第67話「出会いは衝撃と共に」
前回のあらすじ……
担当:アーク・シュナイザー
ルネのカレーに翻弄されつつ、俺はおっさんについて聞きだす事に成功した。
なんと、おっさんは俺の父親、ライン・シュナイザーの知り合いだったらしい!
そしておっさんは……ジルドは、8年前のあの時、俺の親父を救ってやれなかったと言った。
一体どういう事なのか。
8年前のあの日、何が起こったのか!?
ジルドは重い口を開こうとしていた……――
――物語開始から13年前・NC2096年・鉱山都市デルヴァ・郊外道路――
仕事帰りで、適度な疲労感と空腹感に悩まされながら、オレは自宅へと歩みを進めていた。
オレの名は、ジルド・クロームド。
現在28歳。
職業、炭鉱採掘員……同時に、“賢者”という謎のジョブも標準装備だ。
まったく、ソイツは死んだ父親から自然と受け継いだものだが、制約が多くて面倒だ。
オレが譲り受けた古代兵器『ブラストレイズ』はミラージュという名前。
装備すると、色々な魔法が突然頭の中に閃いていた。
ただしその魔法は強力過ぎて、普通の魔物に使うとオーバーキルだ。
あまり強い魔法ばかり使っていると騎士団に目を付けられるという問題もある。
立派な古代兵器の違法所持なので、目立つ行動は控えたい。
しかしいざというときは結構役に立つので、オレは肌身離さず持っていた。
そんなどうでもいい事を考えながら、帰路に着く。
今日は領域外の炭鉱担当だったので、領域に辿り着くまでは魔物の用心が必要だ。
家に帰るまでが遠足とはよく言うが、仕事帰りなのに気が抜けないのは少し辛いな。
と考えながら歩いていると、
「ん……?」
ふと、前の方で騒ぎが起きている。
胸騒ぎがして、脚を早める。
「――くッ!! だぁぁぁッ!!」
男の声!
駆けつけると、魔物と一人の男が戦っていた!
相手は――嘘だろ!?
魔獣級のワンランク上の、魔戦級ランツァーグラヴ!?
尾の無いサソリを禍々しくした感じの、巨大な魔物だ。
全長は軽く2mはある。
そういえばこの辺は、魔獣級デルグラヴの棲家だ。
親玉って訳かよ……!
これは見過ごす訳にはいかないな!
「おいそこのお前!! 加勢してやるから下がってなッ!!」
「――ッ!?」
男の武器は二本のダガーだった。
見ていると、それなりに洗礼されたいい動きだったが、傍目には劣勢に見えた。
そりゃそうだ、魔戦級にダガーで立ち向かうなんて馬鹿げてる。本来なら騎士の一個小隊は欲しい所だ。
――いや、実際は久々に“試し撃ち”してみたかったというのが本音だな。
「……出でよ! 万物を司る源よ!!」
オレはブラストレイズ“ミラージュ”を発動。
どうせ、素人目にはわからんだろ。
「怒り狂いし神の力を具現化した嵐! 我が手中より開放を許可する! その怒涛の暴風によって邪の者を消し去れ――破滅の大嵐!!」
オレは風属性の最高魔法を唱えた。
対象の周囲に展開した緑色の魔方陣。
そこから極太の直径を持った竜巻が全方位から魔物めがけて縦向きに放たれた。
ランツァーグラヴは成すすべも無くその大嵐に巻き込まれ、無数といえる風圧の刃に刻まれてゆく。
魔法の発動後、そこには最早生前なんだったのかすら判別不明な“物体”が残った。
「……ふぅ、やっぱすげぇな。易々と使う物じゃない……」
物体を見て苦笑いをしながら一言。
自分でやっておきながら若干引いてしまった。
しかし……手に余る物だ、本当に。
「これは……お前、一体……」
ダガーで戦っていた男は唖然としていた。
「ただの通りすがりだよ。それじゃ、俺はこれで」
オレは手をひらひらと振りながら、そそくさとその場を離れた。
しかし、今のを騎士に見られていたらマズいな。
前にやらかしたときは職務質問されて冷や汗掻いた。
ここは逃げの一手だ。
「ま、待て! その腕輪……ブラストレイズ……か?」
その言葉でオレの足は止まった。
今、こいつ何て言った?
オレは動揺して思わず振り返った。
「お前、なんでその事を……」
「いやぁ、俺も実は賢者らしいんだが……。ん? っていうかやべぇ、この話しちゃいけなかったんだっけか?」
言いながら、男は右手首を見せる。
そこにあるのは、紛れもないブラストレイズの一つだった。
「……別に構わないさ。古いしきたりだろうし。オレはジルド・クロームド。お前は?」
まさかここで賢者と会うとは……。
っていうかオレ以外にもちゃんと存在してたんだな、賢者。
「俺は……ライン・シュナイザーだ。改めて、さっきはどうもな。マジ助かったぜ」
オレは改めて男を良く見る。
黒の短髪、髪は跳ね気味でツンツンしてる、顎鬚が少々。
服装は一般的過ぎて最早特徴が無いレベル。
年はちょい上で……30代前半だろうな。
にしては若干子供っぽい気もするが。
武器にしてたダガーは年季が入っていて結構古い。
「にしてもいやぁ、さっきの魔法凄かったな! ありゃなんつーブラストレイズだ?」
まるで少年のような笑顔で聞いてきた。
随分馴れ馴れしいな……まあ気にしないからいいんだけど。
「あれは“ミラージュ”。全属性の強力な魔法が使えるようになるのさ。まあ強すぎて汎用性が殆ど無いけどな」
オレには身に余る代物だ。
「そういえば、シュナイザーのブラストレイズは? さっき結構苦戦してたようだったが」
オレはシュナイザーに聞いてみた。
「ラインでいいよ。俺のは“ラプター”っつって、身体能力を上げる能力。地味だよなぁ~!」
そう言ってラインは盛大に溜息を吐いた。
「折角貰ったのに使わないのは勿体無いから、ちょうど強い魔物この辺にいるってんで暇つぶしに戦ってたんだがな」
「そうだったのか。もしかして邪魔だったか?」
にしても、幾らブラストレイズを持っているとは言え、暇つぶしで魔戦級にケンカを売るとは……。
「いや別に。正直なんか面倒臭くなってきたし」
……おい。
なんか、凄く適当な奴だな……。
「そう言えば、家はどこだ? この辺りなのか?」
オレはご近所さんの可能性を考慮し、出身を聞いた。
「いや……住所は分からん」
「え? 分からないって……」
予想外の答えに面喰らってしまった。
「いや~、実はつい半年前くらいに、記憶を無くしたみたいでな。常識とか自分の名前ぐらいは辛うじて覚えていたんだが……」
目の前のラインという男は、なんと記憶喪失だった。
「そうだったのか……夜とか寝る場所なんかはどうしてるんだ?」
「色々だな。基本的にいろんな街をブラブラしてるから、野宿もするし、部屋も借りるし」
へぇ……なんかたくましいな。
そう思ってもう一度見てみると、体格はがっしりしてるし、生傷も目立つ。
なるほど、それなりの修羅場は潜り抜けてきたみたいだ。
確かに街間移動となると、魔物との戦闘は耐えないだろうし、何より気まぐれで魔戦級に喧嘩を売るほどだ。
加えて、ダガーの二刀流という変わった戦い方をしていた。
構えは右手が順手、左手が逆手という見たことの無いものだったが、我流か?
「にしても、この街はそこらじゅう穴だらけだな。さすがは鉱山都市って所か」
ラインは、暗くなっても活気を失わない町並みを見て言った。
「ああ。よくもこんな一箇所に集中したかと思うぜ。街中だけでも少なくとも20はあるからな」
穴だらけ、と言うのは鉱物を掘るために地下へと掘り進んだ穴の事だ。
それが街中に平然と存在している。
しかも研究者達が鉱物のある地脈を調査している為、日に日に穴は増えていく。
そこに鉱物が見付かるなら、建物があろうと道路の真ん中だろうとまずは掘る。
住人も大抵が採掘ギルド員だし、そもそもそうなる事に備え、家は簡易なものが殆どだ。
家族を別な街に住ませ、ほぼ単身赴任に近い形で来ている人も多い。
「そうだ。オレ今仕事終わってちょうど帰るところなんだが、良かったら一晩だけでもどうだ?」
なんとなく誘ってみる。
悪い奴には見えなかったし、この男に興味もあったからだった。
「マジ? じゃあ悪いけど……いいかな?」
「おお。じゃあ行こうぜ」
そんな感じで、オレは家にラインという男を上げる事にした。