第13話「避けられぬ戦闘」
前回のあらすじ……
担当:エルアス:ミルード
こんにちわ!
今回は私、エルアス・ミルードがあらすじを担当しちゃいます!
どうぞよろしくお願いしまーす!
さてさて、怖ーい銀髪のお姉さんのお陰で外に出れたけど、人を簡単に殺す人は許せませんでした。
でー、私は牢屋で一緒だったジャミルさんと一緒に逃げ出すんだけど、逃げてるうちに怪我はするし逃げ切ったと思ったら今度は盗賊団の人が来るしでもう大変!
――――
「チッ……『疾風の翼』の連中かァ……ふざけやがって」
ジャミルは歯軋りをし、エルは後ろを振り返りながら例の銀髪の女が来ないか確かめている。
女は別に必死で走って追ってくるようではなく、まるで獲物を追うのを楽しむようにゆっくり歩み寄ってきているだけだった。
そのお陰で、現在結構距離を稼いでいる。
今すぐに追いつかれる心配は無さそうだった。
まあ、突然走ってきたり先回りされたりといろいろ可能性はあるのだが、そんな事まで計算に入れいれてる余裕はなかった。
対して、盗賊団の連中はジャミル達を確認する前から駆け足で迫ってきていた。
「クソがッ! エルッ、突破すッぞ! 走れェ!」
「あ、うん!」
2人は盗賊達を跳ね除けてでも走りだす覚悟を決めていた。
だが盗賊達は遠目で見ても5、6人……いやそれ以上はいた。
しかも盗賊達の手には剣、槍、果てはボウガンを持った奴までいる。
その人数と武器相手に丸腰の人間がとる方法ではない。
それは2人も理解していたが、こうする他に方法がないというのもまた事実だ。
引き返せば、あの銀髪の女が待っている。
そちらのほうが遥かに死亡確率は高いと見える。
「……あれ? なんか……」
エルは違和感に気づく。
盗賊達は、距離が近づいてもその武器の先端をジャミル達に向ける素振りはない。
エルが一瞬不思議に思ったとき、
「おい止まれッ! 俺達は敵じゃない!!」
盗賊団の一人が両手を上げて言った。
「あァ? どういう事だゴルァ」
ジャミルが盗賊達を睨みつけて言った。
ただ、足は言われたとおりしっかりと止まっていたが。
「事情を説明してる余裕はない! これ、お前らのレイズだ! これ受け取ってとっととこの船から逃げろ!」
別の男の手には、ジャミルの拳銃型体外装備兵器『ダブルバレット』と、エルの杖型魔法詠唱兵器『ヒールチャージャー』が握られていた。
この男達は頭に黄緑色のバンダナを巻いているし、間違いなく『疾風の翼』の一員だ。
にも関わらず、わざわざ武器を渡すのは何故か。
ジャミルが一瞬考えると、
カツン、カツン。
嫌な足音が聞こえた。
振り返ると、銀髪が、遠くで歩いていた。
「出やがったなッ!! 疾風の刃よ! ウインドエッジ!!」
剣を構えた男が、魔法を詠唱して放つ。
U字型の鋭い風の刃が、銀髪の女を襲う。
「燃えろ! 紅蓮の炎! フレイムブラスト!」
数個の炎の球体が、ジャミルの横を通りぬけ、そのまま銀髪へと向かう。
そして、ジャミル達を覆い庇う様にして、盗賊達は一斉に前に出た。
「て、テメェら……?」
ジャミルは敵だと思っていた盗賊の行動に驚いて混乱する。
「馬鹿野郎! なにしてる早く行けッ!」
「俺達は命を奪うのは嫌いなんだ! 船内で一般人に死なれちゃ後味が悪いってモンよぉ!」
「あの女が狙ってるのは俺たち盗賊だけなんだ! 巻き込まれたくなかったら急げ!!」
ジャミルとエルは見落としていた。
銀髪の女は、盗賊を許せないと言ったのだ。
彼女の本当の敵は盗賊でありその逆もまたしかり。
つまり今盗賊達は、銀髪に剣を向けてもジャミル達に剣を向ける意味はないのだ。
それが自分たちで捕まえてしまった一般人であるなら尚の事。
彼らは、何よりも命を大事にしているのだから。
「よォし、そォ言う事なら俺も――」
「分かりました! 有難うございます! ほら、行くよジャミルさん!!」
「――ぬォい! 引っ張ンなッ!」
ジャミルとしては、武器を手に入れたら退く理由が無くなったんだろう。
得意げに『ダブルバレット』……二挺拳銃を構えたが、エルに問答無用で連れ去れれた。
走ってゆく二人を眺め、興味なさそうに目を細める銀髪の女は、既に盗賊達はジリジリと迫っていた。
「……ふん、盗賊は……全て消す」
ぞくり、と。
男達の全身に悪寒が走った。
空気が、変わった。
まるで全身が氷水に浸かったように、空気の全てが凍りついたように。
「絶対零度の世界、身を切り裂くような雨――」
右手に持ったレイピアを逆さにし、足元に突き刺す。
それを中心に、凍えるような青色に光る魔方陣が組みあがってゆく。
「我が武器となりて、眼前を埋め尽くせ――」
幾つもの円や星型、文字、図形、記号、その全てが複雑に絡み合い、1つの芸術を創り上げる。
周囲に霜ができ、やがてその霜が空間で鋭く細い氷の槍に変化してゆく。
それは盗賊達を囲むように、というレベルではない。
一定範囲のすべての空間に、無数に配置されてゆく。
男達は、もう、動けなかった。
「――獄寒の斬雨!!」
叫んだ瞬間、無数に配置された氷の槍は、無秩序に暴れだした。
それでいて、術者本人だけには当たらないよう、上も下も右も左も手前も奥も関係なく、無数に無残に無秩序に。
避けることなど不可能だった。
吹雪の中で、傘もささずに雪の粒1つ1つを避けられないのと同じだった。
男達は、その詠唱のとおりに全身を切り裂かれ、悲鳴も断末魔も遺言も残すこと無く、この場で肉片となった。
やがて、銀髪の女はレイピアを地面から抜き、魔法を終了した。
あたりに漂う吐き気のするような血の匂いに、口元をニタリと歪めながら、
「言ったはずだ。盗賊は全て消す、とな。そして、盗賊に味方する、貴様らも同じだ」
血溜まりを踏み歩き、銀髪は再びジャミルとエルを見据える。
「ちィ……」
ジャミルは二挺拳銃を構え、歯軋りする。
最早戦闘は、避けられなかった。