第14話「なんかとんでもない事に巻き込まれてる気がする」
――一方アークらは――
俺達は、ルネの阿呆みたいな登場で引き寄せられた盗賊を蹴散らし、船内を探索していた。
もちろんエルを捜す為なのだが、
「おいおい、なんだかやけに静かすぎじゃねぇか?」
俺は先頭を歩くリードに言う。
そう、なんだかあれから、物音ひとつしないのだ。
まるで、この船から誰も居なくなってしまったような、そんな気さえした。
いや、さすがに飛んでるんだからそれはないだろうけど。
「確かに……あんな派手な登場したんだら、もっと敵が動いてもいいはずなんだけど……」
リードもアゴに手を当てうーむと唸る。
「おやおや? さっそくルネ・アーサス様の隠密行動の結果が――」
「オメーは黙ってろ」
ルネが馬鹿な事を言い出したので俺が丁重にツッコミを入れる。
「ちょっと! あたしには発言権が無いって言うの!? ここにあんたたちを運んだ最ッ大の功労者たるあたしが!」
ギャーギャー騒ぐルネ。
早速隠密じゃねーよコイツ!
「はいはい分かったって……、ちなみに、君はこの状況をどう見る?」
リードは呆れた後真面目にルネに問う。
「うーん、あたしたちに向けた何らかの罠か、もしくはどっか別の場所であたしたちが侵入したことより大きなトラブルが起こってるってとこかしらね?」
お、珍しく真面目に答えたようだ。
「へぇ、お前って意外にキレ者だったりする?」
俺はルネからまともな答えが返ってきたことに少し感心した。
「意外って何よ? あたしはこれでも、名だたる盗賊団からお宝を巻き上げた天下一の大泥棒なのよ!」
「自分で泥棒って言いやがったよこいつ!」
「あっ、間違えた、天下一のトレジャーハンターよっ!」
「いやもう手遅れなんだが……」
前言撤回。
やっぱ駄目だコイツ。
そんな阿呆みたいな会話を繰り返していると、突然リードが足を止めた。
「おい、どうしたんだ?」
俺はリードの後ろにいたので、前に何かあったのかと思い尋ねた。
「……死体だ」
「……え?」
リードは道をあけた。
するとそこには、全身を引き裂かれたような死体の山と血の海があった。
かろうじて原型は留めているものの……、肉は裂け、そこから赤黒い血が流れ、中には骨と思われるなんか白いものが……うん、これ以上細かく描写するとR-18になってしまうのでやめよう……。
そして次の瞬間、恐ろしい吐き気が襲った。
「うっ……ひっでぇ……誰が……こんな事を……」
俺は死体の山から目を背けた。
直視できない、酷すぎる……。
「アーク、大丈夫かい?」
リードはしゃがんで口元を押さえる俺の背中をさする。
「おい……お前は、なんで平気そうなんだよちくしょう……」
俺はリードの手を払いのけて立ち上がる。
「僕だって平気じゃないさ、やせ我慢だよ」
よく見ると、リードも顔色が悪い。
この状況でやせ我慢とは、なんという見栄っ張り。
案外女がいるからかっこ良く見せたかったパターン?
言ってもいいが、俺は空気を読んで自重した。
さすがに……ねぇ?
「これきっと……、『盗賊殺し』の仕業だよ」
ルネは死体を見ながら言った。
妙に確信めいた言い方だったので、俺は聞き返す。
「なんだ? その物騒な名前は?」
「最近ここら辺で盗賊を殺しまくってる女がいるっていう噂だよ。銀髪赤眼の女で、たった一人で現れては盗賊を皆殺しにしていくって言う女。この前盗賊から盗み聞きした話なんだけど、まさか出会っちゃうなんて……」
ルネはわたわたした様子で早口に説明していく。
「つまりその『盗賊殺し』が、この船内にいて、この人達を殺したって事なんだね」
「うん……あたし達で敵う相手じゃないよ! 早くここを離れないと……」
その時俺は、どう仕様も無い怒りを感じていた。
だって、コイツらだって生きてるんだろ?
いくら盗賊やってたからって、こんな無残に殺されて許されていいのかよ?
「許せるはず、ねーよ……!」
「アーク?」
俺は、ダガーを握る拳が震えていた。
さっき感じていた恐怖と吐き気は、微塵も感じられなかった。
「悪い、俺はこれをやった犯人を探す。まだ近くにいるかも知れない」
「アーク! 君は何を言っているんだい!? 今はエルをさがすのが先だろ!」
リードは俺を正気を失った奴を見る目で見て言った。
「分かってる! けど、こんなの見て黙ってられるかよッ! お前騎士団だろ!? なんにも思わないのかよッ!!」
俺は怒鳴っていた。
怒りをぶつけるべき相手はリードではないのに。
「……ッ! でも今は……やはりエルが先だ! もしかしたら、エルにも身の危険が迫ってるかもしれないだろ!」
ああ……、そういう事か……。
コイツは、エルの身を第一に考えてたんだな。
はぁ、俺は頭が熱くなりすぎてエルを見失ってたってことか……。
「……そうだな、悪ぃ。ちょっと熱くなってた。分かった。とりあえず、エルと合流すっか」
俺は頭を冷やして、リードに一言謝った。
「それよりルネ。お前は何も無理やり俺達に付き合う事ねーんだぞ? お前のそのブーツなら、こっからでも帰れるだろうし」
俺はルネに言った。
本来ルネには、ここに案内してもらうだけで十分だったんだし、これ以上命の危険を犯してまで付き合ってもらうのは酷だ。
「あはは、何今更水くさい事言ってんのよ。ここまで来たからには最後まで付き合うわよ!」
いい笑顔で、ルネは俺とリードの肩を叩いてきた。
「ったく、お前もホント馬鹿だよな、わざわざ見ず知らずの――ッ!」
その時、ぞわり、と奇妙な感覚が体を襲った。
まるで、全身が氷水に浸かったような酷く凍える感覚。
「殺……気?」
リードが呟く。
そう、これは殺気だった。
このおぞましい殺気の正体は……。
「きゃああぁぁ!」
この声……エル!?
俺達は、悲鳴の元へ駆けつけた。