第7話 空色リボンの猫に「恋」する、浴槽の神鼠
晩餐会後、神羊宮の客間に通されると、
侍従たちを下がらせ、準備されていた浴室に向かった。
僕は、盛装をさっさと脱ぐと、
バラの花びらが浮かべられた豪華な浴槽に勢いよく飛び込んだ。
僕は揺れる水面をしばらく眺めたが、
「アーッ!!!!!」と叫んで顔を湯に沈めた。
「いかがなさいましたか?」
浴室の外から声が掛かる。
僕はバシャッと顔を上げると「何でもない。一人にしてくれ。」と言って、
今度はズルズルと湯に沈みながら天井を見上げた。
天井にも豪華な装飾が施してある。
僕は目を閉じた。
この3年間、神鼠と猫族を属性から解放するため、
僕はあらゆることを研究し、訓練を積んできた。
その中心になったのが、「神通力の最小化」。
僕は、幼いころから、自身の強力な神通力をさらに最大化し、
操作する方法を訓練し続けてきた。
しかし、そればかりでは、猫族の憎悪と食欲は増すばかりだ。
むしろ、神通力を最小化できれば…
最大化も最小化もその中間も…神通力の微細な操作を柔軟に行えればよいと考えたのだ。
これは、思うよりもずっと困難だった。
神鼠はその強大な神通力が存在の根拠。
ましてや僕は、人がいうところの「1000年に一度」の神通力の保有者。
最小化、微調整といった操作の方がはるかに難しかったのだ。
それでも僕は、トロス騎士学校を卒業した先月には、、
猫族が獣化しないで済むと予想される「神通力の最小化」を会得した。
それなのに…!
祈るように座り込んで泣きじゃくる後ろ姿と、
ちょっと大人になった、涙まみれのリヒトさんの顔を見て、
神通力の最小化などすっかり忘れて近づいてしまったのだ。
「髪が伸びてたな…空色のリボンで結んで…」
僕は顔の半分まで湯に沈めた。
空色の…
後ろ姿なんか、今の僕なら、抱きしめたらホロホロと砂糖菓子のように溶け崩れてしまいそうだ。
あの大粒の涙を、いつかのテオみたいに、大きくなった僕の指で拭ってあげて、
そして……
そこまで考えると、僕は慌てて上体を起こした。
これ以上考えるのは危険だと思ったのだ。
そのとき、再び浴室の外から声が掛かった。
「オスカー様がお出でです。お通ししますか。」
「すぐに通せ。」
僕は浴槽から出ると、ズボンだけをはき、タオルをかぶって客間に戻った。




