表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

第17話 神鼠は猫に「来い」と叫ぶ

挿絵(By みてみん)



「私…今から、コルデール宮に行こうとしてたの…」


僕は、もう一度、腕で自分の涙を拭った。


「私、何してるんだろうって。

シリウスに真正面から聞く勇気もないくせに、

自分の望む答えをただ待って…

望んだ答えが聞けなかったら、勝手に傷ついて…」


リヒトさんは話しながら、怖気づいたような足取りで、それでも、一歩階段を降りた。


「自分でも、何が聞きたいのか分からない…

シリウスに何を話せばいいのかも…

3年前に…答えられなかったこともあるのに…」


僕は、階段を一歩上がった。


「もう呆れられたかな…って思ったけど…急いで…荷物をまとめたの…

みんなにお別れをしたり…謝ったり…」


リヒトさんは立ちすくんだ。


僕はゆっくり階段を上り始めた。

リヒトさんは懸命に話し続ける。


「どうしても時間がかかってしまって…

だから、『必ず行きます』って…使者も出して…

馬車も呼んでもらったの…」


僕は、自分が避けた使者や玄関前の馬車のことをハッと思い出し、

思わず足を止めた。


「さっき、シリウスが来たとき、怖かった…

もう一緒に帰らないって…言いに来たのかと…」


僕はかすれた声で「そんなわけ…」と言いながら、

階段を一歩、二歩と上った。

すっぽりとかぶったリヒトさんのフードが震えている。


「ア――――ッッ!!!」

突然僕は、上を向いて叫ぶと、足を止めて、右手で僕の頭をガチンと殴った。


リヒトさんはハッとしたように僕を見た。

ようやく、僕とリヒトさんの目が合った。


「リヒトさん…

僕と一緒に、

大神殿に、

帰ってください。」


リヒトさんの夕日色の瞳から涙がこぼれ落ちて、

口は何か言いたげに微かに動くが、

足が階段に縫い付けられたようになっている。


僕はもう、何もかもかなぐり捨てた。


両手を大きく広げると、力一杯叫んだ。


「リヒトさん!!!ここに、飛んで来い!!!!!」


リヒトさんは大きく目を見開いたが、

次の瞬間、しなやかな身体で羽ばたくように、

僕の腕の中に飛んで来た。


僕は、腕の中に飛んで来た小鳥のような(リヒトさん)を包み込んで、

思い切り、

思い切り、

思い切り、

抱き締めた。


もう言葉は浮かばなかった。

この瞬間、この国が滅んだとしても、

僕は気付かなかったろう。


リヒトさんが身体を動かした。

僕は、(リヒトさん)が逃げ出さないかと慎重に腕を緩める。


リヒトさんは僕を見上げた。


「私も、

シリウスと一緒に、

大神殿に帰りたいです…」


僕はいきなり、彼女の顔を、頭ごと両手で抱えて覗き込んだ。


言葉の存在自体が頭から吹っ飛んで、

僕は、まばたきばかりして彼女の顔を見つめる。

リヒトさんは、生真面目な表情で僕を見上げている。


僕は、リヒトさんの顔を抱えたまま、指で前髪を少しかき分け、

ゆっくりと、彼女の滑らかな額に口づけをした。


周囲から嗚咽の声が聞こえてきた。

そっと周りを見渡すと、ハードウィック家の使用人たちが、

ある者はハンカチを取り出し、ある者は互いに肩を抱き合って泣いている。


僕は、半刻以内にコルデール宮に戻らなければならないことを、思い出した。


僕は背筋を伸ばし、胸を張ると、改めて周りを見渡して一礼をした。

リヒトさんを抱き上げると、そのまま、馬の方に向かった。


*********

リヒトさんを先に馬に乗せていると、「シーリン!」と呼ぶ声がする。

振り向くと、例のハードウィック家のご息女だ。


「メアリ…」

「さっき落とした貴女の鞄よ!それと…」


メアリ嬢は空色のつややかなリボンをリヒトさんに手渡した。


「昨日、首につけたリボン!これからも使って!」


それから、僕に「大王様」と礼をする。

僕が「どうぞ、Madam(マダム)?」と促すと、メアリ嬢は、


「シーリンは、この3年間ずっと…ずっと、真面目に働いてくれました。

決まった人どころか、浮いた話一つなくて…

求婚したり、言い寄る人がいても、見向きもしなかったんです。

昨日のジェイクのことは、私が早とちりをしてしまっただけで…

それだけは、保証いたします。」


と懸命に訴える。


僕は、リヒトさんに聞きたい、

それも非常に重要なことを聞かせてくれたこのご令嬢に心から感謝して、

その手を取って口をつけた。


「ありがとうございます、Madam(マダム)

貴女に幸多からんことを…」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ