第44話「おっさん再び!」
前回のあらすじ……。
担当:アーク・シュナイザー
エイリアスの攻撃で、絶体絶命な俺達だったが同時にエイリアスにもガタが来たようで、盛大に吐血してしまう。
敵なのに大丈夫か!? と心配してしまうほどに。
どうやら『思考詠唱』とやらは体に負担が掛かるらしい。
というわけでエイリアスは撤退し、俺達はなんとか生き残ったというわけだ。
危ない危ない。
ダガーについてはハリスも何も知らなかったようで依然として謎だが、王国のシュロンという街の図書館に言ってみろと言われた。
行くのはしばらく後になりそうだなー、と思いつつ記憶の隅にとどめておく。
んで、ワルキスに会った。
ザイルはどうやらライドンの砦、というところに居るらしいがフラフラしてるらしく、賢者の居る街『酪農の村・ドーイング』を紹介された。
だがリードの眼を誤魔化す為俺は一度帝都へ戻る。
ジャミルはブルーム村へ。
ルネはエンレイという街へそれぞれバラバラになった。
さて、とりあえず帝都で一服してからドーイングへ向かうか~。
――――
「ってオイ! ここモルゼス森のはずれじゃねーか!!」
俺が眩しい光から解放された時、目の前に広がっていたのは森だった。
「あれー? ホントだおかしいね。失敗しちゃったのかなー?」
エルは不思議そうにあたりをテクテクと歩き回る。
「町に突然現れたらみんなが驚くだろう? きっとそうならない為にワルキスさんが配慮したんだよ。……多分ね」
あいつがそんな気の利くような奴とは思えないが……。
「にしても酷い目にあったなぁ。疾風の翼の船に乗り込んで、無人島に取り残され、幽霊船に乗り、ようやく戻ってこれた訳か」
俺は今までの事を振りかえった。
今までで1番ヤバかったのはザイルと会った時かな。
……実際天国らしい所まで行って転生してきたからな……。
あ、でもアークラインという奴は俺の夢が創造した物だから天国じゃないか。
そう考えていたら、エルが不意に声を掛けてきた。
「ねー、アーク」
「ん?」
「そのダガーって……なんなの?」
むおっ、珍しく顔が真剣だ。
「? アークのダガーがどうかしたのかい?」
そっか……そういやリードは知らないんだっけ。
このダガーを使ったのは5回。
最初はドラゴンウルフの火球。
このときはエルに見られていたが超苦戦したり火事になったり忙しくてなにも聞かれなかった。
二回目はザイルの魔法『裁きの雷』。
ルネに見られたが俺が死にそうになったりして結局何も聞かれず。
三回目はリナの魔法『フレイムブラスト』。
驚かれたが見間違いかなんかとでも思ったのかなんだかんだ聞かれず。
四回目、足つき目玉の電撃。
誰にも見られず。
五回目、エイリアスの魔陣壁。
皆瀕死の為ハリスにしか見られず、聞かれたが答えられることは当然無い。
……と、よく考えてみればエル、ルネ、リナに目撃されたが何も聞かれなかった。
しかしこうして見ると、まだ火属性と雷属性しか斬って無いんだな。
そう言えば、エイリアスの魔陣壁を斬ったときには魔素は刀身に付かなかったな。
魔陣壁は例外なのかな。
「……俺にも正直謎だが、このダガーは魔法を斬ってその魔素を刀身に纏わせることが出来るらしいんだ」
とりあえず、分かる範囲で説明する。
「たとえばエルは分かると思うが、ドラゴンウルフの火球を“斬った”時には、火球は消滅して、変わりに右ダガーの刀身が赤く光った。んでそれでドラゴンウルフを斬ると、刀身から炎が巻き上がったんだ」
あれは俺もビビった。
でもこのダガーが無かったら、あの時は直撃してただろう。
ドラゴンウルフも倒せず、人生終わっていたかもしれない。
そう考えるとダガー様々だが謎な事には変わりがない。
「……それ、信じろっていうのかい?」
リードは呆れ顔で言っていた。
「いやその気持ちは俺も分かるが、エルも見ただろ?」
残念だったなリード君。
こちらには証人が居るのだよ。
「うん! あれすごかったよねー! でも、そんなに凄い武器がレイズじゃないのは不思議かも」
うーんと悩むエルを見て、リードは言った。
「……分かった。疑ってもしょうがないし、とりあえず信じることにするよ。それでアーク、君は何故それほど上手く扱えたんだい? 攻撃が飛んできたら普通防御するはずだ。たとえダガーしかなくてもね」
さすがリード、鋭い。
「う~んなんだろうな~。咄嗟の行動というか、本能というか、勘?」
実際勘で動いてたからな~あれは。
自分でもよく分かったと思うわ。
「本能……ね。……そのダガーって、確か親父さんから貰ったんだよね」
真剣に考えるしぐさをしながら聞いてきた。
「ああ、10歳の誕生日プレゼントだったかな。でも当時から使い込まれてて、少なくとも新品じゃなかったのは覚えてる」
あの時はまさかこんなトンデモ設定が隠れているとは夢にも思わなかったが。
そんな事を考えていたら、リードが突然駆け出した。
「どうしたリード!」
俺とエルはあわてて追いかける。
「誰かが倒れてる!」
「大変! 助けないとね!」
俺達は倒れてる人に駆け寄った。
その人はうつ伏せに倒れていた。
「大丈夫ですか!」
リードはトントンと肩をたたき、意識があるか確認する。
「……は」
「…………は?」
「腹減った」
ムクッと上げたその顔は……!
「無人島ん時のおっさんじゃねぇぇかぁぁぁぁーーー!!!」
そう! 忘れもしないあのクソホームレスだぁぁ!!
あんにゃろう生きてやがったか!!
「是非ともおっさんは大量の食事を所望する!! ニコッ☆」
「いきなり食い物所望してんじゃねぇぇよ!! ニコッ☆ じゃねぇーんだよ! 可愛くねぇーんだよっ!!」
「ちぇ。死にかけの行き倒れ相手に随分失礼だわ。おっさん腹へってもう駄目かも……」
そういうとおっさんはまた顔をバタッと地面につけた。
「えーっと……どうするの?」
エルは倒れたおっさんを見てオロオロしている。
「死にかけには見えないんだけど……まあ、みなかった事にしようか」
リードはあっさり見捨てる事を選んだ。
だが賛成だ!
「よし、エル行くぞ。ていうか逃げるぞ」
俺はエルを呼んだ。
「えー? でもおじさん、困ってるみたいだよ? 城下町もすぐだし、せめてそこまで連れて行ってあげようよ?」
……エルは助ける道を選んだらしい。
「いやいや、俺らこのおっさんのせいで酷い目に遭ったんだぜ?」
助けてやる義理は無いな。
「そうだよ。それに、大して困ってる様子もないしね……」
リードは横目でおっさんを見る。
「ギク」
その声を俺は聞き逃さなかった!
「おいっ! 今このおっさんギクって言った! ギクって言っ――」
「困ってるって言ってるんだから困ってるってことでいいじゃない! 見捨てること無いと思うけどなー」
あれ?
俺はスルー!?
「別にそこまでこだわる必要はないと思うんだけど……」
「ていうかこれ明らかに演技――」
「別にこだわってる訳じゃないんだけどねー。じゃあリードは、ここでおじさんが行き倒れて白骨化して発見されたら責任取れるの!?」
また無視された!!
俺なんか怒るようなことしたっけ!?
「……はぁ。分かったよ。仕方ないから町までは運んで行こう。その先は知らないけどね」
何か腑に落ちない事はあるが、なんやかんやでおっさんを町まで持ってく事になった。
「じゃあ、行こう! 頑張ってね、おじさーん」
エルは首を持っておっさんをズリズリと引きずって運んだ!
「イタタタタ! ちょ、お嬢ちゃん!? なにしてんの!? おっさん首抜けちゃうって! イタタタタ!!」
うん。
天然は兵器だ!