表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/26

第16話 リヒトさん、僕と一緒に大神殿に帰りましょう

挿絵(By みてみん)


僕は、裏手の門に行くと、そこにいた馬を借り受けて、慌ただしく駆け出した。


空っぽの頭が「リヒトさん」という言葉に埋め尽くされていく。


あの日、あの時、僕は、血だらけの僕自身を鏡で見ながら、誓ったじゃないか。

必ず、リヒトさんを「迎えに行く」と!


急に飛び出したどこかの使者を慌てて避けたとき、

僕は気を引き締めなおした。


僕は一心不乱に、ハードウィック家に向けて馬を駆け始めた。


*********

ハードウィック家に着くと、そこにいた馬車の隣に馬をとめる。


さざ波のように僕の名前が館の中に伝播していき、

執事や使用人が即座に何人も飛び出してくる。


僕は、機械的に挨拶しながらも、足を止めず、顔も向けず、大股で館に入った。


「リヒトさんはいますか。」


「は、はい!」


「どこですか。僕が迎えに行くので、教えてください。」


「あ、あの…」


と、使用人の一人がサーキュラー階段の上の方を指し示す。


階段の上では、メイドの一人が、目を横にやって「こちらです」と合図をしてくれている。

僕がそちらを見ると、確かに、壁の陰に黒い人影がある。


「リヒトさん!」


僕は立ち止まり、上を向いて大声で呼んだ。


「僕は分からないんです!

貴女が何を聞きたいのか!

僕が何を伝えればいいのか!」


僕の心は張り裂けそうだ。


「僕は…貴女に会うために、この3年を過ごしてきた!

貴女を迎えに行って、貴女と大神殿に帰りたかったから!

でも、そればっかりで…僕は…」


僕はいったん黙った。

込み上げるものを飲み込むため。


「ああ、何を言えばいいのかな…」


僕は髪を掻き回した。


「僕だって、貴女に聞きたいことがあるんだ。

貴女には、もう心に決めた人がいて…」


僕はもう一度黙った。


「…そういう人がいて、だから…」


僕は顎の下が激しく震えるのを必死でこらえた。


黒い人影が揺れる。


「…分からないことだらけです!

何が分からないか、分からないくらい!」


僕はもう声の震えが止められない。

黒い人影がそっと出てくる。

僕は必死で呼びかける。


「僕は忙しい。この国の大王だから!

でも、なんとか時間を作って、答えます。

貴女が聞きたいことに!」


とうとう、僕の目から涙がボタボタと落ちた。


「鈍感な僕が、違うことを答えたら、

噛みついてくれたっていい。

貴女に噛みつかれたくらいじゃ傷つかないほど、鍛えたんだ!」


僕は腕をまくって、上に掲げて見せた。

でも、涙で黒い人影はかすんでいる。


「貴女が結論を出すのは、それからでいいでしょう?

僕に、時間をください!」


僕はまくった腕で涙を拭った。

でも、もう腕から顔が上げられなかった。


僕はそのまま、力を振り絞って叫んだ。


「リヒトさん、僕と一緒に大神殿に帰りましょう!!!!!」


恐ろしいような一瞬の沈黙が訪れたが、それはほんの一瞬で、かすれた声が僕を呼んだ。


「シリウス…」


僕は頭が真っ白なまま、声の方を見上げた。


そこには、大神殿の官吏のローブを着て、大きなフードをかぶり、

小さな鞄を両手に下げたリヒトさんが立っていた。


僕は何かを言おうとしたが、声にはならなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ