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永遠の時の中で  作者: スピオトフォズ
第七章 ジルド過去編
73/110

第73話「謎の情報屋と、理不尽な依頼」

前回のあらすじ……。


担当:アーク・シュナイザー。

やっと、8年前の真相が分かるのかと思いきや、まだまだあの日に関しての謎は多い。

ただ、親父の最期が分かっただけでも気分的には楽だ。

なんかこう、モヤモヤが晴れたみたいでな。

しかし、ザイルの使った妙な力はなんだろう。

“悪魔の力”とか言っていたか。

悪魔と言えば、神話とか伝説に記されるような存在だ。

そんなものが存在するのか……むむ、謎だ。

とにかく、ごちゃごちゃ考えるのは話を聞いてからでもいいだろう。

俺はジルドのその後の話を聞くことにする。



――物語開始から数日前――



「ザイル・サファールは生きている、だと!?」

 オレ、ジルド・クロームドは耳を疑った。


「しっ、声がデカイで」

 目の前の、奇妙な方言を話す男はそう言って口をふさぐ。





 そもそも事の発端は、とある町の図書館で調べ物をしていた時だ。


 オレはザイルの、

(本物の“悪魔”相手にゃあ今一つ魔力足りねェがなッ!!)

 という言葉が気になって、“悪魔”に関する知識をここ数年で集めていた。

 


 悪魔とは。

1.残虐非道で、人に災いをもたらし、悪に誘い込む悪霊。また、そのような人間。

2.『ガルディア神話』に伝わる悪神。天使が地獄に堕ちた姿とも言われる。


以上の意味から、ラインが『ガルディア神話』について話を聞いてきた事を思い出し、その神話を徹底的に解明してきた。


だが、所詮は神話。

専門家にも聞いてみたが、そもそもが数千年前の書物由来の話、仮想や空想、捏造でそれ自体が形を変えている為、探れば探るほどその真相は無数に存在した。


例えば、これは大昔本当にあった出来事で、墜落した天使の空中都市は山と化したと。

例えば、天使の都市は海底に沈没し、その強大な技術力で海底王国を築いているとか。

例えば、悪魔は天使を殲滅したが、内乱が発生してそれが魔核大戦へとつながったとか。

例えば、地上の悪魔が現在の我々の事で、これは宇宙人の侵略を警告するものだとか……。


そのほかにも真相の推測は無数に存在し、どれも突拍子がない。

共通点は「天使と悪魔が争った」という事だけだ。


そんなある日、家に夜盗が侵入した。

なぜかオレの付けている“腕輪”を要求してきたが、かろうじて撃退し、気絶させて拘束する事に成功した。


だが、その男の懐に『帝国騎士団帝都本隊・精鋭軍第133連隊所属』と書いてあったのだ。

服装はボロ布で、一見ただの盗賊だが、騎士団暗部の可能性があある……。


そう思ったのだが、翌日、拘束した男は舌を噛み切って自害してしまう。

オレは、騎士団がブラストレイズを狙っている可能性を頭に入れ、女房と相談して家を出ることにした。


女房はデルヴァの友人たちに万が一の護衛を頼み、オレは騎士団に探りを入れることにした。

だが、オレはスパイでもなんでもないド素人。


確かな情報も掴めず、騎士団に無駄に目を付けられただけで終わってしまった。



結局、ザイルが何者なのか、ラインは何を思い出したのか、あの時の夜盗は何だったのか、騎士団は関係しているのか、全てが謎のままだった。

今日この日も、ガルディア神話に関する資料を図書館のイスに座って読んでいたところだが、そんな時、一人の男に声をかけられたのだ。


「よぉおっさん。珍しいもん読んどるやないか」

 黒のシャツの上に、金の装飾が入った赤いコートを着込み、茶色の厚手の布ズボンを穿いている。


 一般的な服装とはかなりかけ離れた目立つ男だ。

 額にドクロマークの黒いバンダナを巻いているせいで、その姿はまるで大昔の海賊のようなものだった。


「……あんた、誰?」

 その奇妙な男に全くの面識は無かった。

 オレがそう質問すると、男は懐から手帳を開き、


「ジルド・クロームド42歳。職業採掘ギルド員、であり、賢者でもある。8年前にザイルと戦闘し、重傷を負うが何者かに搬送され一命を取り留める、と」

「な……にッ?」

 座っている俺を見降ろす形で、そう言った。

 いきなり出てきたこの男は、オレの事を知っている……?

 馬鹿な、オレの正体を知っているのは今や妻のミラルだけのはずだ。


「落ち着け。ワシはただの情報屋や。おっさんと協力がしたいだけや」

 手帳を手に取ったまま、握手を求めてきた。


「協力……だと?」

 それに応じる気はまだない。

 目的も正体も不明過ぎる。


「そっ、協力や。実は、ワシもあの男を追っている」

 握手を諦め、パタンと手帳を閉じて懐にしまう。


「あの男……ねぇ」

「せや。まず一言言っとく。ザイル・サファールはまだ生きとる」



――――



 それで今に至る。

 今は人目を避けるという理由で人気のない裏路地へとやってきた。

 日が当らない場所独特の、じわりと湿った空気が流れる。

 

「協力だなんだって言う前に、まず自分の正体明かすべきなんじゃないの?」

 オレはそう言って情報屋を名乗る男を睨みつける。

 このままでは信用できない、いくらなんでも怪しすぎる。


「そいつは出来ない相談や。ワシは情報屋。他人の正体を暴く事はあっても、そう簡単に己の正体ばらす訳にはいかんねん」

 手を広げ、あっけからんとした口調で言う情報屋。


「おいおい冗談よせって。それじゃおっさんどうやってあんたを信用しろって~の」

 情報屋。仮にそうだとして、ザイルを知っているという事はまともな方法で仕入れた情報じゃないだろう。

 にしてもまったく、ここ数年、騎士団に目を付けられていたお陰ですっかり道化る事に慣れてしまった。

 警戒されないようにするためには案外これが効果的なのだ。



「信用しろなんて一言も言っとらん。飽くまで“協力”するだけや。味方やない」

 ……なるほど、互いに信用は出来なくても、利用する価値ぐらいはあるという訳か。

 まあいい。こちらだってあの事件の真相を暴ければなんだって利用してやろうじゃないか。


「分かった分かった。そんでぇ? ザイルが生きてるってお宅の情報は本当なんだろ~ねぇ?」

 オレは割り切ってこの奇妙な情報屋に質問する。


「もちろんや。目撃情報はセトラエスト王国のノウスフローク周辺っちゅー話や」

 白銀の街ノウスフローク。

 王国の北部に位置する街だ。

 年がら年中雪が降り積もっている。


「ノウスフロークかぁ。確か数年前に大規模な暴動があったって聞いてるけど。っつーか第一、お宅も知ってるだろうけど、おっさんはそのザイルが死んだのをちゃぁんと見てるんだけど?」

 ラインの事は言わない。

 不必要な情報を教える必要は無い。

 ……いや、ザイルの存在や、オレの搬送まで知ってるような奴だ、ラインの事なんて既に知っているかもしれない。

 いずれにせよ、手の内を晒す気は無いが。


「ワシはどんな戦闘だったか、そこまでの情報は知っとらんし、ジブンもそん時の様子を詳しく教える気は無いやろ。今問題にしとるのはそこやない」

 一回言葉を切り、

「……ザイルが、ノウスフロークで賢者を殺害しよった」

 と、より一層真剣な声で言った。


「なッ……賢者をか!? 一体何のために!?」

 まさか、またヴァナルガンドを鑑定させたのか!?

 ……何が“目撃情報があった”だ。それどころではない。


「……そこまでは分からへん。ただ、その殺害された賢者の名はダアト・ベルナール。ジブンは知らんかもしれへんが、王国では有名な反政府組織の重鎮や」

 情報屋は、再び手帳を取り出して読みあげた。


「反政府組織? なんだそりゃ」

 オレはオウム返しに聞き返した。


「おっとその話は、国外には知られんように王国が必死に隠してるさかい、知らんのが当たり前や。ここで詳しく語ることもあらへん。とにかく、それがちょいと厄介な問題でな」

 反政府組織……。確かにそんな事が国外、特にここギル・ラシアトス帝国に知れたらいい弱点だろう。

 水面下で必死に戦争を抑えている今、そんな事が知れるのは致命的だ。


「厄介な事?」

 と、反政府組織の事は頭の隅に追いやって、元の話に戻す。


「ああ。なんでもダアト・ベルナールには娘がおったらしいんやけど、父親を殺されて暴れまくっていたところを王都軍に取り押さえられて、そのまま連行したらしいねん。唯一の目撃者を、な」

 唯一の目撃者、という言葉にアクセントを置き、情報屋は一度言葉を切る。


「おいおいそりゃいくらなんでも雑過ぎるんじゃない? 証拠不十分で釈放が関の山じゃ――なるほど、反政府組織の家族を抑えるにはいい機会って訳ね」

 王都政府としては、国家に仇名す逆賊の重鎮が死んだ上に、その娘をとらえれば、他の反政府組織に対してはいい人質になりうる筈だ。


「せや。そこでジブンに頼みたい事があるんやけど、娘、リナ・ベルナールを救出してきて欲しいねん」

「……はぁ?」

 オレは思わず顔をしかめた。

 賢者の娘を救い出すという事は、つまり王都軍の施設に潜入しろ、ということか。

 おいおい無茶苦茶過ぎるぜ全く。


「んでその娘に犯人の、ザイルの事を聞いてきて欲しいちゅーワケや。あの娘はなんかしら情報を握っとる筈や。その情報は、ワシにとってもジブンにとっても死活問題になりうるで。どや? 悪い話やないやろ?」

 そこまで言って、再び情報屋は握手を求めて来た。

 

「その不確かな情報を求めて国を渡る上に王都軍に捕まった娘を救出してお尋ね物になれって? ……アッハッハッハァー!」

 オレは堪え切れず、両手を腰に当てて大笑いした。


「どど、どないしたん!?」

「……この八年間、な~んの手がかりもなく模索して来たんだ。どんな小さな可能性でも逃すもんか。いいぜ? その無茶苦茶理不尽な依頼、おっさんが引き受けてやるよ!」

 オレは勢いよく情報屋の手を握り、握手をする。

「……さよか。感謝するで。ワルキスや」

 ワルキス……、それがこの情報屋の名前か。


「改めて、ジルドだ。……その代わり、成功させたら知ってる事全部話せ。目的は同じなんだ。お前の言う“協力”って事でな」

 ニッ、と笑って見せる。

 この際、信用できるか出来ないかなんて二の次だ。

 仮に敵の罠だろうがなんだろうが飛び込んでやる。

 それで少しでも得るものがあれば、な。


「ええで。ほな、何かあったらこのテレスで呼び出せや。周波数は301.5や」

 そう言って情報屋……ワルキスはテレスを投げる。

 小型端末型で、ポケットに簡単に入る長方形の通信機だ。


「おーけぃ。……ところでお宅、もしかしてシャルル族の末裔かなんか?」

 オレはさっきから気になっていた事を聞いた。


「ッ……、どこで知ったん?」

 その言葉に反応し、ワルキスの顔が一瞬こわばる。


「いや、頭のバンダナのドクロ、グラウディーナ号艦隊の紋章にそっくりだったもんで。グラウディーナ艦隊と言えば、帝国建国初期のシャルル族の主力だし、連中は自分の艦隊に誇りを持っていたし、もしかしたらと思ってねぇ。当たり?」

 ガルディア神話の真相を探すうちに知った、大昔の豆知識のようなものだ。

 どうやら不必要な知識まで付けてしまったらしい。


「いや……ただのファンやて」

 そう言うと、ワルキスはくるりと向きを変え、そのまま歩き出した。

 どうやらもう用は無いらしい。


「そいつはスマンねぇ、変な事聞いて。それじゃ、また連絡するぜ」

 そう言って、オレもその場を立ち去った。

 目指すは、王国行きの船を出している港町ハックル。

 そして、その先はセトラエスト王国のノウスフロークだ。

 

 っと、その前にデルヴァへ帰って女房に一言言わなければいけないな。




「(まさかそこまで気取られつるとはな……やっぱ、うかつに外に出るモンやないな。……まあええ。これで、駒を失わずに済む……)」



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