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わたしは悪い闇魔法使いじゃないよ?

 動けない。あの両の眼に捉えられてから動くことができない。くっ、もう・・・・限界だ!

 「ほい、どうぞ。」

 「ワン!」

 「うふふ、この子すっかりタツリさんに懐いているわね。」

 「そうなんですかね?」

 

 ヒェーロさんの家でお世話になって今日で5日目。すっかりこの家でくつろぐのに慣れてしまった。今までは平原や森の中を歩き回っていたからケモノ肉や果実が主な食生活だったけど、ここではそのほとんどが魚・海藻・貝類などの海鮮系。そして今もヒェーロさんの作ったシャケーモン(シャケのようなもの)を小麦粉につけて焼いたムニエル的なやつを食べてその味に舌鼓を打っているのだが、それをのんびりとは楽しめないでいた。理由は今も僕にその両の眼を向けてくるヒェーロさんの愛犬ノリーである。全身黒一色、垂れた耳、ヒェーロさんいわく性別はメスだが体格は大きめの約一メートル。僕の知っている限りラブラドールに近い見た目をしている。このノリーときたら普段はグデ〜と寝ていて僕には一切に興味がないと思っていたのだが僕が魚料理を食べていると毎回トコトコ歩いて来てジッと僕の方を見てくるのだ。その魚をくれと言わんばかりに見つめてくるのだ。だからめちゃくちゃ食べにくい。しまいにはあごを僕の太ももの上に乗せて上目遣いで催促してくる。だから僕はノリーがむけてくるそのおねだりの視線に耐えきれずこうして現在進行形でシャケーモンを分けてしまっているのだ。ダッテカワイインダモン〜!

 美味しそうにシャケーモンを食べるノリーを見ていると僕の向かい側に座っているヒェーロさんがクスッと笑った。

 「ごめんなさいね、この子魚が大好物なのよ。特にシャケーモンとかサヴァとかアジーとかの白身系が好きなのよね。私が食べてる時も涎垂らして近づいて来るのよ。」

 「なんだか猫みたいですね。」

 「そうかもね、でもねこの子の魚好きはきっと遺伝かもしれないわ。」

 「遺伝?」

 そう言うとヒェーロさんはノリーの片足を持ち上げた。

 「ノリーの足、よーく見て。」

 言われた通りにノリーの足を見るとそれはますますラブラドールに似ているものだった。

 「これは、水かき?」

 「そう、元々この子はこの辺りでも有名な狩人の家系に生まれた由緒正しい犬だったのだけれど、訳あって私が飼う事にしたの。」

 「その訳っていうのは?」

 「・・・んだもん。」

 「え?」

 「カワイインダモン〜!だってねこの子初めて会った時まだ私の腕の中にすっぽりはまるくらい小さくてねポテポテ歩いて来て私の擦り寄ってきたのよ?それでキュンと来ちゃって狩人さんにお願いして家で飼う事にしたの。この子の親や他の兄弟は狩猟犬として育てられたけど、この子には狩猟犬になる素質が無くてね。そういった理由もあって狩人さんも狩猟犬として生きさせるくらいならごく普通の生活を送らせた方が良いって言ってくれて、それでこの子を引き取ったのよ。」

 「そんな事があったんですね。」

 一瞬狩人の人が役立たずだと追い出したノリーをヒェーロさんが引き取った系の話かと思った。でも良かった。その狩人さんが個人の生き方を尊重する系の人で。

 「そういえばタツリさん、出発するのって明日よね?」

 「えぇ、明日の朝方にはここを発つつもりです。この町にもあなたにも随分とお世話になりましたし。それにこの旅にはまだ目標があるので。」

 「そう、なんだか寂しくなるわね。数日前オウルエ様やセイン様が旅に出て、今度はあなたも行ってしまうなんて。」

 セインさんは顔を悲しそうに俯かせていた。

 「そんな顔しないでくださいよ。僕はまたここに来れるかわかりませんがオウルエさんとセインさんなら必ず帰って来ますってそれにこれからこの町を今まで以上に発展させていくってクユイラのみんなで約束したじゃないですか。すぐに切り替えろとは言いません。でもいつまでも引きずってはいけませんよ。」

 「そうね、そうよね。こんなんじゃあのお二人が帰って来た時盛大に出迎えられないわ!元気出さなくっちゃね!」

 ヒェーロさんは両手で自分の頬を軽く叩き気合いを入れる仕草をし元気な笑顔を見せた。

 「その通りです。それにあなたのそばにはノリーがいるじゃないですか。ねっ?ノリー・・・・ってあれ?ノリーはいずこへ?」

 「あら?・・・って、あ!」

 「ん?あ!」

 居間の出入り口を見るとそこにノリーがいた。僕の着替えのパンツを喰わえながら。ノリーは僕らの視線に気付くと足速に部屋を出て行った。

 「ちょっと待たんかいノリーィィィィィ!」

 僕はそう言いいながらノリーを追いかける。僕はすぐさまノリーの進行方向に回り込み疾風の速さでパンツを取り返した。

 「まったくノリーったら、人のパンツ喰わえるなよ。」

 パンツにはノリーがくわえた時についたであろうよだれが付いていた。

 「ごめんなさいね。あとでそれ洗濯しておくから。」

 「あぁ、お願いします。」

 「あ」

 「え?」

 ヒェーロさんの視線の方を向くとノリーがいた。今度は靴下二足を揺らしながらくわえていた。すぐさま僕はまた追いかける。この時、ノリーの尻尾は左右に揺れていたがそれは走っているからなのか嬉しさなのかは分からなかった。

 靴下を取り返し今度は何か取られる前にヒェーロさんがおやつをあげて大人しくさせてくれたのでようやく一息つくことが出来た。

 「ノリーの奴僕の事どう思ってるんだか。」

 「うーん少なくとも信頼してくれてるんじゃないかな。」

 「そう見えます?」

 「うん、この子人見知り激しいから知らない人見かけるとすぐ吠えるのよ。警戒心が強いって言うか。でもねこの子がこうして吠えないどころか座り込んでその上あなたに背を向けるって事はあなたになら背を向けても安心出来るって思ってるのよ。」 

 「まぁ、そう言うならそうなのかもですね。」


 翌日僕はここ五日間ですっかり身に付いてしまった気だるさをまといながらも出発の準備をした。ヒェーロさんとノリーは家の前まで着いてきた。

 「それでは行ってきます。」

 「気を付けてね。忘れ物はない?風邪ひかないように様にね。毎日ちゃんと食べるのよ?」

 「分かってますって。」

 お母さんだなぁ、ホントに。

 

 「じゃあこれで。」

 こうして僕はクユイラの町を出た。ヒェーロさんは笑顔で見送ってくれたけど、ノリーはなんとも思ってなさそうな顔をしていたな。まぁ、いつも通りに接してくれる方がこっちも思いっきり旅立てるよな!

 クユイラを出て約1時間くらいが経っただろうか。海岸沿いに深く生い茂る草木にあの大海原が隠され次第に見えなくなっていった。さて、このまま次の町を目指したいがその前に行かなきゃいけない場所がある。ヒェーロさんの知り合いである狩人さんの所だ。これは彼女が出発前に言っていた事だが、僕が今行こうとしている方向にちょうどその人の家があるらしく、そこから先の地域のことはクユイラの人達よりも詳しいらしい。正直助かる。始まりの町コヘージでも、次の町ツマオリでも、クユイラだってその町の存在や場所を教えてもらえはしたが具体的な情報は教えてもらえなかった。数日前まで僕はクユイラがあの町を飲み込むほどの濁流に悩まされていたとは知らなかった。もしあの時ヒェーロさんの家に居なかったと考えるとゾッとする。要するに僕が次の町を目指す際に得ておきたい情報はその町の周辺で最近何が起こっているかだ。次の町やあるいは周辺が落雷地帯だったとしよう。それを知らずに行ってしまうとか怖すぎる。一つでも具体的かつ最新の情報を得る事が出来ればいいのだ。

 「えーっとヒェーロさんの話によるとこの辺りのはずなのだが・・・あ、あれかな?」

 丘を登る途中に丸太で組み立てられた小屋がぽつんと建っていた。小屋の左側は丘に埋もれていた。もちろん右側は丘に埋もれておらず外に出ててはいたものの、安定を保つため丘の形にフィットするようにその下には石が積まれていた。僕はすぐにその小屋のドアをノックしたが中から誰かが歩いてくる音は聞こえてこなかった。留守かなと思い振り返ると丘を越えた先から一人の軽い武装をした天然パーマの男が降りてきた。僕は会釈をすると向こうも気付き返してくれた。僕が客人であることを察してくれた彼はとりあえず中にどうぞと家に招いてくれてお茶も出してくれた。男の名前はカームトと言ってこの人がヒェーロさんの知り合いの狩人らしい。僕は自己紹介も兼ねてここを訪ねた理由を彼に話した。

 「なるほど、雷神を探す旅か。雷神はここから北西の方角にいるとオウルエ様言われたんだな。にしても随分と大雑把だなぁ?」

 「そうなんですよ。同じ龍族であるオウルエさんでも詳しくは知らなかった。そんなに雷神っていうのはまゆつばのような存在なんですか?」

 「雷神が、というか龍族ってのがあのデカい図体なもんだからそもそも特定の住処を作らねぇんだよな。オウルエ様みたいに一つの町に居座る方が珍しいんだよ。」

 「そうなんですか?」

 「あぁ。まあ龍によって気候の好き嫌いがあるらしくてな。暑いのが好きだったり寒いのが好きだったりみんな違う。おそらくオウルエ様が雷神がいるのが北西の方だと言ったのは雷神が北西の気候を好むからだ。でもそれしか知らなくて大雑把になったんだと思うぜ。」

 「そういうことか。うーむ、別に急いでいるわけじゃないし気長に旅して見つけるしかないな。」

 「そうそう。ところでお前さんは次の町の周辺の事を聞きたいんだってな。」

 「はい、そうです。」

 「それなら聞いておいた方がいい。次の町に行く途中は危険だからな。」

 「え、危険なんですか?それって魔物がうじゃうじゃいるとか・・・」

 「そういうわけじゃなくてだな。ここから丘を越えた先は険しい崖と底が見えない程の深い谷が数日続く。谷に落ちれば浮遊魔法でもない限りあがって来れないだろうし。時々崖崩れが起きることもあるんだ。そんな場所だから当然人も魔物もよってこねぇ。安全とも安全じゃないとも言える場所だ。」

 「それはかなり危険な場所ですね。」

 「うん。でもな魔物が寄ってこない場所ではあるんだ。あの地帯を避けて北西に向かう事も出来るが、そっちの方が困難だぞ。あの場所に魔物が集まらない分、他の場所にたくさん集まるからな。」

 「確かに魔物との戦闘は避けたいですね。それならその渓谷を越えて行きます。」

 「おう、気を付けろよ?」

 

 そうして僕は丘を越えカームトさんの言っていた例の谷を自転車で走っていた。崖崩れが怖くないのか?と思うかもしれないが、怖い。怖いけど崖崩れは頻繁ではなく時々だって言ってたんだ。それに今通っている道も奥に続いている道も車三台並走してもぶつからないくらいに広いんだ。最初は怖くて壁になっている左側に寄って走っていたが次第に慣れてきて崖のある右側が走りたくなった。これがまぁスリリングで底の見えない深い谷は絶景でカームトさんの言う通りこれは落ちたらあがって来るのは無理そうだった。このドキドキ感は片足くらいの幅しかない狭い路肩の中を後ろから通り過ぎていく車にガリっとぶつかるかもしれないと思いながら走る時と同じくらい否、それ以上のものだった。そうして調子に乗ってしまったせいか多分罰が当たったんだろうな、現在進行形で僕は崖崩れに巻き込まれて車体ごと横に倒れた状態で落ちていた。今思えば落ちるまでの回想をしている場合ではなかった。さっさとこの状況を何とかせねば。今回もこれに頼ろう、闇属性のポーション。あと3つしか無いけどこれ全部を下の壁の方に投げ付けて・・よしっ!思った通り闇魔法の引力で磁石みたいに断崖に自転車ごとくっ付くことが出来たぞ。この世界でも天才学者ニュートンさんの唱えた万有引力の法則は通じるわけだ。さて、ここからどうやって登ろうか今から考えるとしようか。今の状況を整理すると闇魔法の力によって前輪と後輪のタイヤが断崖にくっ付いており、さっきその衝撃で落ちそうになったので咄嗟にサドルに掴まってぶら下がってこうして生きながらえているわけだが、ここから自転車ごと無事に復帰する方法が思いつくだろうか?否、思い付かない。このままではそのうち腕が限界になる。詰んだ。

 

 「アンタ、そこで何してるんだ?」

 突然聴こえた声に辺りを見渡すが誰もいない。

 「あーごめんごめん。わたしはそこにいるわけではないんだ。別の場所にいる。」

ここにはいないということは脳内に直接話しかける系の能力か?僕の知ってる中で遠隔で会話が出来るのは道祖神様くらいだったしこの相手もかなり高位な存在か?何はともあれ今やるべきことは・・・

 「あの〜もし良かったら助けて頂けないでしょうか?」

 「・・・助ける?わたしがアンタを?」

 まぁ、この世界は僕がいた日本みたいに人情で人助けはあまり無いわな、ならば交渉か。

 「勿論御礼は致します。なのでどうか。」

 「ふ〜ん。分かった。とりあえずそのアンタが掴まってるやつも一緒に連れて行けば良い?」

 「あ、それでお願いします。」

 「了解。じゃあ手離して良いよ、わたしのとこまで運ぶから。」

 言われた通りに手を離すと僕と自転車はフワリと浮き上がりそれからジェットコースター並みの勢いで弧を描く様に宙に飛ばされ、かと思ったら谷底スレスレを低空飛行したり、最終的には狭い狭い洞窟の中を右に左にと引っ張られ続けられた。ようやく謎の力から解放され地面に足をつくことが出来たのでふと辺りを見回すと二つの焚き火台の間に扉があり、それに貼り付けられた看板には開けてと一言書いてあった。きっとあの声の主がいるのはこの先だ。そう思いながら僕は扉の奥へと入って行った。すぐ側に下駄箱と玄関、そのすぐ奥には横向きにキッチンと冷蔵庫が壁にくっ付いて並んでいる。その向かい側にある扉はトイレだろうか?そして1番奥にあるあの入り口からは点滅するカラフルな薄暗い光が奥の部屋を照らしていた。僕はまさかと思いながらキッチンとトイレの間にある廊下を渡ってその部屋へと入っていった。もちろん靴は脱いで揃えた。部屋に入り光の出ている方を見るとパソコンを座椅子に腰掛けながら操作する人影が1人。僕は話しかけてみた。

 「あなたがここに連れてきてくれたんですか?」

 相手が振り返ると同時に部屋全体がパッと照らされたた。そこに居たのは1人の若い女性だった。艶のある長い黒髪に日焼けしたような肌、銀縁丸眼鏡をかけた深い紫色の吊り目は吸い込まれるようで僕の素性を見透かしているかのように見える。ここまでの解説で相手はミステリアスな女性という印象を受けるかもしれないが、付け加えると腰まで伸びたダボダボの白い服に黒い短パン、首にぶら下げた有線のヘッドホンという特徴も持ち合わせている為ミステリアスからダウナー系という印象に切り替わった。僕が様子を伺っていると彼女は低いトーンで話した。

 「そうだよ。アンタをここに連れてきたのはわたし。それはそうと約束のお礼、今すぐ頂戴しよう。一体何をくれるの?」

 彼女は裏切ったら許さないと言わんばかりの圧をちらつかせていた。

 「えーっとそれなんですけど、台所お借りしても?」

 「料理を振る舞ってくれるの?まぁ、どうぞ。」

 「じゃあ待っていてくださいね。」

 僕は足速に台所に向かってお礼の準備をした。

 

 数十分後、僕は出来上がった物を持って部屋に戻ってそれを低いテーブルの上に置いた。彼女もまた座椅子を引きずりながらテーブルに向かった。

 「これは、分厚いオーク肉?黒胡椒とガーリックの良い香りだね。これ作ったの?」

 「はい、どうぞどうぞ召し上がって下さい。これナイフとフォークです。」

 「お、ありがと。じゃあいただきます。」

 彼女はオーク肉の一部を切って口に運んだ。静まり返った部屋に肉を噛む音だけが聴こえる。やがて彼女は飲み込むと口を開いた。

 「うん、味付けは好き。だけどもうちょっと焼いてきてくれない?わたしは赤身が少ない方が好き。」 

 「焼き加減の調整だったらこれを使って下さい。」

 僕は前回使ったあの熱を放つナイフを取り出した。

 「これって魔道具?」

 「そうです。魔力を込めれば熱を放ちます。あっ、魔力の調節には注意してください。調整を間違えると周囲が焼けるように熱くなるので。」

 「分かった。」

 彼女はナイフを受け取ると肉を再び切り込んでいった。今度はジュゥゥゥ〜という心地の良い音色をたてながらその茶色い断面が見えてくると同時によだれが垂れてしまうの程の黒胡椒とガーリックの香りがこちらまで漂って来る。熱せられ湯気の立つ肉をほおばると、たちまちふんす!と鼻息を荒くして食べていた。目を閉じ頬を緩ますその表情からその旨さが伝わってくるようだ。残りの肉もやがてたいらげると彼女は満足したような顔をしていた。

 「うん、美味しかったよ。しかしまさかこの秘宝を食事に使うとは面白いことを考えるね。わたしにはそんな発想出来ないよ。」

 「え、秘宝?これそんな凄いものなんですか?」

 「知らずに使ってたの?それは”炎天下・黒の舞姫”っていう業物だよ。神器とも呼ばれている。」

 

 ★タツリは炎天下・黒の舞姫を手に入れていた!★(心の声)

 

 「神器?やっぱり性能が神がかっているから?」

 「いいや、人類が扱える代物じゃないからだよ。」

 「どういうことですか?」

 「それ以外にも神器と呼ばれるものは幾つかあって、その全てが性能が強くて人類では制御出来ないほどの力を発揮してしまい、手にした者のみならず周りにいるもの、最悪国に災いをもたらす程危険な代物なんだ。だから人々は口を揃えて言う。”あれらを扱えるとしたらそれは神々だけだ”と。とは言っても人間がそう言っているだけなんだけどね。それで疑問が生まれたんだけど、アンタは何者なの?これを扱えるってことはただの人間ではないよね。」

 「それを言うならあなたもそういうナリをしているけど人間ではないのでは?」

 「あぁそうだった。自己紹介してなかったね。せっかくご馳走になったのに自分の事を話さないのは良くなかったよ。わたしの名前は闇の精霊サキハ。この世界で唯一の闇魔法使いでもある。それで、アンタの名前は?」

 「僕はタツリって言います。お察しの通り僕は普通の人間とは言えないでしょう。僕は別の世界から神様に導かれてこの世界にやって来たんです。」

 「お〜なるほど、異世界人か。異世界人に会うのは久しぶりだね。」

 「え、他にも異世界から来た人が居るんですか?」

 「あぁ、正確には、居た・・・かな。この格好見て驚かない?なんで異世界の精霊がこんな部屋でこんな格好をしているのかって。」

 「うんうん、それずっと疑問に思ってました!どうしてですか?」

 「これはそのわたしが出会った異世界人から貰い受けたものなんだよ。もう自分は長くないって言って誰でもいいから託したいって言ってここに住むわたしを訪ねて来たんだよね。最初は見たことないものに戸惑ったけど、慣れれば凄く快適に過ごせるようになったよ。もうこの部屋無しでは生きていけない。」

 「その人異世界から部屋ごときたんですね。そういえば電気ってどうしてるんですか?」

 「電気?あぁもしかしてこれらを動かす原動力の事?そっちの世界ではその電気とやらが必要みたいだけどこれを託した異世界人の話によると原動力無しで動かせるように神さまに作り変えて貰ったって言ってた。」

 「なんて事だ。電源の無い異世界で役に立たなさそうな家電が神さまの手によって神器に作り替えられている!」

 「まあわたしのことは一旦置いといて今度はタツリの事を聞かせて欲しい。タツリはどうしてこの世界に来たの?そしてなんでこんな危険極まりない渓谷を越えようとしていたの?」

 僕は異世界に来た理由とここにきた目的、そして今までのことを話した。

 

 

 「ヘぇ〜、雷神を探す旅ね。それで雷神がいるとされる北西の方角目指してここを通ったってわけだ。しかし旅の疲れで死ぬってどんな旅をして来たの?そのニホンっていう大陸はそんなに危険地帯なの?」

 「えーっとこの自転車ってのを使ってずっと旅をしていましたね。危険が無いわけではないですが、安全な方だとは思います。ただ僕が体力の限界を越えるスピードで移動してただけなんです。」

 「それでこの世界に来た時に自分のステータスを見たら雷神の次に速いって書かれたのを見て世界中を旅するついでに雷神に興味が湧いたってわけか。」

 「そうです。」

 サキハさんは腕を組んで言った。

 「そう・・・ならここから先に進むのはあんまりおすすめ出来ないな。」

 「というと?」

 「出会い頭にタツリを鑑定させてもらったけど、タツリには明らかな攻撃するためのスキルが備わっていない。」

 「鑑定?!サキハさん鑑定魔法使えるんですか?」

 「わたし独自の鑑定方法だけどね。それはそうと攻撃手段の一つや二つ持ち合わせていないとここから先で戦いになった時自分の身を守れない。今までは他の冒険者がいてくれたり、敵になったとしても和解したりと他人の手助けや偶然で切り抜けたみたいだけど、毎回そうはいかない。今のまま進めばタツリは間違いなく死ぬ。」

 「ここから先はそんなに危険な場所なんですか?」

 「そう、ここから先にあるシワナノ地方は世界でも数少ない高山地帯であり寒冷地帯でもある。今はまだ暖期の後半だから大丈夫な方だけど、本格的に寒期に入り始めると多種多様な魔物同士での餌の取り合いが血気盛んになる。まとめるとあの場所はタツリが今まで旅してきた場所よりも圧倒的に物騒な所ってわけ。そんな場所で戦闘経験もほとんどないなんて論外なんだよ。」

 「・・・なるほど。」

 「そこでだけど、わたしから提案がある。」

 「提案?」

 「タツリ、闇魔法使いになってみない?」

 「僕が闇魔法使いに?」

 「わたしは闇の精霊、いわば闇魔法の専門家だ。わたしの教える闇魔法を習得すればそれは確実にタツリを守る武器になる。もっと強くなれるんだ。さっき崖に捕まってた時見てたよ。闇魔法のポーション使ってたでしょ?そしてその利便性に気付いたはずだ。闇魔法がどれだけ役に立つかをね。それに適性もあるしね。」

 「確かにそうですね。・・・でもタダで教えてくれるわけではないんでしょう?」

 その言葉を聞いた彼女の口角が上がる。

 「察しが良いね。そう、これを教えるとあらばわたしが望む物をタツリに差し出してもらうことになる。なあに、別に寿命とか魂とかじゃないよ。わたしが欲しいのはね、傀儡(かいらい)だよ。」

 「かいらい?」

 「そうそう、傀儡。」

 「それはまたどうして?」

 「まぁなんていうか、タツリの話を聞いてたらわたしもひさしぶりに外の世界が見たくなってさ。一緒に旅がしたいんだよ。知的好奇心って奴?でもね、ずっとここでダラダラしていたいっていう気持ちと好奇心が葛藤しているんだ。」

 「それで傀儡を操って、旅をして外の世界を見ようと?」

 「そういうこと。闇魔法はわたしの体の一部みたいなものだからね。わたしの放出する闇魔法に触れている物ならどんなに遠くても五感で感じ取ることが出来る。そして操れる。」

 この人、いや精霊さんは某地図アプリで見たい街のストリートビューでその様子をシュッ、シュッと画面をスライドして見て満足するタイプだったりするのかな?外の世界が見たいのにここから動きたくないって思いっきり矛盾してるな。

 「さぁ、どうする?」

 そんな事を考えているのをよそにサキハさんは前のめりに僕の返事を期待しているようだった。僕の答えは決まっている。そう思いながら僕は彼女に片手を差し出す。

 「分かりました。その提案に乗りましょう。」

 「フフ、交渉成立だね。では先に傀儡を用意してもらおうか。一応言っておくけど、何でも良いわけじゃないからね。そこら辺に落ちてる石なんて論外。人並みに大きい人形が一番良い。」

 「じゃあ一から人形作らなきゃいけないんですか?」

 「いや、最悪人の形をしてなくてもいい。必須条件としては人並みに大きい事、動ける構造になっている事、そして無生物である事の三つだ。」

 「ふむ、人並みに大きくて、動ける構造になってて、無生物な物・・・・・あ。」

 「ん?何かあるの?」

 僕はこくりと頷きその候補となるものを指差した。

 「それってタツリが乗ってる自転車?」

 「はい、人並みに大きいし、手足は無いけど移動出来る構造になってるし、生き物じゃないから条件は揃ってるかなと。」

 「確かにこれはわたしが出した条件を達成していると言っても良い。タツリが良ければこれを傀儡にしよう。」

 「どうぞ。」

 「よし、それじゃあ早速。」

 サキハさんが自転車に向かって手をかざすと自転車は妖しく光る紫色のオーラに包み込まれた。やがてオーラが消えるとハンドルがひとりでに左右に動き始めた。

 「おぉ!本当に操れるんだ。スゴイなぁ。」

 サキハさんはムフフンと言いながらドヤ顔をしていた。

 「ところでタツリ、これどうやって動かすの?」

 「あ、ごめんなさい。説明が必要でしたね。動かす際は最初に後輪の方に付いてるスタンドっていう棒と上げて下さい。」

 「スタンド?」

 彼女はスタンドと聞いて後輪を見回す。それに気づくと「あぁこれか」と言って動かした。途端にバタって倒れた。今度は膨れ顔を向けてきた。

 「・・・・倒れたけど?」

 「あぁ、ちゃんと順序を説明するからそんな顔しないでください。」

 僕は自転車の動かし方を手取り足取り教えた。流石に部屋の中では狭いので部屋から出て洞窟のすぐ近くで練習する事にした。最初は僕の言葉に戸惑い疑問を投げかけまくる彼女だったが、次第に理解して数時間後には進むだけでなく旋回やブレーキでの一時停止、スタンドを立ててでの駐輪も出来るようになった。彼女は満足していたが少し疲れてもいた。自転車を停めると両手を後ろに置いてため息をついていた。

 「ひとまずコツは掴めた。ちょっと休憩する。」

 「お疲れ様です。じゃあこれどうぞ。」

 「あ、水。ありがと。」

 彼女は僕が渡した水を飲み干した。すると疲れでトローンとなっていた目は突如シャキン!と見開いたのだ。

 「何この水、キンキンに冷えていて喉越しが良いのにも驚きだけどこの甘酸っぱい香りは一体?」

 「ふふふ、気づいちゃいました?それは僕の世界で取れる果実オレンジの味が入っている水なんですよ。」

 「オレンジ?」

 これは前回オウルエさんとセインさんに出会って知った事だが、魔法を使い味や香りをイメージして料理をするとイメージした通りの味になるという謎理論だ。きっかけは喉が渇く度に僕は給水魔法(ウォーターサーブ)を使っていたわけだが次第にジュースが飲みたくなってきたというのだ。でも手元に果実なんて無いしジュースなんて用意出来ないと思った時この理論を思い出したのだ。そしてやり始めた最初は薄くてほぼ水だったが、幾度となく味わってきた味を記憶から呼び起こし次第に味を濃くすることができ、今に至るわけである。言うなれば僕の給水魔法(ウォーターサーブ)万飲給水魔法(ドリンクサーブ)へと進化を遂げたのだ。元いた世界でこれが実現出来たなら、僕は”歩くドリンクバー”として全国のファミレス店を敵にまわしていただろうな。

 「他にもありますよ。ヤマブドウ、白ブドウ、ウーロン茶、スポーツドリンク、乳酸菌飲料なんかもあります。」

 サキハさんは目を輝かせながらもっとくれとせがんでくる。僕もそれに応えて次々と用意する。

 「ヤマブドウにしろぶどう、これも果実の一種なんだね。良い香りだ。このウーロンチャ?というのは果実ではなさそうだがこのほのかな苦味嫌いじゃない。スポーツドリンクやニュウサンキンインリョウは果実とはまた違う甘さがあるね。興味深い。」

 「じゃあ良かったらこれもどうぞ。」

 「どれどれ・・・ん?これは最初に飲んだオレンジよりも酸っぱいな。でもこの酸っぱさが癖になる。これは何ていう味?」

 「グレープフルーツです。オレンジと同じ系統の果実ですがサキハさんの言った通りオレンジよりも酸っぱいのが特徴です。疲れている時には甘く感じるのが特徴です。」

 「へぇ〜そっちの世界には味の感じ方で疲れているかどうか分かる果実があるのか。なんだか薬師みたいだね。」

 「でもなんでこのようなことが起きるのか僕自身はさっぱり分からないですけどね。」

 「それは魔力の中にある記憶因子と飲食者による味覚と嗅覚を通した脳の錯覚により起こるという可能性がある。」

 「記憶因子?味覚と嗅覚を通した錯覚?」

 「実際には味や匂いが付いてるのではなく飲食者が術者の記憶を五感を通して感知しているという考えだよ。というのも飲食物に込められた魔力をわたしが検知したところ中には栄養素が全く含まれておらず。酸っぱさを感じるクエン酸、甘さを感じるブドウ糖などの味覚を刺激する成分が含まれていないのにも関わらずこうして味を感じるのは何か別の理由がある。となれば術者が味をイメージした事に原因がある。わたしが自分で実際に味をイメージして詳しく調べてみたところ魔力の中にその錯覚を起こさせる粒子が見つかったんだ。これをわたしは記憶因子と呼んでいる。その記憶因子が味覚と嗅覚を通して脳に錯覚を起こさせている、というのがわたしの立てた推論だよ。まぁ記憶因子というのもあくまでこの事象を説明するためにわたしが持ち出した考えに過ぎないけどね。」

 「凄い。僕はまだまだ魔法の事はこれっぽっちも分からないけど、面白い話を聞けました。このスキルもっと発展させられそうです。」

 「そう、それは良かった。今更だけどタツリ、わたしに敬語と敬称は要らないよ。わたしは一介の王族や貴族じゃないからね。呼び捨てで構わない。というよりむしろその方がわたしは落ち着く。」

 「そうですか、じゃないか。そうなんだ、わかったよサキハ。これでいい?」

 「うん。それじゃあ充分休んだし、今度はわたしがタツリに闇魔法を叩き込んであげよう。ちょっと待ってて。」

 そう言うとサキハは本棚からギュウギュウに並べられた本の中から一冊取り出し持ってきた。厚さはノートより少し分厚いくらいだが表紙は中のページより固く分厚く表面は皮だろうか?手に取ってみるとスベスベしている。

 「これは?」

 「闇魔法だけで生活!っていうわたし自らが作った指南書だよ。略して闇活。」

 「朝活みたいな言い方するじゃん。というかサキハ、闇魔法だけで生活ってどういうこと?」

 「言葉の通りだよ。闇魔法だけを使って生活するって意味だよ。というわけでこれからタツリには闇魔法を使って日常生活を送ってもらうよ。もちろん生活はわたしの家で。道具を使う時、物を運ぶ時、料理も食事でも手を使わずにやってもらう。闇魔法を使わないでの生活は禁止、仮にこの本を外に持ち出したいと思って手で持って行ったら部屋の中からやり直し。闇魔法を使って運んでもらうからね。ちなみに本を見る時も同じ。本は手に取らず浮かせること、別に置いても良いけどね。ページを開く時も闇魔法でないとダメ。ここまでで何か質問ある?」

 「質問というか確認だけど、要するに本来手作業を必要とするものを闇魔法だけでやってのけろって事でいいの?」

 「そういう事。闇魔法を使う経験をより増やして息をするように、自然に出来るようにするのがこの修行の意図だよ。そしてもう分かってはいると思うけど闇魔法の基本をいついかなる時も覚えておいてね。」

 「その基本とは?」

 「闇とは”引き寄せる力”という事だよ。」

 それから僕の闇魔法を使ってでの生活兼修行が始まった。彼女に言われた通り食事も睡眠も、読書でも手を使うこと無く闇魔法を使った。

 僕は今まで闇ポーションを飲んで物を手元に引き寄せていたが、サキハが教えた闇魔法は少し違くて、魔法陣を自身の周囲の至る所に展開させ手元だけでなく地面にも壁にも縦横無尽に色んな場所に対象物を引き寄せるというものだった。

 最初は物を浮かべて操るという必要最低限の事に手を焼いたが一週間も過ぎると段々とそれ以上の事も出来るようになった。それでも慣れずにぶつかっているのは料理だ。食事はナイフやフォークなどの食器を使わずとも食べ物を口へ運べば良いし、睡眠もただ毛布をめくったり、かけたりするだけで、読書だってページを一枚一枚めくることに頭を使えば良い。だが料理は別だ。野菜を切る時も肉を切る時も食材を固定して一方で包丁を操って刃を入れなきゃならない。野菜なら一気に刃を入れ、肉なら多少力を込めてギコギコして捌いたりと動きは手を使うのと変わらないけど闇魔法でやるのはなんか違う。闇魔法という考えるだけで物を動かすというのは運動したり、難解な問題を解くのとは全く違う疲れ方をするものであると料理をしてみて実感した。後の味付けをしたり、火にかけたりといった作業は簡単である。難しいのは野菜を包丁で切る事だった。僕は思うように事が進展せずにいたので思い切ってサキハにどうすれば野菜が上手く切れるのかを聞いてみた。すると返って来た答えは「わたしが教えるのは基本的な事だけ。」と一言だけだった。基本的な事、それは闇魔法は引き寄せる力であるということである。そこで僕は閃いた。食事で食器を使わないのと同じように料理でも無理に包丁を使う必要はないのでは?と。次の日僕早速思い付いた考えを実行することにした。人参のような野菜の前に立ちイメージをした。横向きに置いてある野菜の真ん中の位置に同じ向きに重ねて魔法陣を一つ展開、そしたら数センチ空けてもう一つ展開。この時二つの魔法陣の力の向きは互いに真逆の方向に働かせる。今回の場合は野菜の先端とヘタのある方向に力を働かせる。噛み砕いて言うならちぎりパンを半分こにするイメージで引力を働かせる。これでどうだろうか。

 するとパリッパリと野菜が真ん中から音を出しながら裂けていった。断面はでこぼこしていて歪だったが、包丁を操ることに比べたら簡単だった。後は皮を剥くという課題だが、サキハ曰くこの世界の野菜や果物は皮を剥かなくても美味しく食べられるとの事だったので、そもそもやる必要がなかった。なので僕は野菜をちぎる、もとい切る事に集中した。それからも様々な課題にぶつかっては自分なりの方法を模索しての毎日を過ごした。そしてそんな生活を続けて一ヶ月が経った頃、サキハが洞窟の外にある開けた場所に僕を案内した。

 「ここで何をするの?サキハ。」

 広さはテニスコート3つ4つは入る程、辺りには崖崩れで出来たであろう岩や小石が不規則に散らばっている。この場所は高い崖が丸く囲いこむような形に出来ているため下も上も同じくらいに広い。さてこんな広々としており瓦礫があるような荒れた場所でやる事と言えば一つしかないだろう。サキハは僕の予想した通りの言葉を放った。

 「そろそろ実戦をやってみようか。」

 「やっぱりそのつもりだったんだ。」

 「うん、この一か月タツリはわたしの言った通り手を使わずに闇魔法で生活をした。基本を忘れずかつ創意工夫し着々と闇魔法を使いこなしていった。でも本来の目的はその闇魔法を習得して生活で横着する事じゃない。本来の目的はそれを戦う為の武器にする事。という訳でさっそく始めるよ。」

 その瞬間、サキハのすぐ後ろに転がっていた1メートルはある岩が僕目掛けて飛んで来た。僕は咄嗟にその岩を避ける。

 「この実戦でやる事はわたしの攻撃を回避する事なのは間違ってないけど、そこに条件をつける。攻撃を受ける際、闇魔法を使わないでの対処は禁止。もし使わずに避けた場合は強制的に地面に貼り付けて一回攻撃を受けてもらう。説明は以上、それじゃあ続けるよ。」

 そう言い終わるとサキハは砲弾の如くランダムに散らばっている岩を引き寄せ、放ってきた。岩は直線を描いてこちらに飛んで来るためおそらくラジコンのように操られているわけではない。闇魔法の強い引力に勢いよく引っ張られているだけなんだ。それなら大きな魔法陣を下に展開して全部下に落とせばいい。

 僕が無数の岩の弾丸を防ぐとサキハはうんうんと何度も頷き感心していた。

 「そう、これは投石機の攻撃原理を闇魔法で代用しただけに過ぎない。ひとまとめに別方向に逸らすのが1番楽だ。それじゃあこれはどうする?」

 今度は彼女の遥か後方から見上げる程大きな断崖の一部を大きく分厚い板状にくり抜き押し潰すようにぶつけて来た。その大きさはこの空間の半分はある大きさのためさっき放ってきた岩のように逸らす事は不可能、ならば逆方向に引っ張るまでだ。僕は岩盤を倒れてくる逆方向に魔法陣を張ってこちらに倒れて来ないようにした。しかし安心したのも束の間サキハはもう一度こちらに倒して来た。これではきりが無い。ならば大きな魔法陣を二つ展開して左右に引き裂く!

 岩盤は二つに割れ僕を挟むように倒れ込んだ。その時だった。倒れようとした2つの岩盤が突如バラバラに無数の岩石になり至近距離で囲い込むように襲いかかって来た。これほど至近距離かつ手数が多いかつ奇襲を仕掛けられては逸らす暇も無ければ更にバラバラにしても焼け石に水だ。飛んで来る岩を受け流せないなら闇魔法で安全圏に自分自身を引っ張れば良いじゃない!

 僕は100メートル先に魔法陣を展開して強力な引力で投げ出されるように一気に前進しサキハの前に着地したがそのまま仰向けに転んだ。ふと顔を上げると少し頬を緩ましているサキハがこちらを見て手差し伸べていた。

 「お疲れ様、今日の実戦はこれまで。最後の攻撃よくかわしたね。自分自身を魔法で動かすという判断が出来て偉いよ。」

 「あ、ありがと。これが闇魔法の戦いなんだね。」

 僕はそう言いながらサキハの手を取って立ちあがった。

 「まぁ最後はわたしの居ないところに逃げれば満点だったんだけどね。わたしが本物の敵だったらやられてたよ。」

 「それはごもっともだよ。僕もまだまだ修行が必要だよね。」

  その時、サキハは何かを警戒するそぶりを見せた。

 「タツリ、ごめん。」

 そう言った瞬間、僕の体は洞窟の中へと引っ張られる。そして部屋の中に閉じ込められた。僕はいきなりの事に放心してしまったが、はっと我に帰りドアを開けようとするがびくともしない。サキハの仕業と判断した僕は何度も激しく叩いて声をあげた。

 「サキハ?どうしたのサキハ!何があったの?」

 「そのまましばらく隠れてて。絶対に出ちゃ駄目。」

 彼女の念話が頭に響く。隠れてて?出ちゃダメ?その言葉から今の状況を推理するに隠れててと言ったのは僕を探している何かが僕を狙っているから、出ちゃダメと言ったのも同じ理由だろう。そして何より凄い勢いで僕を部屋に閉じ込めたのも僕にとってはとても危険だが彼女であればどう転がろうと対処出来る相手なのかもしれない。


 「とりあえずタツリを隠すのは間に合ったけど、アイツらにバレずに隠し通せるかどうか。おっと、もう崖から降りて来たのか。」

 遥か向こう側、吹き荒れる砂塵の中に大人数の影が映る。やがて晴れると白中心の外套にそこからチラッと見える銀に輝く鎧。腰に両刃の西洋剣を帯びている数2、30人余りの男女がわたしの方へと険しい顔をして向かって来ていた。やがて集団は足を止めると先頭の男が一歩前に出て口を開いた。

 「人も魔物も寄らぬこの渓谷一帯で原因不明の崖崩れが起きていると聞いて調査に来てみたのだが、もしや元凶はお前か?こちらに向かう途中も腹に響く程の轟音が聴こえて来ていたぞ。正直に答えろ、お前は何者だ?」

 「わたしはサキハ、ここでは闇魔法の研究をしている。それでよく崖崩れを起こしてしまうんだ。」

 わたしが答えると集団はどよめき、先頭の男は警戒の意を込めてか眉をひそめており、再び口を開いた。

 「今、闇魔法・・・・といったか?」

 「あぁ、そう言った。」

 「そうか・・・」

 男がそう言うと途端に後ろに控えていた剣士達が警戒の顔を緩める事なくわたしを囲み剣を構えた。

 「とうとう見つけたぞ、我ら人類の敵、暗黒の魔女よ。我等が女神カチホ様の名の下に貴様をここで捕える。大人しく縄に付け。」

 「そこは断罪するって言わないんだ。まぁ断罪ってお前たちの上司の仕事だもんね。それにしてもまさかここまで勢力を拡大していたなんて思わなかったよ。カチホ・神聖魔法教会。で、お前達は教会お抱えの神殿騎士団(テンプルナイツ)ってわけだ。」

 「あぁ、その通りだ。」

 「教会の騎士団長の位でもない下っ端達が一丁前な顔してわたしに挑んで来るとはね。でもね、わたしは戦う気も無ければ、大人しく捕まる気も無いんだ。お前たちと敵対する理由がそもそも無いんだからね。」

 「ふざけるな!」

 「魔族側に寝返った裏切りの一族め!」

 「この悪魔が!」

 騎士達が罵詈雑言の嵐を起こす。時代が流れても本当に変わらないな、このエゴ教会は。

 「貴様を倒さずしてそこに平穏は訪れない。よってこれ以上の御託は無駄だ。我らが剣を向けずに納めることは万が一にも無い。では、行くぞ。皆、かかれぇぇぇぇ!」

 指揮官の男の掛け声と共に騎士達が次々とわたしに斬りかかってくる。踏み込む速度、剣の構え、振るうタイミング全ての要素がバラバラの斬撃が四方八方から襲い掛かって来る。

 「ハイハイ、お前らは昔からずっとそうだもんね。でもね、わたしが敵だと分かった以上すぐに斬りかからないとダメだよ。もうすでにお前たちはわたしの間合い(テリトリー)に入っているんだからね。」

 わたしはそう言いながら無数の魔法陣を張り巡らせ騎士達を一掃した。大きな魔法陣で地面に貼り付ける事も出来なくはないけど、コイツらは徹底的に叩きのめさないとずっと向かって来る。だから1人ずつ平均10個の魔法陣を使って足を固定し、体を無理矢理引っ張り関節を一時的に外させ、剣と鎧を破壊し剥ぎ取って戦闘不能、再起不能にしてやった。指揮官の男を除いて。今思い出したけどわたしがハマっているネットに上がっていた戦記を描いた物語ではこういう風に敵を一掃するシーンがあった。あれは実行するのが主人公側でも敵側でも燃えるシチュエーションだ。その光景を見て指揮官の男は呆然としていた。

 「馬鹿な、人類を守る、女神に仕えし盾達が瞬きの如くの速さで全滅・・・だと?」

 「そういうのはお前たちみたいな下っ端部隊じゃなくて騎士団長率いる精鋭部隊が言う台詞だよ。」

 「くっ!おのれ・・・暗黒の魔女め!よくも仲間を!」

 「その呼び方止めろ。わたしは魔女じゃないんだよ。あとそいつらは一時的に気絶させただけだから死んではいない。じきに目を覚ます。まぁ、しばらく療養は必要だけどね。」

 「情けでもかけたつもりか。」

 「違うよ。わたしがお前たちに対して敵意は無いって言う意思表示だよ。じゃあわたしはこれで。」

 わたしは指揮官の男に背を向けてその場を去ろうとする。しかし男はしつこかった。

 「せめて、せめて貴様に一撃でも入れ・・っ!これは、俺の剣もバラバラになっている。いつの間に。」

 「気絶していないお前だけが魔法の影響を受けていないだなんてわたしは一言も言ってない。」

 そう言うと指揮官の男は膝から崩れ落ちてうな垂れていた。フフッ、決まった。その時わたしがドヤ顔をしていたのは神のみぞ知る。わたしは洞窟に戻ってタツリの様子を見に行った。キッチンで玄関の扉を開けると料理をしているタツリがいた。フライパンとトング片手に何かを焼き甘い香りを漂わせている。

 「あ、おかえりサキハ。」

 タツリはわたしに気がつくとニコッと笑って言う。

 「ただいま。」

 まさか家族がいない精霊のわたしがこの言葉を何気なく言う日が来るとは思わなかった。

 「何か作ってるの?」

 「うん、スイーツだよ。サキハに是非食べて欲しいなと思ってさ。もうすぐ出来るからリビングで待っててね。」

 「うん、分かった。」

 数分後、タツリは甘い香りを放つ甘味の乗った皿二つを持ってリビングに入って来た。

 「お待たせ、出来たよ。さぁ召し上がれ。」

 テーブルに置かれたそれはわたしが動画サイトで見つけて食べたかったフレンチトーストなるものだった。卵液を漬け込み黄色く染まった食パンの真ん中辺りがジリジリと焼かれたからなのか茶色く焦げている。甘い香りの中にとろけたバターの香りも混ざりとても香ばしい。

 「ささ、それじゃ食べよ。いただきます〜。」

 「いただきます。」

 タツリは食べる前に手を合わせていたので咄嗟にわたしも真似をした。そしてフォークを使って早速フレンチトーストの一部を口に入れてみた。そして驚愕。口の中が心地の良いふわトロ食感と甘い香り。更に焼きたてだというのもあり暖かみが感じられる。これにはため息ならぬ、ため鼻息が出てしまう。わたしの反応に気付いたのかタツリはニヤニヤしながらこちらを見ている。

 「ん?何?」

 「いや、美味しいんだなぁって思って。」

 「うん、美味しい。まさかフレンチトーストが食べられるなんて夢にも思わなかったよ。」

 「知ってたんだ、フレンチトースト。」

 「うん、ネットで見て食べてみたかった。でもわたし料理が苦手だから諦めてた。」

 「食べれて良かったね。」

 「うん。」

 そうして一口、また一口と食べてようやく全部平らげた。おやつとして食べたが中々に重いな。あと少し食べたら胸焼けしてしまいそうだ。

 「はい、紅茶味。」

 「あぁ、ありがとう。」

 わたしはタツリから紅茶味の水を受け取り一口飲んだ。馴染みのある味と香りが口の中をスッキリさせてくれる。

 「それで、あの人達は一体何だったの?」

 「え?」

 わたしが食後の一服をしているとタツリが奇妙な事を聞いてきた。

 「あのカチホ・神聖魔法教会っていう人達の事だよ。一気に倒したんでしょ?」

 「なんで知ってるの?タツリはずっと洞窟にいたはず。あの距離じゃ会話も聞こえないのにどうして?」

 「どうしてってそりゃサキハが念話で独り言を話していたからだよ。」

 「え?念話ずっと聴こえてたの?」

 「聴こえてたという過去形じゃなくて正しくは現在進行形かな。」

 わたしは慌てて念話を解除した。食後の一服をかまして心落ち着かせていたのにタツリに指摘されてかなり動揺してしまっている。

 「わたしとした事が、生配信切り忘れみたいな事をしてしまった。恥ずかしいなぁ。ってことは今までのわたしの独り言は全部・・・」

 「うん、筒抜けだったよ。”フフッ、この時わたしがドヤ顔をしていたのは神のみぞ知る”だったけか?残念ながら僕も知っている人数に含まれたんだよね。」

 タツリの喋り方に笑いが含まれているのをわたしは感知した。

 「やめてやめて、掘り返さないで恥ずかしい!相手に恥ずかしい所見られるだけで何も言われないのと掘り返されるのとでは恥ずかしさの度合いが違う!」

 慌てていたからなのかわたし無意識にタツリの片腕に掴みかかっていた。それに対しタツリは今度は申し訳無さそうなをしていた。

 「ごめんって、不可抗力だったんだよ。」

 「うん、分かってる。この件はわたしに非があった。ごめん。」

 「いや、良いよ。」

 一瞬部屋が静かになったが、すぐにタツリが口を開いた。

 「それで話は逸れたけど、あのカチホ神聖魔法教会ってのはなんなの?」

 「神聖魔法を管理し、人間社会の秩序を守るためにその魔法と軍事力を行使する。生真面目で人の話を聞かないエゴ集団だよ。」

 「サキハを敵とみなしたのはサキハが闇魔法を使うと言った所からだよね?もしかして闇魔法って使っちゃいけないものなの?」

 「それはあいつらが勝手に言ってるだけだよ。とは言ってもあのエゴ教会、わたしは嫌いだけど人望は厚いんだよね。人助けとかはちゃんとするから。その上教会の関係者や教会を支持する国や人々が多いから常識的にはこの魔法はこの世界で疎まれる存在であることは間違いないよ。」

 「そういえば僕が使ってた闇ポーションって」

 「あれは教会を支持してないか関わってないかそのどちらかの人達の間では使われているよ。お陰でわたしもお金に困ってない。」

 「あれサキハが作ってたんだ!知らなかった。」

 「出会った最初に言ったけどタツリが習得する前までは闇魔法使いはわたしだけだったんだ。あれを作れるのはわたししかいない。」

 「でもなんであんな風に闇魔法使いを敵視しているの?サキハなんかしたの?」

 「それはわたしというより、わたしのおばあちゃんが理由かもしれない。」

 「サキハのおばあさん?」

 わたしはタツリにある本を見せた。

 「それは?」

 「人族と魔族の戦いを記録した戦記だよ。今から約800年前の物になる。これは教会の騎士が魔物と戦って命を落とした所に偶然鉢合わせて拾ったんだ。わたしは父と母からおばあちゃんがこの戦いにどう関わっていたのかを聞いていた。800年前、東方にあった諸国は魔族達との戦いに迫られており、彼らは兵の数も技術も魔族達より圧倒的に劣っていて滅亡の危機に晒されていた。そんな時に東方諸国を守ろうと立ち上がったのが教会の騎士団とわたしのおばあちゃんが率いる闇の精霊達で構成された密偵部隊なんだ。騎士団達は魔族と全面衝突し、闇の精霊達は密偵だけでなく暗殺活動により徐々に魔族側の戦力を削いでいった。その戦火に巻き込まれ多くの兵が犠牲になったが、ついにおばあちゃん達は魔族達を退けることが出来た。それ以来東方諸国が魔族に怯えることは無くなったのだ。と、わたしはそう聞いていたんだ。・・・でも、この本に書かれている続きにおばあちゃんやわたしのような闇魔法使いが疎まれ憎まれる理由が書かれていた。」

 「そこには何て書かれてたの?」

 「それから数十年後、再び侵攻してきた魔族は東方諸国を三日三晩で滅ぼした。かつて諸国を守った教会の騎士団達は戦いを終えて極東の地に移り住んでいたため、その知らせを受けたのは諸国が滅んでから一月経った頃だった。急いで諸国に、今は跡形も無い程に変わり果てたかつての地に帰って来た騎士団達は魔族の幹部を捕えどうやって三日で諸国を滅ぼしたのかを尋問した。すると幹部は答えた。”あれは闇の精霊の魔法によるものだ。”と。魔族達は闇の精霊達に闇の魔術を賜り、魔族の強みである魔力の多さと技量を活かし諸国を守る城壁も兵も、そこで暮らす民達も全て滅ぼしたのだと言った。それから魔族を再び退けた騎士達は今度は闇の精霊達に矛先を向け彼らに詰め寄った。それに対して精霊達は魔族が使っているのは闇魔法ではないと弁明するが、魔族の使った魔法と闇魔法には2つの共通点があったのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだった。この証言をしたのも魔族の幹部であり、かつて戦友として戦っていた騎士団達も戦時中闇魔法の特徴について知っている者が多かったことからこの共通点に気付いた。それ以来、闇の精霊達は騎士団達に諸国滅亡に加担した裏切り者とみなされ時代が流れると共に闇の精霊達はすっかり姿を消した今でも人類の敵として恐れられている。そう書かれていたんだ。」

 「そんな・・・・・」

 タツリは開いた口が塞がっておらず石のように固まっていた。

 「まぁそういう反応になるよね。まさか自分が習得していた魔法が多くの人々から忌み嫌われる歴史を持った物だなんて知ってショックでしょ?いいよ、別に使っても使わなくても。人間であるタツリにはもっと他の魔法がむいてるかもだしさ。短い間だったけど楽しかっ」

 「ちょっと待ってサキハ。」

 「ん?」

 突然タツリがわたしの言葉を遮り真剣な表情をしている。よく見ると全身が少し震えていた。

 「今まで話を聞いてきたけど、疑いの余地があっただけで確信犯ではないんでしょ?それにたとえ本当の事だったとしてもサキハは関係無いじゃん。おばあさんの世代の時代に起こったことじゃん。大体教会の人達は怒りの矛先を向ける相手を間違ってる。あの人達にとっての敵は闇魔法を使っている奴じゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()じゃん!武器にも魔法にも存在自体に持って生まれた善悪なんて無いよ。結局善かったり悪かったりするのってそれを使う誰かの()()なんだからさ。サキハの言う通り僕はその話を聞いてショックを受けたよ。でもサキハが闇魔法使いだったからじゃない。その出来事に関係無いサキハが理不尽に因縁をつけられてることだ。だからねサキハ、僕は君を悪い闇魔法使いだとは思わない。」

 わたしはいつもなるべく分かりやすくかつ、曖昧な言葉で自分の気持ちを表現したりはしない。でも今この気持ちを表現するには・・・いや、

 「タツリ、それでも世界はわたしという存在を嫌悪してるんだ。これ以上わたしに関わったらタツリの旅にも支障が出る。自分から提案しておいてなんだけどわたしと一緒に旅をするのはやめておいた方が良いよ。自転車も返すし。」

 「ならサキハは自分を嫌っている人達に振り回されて生きていきたいの?」

 「そういう訳じゃないよ。でもわたしが闇魔法使いだと知ったほとんどの人間は教会の奴らと同じ反応するだろうし、なるべく目立たないように行こうと思うよ。」

 その時のタツリは俯いていてどんな目をしているのかが見えなかった。その代わりに見えた口は煮え切らない気持ちを抑え込むように下唇を噛んでいた。タツリはフゥ〜と挙動を鎮めると顔を上げた。

 「・・・・これは僕の個人的な感情をぶつけるようで済まないけど、サキハが困っちゃうかもだけど、自分を嫌っている相手に気を遣うなら自分を好きでいてくれる相手と仲を深めるにはどうしたら良いかという事に心躍らせてほしいよ。そして君が好きなのは僕だ、僕と一緒に旅をしようよ。好きになったのは僕を二度も助けてくれたから。一度目は崖から落ちそうになった時、二度目は教会の奴らが来た時だよ。あの時洞窟にいきなり投げ出したのだって僕が闇魔法使ってるってバレたら大変な事になると分かってなんでしょう?僕の身を案じてくれたんでしょ?僕は先代の闇魔法使いの裏切りとか、そういう戦記でそう伝わっているからだとかで判断するあの人たちとは仲良く出来ない。同じようにはなれない。僕が仲良くしたいのは、これからも一緒に旅をしたいのはサキハなんだ。僕はその世界の常識に触れる前にサキハの優しさに触れたんだから。あとは、僕だってこの闇魔法の力気に入ってるからまだまだ教えて欲しいし。これが理由じゃあ納得出来ない?」

 もう一度言う。自分の気持ちを曖昧な言葉で表現したりはしない。でも今のこの気持ちは曖昧に表現せざるを得ない。

 わたしのモヤモヤした心に光が差し込んだようだった。わたしは闇に生きる精霊なのに彼の光を纏った言葉に照らされて心地が良い。一言で言うなら、嬉しいな。

 「他にもあるんだよ?サキハはね、」

 わたしがその気持ちを噛み締め無言でいたからなのかタツリはまた何か言おうとしたが、わたしは手の平を彼に向けてそれを止めた。

 「待って待って、タツリがわたしの事を思ってくれる意思は十分伝わって来たよ。ありがとう。そこまで言うのなら良いよ、これからよろしくね。タツリ。」

 「うん。」

 わたし達は立ち上がって堅い握手をした。


 それからわたしはタツリに闇魔法の指南を、タツリは自転車の動かし方を教え続けて旅立ちの準備を進めていった。

 そしてさらに数週間後。お互いにまだ完璧とは言えないが充分と思える程に修行をしたので旅立つことにした。

 「って言ってるけど、サキハは部屋の中で自転車操るだけでしょ?」

 「まぁね、わたしはこのスタイルが気に入ったからさ。」

 「一緒に旅をしてるんだかしてないんだか、曖昧な感じするよ。」

 「そうかなぁ?念話とはいえ、こうして一緒に話していればそれは一緒に旅をしてると言えるんじゃないの?」

 「理屈はそうなんだろうけどね。僕の中ではなんか旅行一緒に行く予定の友達が風邪ひいて行けなくなって仕方ないからテレビ電話で気分だけ味わっているみたいな感じだよ。あ、テレビ電話って分からないか?ごめん。」

 「フフン、それくらい分かる。タツリの居た世界で使われている電話という道具を使って遠隔で会話する念話のようなものでしょ?」

 「お、知ってるんだ。」

 「異世界の事で気になったことはネットで検索する。わたしはそうするようにしている。調べずに想像しても面白いんだけどね。」

 「それ、分かる〜!僕も想像を膨らませるの好き!例えばさ、」

 わたし達はそれからほぼ休む事なく二人だけの世界に入りながらも足を止める事なく北西へと進んでいった。

 今は自転車を操っているだけだからバレることは無いだろうがいずれはきっとカチホ・神聖魔法教会の連中と対峙することになるだろう。たとえ奴らがどれだけわたしを憎もうと、罵倒しようと、剣を向けようとわたしは主張する。

    ”わたしは悪い闇魔法使いじゃないよ!”と。

 





 


 


 

 



 

 

 

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