第32話「二人の夜」
前回のあらすじ……
担当:アーク・シュナイザー
ザイルとの戦闘で瀕死の重傷を負い、何かに引っ張られる感覚に陥った俺が次に目を覚ました場所は、お花畑だった。
そこでルーミアという姉ちゃんと謎の兄ちゃんと出会う。
親父をちょっと若くしたバージョンに劇似だった男は、意味不明なことばっか言って去り
際に「アークライン・シュナイザー」と名乗った。
アークは俺、ラインは親父の名だが……偶然なのか?
そんな疑問を残し、元の世界に戻った。
なんか予想以上に心配されていたようで、なんかものすごい罪悪感を感じる俺。
まあ俺が目覚めたことによっていつもの雰囲気を取り戻したのか、ジャミルとエルとルネは俺そっちのけでぎゃあぎゃあやってたが。
リードの話によると西のほうの廃屋で老人が殺されていたらしい。
もしかしてそいつ賢者なんじゃね?
という俺の予想の元、俺は何とかしてその西の方まで行きたいのだが。
あと、リードの眼鏡のデザインが若干変わってる気がしたんだが、まあ気のせいだろう。
――――
あれから半日が経った。
俺の意識は回復したが、さすがに体力的にすぐに移動という訳にもいかず、少し間を置く事になった。
俺は全身包帯グルグルのミイラ状態だった訳なのだが、どういうわけか今現在ほぼ完治していた。
腕輪『ラプター』の能力は『身体能力を高める』とかだったので、きっとそのおかげだろうというのが俺的見解。
そんな今は真夜中と呼ぶべき時間であり、普段の俺から考えればこの時間に起きていることなどありえない。
ただ……なんだろう、眠ろうとすると、何か妙な違和感を感じて眠れないのだ。
いや、言葉では説明できない凄い感覚的な物なんだけど……。
んでどうするか考えた結果、今のうちに“賢者かも知れない老人”の家を見に行けばいいんじゃね? という結論に達したため、俺は少しの間リード達に内緒で単独行動をとることにした。
今は出発した直後って所だ。
道順は足跡を見れば簡単に分かった。
不安があるとすればまだ体が本調子じゃないことだが……。
――魔物ッ!?
行ってるそばからコレだよもう!
〈オオオォォォォォン!!〉
出て来たのは6匹の狼型の魔物、バルード!
段階は雑魔級の最下級。
なんだよ、楽勝じゃねぇか!
これがドラゴンウルフとかならやばかったけどな!
「はぁッ!」
飛び掛る3匹のバルードのうち、1匹を右ダガーで横薙ぎ、腹を斬る。
直後に振り向きつつ背後にいたバルードを左ダガーで攻撃し、すぐに左にステップ。
飛び掛るバルードの攻撃をかわすが……
「痛ッ!」
後ろから来てた!?
俺は背中を軽く斬られる。
んでもって左右から同時攻撃!?
身を引いてよけ――って体がついていかねぇ!!
やば――
「突撃脚ッ!!」
その瞬間、誰かが風を纏った飛び蹴りを繰り出した。
2匹のバルードが同時に倒れる。
「ルネお前……なんでここに!?」
俺は駆けつけた女……ルネを見て驚く。
「説明は後! まずは倒すよッ!」
そう言って魔物を倒すルネ。
今は何故か、そのルネがとてつもなく頼りに映った。
――――
「ふぅ~……終わったね」
「ああ……なんとか」
それから魔物の全滅には大して時間はかからなかった。
「その……ありがと、な?」
なんだろう……普段ド突き合ってるルネ故に、凄く言うのが恥ずかしいというか……。
「ごめん」
いきなり頭を下げられた。
「は!? なんでだよ」
「あたしも眠れなくてさ……アークが1人で出て行くの見て、気になって着いてきちゃったんだ……はは、ストーカーだよね?」
凄く言いづらそうに目を逸らしながら言う。
「いや別に……心配して来てくれたんだろ? こっちこそ、色々……心配かけて悪かった」
俺はルネが泣いていた、という話を思い出して言った。
不確かな情報だが、あれで案外涙もろい性格なのかも知れない。
「……うん。理由は聞かないけど、まだ本調子じゃないのに無茶しないでよ……本当に……心配、したんだからさ……」
言いながら、眼の端に涙を滲ませていた。
えぇ!? そこで泣くんかい!
まさかこんなに心配されていたとは……ちょっと行動が軽薄だったかも知れないな……。
というか、俺が事態を軽く見すぎてるのかもしれん。
「分かった……戻るよ。戻るからもう泣き止んでくれって」
いいつつ、内心は非常に動揺する俺。
くそ、なんだこの空気……。
こんなときどうすりゃいいんだ!?
今まで生きてきてこんなシチュエーションは初めてだ!
とりあえずここは無難な感じで行った方いいのか!?
無駄に心拍数が上がってうまく判断できねぇぇ!
「ばっ、ばかっ!! な、泣いてないわよ別に!」
大してルネはルネで大慌てで涙を拭いて顔を隠す。
おいそれじゃモロバレだぞ逆に。
「い、今更隠すなよ! 俺が恥ずかしいだろ!」
それとも……俺の見間違い?
見間違いなのか?
「うっ、うるさいっ! 泣かせたアークが悪いのよ!」
もう自棄になって俺のほうを向く。
おい、顔と目が真っ赤だぞ!
「ホントに悪かったよそれは。でも、お前って案外涙もろいなんだな」
俺はいつものギャグ的空気に戻したかったので、ちょっとからかったような言い方をした。
「べ……別にそんなことないわよ! ただ……アークだったから……」
俺だったからって……へっ!?
それって……え?
そういう意味……?
「ばっ、ばかっ! 変な勘違いしないでよっ! その……あたしにも色々、特殊な事情があるから……さ」
俺が判断に戸惑っていると、顔を真っ赤にして否定した後、そっぽ向いて話すルネ。
おおぅ……びっくりさせんな……マジびびった……。
「誰が勘違いするかっ! ……んで、特殊な事情って?」
ルネの特殊な事情……?
すげぇ気になるけど。
「あはは、それは教えない! だから、アークの用事も聞かない! ここで話したことは、二人だけの秘密ね!」
おお……いつものルネに戻ってきた……。
ったくこの女は……調子狂うなぁ……。
「ったくいい笑顔だな……人のこと散々振り回しといて」
主に感情的な意味で。
「え……振り回したっけ?」
自覚なしかよ……。
「あ~あ……星が綺麗だなぁ~」
なんとなく夜空を見上げる。
こういう町の明かりのないところでの星は格別だ。
今までそれどころじゃなかったけど、ホント綺麗だ。
「あはは、突然何よ。変なアーク」
「なんだよ。変なのはお互い様だろ」
「そうだね……そういうことにしとく」
そう言って笑うルネと目が合う。
変な事いいやがって……そのせいで余計に意識しちまうじゃねーか……。
胸の動悸が治まらねーよ……。
「さて……そろそろ戻るか。万が一誰か起きて俺らが居ないの発見されたらまずいしな」
俺はちょっと通常ではありえないこの状況に耐え切れそうに無かったので適当なこと言って抜け出す。
「そうだね……帰ろっか」
きっと……明日になれば元通りになる……はずだ。