第77話「面倒臭い事態になってきた」
前回のあらすじ……。
担当:ジルド・クロームド
リナ嬢をなんとか説得したと思ったのもつかの間。
衛兵に銃を突きつけられ、オレは仕方なく両手を上げた。
が、その衛兵は勝手に色々話し始めた。
その衛兵、ヴィクトリア・マクラーレンは王都軍のスパイで、ブラストレイズについて色々探って居るんだとか。
そして、なんとなく嫌な予感はしたんだが、オレに向かって頼みごとをしてきた。
まあ……リナ嬢が空振りで何も得られなかった訳だし、ここは協力するしかないようだぜ……。
――地下牢――
「そんでぇ? その死活問題になりうる話って?」
オレは観念して話を聞くことにした。
「ザイル・サファール。この男の名は知っているな?」
マクラーレンは睨むようにオレを見た。
……おいおい、まさかワルキスと立て続けに第三者からこの男の名を聞くとはねぇ。
思うオレを知らずに、マクラーレンは話し続ける。
「そこのお嬢さんの父親、ダアト・ベルナールを殺害した犯人だ」
「ちょっと待って! なんで王都軍のアンタがその事実を知っているの? 王都軍はアタシを犯人と勘違いしたから拘束したんじゃないの?」
リナがすかさず口を挟んできた。
オレもその答えは気になる。
「その事実は、表向きに発表されてないし、する予定もないからだ。コイツは国際問題だからな。下手を打てばあっという間に戦争が広がる」
「どういう事だ……?」
確かに反政府軍?の重鎮とやらが殺されたなら波紋は大きいだろうが、国際問題にはならんだろう。
「まあ待て、順を追って説明してゆく。殺人犯サファールの目的は単なる殺人じゃない。00ナンバーのうちのコード003、すなわちブラストレイズの確保だ、と俺は思っている。飽くまで予測だ、確証は無い。だが事実、遺体から腕輪は無くなっている。これを公表してみろ。頭のカタイ上の連中は、帝国の侵略行為だと判断してもおかしくは無い」
マクラーレンは壁に寄りかかり、腕を組んで話す。
増援も無い為か辺りは静まり返っていて、マクラーレンの声が反射して聞こえる。
確かに、ブラストレイズは強力な兵器だ。
集めればそれだけ、超人的な能力を操る事が出来る。
その力に眼が眩む人間もいるだろう。
逆に、よく今まで現れなかったと思うくらいだ。
「ちょっと待てよ。ザイルは帝国との繋がりは無い。どうしてそんな判断になる?」
現状ないとは言い切れないが、そんな兆候はオレが知る限りでは全くない。
そもそも、ザイルが帝国人かどうかすらも不明だ。
「実を言うと、00ナンバーの多くは帝国内にある。現在はそれぞれ元所有者の元にあるが、帝国はこれの略奪と調査を進めている。そして、サファールの目的も00ナンバーの略奪。自然とつながりが見えてくるだろ?」
「そりゃ早計過ぎる。それこそ憶測でしょ」
可能性の話をされても困る。
現時点で、そうと断定する証拠は何もないはずだ。
「常に最悪の予想をするのが戦略の基本であるし、それが俺達戦略情報部のやり方だ。……話が逸れたな。つまり、帝国とサファール。この二者は共生か対立、どちらかの関係にある。ここまでが前回の潜入で分かった事だ。そして、今回は騎士団の暗部組織に探りを入れてみる」
暗部組織……?
その言葉を聞いてオレは数年前の出来事を思い出した。
「……そう言えば、一度オレは、騎士団らしき人物に夜襲を掛けられたことがあった……」
「なに?」
あの時から、オレは騎士団が怪しいと思い、何度か調査を試みた。
……が、結果は全て空振りな上、騎士団に目を付けられてしまった。
「所属は確か……『帝国騎士団帝都本隊・精鋭軍第133連隊』だったはず……」
記憶の奥から、部隊名を引っ張り出した。
「ほぉ、ビンゴだ。まさに今回探りを入れたい部隊だな。その時の状況は?」
その話に興味が出たようで、壁から離れてオレに寄って来た。
「オレはザイルの正体を探る為に色々嗅ぎまわってたんだが、優良な情報は無かった。そんな時にボロ切れを纏った男が家に侵入したんだ。男を倒し、懐にあったタグに、その所属が書いてあったんだよ」
「その男は? 逃げたのか?」
「死んださ。自分で舌を噛み千切ってな」
何も拷問や尋問をする気は無かったのだが、余程使命感が強かったのだろうか。
「臭うな、随分と。……そこで俺からの頼みだが、ある賢者と接触を図ってほしい」
「ある賢者?」
「バイアル中海にある小島、サリー島に住む老人アスロック・タリスマン。彼はコード005、“ウィドウ”の所有者だ。彼に会って、この件に関して協力を仰いでほしい。もし断られても、その時はそれでいい。サファールへの警告だけでも促して来てくれ。お前に頼みたい事はそれだけだ」
まったく、そんな情報をどこで仕入れてきたんだか。
だが、少なくともワルキスより胡散臭くは無いな。
「なるほど、同じ賢者同士で接触させようって? 見返りは?」
「騎士団暗部調査の情報提供、でどうだ? 確かに直接関係ある訳じゃないが、サファールに関する手がかりが見つかるかも知れん」
賢者同士の接触は危険を生む。
もしかしたら、オレがラインと接触したことによって、ザイルが現れたのかもしれない……。
が、今更気にしては居られない。
ザイルが次の標的を既に絞っている可能性もあるし、警告だけでもして損は無いだろう。
「ま、仕方ない。騙されたと思ってやってやるよ。他の賢者を当たってみるのも悪くは無い」
ふん、とても憶測ばかりで新しい情報とは言えないが、それだけでもここに来た甲斐があったというもんだ。
余計にめんどくさそうな事態になってる気もするが。
ワルキスの野郎には後できっちり文句を言おう。
「話は終わったみたいね。次、アタシからの質問なんだけど」
大人しく話を聞いていたリナ嬢が、今度は口を開く。
「アンタ、アタシの話、誰から聞いたの?」
リナ嬢はオレを見ながら言う。
「ん? ワルキスって胡散臭い情報屋。それがどうかした?」
「じゃ、その情報屋に案内してくれる? アタシもザイルの情報を集めたいわ」
「集めてどうすんの」
「殺すわ」
怖ッ!!
「駄目駄目! そういうおっかない事はおっさん達に任せなさいって」
「いいから。自分の親の仇ぐらい、自分で討ちたいの。……教えて」
……目が本気だ……。
ここで連絡先を教えれば簡単だが、正直こんな子供に仇討ちはさせたくないよなぁ。
そうだ。
「……バイアル中海の暗礁流域にある座礁した船。そこにその情報屋がいるはず」
これはグラウディーナ号艦隊の座礁流域だ。
オレの予想だと、ワルキスはやはりあの艦隊と繋がりがある筈だ。
……と言っても予想だし、まさかそんなところまで一人で行ったりはしないだろう。
これで諦めてくれるはずだが……。
「そ。じゃ、マクラーレンさん? アタシ出て行ってもいい?」
あれ……?
まさか行く気満々?
「ああ。ここにいたらいずれ命は無いからな。君から見たら捕まえた側の我々が言う言葉ではないが」
ありゃ、随分あっさりしてんのねぇ。
「それじゃあ二人とも着いてこい。この事は情報部の公認だが、北方軍基地の人間にはあまり知られたくない。基地を出るまで離れるなよ」
そう言って、マクラーレンの後を付いていき、オレはサリー島へ、マクラーレンは中央軍基地へ、リナ嬢は暗礁流域へとそれぞれ別行動に移った。




