第63話「おっさんの正体」
前回のあらすじ……。
担当:アーク・シュナイザー
なんとか地上でリードと合流し、輸送駆動車で村へ向かった。
村へ着き、騎士団が事情を説明するが、安易な説明で返って村人が混乱してしまった!
しかも村に千体以上の魔物が押し寄せて来た!
それがさらなるパニックを生み、避難は思う様に進まなかった。
ヤバくね?
そんな中俺は屯所に1人捕まってるルネを思い出し、救出へ向かった。
――――
「ルネッ! いるか!?」
俺は柱に両手を結びつけられているルネを発見した!
「アーク!! なんか外がすっごい騒がしいんだけどなんかあったの?」
さすがのルネも緊迫した空気を悟ったのか焦った表情をしている。
俺は近づき縄をほどく。
「ああ! とんでもない事が起こってる!」
「やっぱり! なに?」
「凶暴化した1000体以上の凶暴化した魔物が村に迫ってる! 領域も効かないかもしれないんだ!」
それを聞いたルネはさすがに唖然とした表情を浮かべて一時停止したあと、
「えええぇぇぇーーー!! それってマジヤバじゃん!!」
と多少オーバーなリアクションをした。
「ああマジヤバなんだよ! とにかく出られて良かったな!」
くそッ、あせって上手く解けん!
「それ皮肉ぅ? 全っ然嬉しくないんだけど!!」
「それでも喜んどけよ! お前もう少しで首飛ぶトコだったんだぞ?」
結局真犯人は突き出せなかったが最早それどころじゃねぇ!
「えぇぇ!? それマジ!?」
「ああマジだマジ」
「じゃあよかったかも!」
そんな会話をしながら俺はようやく縄を解き、ルネを解放した。
「あ~! やっと腕が自由だわ~!! でも解放されたら真っ先にお風呂入ろうと思ってたのにな~!」
「確かに……ちょっと臭いな」
「とうっ!」
「いってぇ!」
「最っ低! デリカシーゼロね!!」
「悪かった! 冗談だ! 冗談!!」
この非常時にこんな会話してる俺らって……。
そんな感じで俺達はリードのいる輸送駆動車が待機してる村の入り口に戻った。
村は相変わらず避難が完了していなくて、混雑状態だった。
「状況どうなっている!」
偉そうな騎士が避難の指揮を執りながら聞いている。
この人偉そうだけど……かなり焦っているというか、なんとなく頼りない感じがするんだが……。
「ウェルナー大尉、現在モンデンベルグ駐留軍が向かっていますが……到着は15分後です!」
「そ、そんな悠長な事がやっていられるか! くそ……だいたい貴様らは遺跡に殲滅に行ったのではなかったか! 何故こうも厄介事を運んでくる!! これだから帝都の無能どもは……」
ウェルナー大尉、呼ばれた人が愚痴りながら頭を抱えている……。
「ドーイング駐留軍の軍長、リコ・ウェルナー大尉だよ。騎士高官学校を卒業した典型的なエリートさ」
隣には、リードとエルが居た。
ジャミル達は、既に避難を終えたらしい。
「にしてもホント凄い事になってるのね……間に合うの?」
聞いたルネも、返って来る答えはなんとなく予想が付いていただろう。
その質問にエルが残念そうに答える。
「北部の避難は何とか終わりそう。ただ村全体は……無理だよ。村人が混乱してるし、騎士達だって、恐くないはずが無いもの」
その表情にはかなりの疲れが出ていた。
「エル、行くよ。一人でも多く連れて来なくちゃ」
と、リードは疲れきった顔を引き締める。
「お前ら……無理すんなよ」
一言言っておく。
遺跡でもきっと無茶したんだろうな……顔から分かるぜ、お前ら……。
「うん。ありがとね」
エルはそう言って、二人はまた村へ行った。
「――人民の保護……? そんな事は知るか! 今すぐ村人を放棄して後退するぞ! ぐずぐずしてたら私の手駒も減る! 魔物などその後で対処すればいい! どうせこの近くには人里は無い、この大群を村一つ犠牲で潰せれば……安いものさ! ふはは、そうさ! どうせ守り切れるはずが無い! 被害を最小限に食い止めるのだよ!」
ウェルナーとかいう奴の怒鳴り声が聞こえてきた。
こいつ……村人を何だと思ってんだ!!
俺が思わず頭に来てコイツを殴り飛ばそうとしたその時だった。
俺達の目の前に、一席の空駆船が空中で停止した。
「な……なんだ!?」
この形は……騎士団の船じゃないぞ……!
『よぉ騎士団の皆様~、俺は疾風の翼団長、ハリス・ローレンスだ! 事情は察した! 援護砲撃させてもらうぜ! なぁに、盗む村が無くなったら、俺らも飢えるんでね! 殲滅は出来ねぇが、足止め程度には役に立つぜ!!』
周囲に大音量で放送を流していた。
ハリス……やるじゃねぇか!!
「報告!! 魔物の進行速度、時速30kmに減速!」
一般の騎士が、ウェルナーに報告する。
「おのれ……盗賊団の分際で……我等に貸しを作る気か!!」
ウェルナーは頭に血を上らせ、拳をプルプルと震えさせていた。
駄目だコイツ……。
『大尉ッ、北部エリアの村人、退避完了しました! 後は誘導中の騎士だけです!』
テレスから声が聞こえる。
さっきのハーミット中尉のだ!
この人のほうが数倍頼れる気がするけど……。
魔物は北から迫っている。
最前線の避難は完了したみたいだけど……まだ全部じゃない!
「まだ北部しか終わっていないのか!! なんたる仕事の出来だ……! だいたいモンデンベルグのグズ共はまだ着かないのか!?」
「それに関して、悪い報告です。モンデンベルグ駐留軍、第223大隊は現在、別動の魔物群に捕捉され、足止めを喰らっております」
また別の騎士が報告している。
くそ……タイミング悪いな……。
こんな時に俺は……。
「あああぁぁぁ! もうじっとしてらんねぇ!」
突然叫んだ俺を見てルネは驚く。
「ちょ、なんなのさアーク!」
「ルネ! 俺避難手伝ってくる! 俺が行っても意味無いかもしれんが、この状況下でじっとしてるのはなんか嫌だ!」
「なんか嫌だって何その曖昧な理由! でも、あたしも同じ事考えてた! 行こ!」
なんだお前もかよ……。
まあいいや! とにかくなんか手伝おう!!
俺達は村へ再び入って行く。
「は、離せ、離すんじゃ! この村は我が一族の聖地! ワシはここで生まれここで死ぬんじゃああ!!」
「何気が狂った事を言ってるんだじいさん! いいから早く逃げろ!」
騎士とじいさんがもみ合っていた。
これだから避難が進まないのか!
俺が助けようとしたとき、俺はある人物の顔を目撃した。
「え!? おっさん!?」
おっさんは俺に気付く事無く、ひたすら避難する人ごみを逆流していた。
「ルネ! ちょっとそこのじいさん頼む!」
ったくあのおっさん……一体何やってんだよ!
「え!? アーク!?」
俺はおっさんを追いかけた。
「おいそこのおっさん! ボケたのか!? そっちは魔物が迫ってる方だぞ!!」
俺はおっさんに呼びかける。
「アークか!? いいから、おっさんの事はほっとけって!」
おっさんは一瞬驚いたような顔をしたが、構わず走っていた。
なんだ!? まさかこれを気にちゃらんぽらんな人生に終止符を打つつもりなのか!?
そんな感じで追って来たら、結局村の最北部まで来てしまった。
「おいおっさんどうしたんだよ! マジで死ぬ気か!?」
そして俺もマジで死ぬ!!
でもいくらおっさんとは言えほっとけねぇよ。
「ったく、誰に似たのかしょうもない少年だこと。にしてもまあ、疾風の翼が出張ってくれんのはありがたいが、その程度の砲撃じゃぁねぇ~」
なんだ……何しに来たんだおっさんは……。
「ま、ここまで着たら仕方が無い。とりあえず危ないから下がってな!」
その瞬間、おっさんの雰囲気が……変った!?
「――出でよ、万物を司る源よ」
右手を水平に振った。
その軌跡に沿って空中から出現したのは――カード?
空中に浮かぶ数十枚のカードのうち、一枚を手に取り、
「灼熱の世界に君臨せし、絶対の力を持つ炎帝よ。許されざる者に地獄の火炎を与え、煉獄へ招き全てを無へ導け。爆熱の焔!!」
とおっさんは詠唱した。
見たこともない複雑で錬度の高い赤色の魔法陣がおっさんの足元に現れ、次の瞬間、赤い閃光が前方に走った!
――それは地平線に並ぶ魔物をなぎ払う様に発射され、次の瞬間、地平線全てが炎に包まれた。
「――――ッ!?」
俺は声も出なかった。
その光景を遠くで見ていた全ての人間も声が出なかった。
ありえない。
頭に浮かんできた文字はこれだけだった。
地平線が燃えている……。
……一撃……?
たった1撃で、あの魔物全てを……凶暴化した1000体以上の迫りくる魔物を……撃破した……?
恐らくあれじゃ、生き残ってはいないだろ……。
その光景をおっさんはしばし見つめ、やがて炎に背を向け俺を見た。
「これが、おっさんの力」
そう言うと手に乗せたトランプの束は、消えて見えなくなった。
「おっさん……あんたいったい……」
何者なんだ……?
「まあ見られちゃったし、今更隠すこともないな……、オレの名は……ジルド・クロームド。あんたの親父さんと同じ――おっと」
おっさん――ジルドが言い掛けた時、声が聞こえた。
「い……今のはっ、今のは何なんだ!?」
そう言って真っ先に駆けつけてきたのは避難の指揮を執っていたハーミット中尉達。
次に部下の騎士達、リードとエル。
ジャミル、ルネ、リナ、他数人の村人。
最後に駐留軍本部要員とウェルナー大尉達。
「何だ今の魔法は!! これほど強力な……貴様何者だ!!」
ウェルナー大尉が裏返った声で怒鳴る。
気が動転してんじゃねーか。
「ん~、ただのおっさんって事で、ほれ、ガキ共行くよ~」
と言っておっさん……ジルドは歩き始めた。
ガキ共って俺達の事だよな?
「待ちたまえ! 私はドーイング駐留軍のウェルナー大尉だ! そこの茶髪の女を渡せ!ブエノース大佐殺害の罪で公開処刑だ! それに貴様! レイズを見せて貰おう……我が帝国政府は一個人にあのような強力なレイズの所持を許可した覚えは無い! 政府に問い合わせば違法所持である事は明白だ!!」
そう大尉が叫ぶとと周囲にいた騎士数人がルネとおっさんを取り押さえた。
うわぁめんどくせぇ事になったよまた!
「ちょっと! 離してよ! あたしはやってないって言ってるでしょうが!!」
「え~、おっさんも捕まっちゃうの? めんどくせぇなぁ~」
「ウェルナー大尉! お待ちください! 彼女の言う事だけは本当です!」
ロウさんが割り込んだ!
さすがロウさん! 頼りになるぜ!
でもおっさんのフォローは無理だったか残念!
「ん……君は騎士団見習い部隊のロウ軍曹か。軍曹風情が上官の決定事項に口出しするとは感心せんな。目障りだ」
そう言うと、大尉はロウさんを躊躇なく殴り飛ばした!
「おい! 騎士団のお偉いさんは気に入らないことがあったら殴ってもいいのかよ!!」
俺は頭に血が上り、思わずそう言っていた。
「違うね。これは教育さ。上官は部下を育てるのも仕事の内なんでね。勝手な事ばかり言う部下が増えたら困るだろう?」
く……なんだコイツ、頭おかしいんじゃねぇのか?
こんなに苛つく奴は久々だ!
「オイ」
俺の前にジャミルが立った。
「なんだ君は?」
「なンなら俺が喧嘩のやり方教えてやるぜェ!!」
「ぐっはぁッ!!」
躊躇なく殴った!!
ウェルナー大尉は倒れた。
「もうめんどいわね。要はルネを取り返せばいいんでしょ? ……おっさんもついでに」
そう言ってリナは突撃し、ルネを取り押さえてる騎士を攻撃!
ああもう! 揃いも揃って俺達馬鹿だな!
「そういう事だ! お前らルネを離しやがれ!! ……おっさんもついでに!」
俺もリナに加勢して、ルネを解放した。
……おっさんもついでに。
「どうもね~。でもおっさんは飽くまでついでなのな」
「あ……ありがと……でもこれって大変な事になるんじゃ……」
ルネは解放されながらも戸惑っている。
「ま、こうなっちゃったもんはしょうがないでしょ。とっとと逃げようぜ~~」
そう言っておっさんと俺とリナ、ルネ、ジャミルはこの場からとんずらした。
「きっ、貴様らぁぁぁ~!! 覚えておけ!! 必ずや騎士団の手で重罪人として裁いてやる!!」
ウェルナー大尉がそう言った時には、俺達は既に豆のように小さくなっていたという。