第42話「狂気のエイリアス」
前回のあらすじ……
担当:リナ・ベルナール
アタシ、リナ。
またアタシが担当みたいね。
なんでこんなものやらなくちゃいけないのかしら。
アタシ達はワルキスに言われた通り疾風の翼を撃退しに行った。
そしたらなんかいろんな人が出てきて訳わかんないわ。
さっさとぶっ飛ばせば終わるんじゃないの?
――――
「――ようするに、だ。お前さんは俺達がエイリアスに負ける。だからここは逃げろ。そう言いたい訳だな?」
あれからなんとか落ち着き、俺、リード、リナがハリスと、その辺にあるテーブルで話し合っていた。
エイリアスが脱出したことは当然ながら既に知っていたが、ここに居る事は驚いていた。
気になるのはエイリアス脱出を実行した金髪の男。
金髪といえばザイルの野郎が思い浮かぶが……さすがにそれだけで判断するのは早計だろう。
重要なのは、一見一匹狼に見えたエイリアスにも協力者がいたって事だ、とハリスは言っていた。
「いやいやそんな否定的に取らなくても……ただ無意味な争いをするべきじゃないだろ」
やっぱ、そう簡単には行かないみたいだな……。
エイリアスと鉢合わせする前に何とかここからコイツらを退かせたいけど……。
「無意味かどうかは、お前さん達が決める事ではないと思うがね」
「う……」
確かに、その通りだ。
どうしたものかねえ……。
「聞いた話だとそいつメチャクチャ強いんでしょ? どうせ今までだって敵わなかったんだから、とっとと逃げちゃった方がいいんじゃない?」
馬鹿野郎! リナ! お前はなんでこうストレートに物を言うかな!?
「随分と言ってくれるねぇこの女の子は。ま、事実だけど、な」
おいおい……認めるのかよ……。
「だが」
ハリスはテーブルを離れ立ち上がり、両脇にある剣に手を添えた。
「仲間がやられてんだ……団長として、黙ってられるかよ。俺の子分共をやった罰は、俺が下す。それが俺の、決意――」
「――団長ッ!! 大変でさぁ!!」
ハリスがカッコいい事言ってる途中で、モヒカンの大男が走ってきた。
確か、ガイスって名前だったっけ。
「どうした!?」
その慌てようで緊急事態であることを察したのか、すぐに反応するハリス。
「西倉庫で“ノイバラディス”が16体も出現しやした! 西倉庫の班が応戦していやすが劣勢でさぁ!」
ノイバラディス? って何だ?
「分かった! 俺もすぐ――ッ! ガイス、後ろだッ!!」
ガイスの後ろからは既に“ノイバラディス”とやらが迫っていた。
……って、アレあの足つき目玉じゃん!!
電撃発射してくる危ねぇぇぇ!!
俺達とハリスは左右に分かれて回避するが、後ろを向いていたガイスが間に合わない!
「おおぉぉッ!!」
と思ったら、背中に背負っていた巨大な斧を構えて盾にして攻撃を防いだ!
斧に当たった瞬間、すさまじい閃光が走ったが、ガイスは無傷だった。
「ちッ……こっちにも来やがりやしたね」
「厄介だな。アイリはどうした?」
「西倉庫で迎撃の指揮をとってまさぁ」
「よし、優秀だ。ガイス、お前さんは3、4班を率いてここの迎撃だ!」
「了解でさぁ!!」
……なんか、こういうことに慣れてるんだろうか。
テキパキと状況に対処している。
ていうかあのクソ強い目玉16体ってどんだけだよ……。
俺出会ってたら本ッ当速攻死亡確定だったわ……。
ホント良かった。
「さて……俺らも行きますか」
そうハリスは俺達に向かって言う。
「なるほど、俺達は真っ白と共闘って訳ね。まあいいけど」
ハリス馬鹿強いから俺らいらなくね? とも思った。
つーかあの目玉と戦いたくないんだが。
さっき死に掛けたし。
「――ッ!!」
そのとき、ハリスがいきなり剣を抜いて振った!
同時に俺の耳にはガシャンと氷か何かが割れる音がした。
……氷?
「――ほう? いい反応だな。それでこそ私を追い詰めた人間だ」
木箱の裏から姿を現したのは、銀髪赤眼、エイリアスだった!!
来たぁぁぁぁこの最悪の状況で!!
さっきのアレは飛んできた氷の刃を斬って迎撃した音だったんだ!
速過ぎて見えねぇよ!
「なんでこういう時に来るかねぇ。間が悪いぜまったく」
言うハリスは、いつもどおりのおどけた口調でずれたシルクハットを戻す。
しかしここでまた殺し合う訳には行かない。
「エイリアス、もうやめろ! 疾風の翼に恨みは無いはずだろ!?」
やはり先ほどのエイリアスとは別人みたいだ。
少なくともさっきのエイリアスは、こんなことを望んではいなかった。
でも自分の意志に反してやらなければいけない、そんな感じだった。
なにか……なにか裏があるんじゃないか?
そう思わずにはいられない。
「黙れ。貴様に何が分かる」
言って、エイリアスは腰からレイピアを抜いた。
「お前さっき言ってたじゃねぇか!! 助けてあげられなかった仲間の為にもやるしかな
いって!! 本当にやりたい奴はな、“やるしかない”なんて言わないんだよッ!!」
勢いに任せて言ってしまう。
俺が言えた事じゃないがこの際それはどうでもいい。
俺は見落としていた。
エイリアスの本心が何処にあるのかを。
「……? 何を言っている。貴様は……何者だ?」
……え?
覚えてない?
ついさっきの事だぞ!?
「さっき話したじゃねぇか!! 前に船で会ったアーク・シュナイザーだよッ! お前忘れてんじゃねぇ!」
「知らないものは知らない。下らない話で私を惑わせられるとでも?」
とぼけている……ようには見えない。
本当に記憶から消えてしまったみたいだ。
嫌なことは忘れるタチなのか?
アレそんなに嫌な事だったのか?
「アーク、どういうことだい?」
隣に居たリードが声を掛ける。
「……さっき確かに話したんだよ、エイリアスと」
まあ……あっちがそう言う以上何を言っても意味はない。
つまりもう戦うしかないって事だ!
「アーク、悪いが奴さんの説得は無理だ。諦めるんだな」
ハリスからもそう言われてしまった。
「茶番に付き合うつもりはない。では、開幕と行こうかぁぁ!! アハハハハ!!」
エイリアスはものすごい勢いで駆けだしてハリスに突っ込んだ!
ハリスは最初の豪速突きをかわし、剣を組み合わせて両刃の薙刀を作ると回転させて勢いを付け強烈な斬撃を繰り出した!
「重転撃ッ!!」
「甘いな」
だがかわされる!
「リード!」
「分かった!」
俺とリードはその隙に双方からはさんで攻撃を繰り出す!
「三連斬!」
「クロスエッジ!」
だが俺の攻撃は突然出てきた氷の壁で防がれ、リードはレイピアで受け止められたあと弾き返された。
「うわあぁぁっ!」
倒れるリードの間にルネが入り込んで、
「突撃脚!」
エイリアスに向かって風を纏った飛び蹴りをした!
「ふん」
それがヒットする前に、エイリアスは左手をルネにかざした。
するとそこから4本の氷の槍が出現し、うち2本がルネの肩と腕を切り裂いた!
「うああぁッ! そんなっ……詠唱もなしでッ!?」
ルネは肩を抑えながら言う。
「この速さ……まさか、思考詠唱!? そんな……ありえないよ!」
エルが何かに気付く。
「思考詠唱!? なんだよそりゃぁ!!」
俺はルネをかばいながらダガーを前に構える。
「そのまんまさ。詠唱ってのは本来口で音律を紡ぐ事に意味があるが、奴さんのはその概念が通用しない。頭の中で考えるだけで魔方陣を展開できるのさ」
ハリスはエイリアスと睨み合ったまま愚痴をこぼす。
「ったく……都市伝説の類かと思っていたが……いったいどんなトリック仕組んでやがる」
「何とでも言うがいい。私は……貴様らを根絶やすことだけが目的なのだ!!」
「そう簡単にはさせんよ!」
ハリスの額にある汗が光る。
今回はそれだけ余裕がねぇって事だ。
「ふん!」
エイリアスがまた攻勢に出る。
手をかざすと今度はハリスの前の地面に魔方陣が現れ、そこから氷の山が現れハリスの行く手をふさぐ。
「邪魔だ!」
ハリスの薙刀で氷は砕ける!
しかしそこにエイリアスはいなかった!
「なに!?」
一瞬足を止めるハリス!
その後ろから影が!
「させっかよッ!」
それにいち早く気付いた俺は脇からダッシュで近づき4撃相手に与えた!
「チッ!」
「うォォォォォ!! 燃え上がれェ、ファイアバレット!」
追撃をとジャミルが背後から4発の炎の弾丸を放つ!
エイリアスを爆炎が包む!
「ふ、ふははははは!! 楽しい、楽しいぞ!!」
逆に笑ってる!?
エイリアスは炎の中レイピアを一瞬で凍らせ、ジャミルの背後に回った!
「馬鹿なァッ!? このスピード――」
「ふはははは! 死ねぇっ!!」
「ぐあああぁぁぁぁッ!!」
ジャミルが背中を斬られた!!
血が大量に出てる!
「くそ!! よくも――」
ハリスが近づこうとした。
「――離れて! 燃え盛る火炎よ、敵を蹴散らせ! フレアスプラッシュ!!」
「神聖なる天よ! 我らに仇なす者に天罰を! ホーリークロス!!」
エルとリナが炎と聖の魔法を使った!
エイリアスを中心に火炎が巻き起こり、その後光の十字架が襲った。
俺はというと、ジャミルを引きずって安全な場所に居た。
魔法はエイリアスに直撃したはずだが……。
「ふん、まだまだ、甘いなッ!!」
エイリアスは一瞬で移動し、エルの懐に入った!
「――え」
「氷の刃に引き裂かれるがいい!!」
手をかざすと、左手にもう1本の氷でできた剣が出現した!
「死ね」
エルがあぶねぇぇ!!
「エルッ!」
俺はエルを突き飛ばし、攻撃を庇った!
氷の剣に斬り付けられ、肩から血が吹き出た。
肩がいてぇぇぇ!
「ぐッ……エルッ、ジャミルを回復だ!」
悪いがまだまだ戦ってもらわないと。
こっちは頭数が足りなくなったらおしまいだ!
「……ありがとう、任せて! 天よ! 我らに聖なる活――」
「させん! はぁッ!」
エイリアスの左手にあった剣が溶けた!?
そのまま左手を水平に振ると、水球……いや水弾が水平に飛んで行ってエルを直撃した!
「きゃあぁぁッ!」
エルもその場に倒れた!
「三連撃ッ!」
「喰らいなさいよっ!」
リードとリナもエイリアスに接近し攻撃をする。
「氷というのは――」
2人の攻撃は確かにエイリアスに当たった!
が……
「――こういう使い方もできるんだぞ?」
2人が攻撃したものは、氷でできた分身だった!
「リードッ! 避け――」
「がはッ……!」
氷で覆われたレイピアで、リードは貫かれた!!
そんな……リードが……?
「あ……ぐぅッ!」
唖然としていたリナも、エイリアスの強烈な蹴りの1撃を喰らい倒れた。
くそッ!
化け物じゃねぇか!!
「次は貴様だッ!!」
俺かぁぁぁ!!
足元に魔方陣!?
まずいッ!!
「っとぉぉッ!!」
俺は即座にバックステップで魔方陣をかわす。
直後、その場に尖った氷の山が出来上がる。
あぶねぇ、もう少しで串刺し――
「アーク避けてッ!」
ルネの声!?
やべッ、後ろかッ!!
「うッ……ぁぁッ!!」
わき腹にレイピアが刺さっていた。
またしても血が吹き出る。
「――終わりだ」
エイリアスは俺の顔面にレイピアを添える。
やべぇ!
「爆風脚ッ!」
「破転撃ッ!!」
間一髪、ルネのかかと落としとハリスの回転する斬撃がエイリアスを襲う!
あぶねぇ……助かった、けど重傷だ……。
「チッ、邪魔なッ!」
エイリアスがレイピアを横薙ぎに振る!
するとその軌道に沿って氷が広範囲に炸裂した!
「きゃあぁぁぁッ!」
「チッ……!!」
ルネとハリスに直撃した!!
「消えろ」
「させんッ!!」
ルネに止めを誘うとするエイリアスをハリスが辛うじて止めた。
これで残りは俺とハリスだけか……!
「ふん、その程度か……! そろそろ終わらそう……絶対零度の世界、身を切り裂くような雨――」
まずい! またアレかよッ!?
「ふん……やはり強力な魔法は詠唱がないと安定しないらしいな! ならまだ勝機はあるッ!!」
ハリスが薙刀を回転させエイリアスの詠唱を妨害しようとするが、魔素で壁が出来ていて攻撃できない!
「くそ……魔陣壁かッ!! 以前より強化されてやがる……!」
ぎりりと歯を鳴らすハリス。
緊迫したその空気の中で俺は冷静だった。
なんだろう……“血の気”が少なくなったからか……?
ってのはおいといて、ふと思う。
魔素で出来た壁なら……コイツでなんとかできる……そのハズだッ!!
俺はダガーを構えて突撃!!
「だったら、コイツでどうだぁぁぁーーー!!」
俺はダガーを振りかぶり、魔陣壁に押し当てた!
魔陣壁からは火花が飛び散り、徐々に壁が裂けていった。
「馬鹿なッ! 貴様、そのダガー――」
「うらああぁぁぁぁッ!!」
魔陣壁を完全に引き裂いた!
エイリアスは詠唱中!
今は無防備だッ!!
「行けッ! ハリスゥゥゥッ!!」
「喰らえッ! 一閃ッ!!」
ハリスの技が炸裂した!
素早く重い一撃がエイリアスに直撃した!
「ぐ……」
ようやく、エイリアスが膝をついた……。
ったく、飛んだ化け物だったぜ……。
「く……くくく……アハハハハ……私は……ここで死ぬ訳にはいかないのだ!」
魔方陣が再び光った!?
嘘だろ!?
まだそんな余力を!?
「アハハハハハ!! 死ねぇぇ!! 獄寒の斬雨ッ!!」
その瞬間、無数の氷の刃が俺とハリスを襲った。