第6話「一難去ってまた一難」
前回のあらすじ……
担当:アーク・シュナイザー
昔の夢を見て、珍しくうなされる俺。
そしてなんのつもりか8年もほったらかしにした自宅(廃屋)へ訪問。
そしたら思わぬお客さんが……?
俺ピンチ!!
――旧シュナイザー家――
「――動けば……殺す」
短く発せられたドスの効いた言葉と、喉元のナイフ。
大声を出そうにも、言葉を放った瞬間に喉元のナイフが動き出すだろう。
その上、今は夜中の4時であり誰も起きてない上に、ここは村の外れだから聞こえるはずもない。
さて……とりあえずどうしよう。
冷静になって考えてみると、俺を人質に取ったイコールすぐには殺されないんじゃね?
なら選択肢はある。
とりあえず振りほどくか?
……いや、寝起きで武器なんぞ持ってねーし失敗したら死ぬのでやめよう。
大声を出す……のもさっき言ったとおりに誰も起きてないし起きててもたぶん俺が手遅れになるので無理。
残る選択肢は……。
「分かった。オーケー、動かないから命だけは勘弁してくれ」
とりあえず、俺は現状で最も生存確率の高い選択肢を選ぶことにした。
すると男はしばらく黙る。
あれ? 地雷踏んだか?
そう思うと、はぁ、とため息を吐き、
「……やっぱやめだ。ガラじゃねぇわこんなの」
と言ってスッと喉元のナイフを引き、その場に捨てる。
ゴトっとナイフは床に落ち、俺は解放された。
あ……れ?
どういう事?
「クックック、動くな、だってよ? ……オレらしくねぇ。黙って挽肉にすればいいのにな!」
おいィィィィィィィィ!!!!
ガラじゃないってそっちかァァァーーーい!!
ここで俺は咄嗟にバックステップで距離を取った後振り返る。
先ほどまでビビって動けなかったのに瞬時にこの行動が出来たことには我ながら感心したが今はそれどころじゃねぇ。
とりあえず物騒な男の全貌を初めて確認する訳だが、暗くて良く見えなかった。
ただ、髪は金髪で年はだいたい20~30くらいだと言う事は分かたが何の解決にもならん。
そんな説明してる間もなく男は両手に刃が3つ出たクローを装備していて、俺に突っ込んできた。
「ちょ、待てうおおおおおおおぉぉぉぉッ!?」
俺は生命の危機を感じ全力ダッシュ!
脚力に全ての力を捧げる。
壊れたドアを蹴破り、腐った柱を踏み倒すが、
「クック、遅ぇ! 遅ぇよッ!」
相手速えええぇぇぇッ!
相手はもう俺の隣に来ていた!
右手から突き出した3本の鋭利な刃が俺の喉元を捉え、一直線に向かう!
「うわっ!」
その瞬間俺は瓦礫に足を取られ、転んでしまったがお陰で奇跡的に刃をかわす事に成功した。
だが、もう無理だ。
「ちッ! ラッキーな野郎だ」
俺は馬鹿みたいに足が速い訳じゃないし、無尽蔵な体力を保有している訳でもない。
普通に息が切れるし、緊張の連続で足に力が入らなくなっていた。
「さぁて今度はどんなラッキーを見せてくれんのかなァ?」
また刃が迫る!
やばッ! 死ぬ――
「――っと」
……と思ったら、キィン! という金属がぶつかる甲高い音がして、目の前の刃は別の刃に防がれていた。
「え…………?」
た……すかったのか?
俺は転んで尻もち付いたまま動けなかった。
別に腰が抜けた訳じゃないんだがな。
金髪で物騒な男は1回後退した。
助けてくれた人は、
「なんだいなんだい。こんな廃屋で物音があったと思ったら、面白そうな事やってんじゃねーか。俺も混ぜてくれよ」
と陽気な口調でそう言った。
くそ、暗い上に背を向けているためどんな奴なのか全くわからん。
少なくとも声からして男だと思う。
「……あァ? 何だオマエ?」
物騒な金髪はドスの気いた声で睨み返していた。
表情は見えないから声で判断してるけど。
「おいおい睨むなよ。俺は“疾風の翼”の一味。不自然な所に家が残っていたもんで、なんかあるモンかと思ったが、やれやれ何も無さそうだ。お前さんも帰った方がいいぜ? 時間の無駄だ」
助けてくれた人は相変わらず陽気で飄々とした口調だ。
多分微笑を浮かべているに違いない。
「ちッ……、オマエごとブッ殺してもいいが、あんま事を大きくするのも良くねぇ。退かせて貰うぜ」
と言って、金髪は、闇に消えて行った。
それと同時に、肩の力が抜けた。
「ふう……あの、助けてくれて――っていねぇ!!」
俺を助けた男の姿も消えていた。
なんで!!
「……なんだってんだよ……訳わからん」
……待てよ?
「疾風の翼……どっかで聞いた気が――あっ!!」
そうだ!
前にリードが言ってた!
最近急に勢力を増してきたっていう盗賊団の名前だ!!
なんでも貴族を中心に狙う盗賊らしい。
……でも、そいつがなんでここに?
分からん。
なにかお宝でも見つかったんだろうか?
こんな放置状態の廃屋に?
んな馬鹿な。
まあ……なにはともあれ助かったみたいだ……。
俺は人生の中でも結構レアな体験したんじゃないか?
とか阿保な事を考えつつ外へ出る為に起き上がる。
「ん?」
ふと、親父の部屋の机の上にあるものに目が止まった。
「腕輪?」
それは、金属でできた腕輪だった。
特に変わった宝石が埋め込まれている訳でもなく、特に変わった形をしている訳でもないごくごく普通の腕輪。
いや、それを普通と言うに少し抵抗があった。
だって、このボロボロの家の中で、新品同様の輝きを誇っていたからだ。
さっきの奴らが落としていったのか……?
いやでも、その割には机の上に置いてあったし……。
常識で考えれば、そんな意味の分からない物を拾ったりはしないだろう。
俺は特に腕輪マニアでもないし、その辺に落ちている物を簡単にホイホイ拾ったりする男でもない。
でも、何故だか、気が付くと吸い寄せられるようにその腕輪を身に着けていた。
そしてその腕輪は妙にしっくりくるもんだから外そうとも思わない。
「……なにしてんだろ」
と1人呟き、俺は家を出た。
――――
村に戻ると、まだ早朝だと言うのに何か騒がしかった。
「ん? なんだ? こんな時間に……」
すると前方から小さい人影が……。
「あっ! ああぁぁぁ!! アークにーちゃん!! どこ行ってたのさ!!」
……走ってきたかと思ったら物凄い勢いで取っ組みかかってきた。
「うわうわうわ! なんだよクソガキ、なんかあったのか!?」
俺は必死の形相のダイチを見て言った。
「ええぇぇぇぇぇぇーー!? アーク兄ちゃん知らないの!?」
ダイチは俺から離れ両手を広げ大袈裟にリアクションする。
「知らないから聞いてんだっ! 再度質問するがなんかあったのか?」
俺はそんなダイチの顔をがしっと掴み、しゃがんで顔の高さを合わせて言う。
「さっきね、盗賊団が来て、エルねーちゃんさらわれちゃったんだ!」
「マジかっ!!」
一難去ってまた一難。
厄介な事件が起こってしまった。
シリア……ス?
のはずですがアーク少し緊張を解いたため若干地の文が乱れてきた……。
でも彼はふざけているつもりはまったくありません、本当です。
そしてさらわれたエル。
次回からは救出劇です!