第4話 猫は神鼠の髪に口づけをする
オスカー王の就任十周年式典の当日。
シリウス大王の初めての訪問、しかも、オスカー王と共にパレードを行うということで、
州都は、朝から上を下への大騒ぎとなっている。
飾りをつける者、場所取りをする者、物を売る者、警備を行う者、興奮して走り回る者…
それは喧噪というより、一世一代の祭りという喜びに満ちていた。
***********
「シーリン、もうすぐパレードが始まるよ!行かないの?」
「私は留守番するわ…楽しんできて!」
同僚たちは皆、出払った。
私はペンを置いてため息をつく。
メアリは言っていた。
シリウスは、背が高くて、男らしいと。
私の記憶では、まだ私とそれほど変わらない身長、
良く鍛えられているものの、まだ少年らしい体つきで、
美しい顔はどちらかといえば中性的だった。
この3年間で、シリウスが、ツヴェルフェト大学だけでなく、
神亥ハバリーの体技学院や神牛トロスの騎士学校も卒業したことには、
少なからず驚いた。
強いことは【覗き】でも知っていたが、
そこまで体技や剣技に振り切るとは思わなかった…
あまりに頭脳明晰だから、ツヴェルフェト大学くらいでは物足らなかったのか…
シリウスのことだから、公務もおろそかにせずに、必死に学業と両立したのだろう。
素晴らしい体技と剣技を身につけたに違いない。
どんな顔に、
どんな体に、
どんな声に、
どんな大人に、
なっているのだろう。
子供の3年間は、長くて、重い。
私が、名前も過去も捨てて、夢中で仕事をし、
彼に近づかずに、静かに生きていく道を模索する間に、
彼はどれほど成長しただろう。
************
私は、首にかけた銀色のロケットを取り出した。
内蓋の片方には、小さなアクアマリン色の石を埋め込んであり、
もう片方には…
1本の、光り輝く銀色の髪を入れている。
この銀色の髪は、3年前、コルデールに着いたときに来ていた服…
…大神殿の官吏として支給された黒いワンピースについていたのだ。
与えられた部屋でこれを見つけたとき、どれほど泣いただろう。
どうして、私の服に、この美しい銀髪がついたのか…
どうして、その後すぐに、別れが訪れたのか…
おそろしいことに、私は、
首都ディモイゼを離れても、
完全に理性を取り戻しても、
あの血肉を最高に美味だったと思っている。
噛みしめた彼の肉、
舐め回した彼の血…
今でも…今でも!
今日、州都を訪れるシリウス。
一目でもいいから見たい。
見たくないわけがない。
でも、一目見た瞬間に、何が起こるか分からない。
次に理性を取り戻したときに見る光景は、
自分がシリウスを食い散らかした画かもしれない。
************
私はロケットを閉じて握りしめた。
駄目だ、やっては駄目だと思いつつ、そっとロケットに口を付けた。
一度やってしまうと、もう止められず、
私は銀色のロケットに何度も何度も熱い口づけをした。




