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永遠の時の中で  作者: スピオトフォズ
第七章 ジルド過去編
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第79話「飴玉ジジイ」


前回のあらすじ……。


担当:ジルド・クロームド

オレは帝都海港区の水夫から“モーターボート”を借り、無事(?)サリー島に着いた。

情報によると西部に賢者は住んでいる筈だ。

オレはさっさと賢者に接触を図るべく足を進めた。



――サリー島・西部・朽ちた建造物前――



「ここか……」

 オレは誰もいない森の中で、ようやく建物を発見し呟いた。

 とりあえず建物の中に入ろう。


 入口は頑丈そうな木のドアだ。

 一応ノックしたが、当然返事がなかったので普通に開けて入る。


 中は外見と変わらず広い倉庫のようだった。

 馬車を5台は並べて置いておけそうだ。


 ここには生活の痕跡は全く無く、中身の無い木箱や鉄の箱が転がってるだけだ。

 こんなところに本当に人が住んでいるのだろうか。


 床は石のタイルで出来ていて、その床の一部が地下室につながっているはずだ。

 確か、三つ重なった鉄箱と壁の間……ここか。


 オレはタイルの隙間に指を引っ掛けて持ちあげる。

 石なので相当力を入れて持ちあげようとしたが、予想に反しここだけ軽い素材で出来ていたようで簡単に取る事が出来た。


 中には人間一人がギリギリ通れるような細い空間に沿ったハシゴが、地下へと繋がっていた。


「アスロック・タリスマンさ~ん!!」

 流石に無断で入ると色々まずいので、大声を出す。

 地下室だけあって声は響くので、一回で聞こえた筈だ。


「ほっほ。こっちじゃよ」

 首筋に、冷たく硬い何かを押しつけられた嫌な感触。

 これは拳銃だ!!


「動くな。両手を頭の後ろに回せ」

 老人特有のしわがれた声だが、その中に鋭いものを感じる。


「それ、矛盾してない?」

 やれやれ……そう言えばこの前も同じような目にあったなぁ、とオレは自分の運の無さを恨めしく思う。

 とりあえず、下手な真似をしなければ命だけは助かりそうだ。


「ほっほっほ。頭の回転は悪くないようじゃの。何者じゃ?」

 緊張感のない笑い声が聞こえたが、やはり拳銃をずらす気配は無い。


「……ジルド・クロームド。賢者、アスロック・タリスマンに忠告と協力の打診をしにここへ来た」

 下手な事は言ってないはずだ。

 早く後ろのそれをどけてほしい。


「ほっほっほ。嘘は付いてないようじゃの。ほれ、こっち向いて見よ」

 ……やっと首からあの感触が消えた。

 警戒は解かれたようだ。


「ふう……それで、って何ですかそれは……」

 オレはじいさんが手に持っていたものを見て唖然とした。


「ほっほっほ! 感触だけで拳銃と決めつけるようじゃまだまだ若造じゃの。これはあだの鉄の棒じゃよ。ほれ。本物はこっちこっち」

 と言ってポケットから取り出した拳銃を、弄ぶかのように指でくるくると回していた。

 ……なんなんだこの爺さんは……。

 

 顔には深いしわが刻まれており、髪も眉毛も髭も全て真っ白。

 もう60はとっくに過ぎているだろうという年だ。


 だが杖も付かずに立っていたり、半袖短パンという少年のような格好から見える筋肉は、年齢による衰えを感じない。


「はあ……、若造で悪かったな。それで、あなたが賢者のアスロック・タリスマンさんでいいんですか?」

 こんな所で人に遭遇するとしたら、探してた賢者しかありえないだろう。


「ほっほっほ! よくぞ我が正体を見破った! ほれ、お礼に飴玉をやろう」

 スッと無駄に素早い動きで飴玉を取りだした。


「いや、いりませんよ」

「本当か? 本当いらんのか? ワシのプレミア付きじゃぞ?」


「なんですかプレミアって……」

「ほっほ! ワシの唾液」


「もっと要りませんよ!!」

「冗談じゃ。仕方ない、この飴玉は別の機会に取っておこう」

 そう言って、名残惜しそうに飴玉をポケットにしまった。

 全く何なんだこのじいさんは……こいつはかなりの変人だぞ……。


「さて、改めて自己紹介と行こうか。ワシが、アスロッ――っと、ここじゃなんじゃし、中に入りたまえ。いつ魔物が来るかも分からんしのぉ」

 絶妙な所で自己紹介を切り、また妙に素早い動きでスタスタとハシゴを下ってゆくタリスマン。

 オレは付いてゆけず、一瞬固まってしまったが、すぐに中に入った。



――隠れ家――



「ほっほっほ! 我が隠れ家へようこそクロームド君!」

 地下は意外と広さがあった。

 人間一人が普通に生活するには十分な広さだ。


「それで、ここへ来た目的をまだ聞いていなかったのぉ」

 相変わらず緊張感皆無のまま話しを進めるタリスマン。

 この空気に慣れるしかないのか…………。


「まず、賢者を狙ってブラストレイズを奪った男がいます」

「ほお?」

「名前は、ザイル・サファール。先日、王国に住んでいた賢者、ダアト・ベルナールが殺害されました。彼の持っていたブラストレイズも奪われています。オレは、8年前その男に――」

 オレは一通り今までの経緯を話した。


「なるほどのぉ。お主の話が本当なら、サファールという奴は一つ大きな過ちを犯しておる」


 テーブルに向かい合いながら、タリスマンは人差し指を立てた。


「ベルナールを仲間にせず、殺してしまった事じゃ」

 タリスマンはテーブルにある紅茶を一口飲んで、話を続ける。


「ほれ、考えて見ろ。元々レイズは、一人で二つ所持出来ない。人間一人の魔力で二つを操る事は出来んからのぉ。普通のレイズでそれじゃ。ブラストレイズではもちろん、常人では二つを同時に操る事など到底出来んはずじゃ」


「いや、まだサファールはブラストレイズを一つしか持っていない。これから奪うにしても別の場所に保管してから奪うんじゃないんですか?」


「……お主もしや、ブラストレイズを甘く見ていないかの?」


「甘く……? どういう事ですか?」


「普通のレイズとは到底比べ物にならないんじゃよ。ブラストレイズの負担は。ワシらがそれを操れるという事は、それだけ化け物じみた魔力を所持しているという事じゃ。よって、常人にはブラストレイズを装備するどころか、触れる事すら出来ん。そういう危険な物なんじゃよ、これは」


「なるほど……じゃあ、ブラストレイズを奪ったサファールは、同じ賢者、という事ですか……」


「ほっほ、その通りじゃ。そんなブラストレイズを一人で集める気なら、まともな考えではないのう。脅しでもなんでもして、ベルナールを仲間に取り込む方がよっぽど建設的じゃ」


「簡単に仲間になるとは思えませんけどね……」


「仮に全て己一手に収拾するとしたら、まさに愚行としか言いようがないのぉ。止めるまでも無い。そもそも、まだサファールがブラストレイズを集めているとは断定出来んのじゃろ? 偶然にも一人の賢者が賢者を殺害しただけかも知れん。わざわざ来てもらって残念じゃが、ワシは協力する気は無いよ。他の賢者と深く関わる気も無しじゃ」

 そう言って、タリスマンは立ち上がった。


「そうですか……。分かりました。念のため警戒はして置いてくださいね」

 まあ協力してくれなかったものは仕方ない。

 万が一にもザイルの襲撃にあって殺されるのは後味が悪いし、警告だけはしておこう。


「すまんのぉ、わざわざ来てくれたのに。ほれ」

 何かが飛んできたので思わずキャッチしてしまった。


「飴玉、イチゴ味じゃ」

 ……キャッチしたのを少し後悔した。


「仕方がないから貰って置きますよ」

 ホント、なんなんだこの飴ジジイは……。


「もう会うことも無かろう。その飴玉をワシだと思って――」

「生憎、じいさんを舌の上で転がす趣味は無いんで、海にでも捨てておきますね」

 考えただけで吐き気がした。

 もう食欲が無くなった。


「冗談じゃ。それじゃ、元気でな。ジルド・クロームド」

「アスロック・タリスマンさん。お気を付けて」


 そう言って、オレは隠れ家の外に出て、ハシゴを上って外に出た。

「空振り、かねぇ。言われてみれば、ザイルの行動は色々と腑に落ちないが、とりあえず帰ってマクラーレンの連絡を待つか……」

 そう思って再び沿岸に移動したのだが、



――沿岸――



「んげっ! そう言えばボート座礁したままだっけ!」

 一応海に戻そうとしたが、一人の力ではどうにも出来なかった。


「どうするか……いっそじいさんに救援を求め……ん?」

 ふと、地面に影が出来た。

 上を見上げると、一隻の空駆船が飛行していた。

 火を焚いて狼煙でも上げて助けを求めるか?

 と思っていた次の瞬間、外壁が破裂し、中から数人の人が島に向かって落下して来た!


「おっとぉ!? こりゃあ、おっさんの出番かねぇ!!」

 オレは魔方陣を構築した。

 普通、魔方陣構築には詠唱が必要だが、オレはミラージュの力でそれをスルーした。


 攻撃じゃなくていい。

 とにかく風を操る術式を瞬時に構築し、それを魔方陣に反映させる。

 ……出来た!!


「そぉりゃっ!!」

 風をクッションのようにコントロールし、落ちてきた少年少女達を何とか救うことに成功したのだった


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