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永遠の時の中で  作者: スピオトフォズ
第十章 全ては己の過ち故に
110/110

第110話「己の無力ってのは何より腹が立つ」


前回のあらすじ……。


担当:小心者そうな小隊長

ど、どうなっているんだ!!

俺達第六小隊他数個小隊は、疾風の翼の艦橋を占領すべく突入した。

すると既に艦橋はぐちゃぐちゃに壊れているし、殺人を犯さないって話の疾風の翼が躊躇なく命を奪ってくる。


俺は恐怖した。

元々、騎士団になんて給料が良いから入ったようなもんなんだ。

長年務めたってだけで小隊長にされるし、命の危険がないと安心して入って見れば相手は殺す気満々。


だ、大丈夫だ。

俺は小隊長。

危ない事は部下共に任せて俺は命令だけ出してればいいんだ!


それにそう! 俺の部下はこんなにいる!

いくら強くたってこれだけの部下がいれば楽勝だ!!


――という考えは間違っていた。


疾風の翼の副長とみられる男は恐ろしくタフで、いくら攻撃しても倒れない。

それどころか瞳に宿る意思は強くなる一方で、味方は次々と死んでゆく。

そんなとき、不意に後ろのドアが開き一気に団員共が押し寄せてきた。


俺を踏み倒し、一気に形勢逆転された。

焦る俺。

その時、不意に部下の1人が指名手配犯を発見する。


しめた!

あいつを捕まえれば勲章者だ!

はは、金だ、金が手に入る!!


直ぐに捉えようとしたが四人組の団員が邪魔をしてきた!

ええいうざったい!!


この無能な部下共め!

さっさとこの状況をなんとかしろ!!



――紅蓮の覇王船――



 アークが紅蓮の覇王船に投げ出された直後、アイリはアークを助けに一緒に紅蓮の覇王船に乗り込もうとしていた。

 今は戦闘が起きてる方とは反対側の甲板に立っていた。


 眼下にはアークがいると思われる紅蓮の覇王船があった。

 先程より高度を上げたらしく、今この船と紅蓮の覇王船の高低差はそれほどなかった。


「(……あの少年あの高さから落ちて無事だったのかねぇ、ま、それを助けるのがアタイの役目なんだけど)」

 思いつつ、何のためらいもなくアイリは敵船にダイブした。


「ん? おい! 敵船から1人飛び込んでくるぞ!?」

 紅蓮の覇王船の1人が反応する。


「あの女……! まずい! あいつは疾風の翼の女副長、『炎の射手』! アイリ・ファルトスだぁぁ!!」

 紅蓮の覇王兵隊達が引いてゆく。

 アイリはそれを逃さず、空中で、


「逃がすかぁ!!」

 そう叫ぶと、右腕に装着されているボウガンから何本もの炎がまるでショットガンのように放射状に周囲に散らばる。

 甲板には一瞬にして広域放射された炎が降り注ぎ、兵隊たちを一網打尽にする。

 同時に、アイリは着地した。


「さあて、あのガキはどこへ行ったのかしらね」

 と呟き、船内に入ろうと駆けだす。


「行かせるかぁぁ!! 喰らえ! 戯れる水塊よ! 敵を討ち砕け――アクアスプラッシュ!!」

 魔法師が何人か現れ、魔法を放つ。

 アイリの足元に青色の魔法陣があらわれ、そこで大きな水の爆発が起こる。


「おっと! そう簡単には当たらないよ!」

 アイリは横移動でそれを避ける。

 だが爆発の範囲は広く、水の塊が一部飛び、アイリの体を傷つける。


「ち、やってくれるね! そんじゃそっちも喰らいな!」

 アイリは、ボウガンの銃口部分を、カチリと回し、モードを変更。

 腕を真っすぐにして構え、左手でそれを支えながら引き金を引いた。

 するとさっきは放射状に射出された炎が、今度はマシンガンのように連射して発射された。


「ぎゃあぁぁぁ!」

 連射された炎は敵を撃ち抜き、この辺りの敵は一掃された。


「さて、ボーヤが心配だ、急ぐか」

 アイリは駆け出す。



――――



「紅蓮斬ッ!!」

「ホーリーブラストッ!」


 隣にいるリードとエルが前から迫って来る赤服の盗賊団を押し返す。

 いやいや、マジで頼もしい。


 俺は瀕死の重傷をエルに回復してもらったが、エル曰く『回復魔法は失われた体力まで回復できない』らしく、俺はぜーはー言いながら途中見つけた木の棒を杖代わりに、必死にリード達の後を走っていた。


 はぁ、情けねぇ……。


「アーク、ホントに大丈夫かい? 今にもぶっ倒れそうなんだけど」

 リードが途中心配そうに声を掛けてきた。

 俺らは今倉庫から抜け出し、騎士に遭遇しないようにとにかく反対側へと走っていた。


 もちろん騎士団から遠ざかるごとに紅蓮の覇王の兵隊は増えていくが。

 敵が増えれば前衛実質1人なリードが疲弊するし、エルの魔法にも限界がある。

 加えて俺の体力も減り、進行速度が遅くなりさらに多くの敵と出会う、という悪循環。


「余計なお世話だ……腕輪のおかげで回復が早いみたいでな……走るだけなら全然問題ないうんノープロブレム……はぁ、はぁ」

 だから俺はリード達になるべく心配掛けないように平然を保つが、走りながら長い台詞を言った為息が切れた。


「息切らしながら言っても全然説得力ないよアーク……」

 エルはやや呆れたように言った。

 むう、長々としゃべったせいで本末転倒じゃねーか。

 しっかりしろ俺。


「うるせぇ! 俺が大丈夫っつーんだから大丈夫なんだよ! だいたい早く脱出しないとやべーだろ、万一騎士に見つかったらお前らの出世街道パーだろうが」

 俺は懲りずに途中途中息を切らしながらまた長々としゃべってしまう。

 ……だが、ただでさえこっちに付き合ってくれてんのに騎士に見つかってパーではもう俺の立場がない。


「見つけたぞ! 標的だ! 真ん中のガキを」

「――ホーリーブラストッ!」

「ぎゃああ!!」

 左側から出てきた紅蓮の覇王兵隊に見つかったがエルの速射で一人気絶した。


「はああッ! 凍刃斬ッ!」

 リードが水属性を付加させた斬撃で斬りかかる。

 一人が受け止め、もう一人がリードの背後に回った。

 それをエルの魔法で牽制しつつ、リードが対応する。


 その時、後ろにもう一人の気配を感じる。

 無意識に、右手のダガーを抜く。

「――ッ!」

 振り向いた直後、俺に風の刃が迫った。

 辛うじてダガーで見切り、風の魔素を“吸収”した。


「ちっ、不意打ちだったんだが、運のいい奴だ。だが次は仕留める!」

 兵隊か! うしろに隠れてやがったか!


「このぉぉ!」

 この距離じゃ、走っても魔法詠唱の方が早い!

 俺は吸収した風の魔素を付加させたダガーを投げる……が。


「うッ……!」

 血を失ったせいか、急に立ちくらみがしてダガーを落としてしまう。


「――ウインドエッジ!」

 兵隊の放った魔法が……、目の前を遮ったリードの肩を斬る。


「ぐッ、エル!」

「神聖なる天よ! 我らに仇なす者に天罰を――ホーリークロスッ!」

 兵隊に十字架が突き刺さり、声も無く兵隊は気絶した。


「リード! お前……」

「大丈夫、アークの首をねられるよりはマシさ。エル、頼むよ」

 エルの治癒魔法を受けながらリードは言った。

 確かに、あの魔法は首元を狙っていた。

 そして、“今の”俺じゃあれは避けられなかった。


 その結果、リードに怪我負わせて……。

 くそっ、マジで足手まといだな。

 立ってるだけでやっとで、兵隊の一人にすら手も足も出ない。

 

 腕輪の力があってこれだよ。

 この腕輪を外せば、たちまち倒れて動けもしないだろうな。

 

 ……あんな死体の山作っといて、肝心な時にこれかよ。

 あんなに、殺した後じゃ、俺はもうエイリアスに何も言えないな。 


 挙句、親友二人巻き込んで、なにやってんだよ俺……。

 もっと、強くならねーと、駄目なのかもな。

   

 とにかく、今俺に出来る事は、少しでも心配掛けない事。

 そして体力が尽きようとも走り続ける事。


 これ以上迷惑かけられっか!!

 ……と決意を新たにしていたら、最悪の自体が勃発してしまった。


「見~つ~け~た~ぜぃ!! 標~的アークと情報~盤!! な~んか仲間もいるみたいだ~けどぉ、誰からスクラ~ップにされちゃいたいのかなぁ?」

 まーた変なの来たよ!

 通路の向こうからやってきたのは、酒瓶片手にふら付きながら右手に持った小さいハンマーをジャグリングしている謎の男。

 酔いつぶれながら正確にハンマーをジャグリングしているのは感嘆に値する。


 ってそんな事はどうでもいい。

 男は茶髪で、年齢は多分30後半辺りか?

 服装はツナギで、空駆艇整備のメカニックを連想させる。


 ……けど、なんで飲んだくれているのかは不明。

 ヤケ酒ではなさそうだけど。


「……おい、とりあえずコレどこからつっこめばいいんだリード」

 俺は小声でリードに声を掛ける。


「知るか! ていうかなんで君の反応はそんなに普通なんだ! それにツッコミ専門の君がそれは一番分かってるんじゃないのか!? そもそもなんで選択肢がつっこむしかないんだ!? 今はギャグパートじゃないんだよ!!」


「お前がツッコんでどうすんだよ!」

「し、しまった!!」


 なんてふざけてしまったが、うん、これはヤバイ状況だ。

 相手は非の打ちどころもない位に変人だが、裏を返せばこんな変人はもう紅蓮の覇王の戦長クラスしかいない。

 一般ザコがこんな個性的であってたまるか。


「あなたは、何者ですか?」

 そんな俺とリードを抜いてエルは真っ向から話を投げかけた。

 目は真剣だ。


「おいお~い、この状況でそ~んな事聞いてる余裕あ~ると思ってんですかぁ? ま~、オ~レ優しいから教えちゃうけどねぇ」

 そこまで言うと、突然酒瓶を口元に運んでグビグビと飲み、ぷっはぁ~と広告に採用されそうな飲みっぷりを披露した。


「オ~レは第弐艦隊の10人いる戦長の1人、レェ~カル・ブラァ~ムスってんだぁ。分かったらと~っとと、スクラ~ップになってくれぃ」

 レーカルなのかレカルなのか判断に困る自己紹介を済ませると、男は酒瓶を腰の"酒瓶ストック"に差し込み、同じく腰にあるもう1つのハンマーを右手に持ち、俺に突っ込んできた。

 はやっ! 避けきれねぇ!


「そう簡単にはやらせないよ!!」

 やばいと俺が思った瞬間、リードが目の前に来て攻撃を防いだ。

 リードの剣とレーカルのハンマーがぶつかり合い火花が散る。


「おお~と、やっぱまずは周りの敵を排~除した方が良かったワケねぇ。失敗失~敗ぃ」

 と言い、軽くリードを押し返す。


「くッ……!」

 リードに隙が出来るがそれをカバーするように、


「神聖なる天よ! 我らに仇なす者に天罰を――ホーリークロス!!」

 エルが魔法を使い、レーカルに白い十字架が走る。

 しかしそこに既にレーカルは居なく、攻撃は外れた。


「いいかい嬢ちゃ~ん。魔法ってのは発動までのタイムラグが必ずあ~る。そのタイミングさえ読み切れば、なに、かわすなんて簡~単なコトなんですよぉ!」

 素早い動きでエルの正面に迫り、


「ッきゃあ!!」

 飛び蹴りを喰らいエルが吹っ飛ぶ。


「エル!! お前!」

 俺は居てもたっても居られず、ダガーを腰から抜き一気にレーカルに接近した!


「アーク! 駄目だ!!」

 リードは制止するがもう遅い。

 今いかなきゃ、エルがやべえ!


「エクススラッシュッ!!」

 俺は渾身の技を叩きつけるが、相手はそれを左手のハンマーで受け止めやがった。


「標的自らこっちにやって来るとは、まぁ~さに"飛んで火にいる夏の虫"という奴なんかなぁッ!!」

 野郎は語尾に力を入れ、左ハンマーでダガーを弾き、がら空きになった俺の腹に右ハンマーの一撃を入れた。


「ぐぅッ!!」

 俺は衝撃を感じ、地面を数回転がった。

 頭がグラグラする、意識が飛びそうだ。

 そして今ようやく、腹部の痛みが襲ってきた。


「うッ……ゲホッ」

 腕だけでも立ち上がろうとしたら、吐血していた。

 えっ、コレやばくね?

 

「残念ながらぁ、ココでゲームセ~ットってな訳だぁ!!」

 見上げると、レーカルが身下げてニヤリと笑っていた。

 やべえ死ぬ――


「ッ……っとぉ、なんだなぁ~んだぁ?」

 ――事は無かった。

 突然、目の前に赤い閃光が走ったからだ。

 レーカルは器用にも俺に突撃する寸前で後退し、体制を立て直した。


「間一髪ってとこだったみたいね~。アタイらの御客人に手ェ出したって事は、ちゃんと分かってんだろうね?」

 現れたのは、疾風の翼副長アイリだった。

 あっぶねぇぇぇぇぇなんというタイミング!!

 マジ死ぬかと思った!!


「はぁ~……なぁ~んだよ次から次へともうめぇ~んどくせぇなぁ……」

 レーカルはため息をつきながら左手のハンマーで頭をゴリゴリとかく。

 禿げるぞ?


「ガキ共。こいつはあんたらの敵う相手じゃない。ここはアタイに任せて先行きな!」

 おいそれ死亡フラグじゃ……。

 リードは俺に肩を貸し、俺はなんとか立ち上がれた。

 腹いてーな、内臓破裂したんじゃね?


「分かりました」

 立ち上がりながら、リードはあっさり許可。


「うぉい! 良いのかよ」

「悔しいけど今の僕らじゃ敵う相手じゃない。切り札の君もこんな状態だしね」

 確かに……体が全然思う様に動かない。

 さっきだっていつもなら受け止められた直後体を反転させて相手の後ろに回り込む事だって出来たのに……。


 っつーか俺何気に瀕死だ……。


「そうだな……悪かった」

 俺は自分の無力に歯がゆい思いをしながら言った。


「大丈夫。……行こう。今はアークの持つ情報盤の方が大事だしね」

 エルも珍しく悔しそうに歯ぎしりしながら言った。

 エルのこんな表情……見るのは初めてかも知れなかったが、今の俺はそれどころではなかった。

 後に聞いた話によると、この時俺達は皆同じ顔をしていたらしいし。


「アイリ……、済まねーけど後は任せた。 あと、死ぬんじゃねーぞ。マジでな」

 俺は後ろを振り向かず走り出しながら言った。

 声が出ねぇ、ホントはもっと大声で言いたかったんだが。


「ッたり前だ!!」

 アイリの声は自信に満ちていた。

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