぞ……?」
ハリスはそう紅蓮の覇王艦隊――第弐艦隊――の艦隊司令の名を小さく呟く。
旗艦の形、艦隊の陣形から、ハリスはそう判断したのだ。
「距離を詰めろ! 長距離砲撃はあちらさんの土俵だ!! 上手く移動して相手をこちらの土俵に引きづり込め!!」
ハリスはそう指示を出す。
「団長! それが変ですぜ。向こうの方から突っ込んできやす!」
ガイスがそうハリスに言った。
「何……?」
これはおかしなことだ。
通常、紅蓮の覇王の艦隊は長距離砲撃が可能な分砲撃戦が有利なのだ。
にも関わらず、わざわざ突っ込んでくるとは、まるで自分から負けに来てるようなものだ。
「……俺達を舐めてるのか……? ふん、いいだろう、ならお望み通り沈んでもらおう! 目標、前方敵艦のローター! てぇぇ!!」
左に小さく旋回し、敵をかく乱すると同時に主砲を2発撃つ。
主砲は接近する敵艦に見事命中し、敵艦はプロペラを2基失った事により海水に墜落した。
命を奪わない疾風の翼ならではの戦い方だ。
「駄目です! 敵艦隊多数、急接近! 団長……あいつら……乗り込んでくる気です!!」
アイリが叫ぶようにそう告げる。
「何!? ……まさかッ!?」
ここでハリスは、ようやく敵の目的に気がついた。
普通、わざわざ敵艦に乗り込んで戦うと言う事はめったにない。
紅蓮の覇王の場合、船自体が強力だから、艦隊戦自体が既に有利なのだ。
逆に、こちらは少人数だから、返って戦う場所を艦内に限定した方が戦いやすい。
つまりわざわざ相手の土俵で戦いを挑むような物なのだ。
それをするからには……相手には何らかの果たすべき『目的』がある。
今、船にこれと言って宝は無い。
いや、あるとすればそれは……。
ハリスはテレスを持ってこう叫んだ。
「一番艦全団員に次ぐッ! 敵の目標は……アーク・シュナイザーが持っている『情報盤』だッ!!」
ハリスは敵の目的をそう推理した。
――船内、とある廊下――
艦内放送でハリスの声が流れて、俺は絶句した。
「ちょっと待てよ!! なんで紅蓮の覇王がそんなことを――」
「噂ね。アイリがさっき、『4人の少年少女が情報盤を持ってる』っていう話を聞いたって言ってたでしょ」
リナが俺のセリフをさえぎって言った。
「そうか……それを紅蓮の覇王も聞いていたのか……だとしても、なんで疾風の翼に俺達がいるって分かったんだよ!?」
「知らないわ。今はどうでもいいことよ」
確かに……、そんなのは後で考えるか……。
くっそ!
無関係で無いって分かった以上、ハリスに今の状況を聞いておきたいけど……。
「くそ! 誰か艦橋の場所知らないのか!?」
とにかくハリスに会わないと!
「知らないよ~! その辺の人捕まえて聞いてみる?」
その手があったか!
団員なら知ってるはずだ!
ちょうどその時、目の前を一人の団員が通り過ぎた。
「オイゴルアァァァァァ!!! 艦橋の場所教えやがれェェェェ!!」
胸倉掴んで睨みつけてその辺の団員に聞くジャミル。
「ヒィィィィィ!! ああああっちの角をまがった階段の上に……」
ジャミルはそう聞くと教えた団員を突き飛ばし、
「分かったぜェ」
と得意げに笑みを浮かべる。
「阿保かッ! なんで恐喝してんだよ!! なんで胸倉掴むんだよ!!」
「その辺の奴捕まえってってルネが言っただろォ」
「捕まえるってそう言う意味じゃねぇよ!!」
「無駄話してる暇ない。行く」
リナが俺とジャミルの袖をぐいーっと引っ張る。
確かに、ここは急いだ方がよさそうだ!
俺達はハリスに会う為艦橋へと向かった。