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第10話 泣いている女性は さっさと抱き締めて

挿絵(By みてみん)


サーキュラー階段の上から見下ろすと、

既にジェイクが玄関に立って、笑顔で私を見上げていた。


「見違えたよ、シーリン。

僕のためにこんなに美しくなってくれて、嬉しい。」


口一杯に砂を突っ込まれている気がする。


「シリウス以外の誰か」と一緒に生きていくということは、

スタート地点ではこうなるものなんだろう。


…私は、口の中の砂を飲み込むように、自分に言い聞かせた。


ジェイクは私の手をとり、ねっとりと口づけをした。


「今日は一日君と過ごせることが楽しみだ。」


その瞬間、私の脳裏に、

テオ様の言葉の…昨日、抜け落ちていた、大事な部分が蘇った。


『僕かて、誰でもええわけちゃうわ。』


でも、皆が私たちを見て喜んでくれている。

逃げ場はない。

ジェイクはなかなか唇を離さない。

力を込めても引き抜けない。


目から涙が流れ落ちた。


ようやくジェイクは、その鬱陶しい唇を私の手から離した。


「涙を流すほど喜んでるの?僕の可愛いシーリン…」


**************


そのとき、外が異様なまでにどよめいていることに、私も含めた皆がハッとした。


「…そう。リヒトさんという名前の…」


「うちにはおりませんが…まずはお入りくださいませ。」


人々のどよめきと共に、涼やかな声が、風が舞い通るように玄関に入ってきた。


「黒い髪で、夕日色の瞳の女性です。

ああ、失礼、ここでは『シーリン』と…」


そこで、涼やかな声の主は、

ジェイクに手を取られている私に気付き、こちらを向いた。


コツ…コツ…


白シャツ、ズボン、皮ベルトという、これ以上ない簡素な服装なのに、

そこだけ光が差し込んでいるかのよう。


コツ…コツ…


誰もが息を飲んで見守る中、青年は美しい足音でジェイクと私の方向に向かってくる。

その輝くアクアマリンの瞳を、私から逸らさない。


「泣いているのですか…?」


「か、か、彼女は、私と出かけることが嬉しいんだ!」


「そうなんですか…リヒトさん?」


私は必死に首を横に振った。

「え…?」というジェイクの声がする。


「失礼、Mr(ミスター)…この女性と今日の約束を?」


「恐れ入ります、あの…サプライズで、ジェイクとデートさせようと…

シーリンを連れてきたんです…」


メアリが、震える声で、切れ切れに説明する。


「なるほど…では、失礼。」


というなり、青年は…シリウスは、

ジェイクが手を握ったままの私を、羽根のように軽々と抱き取った。


「昨日、オスカーに言われたんだ…」


シリウスは、私を抱き上げる腕に力を込めた。


「泣いている女性は、さっさと抱き締めろってね!!!」


輝くような笑顔を浮かべると、そのまま玄関に向かって歩き出す。


誰もが身じろぎ一つできなかったが、シリウスと私が玄関を出ると、

ようやく、この家の執事が「だ、大王様!」と急ぎ足で近寄る。


「お騒がせした。」


白馬の前で立ち止まったシリウスの声が、頭上で響く。


「今日はこの女性(ひと)を…」


勢いをつけられたかと思うと、いきなり、私は、宙高く放り投げられた。

驚く間も、叫ぶ間もない。


シリウスはひらりと白馬にまたがると、

差し伸べた腕の中に、宙から落ちる私を羽根のようにふわりと抱きとめた。


「僕が連れて行きます!」


晴れやかに言うと、馬に鞭をあて、風のように走り出した。


************

誰もが口を開けて見送っていたが、

ようやくメアリが、申し訳なさそうにつぶやいた。


「ごめん、ジェイク…埋め合わせはする…」



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