第11話 大王の歓喜 神通力の最小化に成果あり
「しっかり僕につかまってください。」
横座りの私は、シリウスのパリッとしたワイシャツにしがみついたが、
ボタンが大きく開いていたので、
彼の胸元や、首の傷が露わに見えてしまった。
鍛え上げられた身体に驚いて、思わず手を離す。
大きく体勢を崩してしまったが、即座にシリウスが片手で私を抱えなおす。
「大丈夫…リヒトさんのつかまりやすいようにしてくれれば…
僕はどこでも支えられますから。」
私はそろそろとシリウスの首に手を回した。
「もう一度、身体を見たい」などという欲望に向き合う勇気はなかったから。
ああ…3年前と違う。
朝昼晩と思い出し、何度も何度も夢に見たあの少年は、
こんなにも逞しく、大きく成長したんだ。
**********
シリウスは黙っている。
私も黙っている。
たくさん、聞かなければいけないことがある。
でも、一つでも聞くと、また、別離が訪れる気がする。
それなら、永遠に黙って、彼の腕に包まれていたい。
シリウスは、何かから逃れるように、馬の脚をどんどん早める。
私は思わず、彼の首に強くしがみついた。
***********
白馬は町の外に走り出た。
沈黙の均衡を破ったのは、シリウスだった。
「僕は、今、貴女に対して、神通力を最小化しています。」
私はよく分からずにシリウスを見上げた。
「これだけ僕と密接していても、貴女にはほとんど僕への憎悪や食欲がないはずです。
どうですか…?」
「あ…確かに…ない…」
シリウスは私の方にパッと顔を向けた。
「本当ですか?」
「あ、うん…」
「やったあ!!!!!」
私が吃驚してシリウスを見ると、彼は片手を空に突き上げている。
「やった…!やった…!!」
今度は馬上で、私を器用に抱えたまま、前傾姿勢で拳を握りしめている。
「どうしたの?大丈夫?…大丈夫?」
泡を食った私は、シリウスの頬に手をやった。
「降りましょう!リヒトさん!!」
と言うなり、シリウスは馬を止めた。
そこは、昨日私が「馬鹿シリウス」と叫んだ小高い丘。
シリウスは飛び降りると、私に手を差し伸べた。
と思うと、私の腰を両手で抱えて、くるくる回り始めた。
「やった!やった!!リヒトさん!!!やりましたよ!!!」
「ちょっ!!!
シ…シリウス!!!シリウスーー!!!!!」
「アハハハハ!!!」
シリウスは満面の笑みで私をようやく地上に降ろす。
シリウスが笑うと、大人びた雰囲気が消えて、愛らしい天使が来たみたいだ。
でも、私は目が回って、腰からストンと座り込んだ。
ぐらりと地面に倒れそうな瞬間に、隣に座ったシリウスが、私を膝の上で抱きかかえた。
このわけのわからない状況を恨みがましく思って目を開けると、
シリウスが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
あまりの顔の近さと、見慣れない美貌に恥ずかしくなって、私は横を向いた。
「ごめんなさい、リヒトさん。
…僕、この3年間、ずっと訓練してきたんです。
神鼠と猫族が、属性から解放される方法を…
それが、神通力の最小化なんです。」
私はピクリと固まった。
「すごく難しくて…神通力を、一つの、意思のある動く対象だけに最小化して、
その他には最大化したり、並行して発動したり…」
私は、膝に抱かれたまま、シリウスの方に顔を向けた。
シリウスは遠くの町に目を向けている。
これまでの3年間に呼び掛けるように。
「大きい神通力を限りなく小さくする、ということ自体もなかなかできなくて…」
私は手をついて起き上がった。
そんな話を、寝転がったまま聞けるはずがない。
「昨日は…最小化をしてなかったの…?」
「はい…貴女が泣いているのを見て、心配になって、忘れてしまって…」
私は、自分がひどく恥ずかしくなった。
「ああ…でも…」
シリウスは急にゴロリと仰向けになり、アクアマリンの瞳をゆっくり閉じる。
「やっぱり、実際に操作すると、力を使うんだな…」




