第61話「装置発動」
前回のあらすじ……
担当:アーク・シュナイザー。
なんとか奇跡的にザイルを退けた俺達。
だが俺の意識は、ザイルのブラストレイズ『バンガード』の攻撃を吸収し、剣を振った直後にまた妙な空間に飛んだ。
今度は前回の更に上を行く謎さだった。
でも、あの自分の存在がどんどん薄くなってゆく感覚は純粋に恐かったな。
『貴様の存在は、希薄である』か……。
あの感覚とこの言葉、言いえて妙だな。
それは兎も角、今回もなんとか生還した。
だがリナは軽傷、俺とジャミルは重傷だった。
しかも、帰り際、ザイルはまた豹変し、『村へ戻れ!』と言ってきた。
なんでも魔物が迫ってるらしいが……信じていいのか?
――バスキルト遺跡・最深部――
僕達、帝国騎士団・帝都即応部隊・第16混成団は遺跡の最深部へ侵入した。
最深部の広い部屋に、次々と銀色の騎士が侵入する。
『左翼、クリア!』
『右翼、敵影無し!』
「前方、オールグリーン! ……妙ですね、何も居ません」
左翼の第三小隊長ベンリル、右翼の第四小隊長ジャクソン、そして前方の第二小隊長ジーニアスがそれぞれ報告する。
『ふむ……了解。周囲を警戒しつつ、探索せよ』
『『了解!!』』
混成団長、ジン大尉の声がテレスから流れ、皆が威勢よく返事をする。
僕達第六小隊は今、前方の第二小隊……ジーニアス隊長と共に行動していた。
「なんにもないですねー」
エルが呟く。
「ここがハズレだとすれば……魔物の大群は一体何処から溢れ出してるのやら……」
ロウ隊長も唸る。
遺跡の最深部というのは、魔物が集まりやすい。
例によって理由は不明だが、それは騎士団本部研究室からの確かな情報だ。
だから、帝都即応部隊司令部、及びドーイング駐留軍本部から言い渡された命令は『最深部の魔物群の掃討及び遺跡内部の掃討』だった。
最深部に魔物の影が無い今、この作戦はどうなるんだろう……。
「ん……おい、ありゃなんだ?」
ジーニアス隊長が何かを発見した。
近寄ってみる。
「古代文明……しかも、生きている!?」
僕は不可解な装置を見て驚いた。
それは、床から天井に伸びる、巨大な機械だった。
細部が青白く光り、小さいスイッチや露出したコードが無数に張り巡らされていた。
ちょうど壁際にあって、殆ど壁と一体化していた。
『第二小隊よりジン大尉。古代文明の装置を発見! 生きています!』
ジーニアス隊長がすぐにテレスで知らせる。
『了解! 急行する!』
このバスキルト遺跡は、ドーイング駐留軍が既に調査済みで、生きている装置なんて無い。
それが存在していたと言う事は、単なる確認ミスか、あるいは……――。
「ッ、ロウ隊長! 装置が……!!」
エルが叫ぶ。
装置が、低く唸り出したのだ。
作動した!?
そう思った瞬間、
《―――――――――――》
装置から形容不可能な音が鳴り響いた!
「うぅぅぅッ、これは……!」
「頭が……割れる……ッ!」
「うああぁぁ……耳が……」
「くッ、離れろッ、総員退避ッ……!!」
ロウ隊長、僕とエル、ジーニアス隊長の順で言う。
鳴り出した音は、耳と頭がおかしくなりそうな音だった。
だがその音は、気付けばいつの間にか止まっていた。
「はぁ……はぁ……全員、無事か……」
ジーニアス隊長が息を整えながらに聞く。
部下を含め、全員無事だったようだ。
「くそ……いったい何なんだこれは……侵入者迎撃用の装置――」
ロウ隊長が言いかけたその時だった。
『大尉ッ! こちら第三小隊! 左翼にて接敵ッ! ゼークルトが……巨大化しています!!』
巨大化!?
『了解! 今援護に――ッ、しまった、こっちにも出て来やがったッ!!』
ジン大尉の第一小隊も接敵した!?
そう思った瞬間――前方の壁が破裂した。
「「「ッ!?」」」
全員が身構える。
そこから出てきたのは……体長2mを越す、巨大なゼークルトだった。
いや、それだけじゃない……、筋肉は増大し、爪は鋭さを増し、目は充血し、血で真っ赤になっていた。
「凶暴化……」
エルがぼそっと呟く。
まさか……まさか、さっきの装置のせいで?
あれこそが、近年見られる凶暴化の原因なのか!?
そうしている間にも、破られた壁から大量のゼークルトとバルードが現れる。
「ちっ、バルードまで凶暴化してやがる!? ジーニアス!」
ロウ隊長は剣を身構えながら言う。
『第二、第六小隊も接敵ッ! 奴ら尋常じゃない凶暴化だ!!』
ジーニアス隊長はテレスで知らせる。
そうしている間に、ロウ隊長にバルードが襲い掛かった!
「見え見えなんだよ、イヌッコロッ!!」
素早い動きで、バルードを斬り捨てる……だが。
「隊長! まだ生きてます!」
「何ぃ!?」
バルードは、胴体に直撃を食らったにもかかわらず、未だ生きていた。
目が血走っている。
「だったら……喰らえッ、雷覇斬ッ!!」
雷の魔素を纏った剣撃で、今度こそバルードは息絶えた。
「なんて生命力だ! ……まだ来るぞ! ゼークルトに気をつけろ!!」
ロウ隊長が叫ぶ!
数十体のバルードと、ゼークルトが迫る!
「くそぉッ! 閃光斬!」
飛び掛るバルードを迎撃!
駄目だッ、皮膚がいつもより硬い!
しかも動きも素早くなってる!
「聖なる力よ――きゃあッ!」
エル!!
背後から飛び掛るバルードに集られている!!
「エルッ!! くそッ、どけぇぇッ!!」
全力でエルの元へ駆ける!
「死ねぇッ、紅蓮斬ッ!!」
激しく燃え上がる炎で敵を蹴散らす!
エル! 無事で居てくれ!!
「う……リード、ありがとう、私は無事……」
右肩と右脇腹をかじられている。
傷は浅い、命に別状はなさそうだ。
「ちぃぃッ、数が多い! 俺達だけで対処すんのは無理だ――アーサー! 後ろだ!!」
ジーニアス隊長が叫ぶ。
アーサーという人は、背後から来たゼークルトに鎧ごと腹部を一突きされた。
「うが……か……は……」
死亡した。
僕の、目の前で、鮮血を撒き散らして死んだ。
そして、そのゼークルトは僕に目を向ける。
「この……よくもぉぉッ!!」
僕は怒りに身を任せ、剣を握り立ち向かった。
後ろには負傷したエルがいる……ここは引けない!!
だが、豪速で振られた爪で、僕は弾かれてしまった。
「うわぁッ! くっ……」
剣が無い。
弾かれたようだ。
「くそォ、リード、伏せてろッ! 死ね化け物ッ!!」
ジーニアス隊長の声!
と同時に、ジーニアス隊長の手にある体外装備兵器、サンダーボウから放たれた電撃の矢がいくつも突き刺さる。
ゼークルトは痙攣しているが、まだ倒れない!
「2人とも逃げろ! ジャック! 全力でぶっ放せ!!」
僕はエルの手を無理やり引き、遠ざける。
ジャックが詠唱を開始する。
「地獄の業火よ! 灼熱の炎にて辺りを灰にしろ――ヘルブレイズ!!」
あたり一面を炎が舞う。
地獄の業火……まさにその通りだ。
「エル、リード……無事か」
「「ロウ隊長!?」」
右肩が派手に裂かれていた。
肉が見えそうだ。
「ああこれか、気にするな。ちょっと、ドジ踏んじまった……」
だが、良く見ると、先ほど隊長がいたところには、無数のバルードとゼークルトの死体が……。
隊長、あの量を一人で……?
「くっそォ、あの魔法でも殲滅できてねぇ、ひとまず後退して――」
ジーニアス隊長が言いかけた時――背後の天井が崩落した。
「「「「ッ!!」」」」
そこから、またしてもバルードとゼークルトが出てきた。
「またかッ! このクソッタレ共は無限かよォ!!」
ジーニアス隊長が悪態をつく。
「ジーニアス! もはや殲滅は不可能だ! 他の隊と合流して迎え撃とう!」
「ああ同感だ! お前ら、下がるぞ!」
ロウ隊長とジーニアス隊長が話していた時、テレスが繋がった。
『こちら第五小隊! 第一小隊は全滅、ジン大尉も死亡した!』
大尉が死んだ!?
「第二小隊より各小隊! 生き残りは!?」
『第三小隊より第二小隊。第四、第七は壊滅! こっちも後3人しかいない!!』
第三小隊は確か……14人編成だったはず……。
『第五小隊のハーミット中尉だ! 最先任中尉として混成団の指揮権を次ぐ! 異論は無いな!?』
「ないから早くしろッ! このままじゃ全滅だ!」
『各小隊、入り口に集合! 合流して迎撃しつつ、遺跡より撤退する!』
懸命な判断だった。
少なくとも、僕達第六小隊と第二小隊は満身創痍だった。
そんな時、別のテレスが鳴った。
まさかアーク!?
「もしもし! アーク、無事か!?」
《その様子だとそっちもエライ事になってるらしいな!》
「まったくだ! 地下に変な装置があって――」
《その話は後で聞く! まず聞いてくれ! この遺跡から、村に向かって魔物が押し寄せるらしいんだ!!》
「なんだって!? いったいなぜ――」
《詳しい理由は後で言う! とにかく急いで村の人たちを避難させないとヤバいんだ! ロウさんにも伝えててくれ!》
「待って! 村には領域が広がってるだろ! 魔物なんて――」
《この狂ったように凶暴化した魔物に、領域なんて効果あるって保障できるのか!?》
「それは……」
《とにかく村をなんとかしないと!》
「ああ分かったよ! 君はどうする!?」
《絶対歩いてたんじゃ村に間に合わねー! 騎士団の輸送駆動車借りたいから急いで上がってこい!》
「分かった! 途中で死ぬんじゃないよ!?」
《お前もな!! んじゃ後で!》
僕はテレスを切った。
「ロウ隊長! なんだか大変な事が起こりそうです! 実は……」
僕はアークからの伝言をロウ隊長に話した。