第43話「さらば友よ、また会う日まで」
前回のあらすじ……。
担当:ハリス・ローレンス。
やれやれ、今回は俺があらすじ担当か。
前に世話になった少年、アーク達が来たと思ったら、「エイリアスが来るから逃げろ」と言われた。
気遣ってくれるのは嬉しいが、エイリアスを逃す訳には行かない。
そんな話をしていたら、『ノイバラディス』……目玉の二足歩行の魔物が16体も襲ってきた。
まったく、面倒事を増やさないで欲しいもんだ。
ガイスに指示を出して、ノイバラディスの撃退に行こうかと思ったんだが、そこでエイリアスが襲ってきた。
なんつータイミングだ。
しかもあちらさん、『思考詠唱』まで手に入れやがって、一体どんな方法使ったんだか。
とにかく、負けるわけには行かない……が、さすがにこりゃ劣勢だぜ。
ブリザードレインを使われ、負けを一瞬覚悟したが、アークの持つダガーで窮地を免れた。
あのダガーは一体……、
と思っていたら、余力を残した敵に反撃を許してしまう。
――――
「ぐ……おいおい、冗談だろ?」
俺達はエイリアスの放った全方位攻撃で瀕死状態だった。
「さて、そろそろ……」
エイリアスがレイピアを構えた瞬間、
「ぐはッ!」
エイリアスは突然吐血した。
「ふ……やはり、思考詠唱は負担が掛かるようだ……無茶をしすぎたな。ここは、退かせて貰おう」
お?
そう言ってエイリアスはどこかに去っていった。
「待て!」
とハリスが言うころにはすでに姿は無かった。
「はぁ……逃げられちまったか……」
ハリスは傷口を抑えながら悔しそうに言った。
「そんな状態じゃ勝てないだろ」
「まあ、な……。それよりお前さん、そのダガー、一体なんなんだ?」
ハリスは真剣な、鋭い目線で聞いてきた。
「……俺が聞きたいくらいだよ。これはもともと親父のだし」
俺はダガーを見つめて言った。
ったく、あの親父はとんでもない物を二つも残して死にやがった。
「その親父さんは?」
「死んだよ。だから聞き様が無いし、どういうつもりで持っていたのかもサッパリ謎」
そもそも“こういうもの”だと知っていて持っていたのかすら不明だしな。
「そうか……もし、暇があったらセトラエスト王国のシュロンって街に寄ってみな」
ハリスは突然言ってきた。
「シュロン?」
聞きなれない街だな。
まあ外国だし、しょうがないか。
「知識の街シュロン。そこにある世界一の貯蔵を誇る王立図書館なら、なんか知る事が出来るかもしれな
いぞ。まあこのご時勢だ。王国に渡るのは難しいかも知れないがな」
知識の街ねぇ。
本を読むのはあまり得意じゃないので圧倒されそうだな。
「まあ覚えておくよ。暇があったらな」
今はあくまでザイルを追うのを優先するつもりだけどな。
「さて……」
そう言ってハリスは懐からテレスを取り出して
「アイリ、聞こえるか~? とりあえず手当してほしいから、リディを連れてきてくれ~」
と言った。
ちなみに、向こうの声はこっちに聞こえない。
――――
それから俺達は、疾風の翼の治癒術師リディに再び手当を受け、ハリス達と分かれた。
ハリス達は次の目的地に移動する為、ここから離れるらしい。
何とか目的は達成した訳だが……。
「ここにその、ワルキスって人がいるのかい?」
リードが言った。
「ああ、ワルキスー、はいるぞー」
俺は扉を開けた。
「うけけけけけけけけけけけけけけけけけっ!」
「またかよっ!!」
「わぁぁっ!?」
「きゃあぁぁっ!?」
「ギャアァァァァーーーーー!!」
「あ……アッハハハハハハハハハハハ!!」
「うざ」
一応、俺、リード、エル、ジャミル、ルネ、リナの順のリアクションである。
「お! またまたいいリアクションしてくれるやないか~! にしても約1名爆笑してる奴がいつのはなんでなん?」
なぜか俺に聞いてきた。
「知るかっ! あいつはホラーが大好きなんだってよ!」
でも……笑うのは違うだろ……。
「だあって……骸骨がしゃべるとか……アハハハハハ!!」
だめだこいつ……。
ルネは目に涙を浮かべて笑った。
「へぇ、アークの言ってた事は本当だったのか……にしても、ああ……不思議だなぁ……」
リードはワルキスを見て目を輝かせていた。
「お前なんていうか……変な趣味だよな」
「何を言ってるんだい! この技術が解明されれば、近い将来人類皆骸骨になることも可能かもしれないんだよ!!」
「そんな未来はいらねぇーー!! アホな事力説してんじゃねーよ!!」
「人類皆骸骨……ええかもなぁ」
「お前は夢見るなっ!」
(いいから、早く本題に入って)
うぇ? なんでリナの声が聞こえてくるんだ……?
(ウチを経由して嬢ちゃんの声も聞こえるようにしといたんや。じゃ、さっそく本題いくで~)
なるほど。
にしてもこのワルキス、緊張感のかけらもないな。
(聞こえとるで。まあええけどな~)
(で、ザイルはどこにいるの)
(西大陸のバスキルト砦っちゅー遺跡にいるみたいやで)
よし、じゃあすぐにそこに向かわないとな。
(待て待て、ザイルっちゅーモンはその辺うろうろしてるさかい、下手に向かったらすれ違うわ)
(そ。ならザイルの次の標的の家はどこだかわかる?)
そうか! それなら『賢者』にザイルの事を伝えられるしいいな!
(そーなると……ドーイングっちゅー町になるな。そこにいる『アレン・ブエノース』言うのが賢者の1人のはずやわ)
なるほど……サンキューな。
にしてもお前、なんでも知ってるのな。
「さ、約束や。あんたらを西でも東でも好きなところに連れてったるで~」
ワルキスが現実でしゃべりだした。
酪農の村ドーイング。
文字通り牛とかの飼育で栄えてる村だな。
帝都から出てもそう遠くは無いはず。
ここはリード達に怪しまれる訳にもいかないし、帝都に戻っておくか。
「僕とアークとエルは、帝都までお願いしてもよろしいですか?」
「おう、OKや」
「俺ァ隣のブルーム村で」
「あたしはね~、とりあえずエンレイって町で!」
「アタシはドーイング」
リナは直接行く気か……。
(どうすんの? 合流する? 別にアタシは1人でも構わないけど)
リナの心の声か!
もちろんするだろ。俺はちょっと時間かかりそうだけど。
(そ。じゃあ宿屋で待ってるわ。さっさと来なさいよ)
分かった分かった。
「そっかー、なんだかんだで、ジャミルとルネとリナとはこれでお別れなのねー」
エルが残念そうに言った。
……そういやそうだな。
リナはともかく、ジャミルやルネとはもう会うこともないだろうな。
そう考えるとなんだかさびしいもんだ。
「まァ生きてりゃどっかで会うこともあンだろ」
「そうそう! 帝都くらいだったらたまに遊びに行くかもしれないしね!」
「まあお前はなんかフラフラしてそうだしな」
「フラフラって何よ!? あたしは世界を股に掛けるトレジャーハンターなんだから!」
「はいはい、じゃ、ワルキス頼む」
「無視すんな~!!」
そんなこんなで、ワルキスはみんなを一か所に集めた。
「そいじゃ、いくで」
とワルキスが言うと、足元に巨大な魔方陣が現れた。
おお! すげー!
「せーのっ!」
ワルキスの声と同時に、俺の目の前は真っ白になった――
――――
「くッ……はぁ、はぁ、はぁ……」
エイリアスは、壁に手を当てながら進んでいた。
ハリスから貰った一撃は、まさに致命傷だった。
実際、ハリスの前では痩せ我慢していた事が大きい。
(何故だ……)
足元がおぼつかない。
腹から大量に噴出した血でめまいがする。
(何故、私はここまでして、盗賊を憎む……)
突如、脚の力が抜け落ち、その場に倒れる。
「ざまぁねーな」
聞き覚えのある一声。
この前“力”を与えた、金髪の男、ザイルの声だ。
「貴様は……この前の……」
「ま、過ぎた力は身に毒ってコトだ。オレも人の事は言えねぇがな」
と言い、右腕を上げて自身の“ブラストレイズ”を見る。
「コイツもよぉ……同士が多重干渉しやがって負担がハンパじゃねぇんだよ。お陰であんなガキに遅れをとるし……」
「何故……私に、力を与えた……?」
絶え絶えの声でエイリアスは尋ねる。
ザイルの話は聞いていなかったようだ。
「教える義理はねぇよ。……にしてもワルキメデスのジジイも馬鹿な野郎だ。何が『エイリアスを殺せる男』だ。魔陣壁を壊すくらいにしか役に立ってねぇじゃねぇか」
これも完全な独り言だった。
実際、口で言っていながらもアークの実力をザイル自身も評価はしていた。
ただし、それはあくまで向こうに『ラプター』があった事・『裁きの雷』で魔素を消費していた事・ブラストレイズの多重干渉があった事が大きい事も。
一方でアークの使用するダガーにも興味はあったが、それにはかかわるなと上から指示が出されていた。
「ま、なんにせよオマエにゃまだ死なれちゃ困る。この紙に書いてある部屋へ行け。そこにいい医者が居る」
それだけ言うと、ザイルは紙だけ置いてその場を去って言った。
「……なんなのだ……。私は一体、何に利用されている……ッ!!」
その問いに答えは返って来なかった。