第93話「踏んだり蹴ったりな男」
前回のあらすじ……。
担当:ハリス・ローレンス
合流したのを良い事に俺にお鉢が回ってきたか……。
船の修理の為に港町ハックルに停泊していたら、現れたのはなんとあのツンツン頭の少年アークとその仲間!
毎回毎回妙な縁があるもんだ……。
しかもあいつは出会い頭に真っ白とか言ってきたし。
失礼な奴だ。
そんな時、ツレの茶髪女が船に乗せろって頼んできやがった。
これに反発したアイリと、アイリに反発した赤髪の男でケンカが勃発しそうな雰囲気に……。
ったく、こいつらって混ぜるな危険?
俺はツンツン少年と一緒に何とか衝突を避けたのであった……。
まあ、事態は俺の一言で収拾出来たけど、それじゃつまんないしな♪
――数時間前・騎士団本部――
「情報盤が回収された?」
『黒い十字架』の総隊長、ゴーシュは言った。
目の前にはデスクのイスに腰かけた女性がいる。
「はい。遺跡最深部から明らかに情報盤だけが抜き取られた痕跡が残っていました。足跡からして四人組であるかと」
目の前の女性、ロゼス・ネフティはそう淡々とした口調で書類を整理しながら言う。
薄茶色のロングストレートで、灰色のスーツに黒のネクタイを締めている。
「四人組……。確か、ルネ・アーサスをドーングで強奪したのも四人組でしたわね」
ゴーシュの隣に立つ金髪ツインテール、ラミアが顎に手を当てながら言った。
「無関係ではあるまい。魔物群に攻撃した者と、遺跡に侵入した者は同一か、仲間であるだろう。目的は戦争の阻止か、あるいは……」
ゴーシュに続き、ラミアが口を開く。
「あるいは、あの音響兵器の調査、ですわね? どちらにせよあまり野放しにしておくわけには行きませんわよ」
ラミアはゴーシュに釘を刺すような言い方をする。
「分かっている。ヤツらは今恐らく、港町ハックルにいるだろう」
「その根拠は?」
ロゼスは作業を止め、イスをくるりと反転しゴーシュと顔を合わせる。
「フン。バスキルト砦から情報盤を解析できる最寄りの施設と言えば、王国の研究所くらいだ。そこへ向かうとなると、必然的にハックルの定期船を待つ事になる」
ゴーシュは、さも当然の如く説明する。
「……では、騎士を向かわせますか? それともご自身で行かれますか?」
「その必要は無い。『高価な情報盤を、港町ハックルにいる男女4人組が持っている』という情報を盗賊団共に流せ。恐らく紅蓮の覇王か疾風の翼辺りが飛びつくだろう」
淡々と、ゴーシュは最初から考えていたかのように指示を出す。
「それでは盗賊団に情報盤を奪われてしまうのでは?」
ゴーシュの指示に疑問を感じたロゼスが質問する。
「騒ぎが発生したら騎士団帝都即応部隊を現場に向かわせろ。そこで四人組もろとも盗賊共を絶やす。今までは均衡を重んじ泳がせておいたが、もはやそれも不要だ。……野蛮な盗賊共に我等が騎士団の力を示せ。場合によっては我が『黒の十字架』も出る」
「了解」
全てを理解したロゼスは、各部署に指示を送った。
「……随分大胆な指示を出しますのね」
その様子を見て、ラミアはゴーシュに言った。
「触れる必要が無かったから盗賊団には触れていなかっただけだ。多少の損害以上に、その情報盤には価値がある」
質問に対しても、ゴーシュは迷いなく答えた。
――――
「……よし、お前らは、この辺を担当してもらう」
俺達はハリスに連れられて、盗賊団の船の修理を手伝う事になった。
……まあ見返りに王国まで乗せてってもらえるんだ。
このくらいは仕方ない。
「うっわぁ~、こりゃまた派手に壊れてるね~! いったい何があったの!?」
ルネが壁に開いた大きな穴を見て言った。
「ガハハハハハ! 実は最近、紅蓮の覇王の艦隊と一戦交えてな!! コイツはそんときに出来た戦闘の傷跡さ!!」
と大声で説明し出したのは……モヒカン大男のガイス。
「うおっ、モヒカン! お前でけーから急に出てくるんじゃねー!」
ぬっと出てきたガイスに言う。
「ていうか……あんたその服装似合いすぎでしょ!」
「んん? そうか?」
ルネが俺の代わりに言いたかった事を言った。
確かに……それは俺も思っていた。
ガイスの服装は、白いタンクトップに黄色い『安全第一』のヘルメット。
腰にはハンマーやドライバーなどの小道具、首には汗ふきようのタオル。
「てゆーかどっからどう見ても工事現場のおっさんじゃねぇぇか!!」
俺も言わざるを得ないこれは。
「ガッハッハ! 俺はやるからには徹底してやるのさ! さあ! 小僧どももとっとと手伝え!! それから俺の事は監督と呼べ!!」
どんだけ成りきるんだよ!
いっそ転職してしまえ!!
「まあガイス、こいつらは自由に使っていいから、後は任せたぞ」
といい、ハリスは去っていった。
よし……めんどいがまあこうなってしまった以上仕方ない。
やるか!!
「よォし、いいか新人共。俺達の仕事はこの大穴を塞ぐ事だ。だが、その前にやる事がある。ほら、この辺を見てみろ」
そうガイスが指さす所は……ああ、完全に壁が焦げてる所だ。
「こういう修復不可能な部部分はこの粉砕用ハンマーでドンドン壊していけ。これも立派な修理作業の1つだ。分かったな!?」
「はーい」
「は~いカントク~!」
「オッケェだぜェ」
「理解はした」
俺、ルネ、ジャミル、リナの順で答える。
「じゃあまずはこの作業だ! 10分で終わらせろよ!? じゃあ、アークとルネはそっち、ジャミルとリナはそこを――」
「ファイアバレット!」ドカーン
「フレアスプラッシュ!」バゴーン
「旋風脚!」ズガーン
「クロスエッジ!!」スパァン
「人の話きけェェェェェ!!! ハンマー使えって言っただろぉがァァァァァーー!!」
監督は激怒していた。
おっとふざけ過ぎたか?
でもたまには俺もツッコミ休んでいいよね?
「特にジャミルとリナ!! テメェら火災起こす気かァァァ!?」
確かに俺もそれは思った。
だがここはあえてこいつにつっこみを任せておこうか。
「……もうこれ……結果的に被害拡大してるじゃねェェかァァ!? どうしてくれんだこれよォォ!!」
ガイスは頭を抱えて叫んでいた。
「まあまあ……壊れたものは直せばいいんだよ!」
ルネが肩をポンポンと叩きガイスを元気づける。
「テメェらのせいだろうが!! ……ええい、とりあえず直せ! 今度こそこの『ハンマーを使って』いらなくなった所を壊すんだぞ!」
「てい」
リナがガイスにハンマーを投げた!!
「うぉぉぉぉぉい!! 今度は何しやがんですかテメェはァァ!?」
ガイスは間一髪でくるくると空間を飛翔するハンマーをかわした。
というよりリナのノーコンじゃ絶対当たらないな。
「いらなくなった所を壊そうとした」
「いらなくなった所ってそういう意味じゃねぇぇよ!! ていうか俺はいらないのか!?」
「どォでもいいケドよォ……さっさと直そうぜェ?」
「テメェらのせいで進まねェんだろうがァァァ!!」
その後、作業完了までは5時間を要した……。
――――
「……倍疲れた……」
ガイスは作業終了後、休憩室で1言ポツリと呟いた。
……なんだかかわいそうになってきたな。
「ま~ま~! 仕事は終わったんだしそんなやつれた顔しないでこれでも飲んで元気だしなよ!」
「おう……悪ぃな」
言って、ガイスは飲み物を受け取る。
主に疲れる原因となったのは俺らなんだが……と思いつつルネが渡した飲み物を見て俺は目を疑う。
『激辛! キムチサイダーEX!』
あ。
ガイス終わった。
「ごくごくごく……ぐあああぁぁぁ!!! ぬぁぁんじゃこりゃああぁぁぁブシュアアァ!!」
ガイスが泡を吹いて倒れたぁぁ!!
劇薬かよ!?
「どうしたの~? そんなにおいしかった?」
ルネは白眼をむいて痙攣しているガイスに向かって笑顔で言った。
「馬鹿野郎!! どう見ても危篤状態だ!! 医者を、誰か、医者をよべぇぇぇ!!」
まさか死人が出そうになるとは思わなかった……。