第35話「目に見える物だけが真実ではない、と信じたい」
前回のあらすじ……。
担当:エルアス・ミルード
今回は私、エルアス・ミルードがあらすじを担当するよ。
じゃんけんによって、リードとジェミルさんが空駆船の操縦者に選ばれたの。
2人とも、頑張ってねー!
離陸するときは苦戦してたみたいだけど。
空駆船だけに(クスっ)
あ、えーっと、それで、2人が途中操作を間違ったみたいで、後ろのプロペラだけが動いてさあ大変!
でも、ジャミルさんが暴れて偶然押したスイッチで、HALさんって人が助けてくれた。
うー、声がするのに姿が見えないよー。
でも優しい人だったので、ルネのお陰もあって私達は無事出発。
でもでも、航行中にプロペラから煙が出て大変!
私達は真っ逆さまに落ちて行きましたとさ。
おしまい。
――――
アーク「おしまいって何だぁぁーー!! 勝手に殺すなよ!!」
エル「あぁアーク、いたんだ」
アーク「あと何が空駆船だけに(クスっ)だ! 面白くねーんだよ!!」
エル「いいじゃない! あらすじなんだから!」
アーク「笑顔で言うな! むしろあらすじだったら駄目だろ!」
エル「え? 駄目なの?」
アーク「お~い誰かこのアンポンタンをなんとかしてくれ~……」
――疾風の翼・船内牢屋――
「よぉ」
その男は、たった今、牢屋を挟んで彼女の目の前に立っていた。
男は、鋭角的な金髪に迷彩服のコートを着込む、鋭い目つきと両腕に装備したクローが特徴的な男。
彼女は、男に会ったことは一度も無かった。
だが……。
「貴様は……ザイル・サファールか……?」
……何故か名前は知っていた。
何故知っていたのかは、彼女も知らない。
「“この世界”では、始めましてってかぁ? エイリアス・ラクシリアさんよぉ」
言って、ザイルは口元を凶悪な笑みで歪めた。
「貴様は……なんだ。何故私は貴様のことを知っている……?」
エイリアスは困惑する。
「オマエの疑問なんざ答える気はねぇよ。いいからこっから出ろ。それがオマエの――」
言いかけてふと後ろに人気を感じたザイル。
「なっ……なんだお前、何処から入ってきた!?」
見回りを勤める3人の疾風の翼団員がザイルを発見したのだ。
団員は警戒し、即座に剣を構える。
「あァ? ったくよぉ……オマエがモタモタしてっから見つかっちまったじゃねぇか」
はぁぁ、とザイルは再びめんどくさそうに溜息を吐く。
「ジール、あんたは団長にこのことを伝えろ! 俺はコイツを――」
白髪混ざりの中年の男が言いかけた瞬間、ザイルは彼の目の前にいた。
「オレをなんだってぇ!? あァ!?」
言うのと同時に、中年は肩を派手に斬られていた。
「ぎゃああぁぁぁぁあ! ……お前……いつの間に……」
いいながら倒れる中年を飛び越えて、ジールと呼ばれた青年に向かう。
「ぎゃははははは! おら遅ぇぞ!!」
今度は、ジールに向かって右腕を突き出し、謎の衝撃で数メートル先の壁までもう一人を巻き込んで吹き飛ばした。
これで盗賊は全滅した。
「……ったく、めんどくせぇなオイ。まぁいい。オラ行くぞ」
言うと、ザイルはエイリアスの入った牢をクローで切り裂いた。
鉄格子がカラカラと音を立てて床に散らばる。
「フン。それで……私をここから出して何に利用しようと? 悪いが私は盗賊団の殲滅以外に興味は無い」
エイリアスは冷たく言い放った。
「ククク……それでいいんだよ。……オマエ、『思考詠唱』の調子はどぉだ?」
その言葉を聴いて、エイリアスの表情が驚きに変わる。
「貴様……あのときの研究機関か!?」
「研究機関? まぁ……そんなところか。まぁいい……“力”をくれてやるぜ。着いて来い」
言うと、ザイルはエイリアスの武器、魔法詠唱兵器と彫刻のようなレイピアを渡す。
「ふ……ふはははははは!! いいだろう! 貴様が何者かは知らぬが、盗賊団を滅ぼすのにそのような事は関係ない!!」
エイリアスは武器を受け取り、ザイルに着いて行く。
――――
「あでで……ひでぇ目にあった」
俺は墜落の衝撃でぶつけた頭を摩りながら言った。
何がどうなったのかは不明だが、とりあえず生きていたみたいだ……。
「その声アークかい? ……無事みたいだね」
リードが操縦室のほうから這い出てきた。
……イスが上にある……どうやらひっくり返っているみたいだ。
「スリル満点だったねー」
うお、エル隣にいたのか、気付かなかった。
っていうかその感性は明らかに常識を逸してるぞ。
「いたたたた~……なんなのよもう!」
腰をさすりながらルネも出てきた。
「とりあえず、全員無事みたいだね」
リードが真面目な声で確認する。
『そのようですね』
うおっ、足元から声がする!
見ると、足元にはコードの千切れたモニターみたいなのが転がっていた。
その画面には『HAL』と書いてある。
「うわー、HALさん生きてたんだー。頑丈だねー」
エルがそのモニターを手にとって見る。
『私本体は無事のようですが、空駆船AW-551の方は全壊レベルです。修復するより買い直したほうが早いでしょう』
どこで買うんだよ……。
『それより、私の見解によりますと、メンバーが一名欠けている気がするのですが』
あれ……そういえば……。
「……オイ」
奥の方で声がする。
あ~、ジャミルいねぇじゃん。
「もーリード、ジャミルさん忘れちゃダメだよー、いくら存在感無いからってー」
おいエルそれはさり気無く酷いぞ。
「あぁごめんつい。それで君はドコにいるんだい?」
声がするが姿が見えない。
っていうかリードお前素で忘れてたのかよ。
「コッチだコッチ」
声のする方へ俺とリードが見に行く。
しかしよっぽど酷い墜落の仕方したんだろうなぁ。
中身がごっちゃごちゃだぞコレ。
まあ俺達ごと潰れなかったのが幸いか。
そんなことを適当に考えながらジャミルを探していると……。
「……よォ」
「……なんで逆立ち?」
「逆立ちじゃねェ! 足が引っかかって取れねェンだよ!」
ジャミルは足が天井の何かに引っかかっていて、ちょうど逆立ちの体制になっていた。
「いたージャミルさん、なんで逆立ちなのー?」
後ろからエルとルネもやってきた。
「だから逆立ちじゃねェ! 足になンか引っかかって取れねェンだっつーのォ!
ジャミルはキレ気味になりながら答える。
……確かに頭に血が上って顔が真っ赤だぞ。
早く助けたほうがいいんじゃないか?
「ジャミル~! なんで逆立ちなの?」
「ルネテメェは明らかに悪ノリだろォォォ! いいから早く助けろこの野郎ォ!」
凄い勢いで怒鳴ってるが逆立ちなのでなんともいえない。
「それが人に物を頼む態度かい?」
リードお前容赦ねぇな。
「タスケテクダサイオネガイシマス」
棒読みだぁぁぁ!
『血圧が上がっています。助けてあげてはどうでしょう、と提案します』
「タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケ――」
「――怖ぇよ!! 早く助けてやろうもう!!」
俺は一向に進まない展開とジャミルのホラーに屈しようやく助けることにした。
――――
「あのさぁ……言ってもいい?」
俺達はその後、周囲の状況を確かめるために何処に墜落したのか外へ見に行った。
しかしそこには、俺達の想像を遥かに超える世界が広がっていた。
そこで先ほどの台詞である。
みんな現実を直視したくないだろうが、誰かが言わなきゃいけない。
「あァ……多分今全員同じ事考えてるぜェ……」
ジャミルが力無く言う。
俺達は大海原の真っ只中にいたにもかかわらず、HALの機転のお陰で海水に墜落することは無かった。
だが俺達が不時着したその建造物は……。
「これって…………幽霊船だよ、な?」
巨大な幽霊船でした!
風を受けてマストで進む前時代の船。
木は腐り、船体はぼろぼろで今にも沈みそうな船。
いやそれはいいんだが、納得いかない事が1つ。
なんで半透明なんだYO!!
いやいや、みんな否定してよ。
俺の目がおかしいだけだって言ってくれよぉぉーーー!!
「……みたいだねー」
「……信じられないけど」
「……っていうより信じたくないよね~」
「……同感だァ……」
『同意します』
エル、リード、ルネ、ジャミル、HALの順に口にする。
……どうやら、俺の幻ではないらしい。
なんかもう信じられない物を見て脱力状態。
「え~と……とりあえず、これからど~すんの?」
ルネが気を取り戻して話を始める。
「ええと……中、入ってみる?」
リードが言う。
確かに、俺達の船が突き刺さったせいで幽霊船の側面に穴が開き、入れそうだ。
ちなみに船の全体像はかなりでかい。
この船は小型だが、軽く10倍はありそうだ。
「……マジでか?」
気は進まない。
だって半透明だし、半透明だし、半透明だし……。
「よぉぉーーしッ!! あたしゃ行くわよっ! これはきっと、まだ見ぬお宝があたしを引き寄せたのよッ!! 間違いないわ!!」
ルネがテンションを上げてそう言った。
「じゃあ、頑張ってねー」
笑顔で手を振るエル。
「ちょ、何言ってんのよ!! あんたらも来るのっ!!」
「えっ? そうなの?」
ルネの奴、本気だったらしい……。
天然ってこえ~!
「しょうがね、ルネ一人じゃ、お宝どころか厄介物持ち帰って来そうだし、俺達も行くか」
俺が言う。
「むかーっ! 失礼しちゃうわ!!」
実際そうだろうが!!
「ったくめんどくせェェー! だいたいどうやって脱出する気だァ! 俺達の船は再生不能になっちまったんだぞォ!?」
確かにジャミルの言う通りだな。
「……なにか幽霊船の中に使えるものがあればいいけど……半透明じゃなぁ……」
リードが頭を片手で抱える。
半透明の船で帰還出来たら一躍有名人だな……。
『入った瞬間に海の中へ真っ逆さま。という可能性も考慮すべきです』
HALが言う。
っていうか何気に溶け込んでるなコイツ……。
「むぅ~っ! じゃあここにいて何か解決でもするの!?」
ルネはリードに迫る。
意地でも行きたいようだ。
「しょうがない……あまりに無鉄砲だけど……とりあえず行ってみよう」
リードは不承不承と言った感じで行く事を決定した。
『ところで、話の腰を折って申し訳ありませんが、私の電池残量が底を付きそうです。願わくば電池の交換を――あっ』
という言葉を残して、HALの電源が落ちた。
「うっそ~! HALさん死んじゃったの~?」
エルがあわてる。
「大丈夫よ、ただの電池切れだから。ただ……これ交換するには王国まで行かないと……」
ルネが教えるが、当分復活は無理そうだな……。
「うん、とりあえずあたし持っておくね。もしかしたら王国へ行く機会もあるかもしれないし」
そう言ってHALモニターをかばんの中にしまった。
……まじであのかばんにゃなんでも入るな……。
そんなこんなで、俺達は幽霊船を探索する事になった。
……正直、こうしている間にもザイルって野郎が『賢者』をぶっ殺して回ってるって思うと気が気じゃないぜ。
全て揃ったら世界がやばそうだし……いや。
野郎の話によると、俺が持ってる腕輪も『ブラストレイズ』らしいから黙ってても野郎は俺んとこに来るのか……。
だからって、他の賢者もほっとけねぇよ。
それだってのに、俺なにしてんだろ……。