第85話「事態はどんどんヤバい方向になっていく気がする」
前回のあらすじ……。
担当:ジャミル・ハワード
俺らァルネの提案でオッサンの話を盗み聞きした。
聞く限りではなンだかトンデモねェ事件に巻き込まれてる感じだった。
簡単に言えば、アークとオッサンが持ってるブラストレイズっつー古代兵器を前戦ったザイルとか言う野郎が狙ってるらしい。
ンで、話一通り聞いてたら、オッサンに盗み聞きしたことがばれていた。
オッサン……タダモンじゃねぇな。
これで全員現時点の情報を共有したワケだが、結局どう動いたらいいか分からンままだった。
ところが、アークのテレスにリードから連絡が入ったらしい。
なンか分かりゃいいがな。
――――
「じゃあまず伝えたいことから頼むぜ」
俺はテレス越しにリードに伝えた。
《分かった。まず、ブエノース大佐の意識が回復したそうだ》
「本当か!?」
朗報だ…!
これでルネの無罪は決定か!
俺達も騎士団に追われる事は無いだろう。
《ところが、少し厄介な事になってね》
「厄介?」
《うん、実はまだ、君たちは騎士団に追われているんだ。しかも、間もなく騎士団本部からそっち方面に捜索部隊が送られるかもしれない》
「はぁ!?どういう事だよ!?」
大佐の意識が戻れば証言で疑いは解ける筈だろ!
《ここからは僕、エル、それとロウ隊長の憶測なんだけど……、恐らく大佐はルネが犯人じゃないと証言してくれたと思う。でも、そうなるとドーイング駐留軍はルネを冤罪で捉えた事になり、その上死刑まで命じた。これはウェルナー大尉の責任問題となり、駐留軍隊長の任は解かれる事になる。それを避けたい大尉は大佐の証言を捻じ曲げ、帝国騎士団本部に追撃命令を下したんだ》
「なるほどな……そのウェルナーってヤツはルネが犯人出ないと困る訳だ。まったく、汚ねぇ野郎だな」
そう言えば、遺跡からドーイングに逃げて来た時、市民なんてどうでもいいからさっさとしろーって騒いでるやつが確かそんな名前だったな。
そんな奴だったらやりそうな事だ。
《意外と余裕そうな反応だね》
「そうでもねーよ。っていうか俺はザイルに用があるんだけど! なんでそんなめんどくさい野郎と事を荒立てなきゃなんないんだよ!」
《君がルネを助けたからだろ? まったく……ホント後先考えずに行動するんだから君は……》
「俺はお前みたいに頭脳派じゃないんだよ。それに、やらずに後悔するよりやって後悔したほうが良いって言うだろ?」
《君が言うとただの言い訳にしか聞こえないよ……》
「何だとお前この名言作った人に謝れよ」
《誰だよ!》
「知らん! それより、俺に聞きたい事って?」
話が随分脱線したな……。
《ああ、その事なんだけど、君はあの時どうして村に向かって凶暴化した魔物が押し寄せてくるのが分かったんだい?》
「あれか、あれはな……ザイルが言ったんだ」
《ザイルが?》
「ああ。俺とリナとジャミルで何とか、一応瀕死の状態まで追い詰めたんだ。そしたらその時ザイルが突然あの事を俺達に知らせたんだ」
《……つまりザイルは……あの装置を作った人と関係があるという事か……?》
「あの装置?」
《実はこっちもちょっとした発見があってね、遺跡の最深部まで侵入したんだけど、そこにあったのは謎の巨大な機械だったんだ》
「やっぱそうなのか……。遺跡の一部って可能性は?」
《それは無いよ。ライドンの砦はドーイング駐留軍が既に調査済みだったけど、そんな装置があるって報告は無かった》
「なるほどな……」
《どうやらその装置が凶暴化の原因らしいんだ。あの時、装置の中から頭が割れそうな音が急に鳴りだして、その後突然魔物が異常に凶暴化したんだよ》
「ああ、こっちもおっさんから話を聞いてる。ここ付近の凶暴化の原因は全部あの装置らしい」
《でもそうなると、ザイルと凶暴化を施した人物はどこかで繋がってるか、もしくは敵対してるって言う事になるね》
「ん? ちょっと待て。おっさん情報だと装置を設置したのはザイルの一味だぞ?」
《へ? というか、おっさん情報って……》
「あ~、そういやそっからだな。よし、リナ。おっさんの話の要点をまとめてリードに話してくれ」
俺はテレスをリナに渡す。
こういうときは無駄な物を徹底的に省いてしまうリナが適任だ。
「めんどうね」
そう言いつつおっさん情報を的確にまとめて話してくれた。
「って事。以上ね」
《相変わらず君は説明が上手いね。助かったよ》
という事で、リ-ドとの情報共有が完了した。
《つまり、ザイル勢力があの装置を利用して騎士団と村に攻撃しようとしたけれど、それはザイル自身の発言で失敗したって事だね。……そのザイル勢力っていうのも、一枚岩じゃないかもしれないね》
その可能性はある……が、そもそもザイル勢力自体に分からない事が多すぎる。
《ただ、ザイルもブラストレイズを集めて世界を破壊しようとしてる。どっちにせよ世界が危ないのは事実だ。明日から騎士団の帝都城本隊が装置を調査する予定だから、また何か分かったら連絡するよ》
「おお、まあまた今度な」
そうして俺はリードと連絡を切り、テレスをポケットにしまった。
「なんか分かった?」
リナが長い電話に退屈していたのか速攻聞いて来た。
「まあ色々とな。実は――」
俺はブエノース大佐の件、俺達が未だ手配中の事、装置の事を大雑把に話した。
一回聞いた内容をもう一度伝えるのは面倒な作業だな。
「つまり、装置発動を狙っていた男とさっきオッサンが言ってたザイル勢力は同一って事で良いのかしら」
話を聞き終わって最初に口を開いたのはリナだった。
「まだそう決めつけるのは早計ってもんじゃな~い? あんな物騒な代物を極秘で作ったもしくは発掘したって事は、結構な技術力が無いと無理だわね」
リナの意見にジルドが反論した。
「う~、なんか難しい話ね~! そもそもそのザイル勢力は一体何がしたいのよ~!」
ルネは小難しい話についていけないようだ。
まあ、そんな感じはしていた……。
「まだ情報が少なすぎるし、それはなんとも言えないだろ。その装置ってのも時期に帝都城本隊が調査するらしいから、それでまたなんか分かんだろ」
俺はそうルネに答えた。
だがそのセリフにジルドが反応した。
「本隊が? なるほど……そいつは不味いな……」
ジルドはしかめっ面をして顎に手を当てた。
「ン? なンかあンのかァ?」
ジャミルが聞く。
「ああ……、さっきも話したけど、騎士団もブラストレイズを狙ってんだよねぇ」
「そう言えば言ってたな……、でもそれって、暗部組織の話だろ? さすがに表だってそういう行動はしないんじゃないか?」
そういうのは飽くまで裏でやるもんだろ。
「まあ確かに表の世界では悟られないようにしてるけどねぇ。……帝国がセトラエスト王国と敵対してんのはさすがに知ってるでしょ? 実は帝国騎士団、ひそかに戦争の準備してんのよね」
戦争……!
いずれは起こるかと思ってたけど……。
「じゃあまさか、その戦争にブラストレイズとか言うやばい兵器を使う気なんじゃ……」
ルネが恐る恐る言った。
「残念ながらそのまさかっぽいんだよねぇ。今現在国境付近の騎士団は大幅な軍事強化と騎士増加の真っ只中だし、本気で戦争に向かってんのは確実だな」
「戦争云々は今はどうでもいいわ。つまりおっさんは、その騎士団にあの装置を調べさせるのはまずいって言いたいワケ?」
リナは所構わず一直線に質問するなぁ。
「そゆこと~。リナ嬢は話が早くて助かるわ~。……恐らく、調査するのはさっき話した黒の十字架だ。そこで調査されれば第六魔法研究所がどうなるかは予想が着かないが、音響兵器は間違いなく戦争の道具に使われる」
ジルドは前半はおちゃらけ、後半は一気に表情を引き締めていった。
……名前からしてヤバそうな部隊だもんな……。
「だが、同時にチャンスでもある」
ジルドはニヤリと笑いながら言った。
「そこで装置を作るなり設置するなりしたって事は何かしらの情報が残されている筈だ。ついでに装置を破壊すれば黒の十字架も手出しできない。どう?」
確かに、そりゃ一石二鳥だな。
「でも今遺跡には調査隊到着まで門番か何かがいるはず。どうするの?」
リナは冷静に問題点を指摘した。
「そりゃあ、どうにかして遺跡に潜入するしかないっしょ!」
俺達の次の目的が決まった。