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永遠の時の中で  作者: スピオトフォズ
第2章 疾風の翼
9/110

第9話「不良青年と天然少女」

前回のあらすじ……。


担当:リード・フェンネス。

今回は僕が担当のようだね。

町に盗賊が入り、エルがさらわれたそうだ。

騎士団としても盗賊の取り締まりは行わなければいけないが、戦力温存の為上層部が重い腰を動かそうとしないのが現状のようだ。

それでもエルがさらわれたのは事実だ。

見習いである僕に特別指示は出されなかったので、僕はアークを誘い町の外へ出た。

たびたびの魔物の襲撃を退けながら軽快に進んだけど、なぜかアークがバテない。

彼は本気を出したとか意味の分らないことを言っていたが……どうも信じられない。

が、今はそれよりもエルが先だ。

そんなとき、茂みからやけにテンションの高い女の人が現れた。

アークと言い合いをしていてグダグダになりそうだったので場をまとめる。

名前はルネ・アーサスというらしい。

とにかく、悪い人ではなさそうだ。

しかも彼女は船の場所を知っているらしい。

案内してもらおう。



――疾風の翼・船内――



 そこは、埃臭く、薄汚い部屋だった。

 部屋の中には2、3個の木箱と、たった1つしかないドアがある。

 ドアは厳重に閉ざされていて、とても開けることは出来ない。


 その薄暗い室内をわずかに照らすものは、この時代でもだいぶ一般的になってきた蛍光灯、という白く光る筒のみだ。

 ただ、壊れかかってきているようで、ぷつりぷつりと明かりが点滅してしまっている。


 そんなおおよそ平和では無いような空間に、現在1人の人間が居た。

 ジャミル・ハワードという青年だ。

 赤毛の長髪が特徴的で、ギラギラしたピアスにネックレス、黒革のコートという、不良のような容姿の男。


 彼は部屋の端っこで、木箱に寄りかかりながら目を閉じている。

 寝ている訳ではないが、特にする事も無かったので、目を休ませているだけだ。


「(あ~……暇だァ。そもそもなンでこンな事になっちまったンだっけェ?)」

 ジャミルという青年は、少し過去を振り返ってみた。


 彼は、城下町の隣の小さな村、ブルーム村に住んでいた。

 そこで魔物討伐ギルド『紅の(つるぎ)』に属していたのだが、モルゼスの森周辺の魔物の討伐をしていたら、盗賊団『疾風の翼』の船を見つけた。


 そして……一種の罰ゲーム的なノリでじゃんけんに負けたジャミルが様子を見に行くことになったのだ。

「(ンで、こうしてドジ踏んで捕まったと……あンのクソ団長野郎ォォ……帰ったら賠償を要求してやるゥゥ……)」

 ジャミルは1人でこめかみに力を入れていた。


 と、そこへ、

「ここだ。おい、開けるからちょっと待ってろ。ああ、中のテメーは出るんじゃねぇぞ?」

 部屋の外から男の声がした。


 ざわざわと騒がしく、数人居るようだった。

 ジャミルは鬱陶しそうにして片目だけ開ける。

 そして、扉が開放された。


「入れ。別に殺しゃしねぇから、大人しく待ってんだぞ?」

「あ、はい、どうもです」

 入ってきたのは頭に黄緑色のバンダナを巻いた男と、桃色の綺麗な髪をした女だった。


 男は疑いようも無い盗賊団の団員だろう。

 手には鋭い剣。

 疾風の翼は人は殺さない集団と有名だが、数人居るようだし、素手で刃向かったら無傷では済まないだろう。


 ここは、大人しくしとくか、とジャミルは傍観を決め込む。

 女の方はどうやら新たに捕まってしまった被害者らしい、が、何故かペコリと頭を下げてここに入ってきた。


「(ンだァ? この見るからに天然っぽい女は……)」

 と、ジャミルは自身の直感から分析し既にこういう目で見ていた。

 やがてすぐに扉は閉められ、再び部屋は密閉空間になった。


 ジャミルは変化がなくなった部屋で再び目を閉じた。

 そして女はキョロキョロして、部屋の様子を確認すると、ジャミルをじっと見つめた。


 ジャミルはその視線に気付き、

「……何見みてンだァ」

 片目を開けて声をかけた。


「うわっ、寝てると思ったのに起きてたんだー」

 と女に心底どうでもいいコメントを返されたので、ジャミルは興味を失い再び目を閉ざそうとしたが、

「えーと、始めまして。私はエルアス・ミルードって言います。相部屋になったのも何かの縁だと思うので、よろしくお願いしまーす」

 その後間髪居れずに飛んできたのはやはりどうでもいい情報だった。


 自己紹介を済まし、ペコリと行儀良く頭を下げるエル。

「相部屋って……、お泊りに来てるワケじゃねェだろォが……」

 やはり予想通り天然ちゃんだったか……と、自分の直感の良さに感動しつつ、これからこんな意味不明な生物と同じ部屋になるのか……と意気消沈するジャミル。


 そんなジャミルの心情も知らず、目の前の天然ちゃんは、

「呼ぶときは是非エルって呼んでくださいね。みんな私のことをこう呼んでるんですよー」

 またしても不必要な情報を垂れ流す。


 何処までも鬱陶しい女だ、とジャミルは騒がしさに半ば苛立ちながら聞いていた。

 えっへへーと笑いながら突然あっ、と短く声を上げるエル。

「そういえば、お名前まだ聞いて無かったですよねー。なんて呼べばいいですか?」

 こいつ……俺が見るからに不機嫌さを露にしているのが分からないのか? ていうかこの状況でそんな悠長に構えていいのか? 阿保なのかコイツは?

 とジャミルは思ったので、


「……阿保」

 と一言だけ返した。

「阿保さんですか? なんていうか、可愛そうな名前ですねー……、まあえっと、よろしくお願いしま――」

「――待て待て待てェェ!! なんつー勘違いしてンだ殺すぞゴルァ!! テメェ馬鹿だろ!? 馬鹿だ! 馬鹿じゃないと殺す!」

 ジャミルは耐え切れなくなった怒り……というより単なるツッコミをエルに向かって炸裂させる。


「あ、やっぱり聞き間違いでした? でもはっきり言わない阿保さんが悪いんですよー?」

 馬鹿にされている。

 絶対馬鹿にされている。

 そのはずだが、目の前の女に悪意は感じられない。


 ジャミルは恨んでいいものか迷ったが、恐らく真性の――というか最悪の天然であると考え、必要以上に考えるのをやめた。


「で、あなたの名前はなんて言うんですかー?」

 今度は聞き逃さないように、と耳を澄ましている姿がなんとなくムカついたが、ジャミルはこれ以上逆らっても良い事無さそうだ、と勝手に判断し、口を開いた。


「……ジャミル・ハワード」

 ジャミルは自分の名を一言ボソリと呟いた。


「へぇージャミルさんていうんですかー。私はね、エルアス・ミルードって言います」

「それさっき聞いたっつーのォ!」

「エルって呼んでくださいね」

「だァァ!! それもさっき聞いたァァ!! ンだよコイツウゼェ!!」

 ジャミルは出会って数分でもう関わり合うのが嫌になるくらいエルに呆れていた。


「そういえば、ここどこなんですかねー?」

 エルという天然は、改めて辺りを見回しながら言った。

「どこって……、疾風の翼船の一室だろォが。ったく、厳重に鍵掛けやがって、ウッゼェ……」

 ジャミルは溜息を吐きながら木箱に肩肘を付く。


「そうですよねー。なんか出れる方法ないもんですかねー」

 とエルは大して気にもしてないような暢気な声で言う。

 さァな、とジャミルが短く返そうとすると、不意にドアが開いた。

 まあ例によって数人の盗賊がいるので脱出は無理だが。


「ほら、昼飯だ。とっとと食べろ」

 その盗賊は2人分の昼食を持ってきていた。

 確かに、考えてみれば朝から何も食べていないと思うジャミルとエル。

 人間、意識してしまうと腹が減るものである。


「ケッ」

 それをジャミルは乱暴に奪い取り、


「わぁ、ありがとうございまーす!」

 エルは行儀良く受け取った。


 それを見た盗賊の男は、申し訳なさそうにして、

「済まねぇな。こっちもいろいろ立て込んでてよ。別に大人しくしてりゃ解放もするし怪我もさせねぇから、もうちょっとここにいてくれよな」

 と扉を閉めた後に言った。


「ケッ、やけにお優しい盗賊じゃねェか。疾風の翼ってのは義賊って聞いてたが、あながち間違いじゃァなさそうだなァ。もっとも、こっちとしてはいい迷惑だがよォ」

 ジャミルは渡されたパンを頬張りながら言った。


「義賊でも、盗賊は盗賊だぜ。今上の連中は騎士団と睨めっこさ。悪いな、巻き込んじまって」

 盗賊は、扉にを背にして寄り掛かる。


「気にしないで下さいよ。私にも、過失はありましたからねー。それに盗賊さん、みんな悪い人には見えなかったですよ?」

 エルは食べながらしゃべるジャミルを注意しつつ、ドアに向かって言った。


「はははっ、そりゃどうも。後でみんなにも伝えておくぜ」

 一連の会話を聞いたジャミルも少し興味を持ったのか、声を掛ける。


「テメェ、名前は?」

「名前? 俺は――」


 その瞬間、船内に破壊音と悲鳴が響いた。


「な、なんだ!?」

「助けてくれぇぇぇ! 『盗賊殺し』がッ、ぎゃあぁぁ!!」

 エルとジャミルから外の様子は見えなかったが、直後に肉を切り裂く音と断末魔が響いた。


「くッ……お前が、『盗賊殺し』かッ!! この野郎ォォォッ!!」

 先ほど話した盗賊の声だった。


「ふん、無駄だ」

 だが虚しくも、女の声と共に剣が弾き返された音が鳴り、


「――白く鋭い氷の刃よ。敵を貫け、アイスニードル!」

 次の瞬間、肉を引き裂く、聞くだけで吐きそうになる音がドア部屋越しに聞こえた。

 やがて、扉が謎の女によって開かれた。


「……に、げろ……がはッ!」

 先ほど昼食を持ってきた盗賊は瀕死だった。


 刺された後、振り返ろうとするが、女は無慈悲に細身のレイピアを突き刺す。

 胸から口元へ一気に血が流れ、やがて口から大量の血を吐いて盗賊は倒れた。


 倒れた盗賊の男から、じわじわと床に血が滲んでゆく。

 その瞬間、目の前で3人の人間の人生が終わったことを2人は理解した。


 ジャミルとエルは、声も出せず、それをやった人間を見つめていた。


 銀色の髪を持ち、黒系の服を身に纏う。

 その白銀に輝くしなやかな髪は、腰の長さまで届いている。

 整った顔立ちで、瞳の色は紅蓮のように赤い。

 それが対照的に白い肌と銀の髪が合わさり、いいアクセントとなっていた。


 年齢は20代後半程度、ジャミルよりやや年上に見えた。


 そして、今2人がもっとも注目しているのは、先ほど放った水色の魔方陣の後と、右手に握る細身の剣、レイピアだった。


 女はそのレイピアを腰に閉まった後、 

「捕まっていたのだな。出ろ」

 と何事も無かったように、そう言い放ち、2人を外へと案内する。

 鍵を開けた状態で、看守は死んでいた。

 脱出は可能だった。


 ジャミルは悟る。

 確かに、今の女の行動は許せない。

 ジャミルは盗賊なら死んでもよし、という考えではないし、盗賊達も監禁こそしたものの、彼らに危害は加えなかった。


 それを、まるでゴミを掃除するかのように一掃した目の前の女は許せなかった。

 だが、今の状態では、間違いなくその女には敵わない。


 女は恐らく俺達の救出がしたかったのだろう。

 それが本当の目的なのかどうかは置いておいても。

 なら、ここは一先ずは大人しく救出されることにしよう。


 せめて、武器が手に入るまでは……。

 そう考えていた。 


 だが、エルは動かない。

「おい、何やってんだァ」

 ジャミルが小声で声を掛ける。


「殺すことは……」

 下を向いたまま小さくエルは言う。


 やがて顔を上げて、

「殺す事は、無かったと思います!」

 と強い口調で言った。


 自分の意思を強く訴えかけるような、とても先ほどの天然とは思えない目線だった。

「……何故だ」

 女は少々イラつきぎみに答えた。


「確かに、私達は囚われていました。でも、危害は加えられてません。助けてくれたのはありがたいですが、命を奪う必要性はありませんでした」

 ジャミルと、考えていることは同じだった。


 でも、それを言ってしまうのは、まずい。

「……やめろ。それ以上言わないでくれ。でないと、私は貴様らを"敵"と認識する事になる」

女は既にレイピアに手を掛け、今にも抜きそうな動作で言った。


 だが、エルは構わず口を開く。

「あの看守さんにだって、あの看守さんの人生があったと思います! それを奪っていい権限は、あなたにはありません」

 女の鋭い眼光に負けず、凛とした口調で言った。


 その姿は、先ほどまでの捕まった少女エルのものではなく、正義と秩序を守る騎士団の1人であるエルアス・ミルードだった。

「看守の人生だと……?」

 女の眼光がさらに鋭くなった。


「盗賊の方棒を担ぐ奴の人生など、たかが知れている。私の邪魔をするというのなら――貴様らにも、消えてもらう」

 女の足元に水色の魔方陣が展開し、魔力を高める。


 こうして、謎めいた女は、ジャミルとエルに刃を向けることになった。

 女の力量は不明だったが、立ち振る舞いや動作などから只者ではないということは2人も理解していた。

 そして、自分達はごく普通のギルドや騎士団見習いレベルの力量しか併せ持っていない。


 その上、今は丸腰だ。


 しかしエルは、そうした状況を正確に理解したうえで、それでも女を見逃すことは出来なかったのだ。


三人称シリアスムードな話です。

そして新キャラジャミル・ハワード登場です!

決して一方通行ではありません。

この2人はいい漫才コンビになるといいなぁ。

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