第22話 神鼠と猫が 喘ぐときには
僕の心臓は、緊張と興奮で、息苦しいほど激しく鼓動している。
僕は一度、そっと口を離し、薄目を開けてリヒトさんを見た。
リヒトさんは、林檎のように髪の付け根まで赤く染め、少し荒い吐息をついている。
僕は次の接吻を続けようとした。
が、急に、この僕の穢れた口をつけていいのかという思いが、針のように胸を刺した。
口だけじゃない、全身隙間なく穢れているこの僕が。
馬鹿な、僕が自分から穢したんじゃない。
でも、彼女に打ち明けなくていいのか?
そのとき、リヒトさんの両手が滑るように僕の顔を包み、
そっと僕の口の傷に触れて言った。
「【封殺】をかけて…」
口づけ一つで、お互いに気兼ねをしなければならない苦痛が突き上げる。
僕は、額の刻印を、彼女の額につけた。
「神通力【封殺】」
彼女は、夕日色の目で僕を見つめながら、僕の首に優しく手を回した。
僕の頭は真っ白になった。
「もう、遠慮はしません。」
タガが一気に外れ、
僕は、彼女の顔中に口を押し当てた。
額、
眉毛、
こめかみ、
瞼、
頬、
鼻先、
唇の隣、
顎
耳…
「シリウス…だめ…こんな…ところで…」
リヒトさんは、喘ぎながら顔を逸らそうとする。
「僕は…遠慮しないと言った…」
僕も喘いでいる。
もう一度リヒトさんの顎を持ち上げて顔を見ると、
僕の唇を浴びせられたリヒトさんの顔は、
もう、大人の女性のそれだった。
僕は、荒い息のまま、彼女の蕩けそうな口唇を吸い尽くそうとした。
その時。
****************
「ギャァァァァァァァァ――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!」
耳を劈くような、
女性の断末魔の叫び声が闇を突き破った。
瞬時に僕はリヒトさんの背中を木に押し付け、全神経を尖らせて周囲を窺う。
「神路開放 神通力 【独楽鼠】」
僕のもとから数百匹の透明な鼠が一気に走り出る。
周囲の異変を僕に伝達する駒だ。
同時に、僕はリヒトさんを肩に担いで、叫び声の方角に走り出した。
「借りるよ、レン!…神通力 神鶏【飛鳥】」
ワッというリヒトさんの叫びと共に、僕は空高く飛び上がると、
叫び声の方角に幾つもの黒い人影を認め、一気に飛んで行った。
しかし、目の前に展開する光景に、
そして、その人物に、
僕は絶句した。
が、空から「ダンテス!!!!!」と呼び、その人影が現れると、そこに飛び降りた。
「十二支以外、西の回廊に誰も入れるな。
独楽鼠の報告を聞き、殺さずに全員捕えろ。
行け!」
と指示し、猛然と走り出した。
「何があったの…!?」
と肩に担がれたまま小声で聞くリヒトさんに、
「僕から離れる方が危ない。
一緒に行く。
今は何も聞くな。」
と伝える。
その時、西の回廊脇にある噴水に到着した。
「来た来た。さすが大王様、一番乗りィ…」
少女の髪を掴んで引き上げ、
その胸に短剣を突き立てている、
一人の少年が、ゆっくりと振り返った。
それは、神竜フレドリックだった。




