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永遠の時の中で  作者: スピオトフォズ
第十章 全ては己の過ち故に
106/110

第106話「憎しみ故の共闘」


担当:ベネディ・ラグランジェ

はあ? あたしがあらすじ?

なんでこんなもんやらなきゃ……って、文句言ってもしょうがなさそうだねぇ。


まあいいさ。

今回はうざったい疾風の翼を狩ると同時に、“情報盤”とやらを奪いにあたし達は襲撃を掛けた。

あたしの任務は、艦橋にあるであろう情報盤を奪う事だった。


全員殺して、死体でもあさって探すかぁ~、と思っていたら、案外しぶといのがいて、結構楽しめた。

特にその中でもツンツン頭のガキは、どうにも死んでくれなくて、久々のいい相手だったよ!

なんか仲間殺されて相当怒っちゃってるけど、むしろそっちの方が楽しめて、最っ高だね!


結局、最後の最後で邪魔が入っちゃったけど、船内に落っことせば誰かが奪ってくれるだろうし、あたしは副団長二人と遊んでるとするかなキャハハハハ!



――――



「う……やべ……これは……死ぬ……」

 俺は、なんか助かったと思ったらベネディに放られ、紅蓮の覇王の船に落ちたようだ。

 バキバキメリメリと天井を突き破って俺は倉庫みたいな所に付いた。

 俺の体はさっきの戦闘と、体に少し残った毒、後は落下の衝撃で全身切り傷擦り傷だらけだった。

 それでも俺は、まだ生きていた。


「うぐ……おー……痛ぇ……ここ、どこだよ……ぐはっ!」

 俺は瓦礫の木の板を支えによろよろと立ち上がり、辺りを見回したら、吐血してしまった。


「はぁ……はぁ……」

 口元を拭う。

 くそ……血が足りねぇ……視界が揺らいできた……。


「いたぞ! こいつが情報盤を持ってる奴だ!!」

 おいおいおいおいおい。

 いきなり10数人に囲まれちゃってるんですけどこの状況で。


 あー駄目だ……もう何も……考えられない……。

 そうしているうちに、俺は諦めの笑いが込み上げてきた。


「奴は既に虫の息だ! やっちまえ!!」

 敵は各々武器を構え、一気に襲ってきた。

 だが――


「ぐあああぁぁぁぁッ!!」


 ――悲鳴を上げたのは、団員の方。

 俺は気がつくと、手にダガーを握り、迎え撃っていた。


「ククククク……アァーーーッハッハッハッハッハッ!!!」

 俺は堪え切れぬ笑いを盛大に爆発させる。

 男たちが思わず焦る。

 だがそんな事はお構いなしに俺は叫ぶ。


「……お前らそんなに俺を殺したいか……、ああもういいぜ……掛って来いよ。力尽きるまで相手してやるからよぉぉぉぉぉ!!」

 なんでか俺は、もうこんなに狙われる自分がおかしくなって、もうどうにでもなれ!! そんな感じで自棄になっていた。

 細かい事はもう考えられない。


 そんな思考力を使う力はもう残ってない。

 だからこそ、俺は思考を停止し、全てを活動……いや戦闘エネルギーにささげていた。


「な……なんだこいつ……!」

「く、狂ってやがる!!」

「な、何をやっている!! さっさとこ、殺s――ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 瞬間、そいつの肩から血が噴き出た。



 それから――俺は何がどうなったのか覚えていない。



――疾風の翼旗艦・甲板――



「ちっ……さすがは紅蓮の覇王の幹隊長を務める男……そう簡単には倒れてくれないか……」

 ハリスとクリスフォードが出会ってからわずか十数分。

 2人には全身に無数の傷跡ができ、互角の戦闘を繰り広げていた。


「そちらこそ、腕は衰えない物ですね。尤も、かつて『白銀の竜』と恐れられた頃に比べれば劣るかも知れませんがね」

 その言動からして、クリスフォードはハリスの過去を知っているようだった。


「おいおい。その頃の話は無しだ。昔話をするのはもう少し年を取ってからでも良いだろ?」

 おどけた様子だが、顔は笑っていなかった。


「それもそうですね。でも、おかしな話ですよねえ? かつて両手を真っ赤に染めたあなたが……今では人を殺さない義賊の代表を務めるとは」

 一方で、クリスフォードの顔は確かに笑っていた。


「…………やめろ」

 短く、ドスの効いた声で言う。


「かつて恋人をも手を掛けたあなたが――」

「やめろッ!!」

 ハリスの声は怒りに震えていた。

 しかしその反応を楽しむように、クリスフォードはニヤニヤと笑っている。


「おや、怒りましたか? 止めた方がいいですよ? 怒りは判断力を鈍らせます。こんな風にねッ!」

「――ッ!!」

 一瞬だった。


 先程まで一定の距離を開けていたクリスフォードの姿は消え、突然ハリスの目の前に現れる。

 そして手から光剣を出現させ、ハリスの首を狩り取ろうとする。


 ハリスは一瞬判断が遅れたものの、間一髪で薙刀を分解し左手の剣でその光剣を防御する。

 が、その衝撃で左手に握った剣が弾かれる。

 ハリスは脚に装備されている予備の剣を抜こうとするが、目の前の紫髪の男はそれを許さない。


 ハリスの腹に、強烈な蹴りをお見舞いする。

「ぐッ!!」

 そのままハリスは、数m転がった。


「あなたらしくありませんねぇ」

 2人の実力はほぼ互角だった。

 そこに、『怒り』というイレギュラーが入る事によって均衡が崩れた。

 今は、ハリスが圧倒的に不利だった。


「消えなさい。――大気に散らばる無数の光子よ! 我が手に集い、凝縮し輝きを増し、光弾と化し射出せよ! フォーカスレーザーッ!!」

 クリスフォードの左手から、1本のレーザーが放たれた!


「…………ッ!!」

 転風壁でも防げるかどうか分からないような攻撃を――ハリスはまともに受けた。

 船の壁面で巨大な爆発が起き、そこら中に破片が散らばった。


「ふう……随分と、あっけない最後でしたね」

 クリスフォードが背を向けようとしたその時。

 声が、聞こえた。


「……探したぞ」

 女の声だった。

 しかも、その声は煙の向こうから聞こえてきた。


「……誰だ」

 クリスフォードの顔から笑みが消える。


「私の名は、エイリアス・ラクシリア。貴様に復讐にやってきた」

 煙の中からやってきたのは、銀髪赤眼の女性。

 盗賊団を憎む、氷の魔術師エイリアスだった。


「……ほう? あなたが例の、盗賊殺しで知られるあの女性ですか」

 クリスフォードの顔は再び笑った。

 その名は、クリスフォードも耳にした事はあった。

 彼女のせいで2個船団くらいは戦闘不能に陥れられたのだから。


「ふっ、私の顔を覚えていないのも無理は無い。だが、私は貴様の顔を忘れた事は無いぞ。ベヘロック村、と言えば分かるか?」

 ベヘロック村、という単語を聞いた瞬間に、クリスフォードの顔つきが驚きに変わった。


「……これは驚いた。おかしいですねぇ、あの村人は一人残らず殺したと思っていましたが」

「なんにでも例外と言うのはあるものだ。お陰で私はあの日全てを失ったよ。この日の為に、利用できるものは全て利用して来た。全ては、貴様を殺す為だ。無論、そこにいる男も殺すが」

 エイリアスは、ちらりとハリスを見る。


「それは結構。……しかし、その貴方が彼をかばうのはどうしても解せませんね」

 そう、エイリアスは氷の壁で、ハリスに直撃するはずのレーザーを防いだのだ。


「簡単な事だ。奴は私が殺す。誰にも邪魔はさせん」

 エイリアスはチラリとハリスを一瞥し、レイピアを抜きながら言った。


「はっはっは。あなたも随分と損な人間ですねぇ。まあいいでしょう。その刃を私に向けるのであれば、全力で応戦してあげますよ」

 ここでハリスを見殺しにしておけば、後はクリスフォードと戦うだけで良かったのだから、まさに損という他ない。

 だが、エイリアスにとっては、それよりも優先すべき戦いがあったのだ。


「待てよ。俺を勝手に置いて話を進めんな。エイリアス、質問だ。今のお前の敵は誰だ」

 ハリスが立ち上がり、クリスフォードとの戦いでボロボロになったスーツの汚れをパンパンと叩き、シルクハットをかぶり直しながら言った。


「目の前の、最も憎き仇さ」

 彼女はクリスフォードを睨みつけながら言う。


「「お前は(貴様は)いずれ倒す。部下の(家族の)仇としてな」」

 2人の声が重なり合い、互いに言葉を投げかける。


「「だが、今の敵は、目の前のクソ野郎だッ!!」」

 2人の刃が交わり、その矛先がクリスフォードへと向けられた。


 ハリスは、なぜエイリアスが自分を助けたのか、なぜ共闘まで許すのか、そもそもどうやってここに来たのか、その全てが分からなかった。

 だが、今はそんな事はどうでもいい。

 重要なのは、敵か、どうかだ。


 仲間の恨みは、確かにあった。

 しかし今は、安易に敵対すべきではない。


 優先すべきは、アーク達の安全の確保と、この船を護る事だ。

 その視点から考えれば、彼女は『援軍』と捉えて良い。

 ハリスはそう判断した。


 状況は、好転した。


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