第45話「帰郷」
前回のあらすじ……。
担当:リード・フェンネス。
さて、今回は僕が担当か。
僕達はワルキスさんの魔法(?)で無事帝都に辿り着いた――と思ったらそこはモルゼスの森だった。
多分ワルキスさんの配慮なんだと思いたい。
道中、エルが突然アークのダガーについて尋ねてきた。
僕は今まで知らなかったが……あのダガーにはそんな秘密があったのか。
確かに、初めて見たときはたかが10歳の子供が(その時は自分も子供だったけど)持つにはあまりにも高価そうだと思ったんだ。
……決して嫉妬してたわけじゃない。
と、とにかく、あれは予想通り普通のダガーじゃなかった。
そこで僕は、アークの“本能”という言葉が気になった。
あのダガーとアークが、最初から出会うべくして出会ったのだとしたら?
単なるプレゼントではなかったとしたら?
謎の魔法で殺されて迷宮入りとなった親父さんの事も気になる。
そして最近のアークの不審な行動……。
アーク。
もしかして君は、何か大きな問題に巻き込まれているんじゃないだろうね……?
嫌な予感は、簡単に消えそうにも無かった。
……おじさんに台無しにされたけど。
――――
ばくばくばくばく――
「なぁリード……」
ばくばくばくばく――
「なんだいアーク……」
ばくばくばくばく――
「俺達、“城下町まで送る”っていう話だったよな?」
ばくばくばくばく――
「よそうアーク。君の言いたいことは分かる……」
ばくばくばくばく――
「でもさぁ……なんで宿屋まで連れてってこういう事になってんだよ!?」
うん。
とりあえず何が起こったのかありのまま話そう。
この中で一番力のあるリードがおっさんを背負うことになって、町に帰還。
おっさんを下ろして家に帰ろうとしたら例によってエルが抗議。
せっかくなので宿屋まで連れて行ったら、なぜか一緒に飯を食うことになってしまったのだ!
俺達も腹は減っていたし久々にまともな物が食えるから良かったと言えばよかったのだが……。
にしてもおっさんの食いっぷりが凄すぎて凄い。
うん、まともな文法になってないのは分かる。
「ふひ~! ひっさびさに喰ったわ~」
おっさんは腹を叩き、ムカツクくらい満足そうな顔でそう言った。
「食ったのはいいけどおっさん、金あんのかよ?」
そう!
これが一番気になっていた!
この皿の数……おっさん1人で料金にして恐らく1万Jくらいはいった、間違いなく。
「んん? ハッハッハァ! チミ達ぃ……おっさんを誰だと思ってるんだい? 1万Jなんてぇ、安いモンさぁ~!」
「いやていうかあんた誰だよ!?」
突っ込まずにはいられない!
そういや名前も聞いてなかったし。
「ん? まあまあおっさんの事はどうでもいいじゃない」
自分で話題を振っておきながらなんという無責任。
「それより、あなたはどうしてあそこで倒れていたんですか?」
リードがおっさんに聞いた。
「あ? あぁ~、実はねぇ。無人島から脱出したのは良いけど、高波にさらわれちゃってね、近くの岸に流れ着いたんで帝都に向かおうとしてたって訳よ」
「それでおじさんはあの森で行き倒れたんですね。大変でしたね」
エルは心配そうにおっさんに言った。
「そうなのよぉ~! おじさん大変だったのよ~! もう長旅でやつれて、身も心もズタズタだわ」
そう笑顔で言ってるあたりは突っ込んだ方がいいのだろうか?
「そこにいるのは……おや! アークにリードにエルじゃないの!!」
この声は……。
「お、ミンおばさん! 久しぶり!!」
声を掛けてきたのは、小太りで家庭的な雰囲気のおばさん、ミン・クライトン。
宿屋ギルドの店主だ。
宿屋というのは雑貨屋や食堂も兼ねているので、必然的に鉢合わせる。
「町に盗賊が来て以来じゃないのさ! あれから全く足取りが掴めないもんだから、みんな心配していたんだよ! 無事でよかったわ~」
おばさんは心から嬉しそうに喋った。
そりゃなんの連絡もなかったわけだし、みんな心配しただろうな。
「ごめんなさーい、色々巻き込まれちゃって帰れなかったんですよー」
エルは申し訳なさそうに苦笑いする。
「アーク、彼が食べ終わったら、父上と母上と町のみんなに挨拶しに行こうか」
リードが言った。
あれから3日くらい経ったからなぁ……。
みんな心配している事だろう。
それより……村に帰ってからなんか違和感がある。
なんだろ、気になるが結局不明なので思考を止める。
「よし、それがいいな。って……おっさんは?」
あれ?
おっさんがいたところが空席になってる……?
「おや、そこにいた人ならさっき急用があるって出て行ったよ? お金はあんた達に渡してあるって……」
ミンおばさんが言った。
「エル……なにか聞いているかい?」
リードが冷や汗をかきながら言った。
「ええと……なんにもー」
その瞬間、俺の中の何かがプッツンいった。
「あんにゃろォォォォォ!! やっぱアレ俺達に払わせる気かよォォォォォ!!」
やっぱあのクソ野郎だけは許せねェェェ!!
――――
結局会計の1万2千Jはおばさんのおごりということにしてもらった。
てっきり、代金として皿洗いを要求すると思ったが意外すぎる。
そんな感じで、俺達は今は自宅……フェンネス家に帰るところだ。
「あ、アーク、何処に行くんだい?」
家に帰ろうとした俺をリードが引き止める。
「は? 家に顔出すって言い出したのお前だろ。まあ言われなくても帰るけどさ」
何を言ってるんだこいつは。
「はぁ……アーク、ついにボケたかい? 家はあっちだろう」
「いやお前こそ何言って――」
そこで俺は、足を止める。
確かに俺は、自分の家に帰ろうとしていた。
だが家のあるはずの場所は……広場になっていた。
「なっ…………え?」
そして、リードの指差した方向を見る。
そこに…………俺の家はちゃんとあった。
家が移転した?
……いや、違った。
そこで俺は、先程の違和感の正体に気付いた。
――村全体の構造が……俺の記憶と一致しないのだ。
「おい……、俺の家って、前からあそこにあったか?」
俺は恐る恐るエルに尋ねた。
答えはおそらく……。
「えー? なに言ってるのアーク。ちゃんと前からそこにあったよー」
笑顔で告げるエル。
いやちょっと待て。
なんだこの現象?
今まで、リードのメガネのデザインとかそういう些細な事だったが、これはなんか違くね?
あれ? でも……良く見たらこんな感じだった気がしないでもない……。
俺か? 俺の記憶が間違ってるのか……?
くそっ、ホント意味分からん。
無人島で見つけた空駆船で考え事して以来……色々ありすぎて折角忘れてたのに、またいつもの違和感を思い出してきた。
「お? おい! あれアークじゃねぇか!?」
「ホントだ! おーいみんな! アーク達が帰ってきたぞ!」
鍛冶屋のおっちゃんが発見したのを皮切りに、町のいろんなところから人が出て来た。
「ちょ、みんな! 大げさだなぁ」
一気に膨れ上がる喧騒で、俺の思考は絶たれた。
まあいいや、考えたってどうせ分からん。
「ったくこのクソガキは~! 心配掛けやがってコンチクショー!」
と言って日焼けした腕で俺の頭をくしゃくしゃにかき乱す。
この人は鍛冶屋の主人ロータス・ジュドウさん。
まあみんなおっちゃんって呼んでるけど。
「おっちゃん力強い強い! ハゲたらどうすんだ!」
俺は結構全力でおっちゃんの手から逃げる。
この人は鍛冶屋だけあって腕力がありえないぐらい強い。
なんせ鍛冶屋の大型金槌で魔物を撃退した伝説を持つ男だからな。
「エルねーちゃん! どこ行ってたんだよぉ! 心配したんだよ!?」
と言ってエルに飛び込んできたのはクソガキのダイチ。
それを皮切りに大量のエキストラ……じゃない、村のクソガキ共がエルに集る。
「わっ、わっ、わっ! みんなー、心配しすぎだよー! 後で絵本読んであげるから、勘弁してー!!」
エルは叫ぶクソガキ共をなだめるようと必死だ。
「おい止めろクソガキ共、エルが圧死するぞ」
ちょっと見ていられなかったので止めに入る。
「あ~! アークにーちゃん、何で生きてたの~!?」
ダイチが言う。
「こらてめぇ、何で俺の生存に疑問を持ってんだ! さりげなく死んだ事にしてんじゃねぇ!」
こいつは俺の事をなめているようだ。
一度教育をしなおす必要がある。
「ダイチくんが、アークにーちゃんは弱いからすぐ死ぬって言ってた」
クソガキの1人が言う。
「ダイチお前後で殺す。俺の命の侮辱罪で殺す」
「ええぇぇ~! 侮辱罪で死刑は横暴だよ~!!」
ちなみにこの辺の物騒な言葉は俺が教えた。
たまに教えてしまったことを後悔するが。
「はっはっは、相変わらずお前ガキ共とは仲いいな、アークよぉ」
そう言ってきたのは村の同世代の1人、ロベール・ウェルマン。
もう20歳で、今は確か造船ギルドで働いている。
「おぉロベール、久しぶり。って……お前また筋肉付いたんじゃねぇか?」
年上だが元から仲が良かったのでタメ口だ。
「すごーい、ロベールってばドンドンおっきくなっていくねー」
背も伸び続けていた。
コイツの成長はとどまるところを知らない。
「よせよ。背でかくなったって弓術は上手くなんねぇんだからよ」
年の割には渋い声でテレながら言う。
こいつは仕事の他に趣味で弓術も学んでいるのだ。
その技術は折り紙つきで、魔物の弱点も正確に狙えるとか。
レイズを持たせたら、きっとさぞ強いに違いない。
「あれ? そういやリードは何処行った?」
俺は奴の姿が見えないことに気づく。
「リードの奴、さっき向こうでミーアさんと話してたぜ? お前も行ったほうがいいんじゃねぇの? アーク」
ゲ、一番挨拶しなきゃいけない人じゃんそういや。
「じゃー、私もお父さん家にいるかどうか見に行ってくるねー!」
そう言ってエルは走って家のほうに行った。
エルの親父はファルト・ミルードという人。
ラシアトス城で研究職に就いているので多忙なのだ。
「母上! 何も言えずいなくなったりして済みませんでした!」
急ぎリードの元へ急ぐと、大声でリードの謝罪の声が聞こえてきた。
「いえいえ、私はみんなが無事ならそれでいいのだけれど……あ、アーク、お帰りなさい」
そう言って和みのあるおっとりとした声で挨拶をする。
「ただいま。心配掛けて悪かったよ、マジで」
この人はなまじ真面目というか、優しいから、結構本気で罪悪感を感じる。
「……突然居なくなって心配したわよ、3人とも。まあ私は、先ほども言ったように皆が無事なら何も言わないのだけれど……」
その言葉の先に続くものはなんとなく予想が出来た。
「お父さん、とても怒っていたわよ」
やっぱりぃぃーー!!
リードの父親はロード・フェンネスという人。
厳格な人で、怒ると……とっても怖いのだ。
「リード……ご愁傷さま」
俺は両手を合わせて合掌する。
「何を言っている? 君もだよ」
「ですよね~」
居座って8年、俺も今じゃすっかりロードさんの息子だよ。
そんなこんなで、俺達は村へ溶け込み、平和な日常に戻りつつあった。
だが、俺はそうは行かない。
ドーイングへ行ってリナと会わなきゃいけないし、親父の仇も取らなきゃなんねぇ。
ついでにザイルから情報を聞き出し、世界滅亡? を阻止しなきゃいけない、まあそれはあくまでどうでもいいんだけどさ。
……ついでに言うと、巣食ってる違和感のせいでなんか気分が落ち着かない。
まあどうせ明日の夜中には出発しなきゃいけないし、今日はみんなと雑談したり休憩したり準備したりして時間を過ごすか……。