第86話「強行突破は駄目だって言ってるのに」
前回のあらすじ……
担当:ルネ・アーサス
今日の当番はあたしか~。
リードからアークのテレスに連絡があったみたいで、色々と新しい情報が入ってきたみたいなのよね~。
まず、伯父さん……アレン・ブエノースさんは何とか意識を取り戻したみたいだった。
よかった~、最初に見た時はひっどい有様だったから心配してたんだよね~。
まあ、簡単に死ぬような人じゃないけど。
にしてもザイルとか言う奴マジ最低!
そもそもあいつが伯父さんを攻撃したからあたしが容疑者で捕まったんだよね~。
腐れ騎士もぶっ潰したいけど元はと言えばあの金髪の仕業なんだよね~。
金髪許すまじ!!
でも伯父さんの目が覚めたって事はあたしの容疑も晴れたのかと思ったら駄目だったみたい。
腐れ騎士が自分の地位欲しさに無理やり伯父さんの証言を捻じ曲げたんだって。
ホンット腐ってるわ!!
あと、遺跡に変な装置があってそのせいで魔物が凶暴化したっぽい。
遺跡か……あの遺跡はドーイング駐留軍が調査済みで面白いところは何にも無さそうだったんだけど、ちょっと装置が何なのか気になるね。
その遺跡を騎士団が調査するっぽいんだけど、騎士団は戦争する為にブラストレイズを狙ってるみたい。
しかもなんかヤバ気な部隊が来るみたい。
も~、なんかどんどん話がややこしくなっていくんだけど!!
――道中――
「にしても、こう暗いと歩き辛いったらありゃしないな……」
今は真夜中。
本来なら夕食を食ってジルドの話を聞いて寝るつもりだったが、事態が急変したのでそうは言ってられない。
一刻も早く行動しないと、翌朝には帝都からの部隊『黒の十字架』とやらがやってきてもおかしくは無い。
何とかそいつらよりも先に遺跡へ行って情報を手にしなければいけないからだ。
ちなみにおっさんは、
『それじゃあ、こっちはチミ達に任せるわ~。おっさん? おっさんはおっさんでちょっとやる事があんの。そんじゃ、またなぁ~』
と言ってそれっきりだ。
相変わらず掴み所のないおっさんだ。
そんなわけで、俺達はバスキルト砦へと向かっていた。
「なァなんで松明とか焚かないんだァ? その辺に木ならいくらでもあンだろ」
ジャミルが言った。
「松明なんか立いたら騎士団に見つかるかも知れないだろ? ただでさえ俺達お尋ね者なんだから、そんな目立つ行動できるかよ」
発見されて騎士団とやりあうのはごめんだしな。
「めンどくせェな。ハッ! そォだルネ、あン時みたいに飛んで俺達載せてってくれよォ!」
ジャミルが「閃いた!!」と言わんばかりの顔で言う。
あんときって……無人島の時か……。
確かジャミルはルネの髪を掴んでぎりぎり助かったんだよな。
っていうか……俺的にルネに命を握られるのはもうごめんだな……。
「分かってないなぁ~、あれは非常時だからよ! 普段はそんな大勢載せて飛んだりしないの! あれ結構つかれるんだからね!!」
「ケチケチすんなよォ~、今も非常時じゃねェか。騎士団に追われてる訳だし、一刻も早く遺跡につかなきゃいけねェんだろォ?」
「そこまで言うなら飛ぶだけ飛んで、上から叩き落としてあげようか~?」
恐い! ルネの笑顔が恐いよっ!!
「……すみませンでした……」
ジャミルが平謝りするのも分かる気がする……。
「静かに。明かりが見える」
先頭を突き進むリナが静かに言った。
「あの馬車……チッ、噂をすれば何とやらってヤツだなァ……」
「? 見えるのか?」
俺には一粒の灯しか見えない。
「あァ、ありゃ間違いなく騎士様のだぜェ」
「ジャミル……お前ってもしかして目良い?」
「あァ? 一応な、両目4.0ぐれーだったかなァ」
マサイ族かよ!
というツッコミはあくまで世界が違うのでやめておこう。
「使えるわね。何人いる?」
リナはあくまで冷静に対処。
「ンー……5、いや6人か……頑張れば対処しきれねェ数じゃねェが、どうすンだァ?」
すげぇ……人数まで見えるのかよ……。
意外なところで才能発揮だな。
「面倒ね。強行突破す――」
「待て待て早まりすぎだ馬鹿野郎!!」
即座に魔法陣を展開しようとしたリナを押さえつける。
「何?」
あからさまに嫌そうな顔で睨むな!
「迂回しようって! むやみに事を荒立てる必要は無いだろ。テレスで他の部隊に連絡取られても困るし」
「あたしも賛成~! そんな事で時間潰すのもったいないしね~」
「お前はそのウキウキテンションなんとかならないのか……」
さっきからルネのテンションが異常だ……。
「だって~、早く遺跡に行ってみたいんだもん! その謎の装置……売れば金に……」
「売・る・なぁぁぁ!!!」
駄目だこのパーティーメンバー……。
――――
「あれだな」
「あれね」
「あれか~」
「あれかァ」
俺、リナ、ルネ、ジャミルの順に砦入口を確認する。
まあ、さも当然の如く砦入口には騎士が2人見張りをしていた。
「で……どうする?」
俺はとりあえず誰かの意見を求めてみた。
「とりあえず……強行突破かァ?」
ジャミルはニヤっと笑い銃に手を添えた。
「待て待て待て。別な道探すとかかく乱するとか、色々手はあるだろ。つーかお前らどんだけ強行突破したいんだよ」
俺は暴走しそうなジャミルを懸命に静止する。
とはいえどうするか……。
「とりあえず、小石をどこかに放り投げて音で見張りを誘導する、というベタな方法を試してみるか?」
俺はこのまま意見を求めてもロクな案が出そうに無かったので自分で提示した。
「ま、妥当な案ね」
「チ、まァソレでいいンじゃねェの?」
「賛成~」
皆の意見がまとまったようだ。
んでなんでお前は残念そうなんだジャミルよ。
「でもよォ、見張りは2人いるぜェ? あと1人はどうすンだァ?」
ジャミルが再び見張りの方を向いて言った。
「う~ん……また小石に引っかかるとは思えないし……仕方ない、死なない程度に気絶してもらうかな」
あまり目立つ真似はしたくないが……まあ何とかなるだろう。
「じゃ、誰が投げる?」
「アタシがやるわ」
リナが名乗り出た。
リナは足元の小石を拾い、
「そぉぉぉりゃッ!!」
ええぇぇ!?
まさかの全力投球!?
カコン、と小石が木に当たった音がした。
「げェふッ!?」
え……?
ジャミルが倒れた!!
見ると、足元にはリナが投げたはずの石が……。
「あ、ごめん、跳ね返ったみたい」
しれっというリナ。
んなアホなぁっ!?
「ん……なんだ?」
「どうした?」
「今あそこの方で物音が……」
「魔物か? ここに忍び込もうなんて物好きがいるとは思えんが……ちょっと見てこい」
「ああ」
「(アーク! 騎士が近くに来るよっ! 静かにしないと!)」
ルネが小声で俺に話しかけた。
「(はぁぁ!? くっそ、ジャミル起きろ! ここにいたらバレる!)」
俺はジャミルの頬をバシバシ叩いた。
くそ! なんで気絶してんだよ!!
リナの小石当たりどころ悪過ぎだろ!!
つーかリナ、ノーコンだったのか!?
なんで志願したんだ!?
えぇいもう! 今はそんな事実発覚しなくていいんだよ!
「(貸して、ていっ!)」
リナの裏拳がジャミルの顔面に直撃!
お前それは酷すぎだろ!
仮にもお前のせいで気絶したんだぞ!?
「いってぇ何すんだぁぁ!!」
大声だすなぁぁぁッ!!
「おい! そこにいるのは誰だ!!」
しまった!
騎士に気付かれた!!
もう嫌だこの流れ!!
「こうなったら仕方無いわね、紅蓮の炎! フレイムブラスト」
リナは即座に攻撃態勢へ移行し、目の前の騎士を黒コゲにしてしまった。
「だぁぁーー! もう知るかッ! 強行突破だ!!」
こういう状況になってしまったら、俺も自棄になるしかないもう……。
身を隠す事を諦め、俺達4人は残る騎士1人に突撃した。
「い…遺跡警備隊から本部へ! 侵入者だ! 侵n――うわあぁぁぁ!!」
俺はダガーの持ち手を後ろ首に叩き、そいつを気絶させた。
鎧の上からでも効果があるとは……、俺はラプターに順応してきてるらしい。
「片付いたわね」
リナが言う。
はぁ~……。
結局こうなるのか。
まあ、なってしまったものは仕方ない。
「……行くか」
俺達は遺跡の中へ入って行った。
……にしても侵入するだけでこれって……先が非常に思いやられるんだが。