第6話 再会の第一声は「馬鹿シリウス」
私は、ビクリとして、耳だけその方向に向けた。
すぐには嗚咽を止められず、何とか目だけを後ろに向ける。
私の目が後ろの人物を捉える前に、その声が近付いてきた。
「大丈夫ですか…?」
私はバッと大きく振り向いた。
そこには、黒いマントを目深にかぶった長身の男性が立っていた。
帽子の陰で顔はほとんど見えないが、口元に大きな傷跡が見える。
私は、残った嗚咽をすすりながら、茫然とした。
「やっぱり、リヒトさんだ…」
男性は、グッとマントの帽子を下ろした。
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それは、「見たことのない」青年だった。
背が高く、肩幅は広く、
彫像のように神々しい顔立ち、
薄闇の中でも光り輝く銀色の髪、
思慮深く煌めくアクアマリンの瞳…
声を出そうとして、喉が詰まる。
「リヒトさん…僕のこと、分かりますか…」
青年は、少し悲しそうに尋ねながら、私にゆっくり近づいてくる。
私は、何とか、その名を呼ぼうとしたが…
瞬間に、青年の足がピタリと止まった。顔が青ざめている。
同時に、私も、足のつま先から、彼への憎しみと食欲が黒い粒子のように沸き上がるのを感じた。
彼の血肉の味と匂いが、私の中で充満する。
なぜか青年は「しまった!」と言うなり
「神通力 封殺!」
と詠唱した。
私は、青年に背中を向けて、力の限り走り出した。
「待って!リヒトさん!!」
青年が後を追ってくる。
私は叫んだ。
「ば、馬鹿シリウス!!!!!!
ついてくるな!!!」
理性を失う前に、一秒でも早く、一ミリでも遠くへ、遠くへ…!!!
しかし、私は走りながら、体から憎しみと食欲が消えていることに気付いた。
あっけなく消えていることに驚いて立ち止まると、
息を切らしながら振り返った。
……しかし、青年は追って来ていなかった。
それでも、私は未練がましく立っていたが、いつまで待っても、
再びあの青年は現れなかった。
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「ば、馬鹿シリウス!!!!!!
ついてくるな!!!」
シリウスは、「違うんだ!僕は…」と言って追いかけようとしたが、
背後から「大王様!」「こちらでしたか!」という声と共に、
多くの従者と馬が現れた。
シリウスは唇を噛んで、リヒトが去った方向を見やった。
「さあ、お急ぎください。晩餐会がもうすぐ始まります。」
シリウスは一瞬目を閉じ、拳を握りしめたが、くるりと従者たちに向き直り、
「手数を掛けたな。行こう。」
と歩き出し、馬にまたがると、神羊の宮殿に向かって風のように走り出した。




