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第2話 神鼠の花嫁、猫への求婚者

挿絵(By みてみん)



「は…花嫁候補…って、大王様は…もう婚約している…んじゃないの?」


「えっ!?そうなの!?シーリン、それほんと!?」


「や、あ、あの、大王様だから、早いうちに…お姫様と婚約しているのかなって…思っただけ…」


リヒトは口ごもり、どんどん声が小さくなっていく。


「なんだ、びっくりした!イザベルが聞いたらひっくり返るわよ。

婚約していたら、イザベル、花嫁候補として晩餐会なんか行かないでしょ?」


「…そう…そうよね…」


リヒトは、自分の胸の鼓動がメアリの耳にも届いている気がした。


シリウスはもう16歳…


3年前、自分が再生(リザレクション)計画のために大神殿にいたときは、

竜族の姫君マリア様との婚約の「予定」が「婚約」に確定するのは、

シリウスが15歳になったとき、とされていた。


それが、延期に…?

もしかすると、破談…?


リヒトが、マカロンを一口かじることもできない中、

メアリは浮かれた様子で次々とマカロンを口に放り込んで会話を続ける。


「でも、その晩餐会は、イザベルと同じくらいの女の子だけじゃなくて、

かなり年上の方だったり、小さい女の子だったり、

とにかく、シリウス様を狙う花嫁候補で溢れかえっていたらしいわよ。」


メアリは自分で言って吹き出している。


「私も一度でいいから、シリウス様とダンスしてみたかったわ…

公務をこなしながら、13歳でツヴェルフェト大学…

その後は、ハバリー体技学院、トロス騎士学校…

…全部首席で卒業よ?

それに、若くて美しいなんて…

晩餐会では、シリウス様があんまりにも美貌で、美しい声でお話しになるもんだから、

気を失った令嬢もいたらしいわよ!」


リヒトの頭を、ワルツを歌いながらダンスをリードし、

鼻先が付く距離で自分を見つめる、

輝くアクアマリンの瞳がよぎっていった。


全てを背負い、

全てに立ち向かい、

全て得られない、

気品と威厳に満ちた君。


「そうそう、口元にすごく大きな傷がおありで…

北方民族が攻めて来たとき、シリウス様自ら剣をとって戦った時にできたって話でしょ?」


リヒトの顔からサッと血の気が引いた。

気付かず、メアリは続ける。


「イザベル、ダンスの時に『もう痛くないのですか?』って聞いちゃったんだって!」


リヒトは紙のように青ざめている。


「そしたらね、『これは、名誉の傷跡です。』ですって!

イザベル、もう、溶けちゃいそうだったって!

なんて素敵な大王様なのかしら…」


リヒトの方は、息も絶え絶えに、自分の指で自分の指を、皮が破れるほど力一杯引っ張っている。


しかし、メアリは、リヒトの分のマカロンも口に放り込みながら、

あっさりと現実的な口調に戻った。


「まあ、でも、夢は夢のままがいいのかもね。」


そのメアリの言葉に、目が覚めたようにリヒトは顔を上げた。


「夢は…夢のまま…」


「…まあ、シーリン、どうしたの?顔が青いわよ?」


リヒトはハッとして、それから、メアリに優しく笑った。


「何でもないわ。

ほら…メアリの…ブライアン様だって、普通の人から見たら夢のような殿方よ?」


「フフ、ありがとう!知ってるわ!…なんてね。

…ねえねえ…それより…」


メアリは、リヒトにいたずらっぽく微笑み返した。


「シーリン、ジェイクの求婚はどうするの?」


「ジェイクさんの?…あれは最初からお断りしてる。どうして?」


「だって、ジェイク、全然諦めてないじゃない…

毎日のように手紙をもらってるの、知ってるわよ!」


「…でも、私は…興味がないから…」


「うちの大番頭ロムニーの息子よ?

自己陶酔なところはあるけど、頭はいいし、何より貴女に夢中じゃない。

ロムニーだって乗り気だし…」


(ジェイク?あの人から抱き締められるなど、想像すらできない。)


リヒトは、「僕も会いたかった、リヒトさん」と耳もとでささやいたシリウスの、

喘ぐような熱い吐息を思い出して、

胸が張り裂けそうになった。


「今日は忙しいから、もう行くわ…ドレスはまた今度選ぶから!」


リヒトはメアリの方を見ずに、急ぎ足で部屋を出た。


メアリは、後ろから見てもはっきり分かるほど紅潮した頬と耳に唖然としながら、

リヒトを見送った。


「シーリン…そんなに、ジェイクのことが好きなの…?」



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