龍の事は龍に聞こう! 仲の良さは天と地の差?
旅に出てから数日が経った。しばらく道なりにロードバイクで次の町を目指して走っていたが、会うのは魔物ばかりで人っ子一人居ない。野を越え山を越えの連続で、今のところこれといって何か面白いことも嫌なこともなかった。それは前世で旅をしていた時となんら変わらない。旅とて毎日が冒険ではない。何気ない平凡な日が続くのが普通だ。でも、そんな日があるからこそ面白い事に出会った時に喜びはでかくなるのだ。毎日が楽しかったらきっと僕は楽しいことを探す事に貪欲になってしまうだろう。それは避けたい。そんな事を考えながらようやく深い茂みを抜けると視界が白い光に包まれた。目を開けるとそこには大海原が広がっており、先程の光は日の光が反射した物だと理解した。色は手前から奥にいく程段々と海の青さが深くなっており、波は穏やかで海岸に波打つ音に耳を済ませると心が洗われるようだ。
僕は今「クユイラ」という町を目指している。なぜかというとそこにとある龍がいるとグレンさんから聞いたからだ。とは言っても僕が探している雷神のことではない。グレンさんいわく「龍のことを知りたいなら龍の方が詳しいはず。上位龍と呼ばれるクラスの高位の龍であれば人語を解する者が多く、クユイラにも人間と共存している龍がいる。会えば雷神について何か聞かせてくれるかもしれない。」とのことだった。人間と共存しているというなら危険性は無いだろう。
しかしまぁ海沿いを走るのは気持ちが良いな。海に沿って整備された対向車同士が全然ぶつからないくらいの幅の広い石造りの街道はさながら元いた世界のビーチラインを彷彿とさせる。コンクリートの滑らかな道とは違ってこの石が積まれて造られた街道はわずかな凹凸があって少しガタガタするが、こういうのは嫌いじゃない。むしろ好きかもしれない。子供の頃車に乗っててガタガタ道を通っている時に声を出すと声が震えるの楽しんでいたあの頃の感覚が蘇ってくるようだ。それにしてもなんで人がいないんだろうか?こんなに海が綺麗で幅も広く通りやすい、おまけに石造りで頑丈、ガタガタを利用して声が震えるのを楽しめるこんな道を通る人が全くいないなんて。何か人が寄りつかない理由でもあるのだろうか?
長い長い石造りのビーチラインを越えようやく着いたクユイラの町は海に面した港町だった。波の音、潮の香り、港にはいつくもの木造りの小船、姿は見えないが聴こえるカモメの鳴き声。この典型的な港町の光景に感動したかったのだが、足りないものがあった。それは町の魅力を引き立てる要とも言える「人で賑わっている」ということだ。どういうわけかこの町も人っこ1人見あたらず、静まり返っている。ここの近くに森も山もないため閑古鳥の声すら聴こえてこない。そこらじゅうにある看板も建物も新しい作りで休業中・準備中の板が置かれているだけで廃村というわけではなそうだ。商売が出来ない理由があるのか、そもそも外に出られない理由があるのか。さんさんと日に照らされながらも静けさによって暗さが蔓延したような町をしばらく進むと、一軒の建物が目に入った。数本のヤシの木に囲まれた二階建ての屋敷というに相応しいくらいに大きな家、他の建物が木造りだったり石造りだったりするのに対し、少し赤みがかった岩塩色のレンガ造りの家はひときわ目立つし印象的だった。遠くから家全体を見回していると玄関と思われる両開きの扉が動いた。扉の向こうから出てきたのは栗色の髪をした女性だった。女性は僕を見つけると、無言でこっちに来てとでもいうように手招きしていたので僕は素直にそれに従い屋敷の中に入った。屋敷に入ると目の前に大きな階段、その左右には奥へと続く別の部屋の入り口が二つ。階段を上がった先も同じような造りで予想通りの豪邸だった。奥の部屋に案内され花柄の入ったソファーに座るように言われた。すると彼女はティーカップとティーポットを持ってきてようやく口を開いた。
「あなた、旅の方?どうしてこの街に来たの?あ、そうだったお茶は温かいのと冷たいのどちらが良い?」
立て続けに質問を投げかけられ一瞬しどろもどろになったがそれでも一つ一つ答えようと思った。これがこの人なりのコミュニケーションの取り方なのだろう。
「はい、僕は冒険者のタツリと申します。ここに来たのはこの町に龍族がいると聞き、会いに来ました。ちなみに今は冷たいのが飲みたいです。」
「まぁ、冒険者の方なの。あ、ごめんなさい。私はヒェーロ・シヌマカ、ここに住んでるの。それにしても龍に会うためにこのクユイラまで来たのね、疲れたでしょう。そうね、確かに龍がいるのは本当よ。でもあまり会うのはおすすめ出来ないわ。危険よ。」
「え、結構凶暴な龍なんですか?」
「あらごめんなさい、言葉が足りなかったわね。危険なのは龍の方じゃなくて空なの。」
「・・・空?」
「そろそろね、見れば分かるわ。」
彼女は窓の外に目を向ける。僕も彼女の視線に合わせるとそれまでさんさんと照らされていた町はまるでカーテンでも閉められたようにみるみるうちに暗くなった。その原因は日の光を遮るほどの分厚い巨大な雨雲。その瞬間腹に響くほどの轟音が鳴り響き、その後激しい濁流の流れる音が近付いたかと思えば窓から想像の何倍も勢いのある濁流が流れているのが見えた。
「え!これって津波?逃げた方がいいんじゃ・・・」
「大丈夫、すぐ収まるから。」
ヒェーロさんは突然の轟音と濁流に驚くことなく、優雅にお茶を飲んでいた。この町ではいつもこんなことが起きているのか?
「ヒェーロさん、これは一体?」
「あなたここに来るまでに町の人を一切見かけなかったでしょ?原因はあのさっき起きた現象なの。今まではこんなことなかったんだけど、一ヵ月前からかな、朝から昼間にかけて不規則に空から町を飲み込むほどの大きな雨粒が落ちてくるようになってね、お陰で誰も日が上ってる間は表歩かなくなって外から人も寄り付かなくなっちゃった。」
「ここまでの道中も人がいなかったのはそれか。でも、なんでこんなことが起きているんです?」
ヒェーロさんはかぶりを振って言った。
「分からない、でも日が沈めば絶対落ちて来ることはないし、何故かは分からないけど建物も被害を受けないから私達は夜にみんな店を開いたり出歩いたりしてるの。これからは夜に賑わう町として盛り上げて行こうと考えて自分から外に出てお客さんを呼びかけようとする人は多いんだけど、クユイラの町の名を聞くとみんな怯えて来てくれないし、夜はほとんどの人がベットで夢の中。お陰で利益が増えることなく、町の人達同士で通貨が循環するだけの毎日になると同時に、商売をするための物質は徐々に減るばかり。誰も生活が昼夜逆転した町を相手にしてくれなくなったのよ。」
「そんな、じゃあこの町の人達もヒェーロさんもこの町から出て行かなきゃならないんですか?」
「そうね、これ以上ここにいれば私達もいずれ生活が出来なくなって死んでしまうからこの町とはお別れしなきゃいけないわ。・・・でもここは私達の生まれ育った町。みんな小さい頃から海からやって来る潮の香りと波の音、照りつける日の光と共に育って来た安らぎの場所。この町は、クユイラは私達みんなの家族なの。本当はずっとここで暮らしていたい・・・」
言葉を積み重ねるごとに彼女の視線は落ちていき、声も弱くなっていく。きっとこの人は今まで誰にも言えずに喉元まで出かかるくらいに溜まってたんだろう。町の人達にその苦しみを打ち明けても意味がない。これはこの人個人の悩みじゃなくて町の人全員が悩んでいることなんだ。同じ悩みを持つもの同士苦しみを打ち明けても苦しみが循環するどころか増えるだけ。僕にその思いを打ち明けたのは僕が外から来た唯一の人間だったからだ。だからこの人は言葉にしてはいないけど、どんな形であれ助けて欲しいのかもしれない。僕のこの現状を打破してほしいのかもしれない。でも初対面の相手にそんなことを頼めなくて葛藤しているのかもしれない。それなら僕は・・・
「ヒェーロさん僕で良ければ協力させて貰えませんか?この町で度々起こる濁流の雨を僕が止めます。」
「いやいや申し訳ないわよ!タツリさん、悪いことは言わない。今夜日が昇る前にここを出た方が良いわ。ここにいたって濁流に怯えるだけで何の得もないのよ?」
「あります。僕はこの町にいる龍を探しに来たんです。会って聞きたい事があるんです。この町が無くなる事態を目の当たりにして、龍に会うだけであとはこの町からトンズラするなんて気分が悪いですよ。この町はあなた方の家族も同然なんでしょう?なら守りましょうよ、守れないなら僕が守ります。」
「どうしてそこまで・・・」
「僕は色んなところを旅して来ました。行ったことないところに行こうとすると不安も焦りもあるし、案の定嫌な事もありました。でもその道中色んな人に助けてもらいました。不安な時話し相手になってもらえたり、お菓子をいっぱい頂いたり、家に泊めてもらえたり、全員ってわけじゃないですが僕の出会った人たちは温かかった。だから僕も温かくなりたいと思いました。道中困っている人を助けたいと思いました。まぁ、これは今まで出会った人達の受け売りです。別に大義名分があるわけじゃありません。」
(とはいってもほとんど前世での話だけど。)
「ほ、本当に良いの?ありがとう!でも、どうやって止めるの?」
「それは・・・考えてませんでした。」
「え?」
「これから考えるしかないと思って。」
ヒェーロさんの顔が途端にフリーズした。やばいな、何か具体的な事言わないと。
「あ、そうだ!龍に会いに行くのはどうでしょう?」
「龍に?」
「そうですよ、龍なら空飛べるでしょ?龍に事情を説明して空まで連れてってもらえばいいんですよ。」
「確かにあの方なら穏やかで話が通じる相手だと思うけど、でもあの濁流はどうするの?龍がいるのはここから西に行った先の山の頂上に行かないと行けないのよ?今から行けば頂上に着く前に日が沈んでしまうわ。そしたら朝から昼まで濁流に逆らって泳がないと行けないのよ?」
「フフン、大丈夫です。僕にはその対処法があるので。」
「そうなの?でも、その方法って?」
「それは秘密です。でも、必ずや龍の所に行って話つけてくるんで。ではまた。」
「あぁ、待って。あの方に会いに行くならこれを持っていった法がいいわ。」
ヒェーロさんは奥のキッチンに向かい袋持って戻って来た。
「これは?」
「あの方に会いに行くならこれを持っていって。中身は龍に会うまで開けちゃダメよ。くれぐれも気をつけてね。無理しないでね。」
「はい、では行ってきます。」
「ちゃんと帰って来てね、そうだ、ここに来てまだ何にも食べてないでしょう?先に何か食べる?待ってて、何か作るから。」
「あぁ、いやいやお構い無く〜・・・」
それから僕はヒェーロさんの世話焼きを丁寧に断ったのだが、何かしら腹に入れておいた方が良いと言われチョコチップクッキーのような焼き菓子の箱を渡された。待っている間ヒェーロが焼き菓子を作りながら色々僕のことを聞いてきたので答えるのが大変だった。ちなみにこれはもちろんアイテムボックスに入れといた。あと、もうすでに僕は頂上に到着している。なぜかって?オイオイ、忘れてもらっちゃあ困るぜ。なにせ僕は雷神の次に速い男。未だに基準分かんないけどめちゃくちゃ速い事は確かだ。お陰で無事日が暮れる前に頂上に着くことが出来た。濁流にも合わなかったし。あとはこの辺りにいる龍に会いにいくだけだ。その時だった、突然大きな影が地面に映り僕の前を横切った。ふと上の方を見ると金色の鹿の角、鬼のような鋭く輝く黄い目、顔の作りはラクダのようで白い髭を生やし全身が黒光りする鱗に覆われた姿をしたのが弧を描くように飛んでいた。あれがクユイラの龍だろうか?今更だがドラゴンは翼が生えてるから空飛べるって分かるけど、あの龍のような奴らはどうやって飛んでいるのだろうか?龍は僕を見つけると大きく目を見開き今度はゆっくりと蛇のように体をしならせ降りて来た。
「其方、人族か?」
「あぁはい、そうです。」
「・・・そうか」
それから龍は口を閉じて僕をじーっと凝視していた。このまま口を開いてガブッといかれるのか、強力なブレスでもお見舞いされるのか、僕はどちらに転んでも死ぬ想像しか出来なかった。僕は顔をひくつかせながらも聞いた。
「あのー、僕の顔になんか付いてますか?」
「よく来てくれた!人族が来てくれるのを待っておったのだ。」
「え?」
彼の巨大な口から出されたのは人を噛み殺せる鋭い牙でも強力なブレスのどちらでもなく、温かい歓迎の声だった。僕が呆気に取られていると龍はにっこり笑って
「おぉ、すまんすまん。ついつい喜びが溢れ出てしまったようだ。申し遅れた、我の名はオウルエ。クユイラの守護者である。」
「僕はタツリと言います。クユイラの町の人達が度々降る滝のような雨に困っていると聞き、こうして貴方を訪ねて来ました。」
「ほほう。するとタツリ殿、其方もあの雨を止めたいのだな?」
「其方もって、もしかして貴方も止めたいのですか?あの雨を。」
「あぁ、我もあの雨を止めたい。実を言うとあの雨を降らせているのは我の妻なのだ。」
「オウルエさんの奥さんが?」
「うむ、名はセイン。人族にして神々の寵愛を受けた姫巫女だ。」
「あぁ、人なんですか。てっきり貴方と同じ龍族だとばかり思っていました。でもどうしてそのセインさんはあのように雨を?」
「恐らく、原因は我にあるかもしれないのだ。」
「どういうことですか?」
「我とセインは以前まではあの雨雲のある場所で共に暮らしておった。だが、一ヶ月前のこと突然セインは涙を流して「あなた様の顔はもう見たくありません。」と我にそう告げ強力な結界を張り我を追い出したのだ。それからというものああして濁流を起こすほどの雨をクユイラに降らせておる。おそらく我と関わったあの町を恨んでの事だろう。我もあれを止めたいが今の我ではどうにもならない。」
「今の、というと?」
「もともと我には四つの力があった。一つ、川も大海も操る水を司る力。二つ、あやゆる攻撃から身を守り強敵を退ける純粋な武の力。三つ、邪を祓う破邪の力。四つ、大地を操る力だ。しかしこの四つの内三つは追い出されると同時にセインに取り上げられてしまい、一つはセインの手に、あと二つはどこかへ散ってしまったのだ。それゆえに今は水を司る力で人々を守ることしか出来ない。とは言ってもみな我が守る前に避難するから建物が壊れないようにしているだけだが。」
なるほど、あの濁流が毎日あるのに建物が一つも壊れていないのはオウルエさんが守っているからか。いやそれよりも・・・
「つまりオウルエさんが結界を破れないのはその三つの力を失っているからと?」
「いかにも、散り散りになっていった力はそれぞれ違う性質を持つだけでなく我の持つ魔力の結晶なのだ。要は今の我にはあの結界を破るほどの力量が足りない。」
魔力が戻れば結界を破れると。しかしその姫巫女さんめちゃくちゃ強いんだなぁ、神の寵愛を受けると龍族よりも強くなれるのか。そういえば日本では龍は神の使いって聞いた事があるな。この世界でも龍と神さまは似たような関係性なのかな?
「タツリ殿、我が妻はなにゆえ憤怒したのだと思う?正直我には心辺りがないのだ。」
オウルエさんが顔を近づけ潤んだ瞳で聞いてくる。ただでさえ大きく迫力のある顔に迫られるとこちらも困る。そのような顔をされても僕は恋人いない歴イコール年齢の独身を貫いてきたもので、専門的な答えはなにも出せない。なのでここは正直に答える。
「いや〜僕は女性と恋愛関係になった事ないのでなんともいえないっすね。」
オウルエさんは明らかにシュンとしていた。
「ま、まぁまぁ!そう気を落とさないで下さい。そうだ良かったらこれいかがですか?小腹が空いた用に持って来たので。」
僕はアイテムボックスからヒェーロさんから渡されたクッキーを取り出した。
「おぉ、それは茶菓子か。では頂こう。」
「お茶もありますんで。」
「おぉ、すまないな。」
オウルエさんはクッキーをそれは美味しそうに食べていた。甘いもの好きなのかな?
「うーん、この茶菓子は実に美味だなぁ。このザクザクとした歯ごたえヤミツキになる。」
「それは良かった。あ、そういえばもう一つあるんでした。ちょっと待っててくださいね。」
「ん?他にも茶菓子が?」
「えーっと茶菓子かどうかわからないんですけど、町の人があなたに会ったら渡してと言われたもので。僕もまだ中身を確認してないんですよね。」
僕はヒェーロさんから渡された袋を取り出し開けてみることにした。すると袋の中から神々しい光が放たれた。
「ぐわっ!なにこれ眩しっ!」
「こ・・・これはまさか!」
「え?何か分かるんですか?」
「その魔力間違いない、我の力の結晶だ!しかしなにゆえタツリ殿がこれを?」
「さっきも言いましたけど、これはクユイラの町の人からあなたに渡して下さいと頼まれたものでして。」
「その者の名は?」
「ヒェーロさんっていう人です。」
「なんと、ヒェーロ殿か!」
「お知り合いなんですか?」
「うむ、ヒェーロ殿は我とクユイラの町の者との良好な関係づくりに貢献してくれていてな。時々話し相手になってもらっていたり、悩み事を相談していたりしていたのだ。いや〜それにしてもヒェーロ殿が見つけてくれていたとは思わなかった。この一件が片付いたら御礼を言いに行かなくては。」
「手紙も一緒に入ってました。」
「手紙?ヒェーロ殿からか?タツリ殿、読み上げてくれ」
「はい。」
親愛なるオウエル様へ
こちらの袋にあなた様の二つの魔力の結晶を入れて起きました。一つは砂浜に打ち上げられていて、もう一つは私の家に落ちて来ました。おかげで窓が破壊されました。
さて、今なにが起こっているのか状況は薄々察しております。姫巫女様と何かあったのでしょう。そして怒りを買ったあなた様は力のほとんどを奪われてしまった。あなた様から力を取り上げられるのはあの方しか思い浮かばなかったのでこうして秘密裏に冒険者であるそこにいるタツリさんに託しました。私が直接出向けば姫巫女様に見つかると思いましたので。とはいっても、もうすでに姫巫女様は魔力が貴方様に戻ったこの事態を把握していらっしゃるかもしれませんが。
オウルエ様、これが私の個人的な都合なのは重々承知ですがどうかお願いです。姫巫女様に会ってお話しをして仲直りをしてください。このままではこの町はクユイラは無くなってしまいます。私は龍であるあなた様と姫巫女様が仲睦まじい夫婦である事を知っています。
ヒェーロ・シヌマカより
「すまぬ、すまぬなヒェーロ殿。其方には助けられてばかりだ。一刻も早くセインに会いに行きクユイラの者達を助けようではないか。タツリ殿、早速だがその結晶を我の口に放り込んでくれ。」
「はい、わかりました。」
オウルエさんが口を大きく開けると僕は言われたとおり結晶を放り込んだ。彼がそれを飲み込むとオウエルさんの体は眩い光に包まれた。
「よし、これで武の力と破邪の力が戻ったぞ!」
「あとは確か、大地を操る力でしたっけ?」
「うむ、だがそれは今はセインの手にある。魔力が完全に戻ったわけではないが、今ならあの結界を破る事が出来るはずだ。ではタツリ殿、我に乗るが良い。共にセインのもとに向かおうぞ!」
「はい、行きましょう!」
僕はオウルエさんのタテガミ的な所に乗った。この時一つの懸念が頭によぎった。これ振り落とされたりしないだろうか?カッコいい主人公なら乗りこなせるのだろうが、あいにく僕は上から下ろす安全バーが欲しくてたまらない。しかしオウルエさんの体は本来乗用ではないためそんなものは存在しない。
「しっかりと捕まっていろ!タツリ殿。」
安全バーもなく安全バーを下ろしてくださいというアナウンスもなく始まった飛行は意外とゆっくりだった。例えるならロープウェイで登っている感じ。イメージではオウエルさんが縦横無尽に体をなびかせ、もの凄いスピードで飛び、息苦しく目も開けられない程の向かい風が来るのを予想していたのでなんだか拍子抜けだった。
「けっこうゆっくり飛ぶんですね。」
「タツリ殿を振り落とすわけにはいかん。我も風圧でタテガミが乱れるのが嫌だしな。」
「え、意外〜!オウルエさんそういうのも結構気にするタイプなんですね。オシャレが好きなんですか?」
「別にそういうわけでは・・・ん?タツリ殿見えて来たぞ、あれだ。」
見るとそこには雨雲が集まっており、その周りをオーロラのような緑色の煌びやかな膜に覆われている。
「あれってもしかして結界?あの雨雲の向こうにセレンさんが?」
「あぁ、間違いない。では結界を破る、行くぞ!」
オウルエさんが大きく口を開けると魔力がオウエルさんの中に集まっていく。洞窟の中をゴォォォと強風が吹き抜けるような音がする。次の瞬間、オウルエさんの全身を震わす咆哮と共に彼の口から白銀のドラゴンブレスが放たれた。螺旋を描くブレスは徐々に結界にヒビを入れ、やがては硝子のように破壊した。するとオウエルさんがバラバラになった結界の破片を吸い込み食べたのだ。
「え、それ食べるんですか?」
「タツリ殿も是非食べるがよい。芳醇な香りがして美味いぞ。」
僕はすかさず桜の花びらのように舞う結界の破片を手に取り食べた。パリポリとタブレットを噛んだような食感、そして口に広がる芳醇で上品な香りとほのかな甘さ。これはマスカットかな?
「どうだ?なかなかいけるだろう?」
「はい、魔法って味がするんですね。なんだか果物みたいな感じの、これはマスカッ・・・」
「そう!ムスカットの味だ。我はこの味が好きでな。セレナの好物でもあるのだ。」
聞いたことない食べ物だった。マスカットとは違う別のものなのか?
「セインさんの好物?となるとセインさんは魔法に味付けをしているんですか?」
「いや、これはセインの無意識によるもの。攻撃魔法などは別だが、結界魔法のような守りを意識する魔法の場合は術者にとって大切な物を思い浮かべて発動させるため、その思い浮かんだ物の性質が魔法に反映されることがある。」
「ということはセインさんは結界魔法を使う際にムスカットの事を思い浮かべたからその風味が結界に反映されたということですか?」
「そうなるな。よくセインは馳走を作る際にその事を考えながら作る。それゆえ馳走に流れ込んだ魔力の影響でケーキやクッキーなどの甘味がムスカット風味になることが時々あった。」
頭頂部に乗っているからはっきりとは言えないが、今のオウルエさんの声はどこかかなしそうだった。
それにしても魔法にはその人の心の状態が反映されやすい?そんな事があるのか。心は形に現れる、料理は作った人の心を映し出すみたいなものだろうか。
「さぁこれで魔力を少しは回復出来た。ゆくぞ、セインのもとへ。」
結界を破り目と鼻の先も見えない程の濃い雨雲を掻き分けていく。やがて雲を抜けるとそこには大空が広がっており、ど真ん中に短い円柱状の建物、さっき抜けた雲がバームクーヘンのように輪を作ってそれを囲んでいる。
「あの建物の中にセインさんが?」
「うむ。あれこそ我が家にして姫巫女が神々から力を賜わる祠だ。」
「祠、あれが?」
側面は窓もなければ掘られた祠っぽい古代文字や絵などの装飾もない無地の壁。今見ている角度からは断定出来ないが入口は見当たらない。改めて考えるとオウルエさんはあそこでどうやって暮らしていたのだろう?あれではたとえ中が空洞だったとしてもオウエルさんを閉じ込める水槽にくらいにしかならず、とてもあの中で快適に暮らせるとは思えないのだが。
「オウルエさん、あの中に入るんですか?」
「いや、我が行くのはあの上の面だ。何せあの祠の中はセインのみが入れる祈祷の間。夫である我であってもセインから立ち入りは禁じられている。なので一旦あそこに降り立ってセインを呼ぶつもりだ。タツリ殿は念の為我の側を離れずにいておけ。正直今のセインが話に応じてくれるか分からない。」
「分かりました。」
僕はオウルエさんの言うとおり出来るだけ警戒するようにした。何せこれから対峙する相手は神さまから力を授けられ、龍族であるオウエルさんが歯が立たない程の姫巫女。人間である僕は魔力を取り上げられるだけでは済まないだろう。
「セイン!我だ、お前の夫オウルエだ。今一度話がしたい。お願いだから出て来てはくれぬだろうか?」
するとオウルエさん声に応えたのか祠全体が激しく揺れると途端に祠が真っ二つに割れた。暗くてよく見えない祠の中から出て来た影が一つ。ふわふわと宙に浮き日の光に照らされたそれはエメラルドの髪をした女性だった。この人がセインか。青い瞳をしていて白肌の小顔で耳にはイヤリングを付けており全体的に少し幼く見える。彼女はこちらを見ると口を開いた。
「オウルエ様、わたくしは貴方様の顔はもう見たくはないと申したはずです。それなのに何故ここまで来たのですか?」
「もう一度言う、お前と話したいからだ。一体何故だ?何がお前の怒りに触れてしまったのだ?どうか教えて欲しい。答えてはくれまいか?」
「オウルエ様、あなた様と話し合うつもりはありません。」
その時だった。突如無数の影が僕達めがけて飛んで来た。これは土と岩の塊?オウルエさんは必死に避けるがその長く大きな体で全てを避けきることは出来なくてやがて命中。その衝撃で僕は振り落とされてしまった。
「しまった!タツリ殿ぉぉ!」
僕が落ちている最中、僕の両側には二つに割れた祠が。祠は僕がその間を通り抜ける前に僕を捕まえるように閉じてしまった。
「セイン、なぜタツリ殿を・・・・・消えた?まさかあの祠の中に?くっ!破邪息吹!・・・やはり駄目か。」
どこまでも底の見えない暗闇。このままどこまで落ちていくのかと思っていたが2〜3分くらいで地面にぶつかった。周りが良く見えないので、触覚を頼りに辺りを把握する。起き上がる際触れた床はザラザラとしていて岩のようで、足を動かすと靴底が床と擦れ合う音がこだまする。その時奥の方に青白い光が一つ灯ったかと思えば、次から次へと同じ青白い光が僕を囲むように現れてやがて空間全体を照らした。規則的な形をした石が積まれたような壁。外側もそうだったがこちらにも扉は無く完全な密室。天井は見上げるくらい高い開放的な空間だった。
「ここは祠の中?」
「えぇその通りです。」
後ろからザッザッと音の方を振り返るとセインさんが歩いて来ていた。僕が戸惑っていると突然祠が揺れた。
「なんだ、この揺れは?」
「おそらくあの方が外から攻撃でもしているのでしょう。しかしこの祠は神の力により造られし物。神かそれと同程度の力の持ち主でも無い限り壊すのは不可能です。それはそうと貴方にお聞きしたい事がございます。」
「えーっと、なんでしょう?」
「オウルエ様に魔力を戻したのは貴方ですか?」
「は、はいそうです。」
そう、魔力を戻したのは僕だ。魔力を回収したのはヒェーロさんだけどここで巻き込むわけにはいかない。
僕が返答すると彼女は瞳孔を広げた目で言った。
「そうですか、ならば貴方には裁きを下します。」
え、なんで?
「本来ここに何かの手違いでここに迷い込んだのなら丁寧に送り返してあげたのですが、貴方がオウルエ様と結託されているのなら話は別です。何を求めてここに来たかは分かりかねますが、あなたには少し痛い目に合ってもらいます。二度とここに来ない為に。」
すると人中めがけて鋭利な氷を至近距離で打って来た。僕は雷神の次に速いと謳われる俊敏性でなんとか避けた。何が少し痛い目にだ、完全に殺す気じゃないか。と考えている間に無数の氷の矢がすでに目と鼻の先にある。躱すのはそう難しくはない。だが僕のステータスは体力と速さに全振りで攻撃力&防御力皆無と小学校でモテる男子の特徴を持っているバリバリの二十歳なのだ。つまり当たれば死ぬ。いくらゆっくりに見えても当たれば僕は蜂の巣だ。とはいえ僕には反撃する術が無い。体力は多いがこのまま徐々に体力を削られてやがて死ぬ未来が待っている。ならばここで苦し紛れに何かしらアクションを起こさないとだ。じゃあアレ使うか。
「給水魔法。」《ウォーターサーブ》
僕はさっきの仕返しに至近距離に顔面目掛けて水をかけてやった。ここでみんなはどうやって至近距離で水をかけたのかと疑問に思ったかもしれないが。僕が距離を縮めたのではない。水を出す魔法陣の位置を彼女の顔面に移動しただけ。この給水魔法、威力は低いが手の届かない距離まで魔法陣を移動させて水を出すことが出来る。つまりは遠隔で壁も床も天井も空中でさえも縦横無尽に水の放出が可能ということなのだ。最初の町で買った魔法入門書、曰く本来魔法は自分の近く、あるいは手のひらから出すのが基本らしいが、これはその概念を大きく覆す画期的な物だった。ツマオリの酒場でグレンさんが遠い席から水をおねだりしてきて面倒くさいなぁと思ってやってみたら気づいたんだ。僕のものぐささが初めて役に立ったんだよなぁ。解説と回想から一旦戻るが今もなお現在進行形で水をかけ続けている。威力はホースの口をギュッと握った時に出る時と同じくらいに調整してある。そろそろ止めるか?と思っているといつのまにか僕の下に大きな魔法陣が現れ激しい濁流が僕を閉じ込めるように渦を巻く水の柱を作った。
「なんなんですか貴方。反撃してきたかと思えばこんな悪戯をしてくるなんて。あの程度の水魔法しか操れないのならこの竜巻から逃れることは出来ません。卑劣で穢れたその身も心も全て洗い流してあげます。」
「あ、ごめんなさいもっかい言ってもらっても良いですか?水でよく聴こえなくて。」
「なっ、そんな馬鹿な!私の拘束系水魔法から逃れるなんて!」
僕はセインさんの人を呑み込む程の竜巻をいとも簡単に破ってみせた。もちろん水を操ったわけじゃないし術式を強制解除した訳でもない。じゃあどうしたかって?フフ、コイツを忘れてもらっちゃ困るぜ。ツマオリで貰ったこの魔力を込めると辺りを干上がらせるほどの熱を放つ短剣であの大量の水を蒸発させたのだよ。ちなみにこれは咄嗟に思い着いた事ではなくオウルエさんに会いに行く前から考えていたことだ。なんせあの山を登る途中で予測不能な頻度で濁流が襲って来るかもしれなかったからなぁ、対策はしとかないと。とまぁこれでセインさんの氷魔法も含めて水魔法は怖くない。
あくまで僕の魔力が続く限りだけど。魔力が切れればもう短剣で魔法は防げない。いずれは僕の身を守る物は無くなるわけだ。じゃああの人を力づくで止めないといけないよなぁ。でもどうすれば?
「くっ!氷結針山!」
「よっと。」
僕はまたナイフを突き出し相殺させる。
「大海蛇牙!」
「よっこらせ。」
また相殺。
「流氷大波!」
以下同文っと。
「わたくしの攻撃が全く通じないなんて。一体何が起きているというの?」
さてセインさん大分息切れしてきたな。このまま耐えれば向こうが猛スピードで魔力を削って僕の不戦勝に持ち込める。だからもってくれよ、僕の魔力。
水魔法を全てを出し切ったセインさんは両目を閉じた。すると今度は逆光でセインさんの姿がシルエットしか見えなくなった。
「聖なる光よ撃ち抜け。乱射閃光!」
四方八方から光の線が僕を捕えるように、網を作るかのように交わる。すぐさま反応して避けることは出来たものの今度の相手は光。これは水や氷よりも速さも殺傷力も桁違いだった。また不意打ちで給水魔法を使おうとしても水と光じゃ早撃ち勝負で負けるし、短剣を使ってでの相殺も不可能だ。むしろ短剣が破壊されてしまう。そしたらあの殺戮魔法をひたすら避ける防戦一方に持ち込まれてしまうな。結局彼女の意表を突く、あるいは動きを封じない限り状況は変わらない。
しばらく攻撃を避けているとセインさんは初撃の何倍もの閃光を放ち、より大きな包囲網で僕の退路を断ち壁側に追い詰めた。僕が光魔法を防げない事を察してのことだろう。その刹那光は辺りを真っ白に染め上げ、追いかけるように轟音が部屋に響き砂塵を起こした。
「生きているかわ分かりかねますが、一応伝えておきます。勝手に人様の事情に首を突っ込むのは御法度です。悔い改めてください。」
「それは失礼しました。そして砂塵の中からこんにちは。」
「・・・驚きました、あれだけの魔法を受けてもなお無傷でいられるなんて。光魔法を防げなかったのでは?」
「えぇもちろんあなたの言うとおり最後に放ったあの光の包囲網は避けることも出来なければ、防ぐ事も出来ませんでした。でも方法はいつも足速に逃げるか力づくで防ぐかの二択では無いんです。時と場合によりますが”受け流す”という選択肢もあるんですよ。コイツを使えば可能です。」
僕はアイテムボックスから大きな氷の塊を取り出した。
「それは私が流氷大波で生成した氷!?でもそれはあなたが全て溶かしたはず。一体何故?」
「あぁ聞きますか?聞いちゃいますか?フッフン、ならば種明かししましょう。実はあの時、氷を溶かすと同時に一部の氷をで溶かさずにいくつか回収していたんですよ。アイテムボックスを使ってね。この大盾のようにデカい氷は非常に便利でしたよ。短剣の熱で一気に溶かせば一時的ですが水滴の集まった大きな壁が出来る。そして一滴一滴の雫は向かって来る光を屈折させ、分散させると同時に威力を軽減させ軌道も逸らす。水の乱反射を利用したんで光を完全に防ぐことは出来ませんでしたが、僕に当たった光は僕を照らすことしか出来ないくらいに弱くなってたんで今こうして無傷なんですね。以上です〜。」
「でも・・だとしてもあの一瞬でそんな事を思い付いて尚且つ実践するなんて、そんな無茶な事をよくやろうと思いましたね?」
「そりゃだって、ねぇ?光は水より速いんで水の盾が崩れる前に光が当たって防げると思ったのでね。」
「私が言っているのはそういう発想の事ではなく、失敗すれば死ぬかもしれないのにそれでもやるあなたの勇敢さに驚いているんです!」
「僕は少年時代から家族・友人からエグいと言われた行動力を今日この日までずっと磨き続けてきたのでね。これくらい当然ですよ。」
セインさんは僕の返しに一瞬たじろいだが、すぐさま冷静さを取り戻して言った。
「そうですか、では次で最後になります。もう終わらせましょう。」
「最後?」
「あなたはご丁寧にも先程自分がどうやって避けたのかを教えてくれました。ならばこちらはさらにそれを想定してでの攻撃を繰り出すだけ。お礼と称して屈折や分散どころか水の壁すら作る暇も無い程の光量を存分に浴びせましょう。」
「おやまぁ。」
「光の中に、消えなさい!」
今までとは違う極太の数個光の柱が僕の関節目掛けて飛んでくる。全て当たろうがどれか一つ当たろうが僕は動きを封じられ殺される。今度こそ絶対絶命、しかしながらこの時を待っていた。出でよ!最強無敵のステータス画面!小3の時に入ってた卓球部で習得したバックハンドで全部打ち返したるわ!
「アァタタタタッァ!」
注釈:(ちなみにバックハンドなのは部で僕が左利きでそれ以外の部員が右利きだったためラリーをするたびに自然とそうなっちゃったからだよ!めっちゃやりづらかった。)
僕の放ったリターンによって打ち返された光達はセインさんを通り過ぎ、互いに交わるように一箇所に集まって壁を突き破り大きな風穴を開けた。壁が崩れ、日の光が差し込み、そよ風が入ってくる。そして次にやることはもう決まっている。
「オウルエさん、今だ!」
強風を巻き起こす勢いで部屋に入ってきたオウルエさんが僕の呼びかけに参上した。
「セインよ、もう夫婦喧嘩はやめだ。」
そういうと彼は嵐のような勢いで部屋中を暴れ周り、祠の崩れそうな所を食い尽くすかのように噛み砕いた。当然崩壊した場所にずっと立っていられるはずもなく、僕たちは落ちていった。しかしオウルエさんのナイスキャッチで僕とセインさんは難を逃れた。
「ッ!・・・まだです!」
セインさんはすぐに起き上がるとオウエルさんもろとも僕を倒そうと呪文を唱えたが、濁流も無数の光の槍も顕現することはなかった。それでも詠唱を続ける彼女は徐々に弱っていき、やがて膝を付いた。
「これは、魔力切れ?」
「そりゃ僕を殺そうと躍起になって魔法を使い続けていたらそうなりますよ。しかもあの祠も同時に操ってたんですから魔力の消耗は激しいはず。なら魔力切れに持ち込めば戦えなくなるし、祠も壊せるかなぁと思ったんです。」
「あなた、こうなる事を全て計算して?」
「まぁ、その場の思い付きです。オウルエさんから聞いたんですがあなたは祈祷をして神様から魔力を貰っているんでしょ?だったら祠を壊せばそれが出来なくなる。でも僕じゃ壊せないので神さまから力を貰っている貴方の力を利用して壁壊させて最終的にオウルエさんを呼んだわけです。」
話し終えると僕はオウエルさんに向き直り彼の頭上に掴まりつつ話しかけた。
「ふぅ、ありがとうございますオウルエさん。」
「いきなり我を呼ぶから驚いたぞ、タツリ殿。ところで其方は光魔法が使えたのか?先の祠に大穴を空けたあの力、あれは光の魔法の類いだったような・・・」
「あぁ、あれは確かに光魔法ですが僕のじゃなくてセインさんのです。」
「セインの?何故セイン自らが祠に穴を?」
「光魔法を使ったのはわたくしですが、穴を開けたのはわたくしではありません。」
「・・・どういうことだ?訳が分からぬ。」
それから僕より少し距離を空け背中の位置に座っていたセインさんが僕の代わりに説明した。
「つまりはセインが放った魔法がタツリ殿に打ち返されるのみならず、ひとりでに一点に収束しそれが大きな力を生み、壁を打ち破ったと。セインはこう言っているが相違ないか?タツリ殿。」
「えぇ、間違いありません。」
「そうか・・・どういうことだ?魔法を跳ね返すのは一旦受け止められるが、跳ね返したのが偶然壁を破るなど・・」
「偶然ではありませんよ、僕がそうなるように仕向けたんです。」
「何?」
「跳ね返された魔法がなぜ1人でに動いたのか、それはこれを使ったからです。」
「ん?それはもしや」
「闇属性のポーション?」
「僕はこのポーションを壁に投げつけたんです。そうすれば闇魔法の引き寄せる力が働きバラバラだった光魔法が一つになって穴を空けることが出来たんです。」
「一体いつの間に・・・」
「それは僕が水の壁であなたの攻撃を躱す前、部屋全面が光に包まれ視界が真っ白になったあの時ですよ。アイテムボックスから氷を取り出すと同時にポーションを取り出して投げる。後は壁にぶつかったポーションから闇魔法がぶちまけられ壁に付くというわけです。」
「いやはやお見事。そのような戦略を刹那に思いつくとはタツリ殿は軍師の才があるのだな。」
「お褒めに預かり光栄です。とりあえず、今から下に降りてお二人で話し合いませんか?」
「うむ、そうだな。」
オウルエさんは僕の提案を受け、さっき飛び立った山に戻った。あとは二人の問題だ。僕は先に降りて傍で様子を少し遠くから見ていることにする。オウルエさんが降りたセインさんに顔を向けようとしたが、それよりも先に彼女がオウエルさんの顔の前に駆けて行った。もじもじしながら何か言いたそうに口を動かしている。オウルエさんも僕と同様、自分から話してくれるのかと思っていたのだが一向に話す気配が無い。それを悟ったのか、彼から口を開いた。
「セイン、お願いだからどうか教えてくれ。なにゆえ我の顔はもう見たくないと言い我を追い出したのだ?」
セインさんは俯き彼には見えないように、僕には見えるように悲しい顔をして振り絞るような声を出した。
「オウルエ様が・・・他の女性にうつつを抜かしていたからではありませんか。」
「何?」
え、オウエルさんもしや浮気してたの?
「お、おい・・・待てセイン。我は決してそのようなことしておらん。タツリ殿もそんな下衆を見るような目を向けないでくれ。」
おっとバレたか。
「シラを切らないで下さい!」
僕とオウルエさんの向き合っていた視線が彼女の一声に引き寄せられる。
「わたくしは、みたのです。オウルエ様が他の女性と出会っている所を。」
「いつの事だ?」
オウルエさんが聞き返すと彼女は涙を流し目元を赤くしながら言った。
「今から一ヶ月前です。あの日のお昼頃、貴方は祠からあの町の方に降りて茶色い色の女性と仲睦まじげに話していたではありませんか!あの女性からクッキーも貰って美味しいそうに食べていたし、挙げ句の果てにはあの女性から手紙までもらって!」
「もしかして、その女子とはヒェーロ殿の事か?確かにクッキーや手紙はもらったが・・」
「やはりそうなのですね、きっとわたくしが作るよりさぞ美味しかったのでしょう?あの手紙も貴方様への愛が綴られた内容が書かれていたのでしょう?」
「ち、違う!あれは恋文などではない!ヒェーロ殿とはそのような関わりでは・・・」
「ではあの女性が言っていた”大切にしてください”という言葉はわたくしの空耳だったとでも言うのですか?あれこそあなた様に向けた愛の言葉なのでしょう?それに対してあなた様は”永遠に誓う”と言っていたではありませんか!これを浮気と言わずなんと言えるのですか?」
「違う、あれは恋文ではない。お前が聞いた会話もヒェーロ殿との愛を誓っていたのではない。愛の誓う相手はヒェーロ殿とは別にいるのだ。」
「え・・・?ということはわたくしの知らない他の女性に愛を誓おうと?」
「ぬぅぅぅ〜!そういうことではなくてだなぁ・・・」
「オウルエさん、横槍を刺すようで申し訳ないですが、まずはオウルエさんが渡すつもりだった物が恋文でなくなんだったのかを伝えた方が良いのでは?」
「む、そうだな。助言感謝する。」
彼は一旦呼吸を整え冷静さを取り戻し真っ直ぐな目をして言った。
「あれは料理のレシピだ。」
「え?」
「あのレシピに書かれている料理をお前に作って欲しかったのだ。」
「どうしてそんな・・」
「今まで言えずにすまないが、セイン。お前の作る馳走は美味しくない。」
「・・・酷い、あんまりです!何を話すとと思えばわたくしの手料理に文句を付けるなんて!」
「待て待て。そもそもセイン、お前は自身で作った料理の味を確かめた事がこれまであったか?」
「いえ、ありませんが?」
「何故だ?」
「それは、わたくしが一口でも口にすればあなた様の召し上がる量が減ってしまうと思って。」
「そうか。セイン、一ヶ月前我に振舞ったものはなんだったか覚えているか?」
「はい、確かシャケーモンとキノコの葉包み焼きです。塩と胡椒、ガーリックやバターで味付けされた食材を蒸したものです。」
「その通りだ。だがな、あれは塩味でもなければ胡椒やガーリックやバターの香りは全くしなかった。」
「え?」
「食感や舌触りはシャケーモンやキノコのままのはずなのに全て同じムスカット味になっていたのだ。それだけではないぞ!これまで作った料理も全て同じムスカットの味になっていた。これでは形や食感が違うだけで毎日ムスカットを食べているようなものだ。流石に飽きる。しかしながら、我はお前に料理を作ってもらっている身。暴君の如く不味いから作らないでほしいとはっきりと言う事など出来ぬ。仮に言葉を選んで伝えたとてお前を傷つけてしまうやもしれぬ。そこでクユイラの町に降りヒェーロ殿を訪ね数多くのレシピをもらったのだ。我がお前にレシピを渡して新しい料理を作り、お前自身に食べてもらうように促す。さすれば次第にレシピ通りの味を作ることができ、お前を傷つける事なく丸く収まると考えていたのだ。だからセイン、我は決してヒェーロ殿と恋仲になったわけではない。」
「だとしても、そうだとしても!オウエル様はそのレシピの紙とやらを今持っていないではありませんか。やはり嘘を・・」
「確かに今の我はそれを持っておらん。今それを持っているのはセイン、お前だ。」
「はぁ?」
セインさんは開いた口が塞がらないようだった。
「もっと噛み砕いて言うならばお前が我から取り上げた魔力の結晶の中だ。」
「そんなまさか!」
セインさんのは半信半疑になりながらも自身の体から魔力の結晶を取り出した。
「それを我に返しておくれ。」
「はい。」
オウエルさんが結晶を受け取ると結晶は眩い光を放ちその中から数枚の紙が出てきた。セインさんはその紙を受け取り両の目でじっくりと見ていた。全てを見終えると涙を浮かべていた。
「・・本当だったんですね。レシピが書いてあるだけでなく、ヒェーロ様という方からわたくしに向けた文まで綴られている。ではお二人があの時していた会話は?」
「あの時我はヒェーロ殿にこう言われた。私に相談するのも良いが、まずはセインの気持ちを大切にしてくれと。そして我はそれに対して永遠に誓うと言ったのだ。」
オウルエさんが言葉を続ける度に彼女が涙目になっていく。鼻をすすりながら、小さくか細い声を出しながら両手で顔を隠していた。
「申し訳ありません!そんなこととはつゆ知らずあらぬ疑いをかけ、あなた様の力を奪い、祠を追い出してしまうなんて。わたくしはなんて事を・・・」
「いや、此度の件は我にも非がある。先にお前に我の気持ちを伝えてヒェーロ殿を紹介し、料理を作って貰えば良かったのだ。順序を間違えてしまった。裏切られたと考えても仕方なかったのだ。」
オウルエさんは泣いている彼女を包み込むように体を曲げ、優しく言葉をかけて彼女をなだめていた。やがて彼女は落ち着きオウルエさんと一緒に僕の方を向いた。
「あの、オウルエ様から伺いました。あなたはわたくし達の仲を取り持とうとしてくれていたのですね?そちらの話も聞かずに殺めようとして申し訳ありません。」
セインさんは深々と頭を下げて僕に謝った。
「別に良いですよ、結果僕は無事だったので。」
「我からもお詫びと感謝を伝えたい。タツリ殿、そなたをこんな夫婦喧嘩に巻き込んでしまいすまなかった。そして我らは無事こうして和解することが出来た。感謝する。」
「どういたしまして。あ、そうだ。この事をクユイラのみんなに伝えたいと思うのですが、お二人はそれでよろしいですか?」
今さっき思い出したけど、今回はヒェーロさんを含むクユイラの人達が困っていたからやった事だ。現状クユイラの人達はあの雨の原因がセインさんだと知らない。原因を伝えないままだとみんなの不安は拭えないのだ。
「ふむ我は同意だ。」
良かった。これでやっと事態が収束し・・
「伝える?なぜわたくし達が仲直りしたことをクユイラの方達に伝えるのですか?」
「え」
「ぬ?」
僕たちはほぼ同時に声を出し数秒固まった。途端に場が静寂に包まれた。
この人は自分が今の今まで何をやっていたか自覚がないのだろうか?それとも自覚はあるけど悪意が無いのだろうか?
「あの〜セインさん。」
「はい?」
「確認なんですけどセインさんって今まで濁流の如く大量の雨を降らせてたじゃないですか。」
「そうですね。」
「なので報告をと思ったんですよ。」
「え、なぜですか?」
「いやだから、今までクユイラの町に雨を降らせてたじゃないですか。それでみんな困ってたんです。だからこれまで雨が降っていたのはセインさんが原因であるってことを伝えてそれは収まったと伝えないと町のみなさんを安心させてあげられないんです。」
「・・・え、わたくしクユイラの町に雨を降らせていたんですか?」
「む、もしやセイン気づいて無かったのか?」
「は、はい。」
彼女はさっきよりも申し訳なさそうな口調で言った。
「では何故昼の旅に濁流の如く大雨を降らせておったのだ?我はてっきりあの町を恨んでやっているのだと・・・」
「えーっと、あれは水を捨てていたんです。」
「何?」
「オウルエ様を追い出して悲しくなって、なんだかやけ食いがしたくなって。それでわたくし好きな穀物を炊くため水で穀物を研いでいたんです。あの雨が降っていた雲の上には町一つはあるくらい大きな釜がありまして、それでそれで研ぐ用に魔法で生み出した水を使ってあとは捨てていたんです。なにぶんあの時はわたくしは自分のことで頭がいっぱいだったため周りのことが見えておりませんでした。」
「はぁ〜、なんてことだ。」(タツリ&オウルエ)
僕たちは再びシンクロさせるように眉間にしわを寄せた。
「こりゃしっかりとした謝罪しなきゃですね。」
「うむ、そうだな。」
「え、御二方なんだか顔が怖いですよ?」
「はいはい、それじゃあさっさとクユイラの人達にちゃんと謝りに行きますよ〜。さぁさぁオウルエさんに乗った乗った。」
「えっ!ちょっとおぉ!?」
僕は急かすように彼女の背中を押して彼女をオウルエさんに乗せた。もちろん僕も乗る。
「オウルエさん、飛ばしちゃっていいですよ〜。」
「あいわかった。」
「あの〜出来ればゆっくり飛んでもらえると・・・風圧で髪が乱れてしまいますゆえ」
「僕とオウルエさんは平気なんで。」
「わたくしは全く平気では無いんですが?!」
「よしでは参るぞ。」
「キャァァァァァァァァ〜!」
こうして僕たちは足早にクユイラに向かった。たとえセインさんの髪が乱れようとも、下敷きで静電気を起こして逆立ったような髪型になろうとも。クユイラに着くなり僕は早速全てをヒェーロさんにお話しした。ヒェーロさんは終始無言で話を聞いていたけど、僕が話終わると「ずっと気になってたけど、なぜセイン様は髪が逆立っているの?」と聞いて来た。それに対して僕とオウルエさんは「別に気にしなくてもいい」とだけ伝えておいた。それから町を練り歩き一人一人に彼女に謝罪をさせ、もう自分の都合で雨を降らすことはしないと誓ってもらい、クユイラを襲う雨の件は解決した。
それから日が落ちた今夜、クユイラの人達は宴の準備を始めた。街全体を照らすように松明を炊き、屋台を幾つも即興で作り、座れるよう木の椅子やテーブル、立ち飲みが出来る用のテーブルとして大樽を用意した。屋台にはスープ・串焼き料理、斧を使った的当てや飲み比べなどの催しを開き町全体が昼間の事が嘘だったかのように盛り上がっていた。そして何よりみんなの目を引いたのはオウルエさんとセインの用意したものだった。それはセインさんが使っている大釜で中にはセインさん自家製の白米とオウルエさんが採ってきた沢山の海の幸が火にかけられた巨大な炊き込みご飯である。町のみんなへのお詫びと称して2人で作る事にしたのだとか。料理はみんなに配られもちろん僕も食べた。米がふっくらなのは同じだが味付けはコンソメやバターみたいで、日本の炊き込みご飯というよりかは海鮮ピラフに近い。使っている具材は魚はもちろんのこと、イカやタコの足、海藻などなど海の幸がふんだんに使われていてこれはこれで好きだった。濃すぎず、薄過ぎずあっさりとした癒しの味は絶品だった。みんな三杯くらいお代わりをしたが、それでもあの大釜を空っぽにすることが出来ずに全員が満腹になった。残った分は全部オウルエさんが一粒残らず平らげた。
盛大に騒がしかった宴もお開きになりクユイラの人々が後片付けをしている最中、僕・オウルエさんセインさんはヒェーロさんと一緒に彼女の屋敷の庭で今後のことを話していた。今日を境に雨の件は解決したが、まだそれで終わりではない。クユイラは本来ならば外部との交易があってこそ繁栄する町、今のままでは時間が経つにつれて段々と滅亡の道を辿る一方だ。寄り付かなくなってしまった外の人達を呼び戻すにはどうしたらいいものか全員が悩んでいた。
「あの、ごめんなさいヒェーロさん。わたくしのせいで。」
「もういいですよ、その件は。でも、セイン様が力の結晶を投げて壊れた私の家の窓はしっかりと直していただきますからね。」
「うっ・・・・は、はい。」
やっぱりヒェーロさん根に持ってたか、窓割れたの。
「ヒェーロ殿、窓はもちろんしっかりと直す。とにかく今は何かクユイラを繁栄させる何かしらの策をだな・・・」
「あぁそうでしたね、失礼しました。それでは外からお客さんをどう呼び戻せば良いかについてですが、町の中での催しをしても噂を恐れて町には誰も来ないし、こちら側が町に来てもらうよう呼びかけても状況は変わりませんでした。なのでそれ以外の方法を考えるしかありません。」
「ふむ、雨の噂でみな怯えているのをなんとかせねばならないのか。それならクユイラの人々と同じように外の者達にも我とセインが直接出向いて事情を説明するしかないのだろうか?」
「オウルエ様、今回の原因であるわたくしが言うのも何ですが、それではますます人々は寄り付かなくなってしまうでしょう。町を濁流に巻き込んだ姫巫女であるわたくしの事情を聞けばみな怖がってしまい逆効果です。それ以前に龍であるオウルエ様に怯えて話を聞いてもらえないということもあります。このようなことを告げて申し訳ありません。」
「いや、お前の言うことは最もだ。確かにこの体の大きさでは謝罪どころではないな。しかしこの件は我らで解決しなければいけない。どうすれば・・・」
「あの〜今思い着いたんですけど僕の提案を聞いてもらってもいいですか?」
僕は手を挙げてそう言った。3人の視線が僕に集まる。
「タツリ殿、何か考えがあるのか?」
「はい。結論を言うとオウルエさんとセインさんのお二人でセインさんの料理を他方の人々に配るのが良いかと思うのですが。」
「わたくしの料理を他方の方たちに配る?それはなぜですか?」
「まずクユイラを復興させるために達成すべき目標は他方と交易する伝手を作ること。そしてそのためには他方と関係を築かないといけないんです。そのための方法としてまず出向くのがセインさんです。」
「わたくしですか?」
「ええ。セインさんが他方の人達に自慢の料理をお近づきの印として振る舞うんですよ。でもここで注意点があります。セインさんが料理を配るなり説明するなりして相手側の警戒心を解かない限りオウルエさんは出てこないで下さい。」
「それは我が恐れられてしまうからか?」
「そうです。だから最初は交渉の橋渡しとして、会話するきっかけとしてセインさんだけで話をつける必要があります。」
するとヒェーロさんが手を挙げて質問の意思を見せた。
「交渉役としてセイン様が適任なのはわかったのだけど、ではオウルエ様は何をするの?」
「オウルエさんには噂の説明をする為の証人として出て来てもらいます。」
「証人?雨を降らしていたのはセイン様だと伝える為の?」
「いいえ違います。雨を止ませたのはセインさんとオウルエさん2人であるのを伝える為にです。」
「何!?タツリ殿待つのだ。雨を止めたのはタツリ殿で我らではない。それでは嘘をつくことに、」
「ならないですよ。セインさんは魔力が尽きて、オウルエさんはセインさんを説得した。それで雨は止んだ。お二人がどんな立場にせよ雨を止めた原因はお二人だという事実は変わりません。そこであえて雨を降らせていたのはセインさんだと伝えないことです。これなら嘘をついたことにはなりませんよ。」
「そうはそうですが、」
「現状長い間町を呑み込むほどの雨が降っていたクユイラはその噂で各地から恐れられている。そこでセインだけでなくオウルエさんがその雨を止めたと告げればどうなるでしょうか?それを聞いた人々にとっては突如現れた姫巫女と巨大な龍がクユイラを救った英雄のように映るでしょう。ヒェーロさん一応確認しますけど雨が降る理由は他方の人たちは知らないんですよね?」
「ええ、みんなセイン様のことは知らなかったわ。」
「なら説明がつきます。セインさんが料理を通して話すきっかけを作る→オウルエさんが出て来て事態の収束を説明する→クユイラに来るよう呼びかけをする。この段階を踏んで交渉をすればウソはついてないし、他方の人達が噂を恐れることなくクユイラに来てくれると思うのです。そりゃ一気に来てくれるわけではないと思いますけど、少しずつ少しずつ町の来訪者を増やしていくという方針でいかがですか?」
「うむ、異論無い。タツリ殿の意見に賛同しよう。」
「わたくしも相違有りません。」
「決まりね。では早速出発の準備に取り掛かりましょう!オウルエ様セイン様、明日からよろしくお願いします。」
「うむ。」
「はい。」
「あの、僕は・・」
「あぁ、タツリさんはゆっくりしてていいわよ。なんせクユイラを救ってくれた英雄なんだから。なんなら数日私の家で過ごしていって。」
「あぁ、はい。ではしばらくお世話になります。」
三日後、ようやく準備を終えた二人はクユイラの町の入り口にて出発の準備をしていた。多くの人達が立ち合い人になって集まって来た。もちろん僕もだ。クユイラを代表してヒェーロさんがみんなの前に出てお見送りの挨拶をする。
「ええ、皆さん。今日はこの町にとって記念すべき日です。なぜなら龍族のオウルエ様と姫巫女セイン様がわたし達住むここクユイラの町興しを手伝ってくださるのだから!」
暖かい拍手と黄色い声援が広がる。静まるとヒェーロさんは続けた。
「今までは町の中で貨幣が循環し物質が減るだけの毎日でしたが、これからは違います。オウルエ様とセイン様が連れて来てくれる他方からのお客さんを私達の総力をもって盛大におもてなしをしましょう!そしてこのクユイラを今まで以上に栄えた町にしましょう!」
再び広がる拍手喝采。するとヒェーロさんは周りをキョロキョロし始めて何かを探しているようだった。やって彼女の首の動きが止まると彼女が見ていたのは僕だった。彼女は僕を見つけるなりこちらに来るようにと手招きをしていた。僕それに従い照れながらも前に出た。ふと顔を上げるとみんなの視線が僕に集まっていた。
「もう一つ皆さんにお伝えしたいことがあります。ここにタツリさんは今回の一番の功労者です。彼の活躍が無ければ私たちはこうして日の下を歩く事は出来なかったでしょう。再びこの町を盛り上げていこうとは考えなかったでしょう。よって彼をクユイラを救った英雄として讃え、後世に語り継いで以降ではありませんか!」
本日三度目の拍手喝采。聴衆の中から老若男女問わず僕に対する感謝の声が聴こえてきた。あぁ、こういう時僕は愛想笑いの一つでも出来ないものだろうか。正直こういうのは不慣れだ。緊張のあまり体が固まってしまっている。
「ではタツリさん、何か一言。」
そんなことはお構いなしにヒェーロさんは僕にヒーローインタビューをするのだった。何か決め台詞でも言うか?いやそんなのは無い。当然の事をしたまでですよとスタンダードofスタンダードでいくか?みんなの視線が更に集まる中悩み抜いた末僕の口から出た言葉は無かった。僕は親指を立てた。これが今の僕に出来る精一杯の返しだ。しかしその時ある不安がよぎる。日本ではこれは肯定的な意味を持つが国によっては侮辱になる所もあったりする。この町ではどういう解釈なのだろうか?恐る恐る視線を上げるとみんな戸惑った顔をしている。辺りがしんと静まるとプッ!と誰かが吹き出した声が聞こえる。するとみんな一斉にに大笑いし始めた。オウルエさんもセインさんもヒェーロさんも笑いを抑えられないでいた。僕が戸惑っているとヒェーロさんが笑いを堪えながらも話しかけてきた。
「ふふふ。もうタツリさんったら、こんな時にでも食い意地張っちゃって。意外と食いしん坊なんですね。」
「え?」
「まさかハンドサインで”腹減った!なんか美味いもん食わせろ!”と返すとは思いませんでした。見送りが終わったら私の家で何か作りますね。」
これそういう意味だったの〜!?そりゃみんな大笑いするわけだ。無意識にも僕は周りを爆笑の渦に巻き起こすことに成功したみたいだ。
「何を言うかと思えば自身の空腹を宣言するとは、タツリ殿は笑いの才もあるのだな。いや〜思わず吹き出してしまったわ。なぁセイン?」
「えぇ、そうですね。ふふっ。」
「うむ、お陰でとても良い気分で飛び立てそうだ。ではいくぞセイン。」
「はい、オウルエ様。」
二人はどんどん上に昇っていき他方を目指して飛んで行く。やがて二人の姿が見えなくなるとみんな各々散っていった。さてこれから僕はどうするのかだがそれは決まっているヒェーロさんの家でこの腹に飼っている飢えた猛獣を宥めにいくのだ。今日の料理は彼女特性のオーク肉を使ったジンジャーソテーらしい。どんな味がするのやら楽しみだ。 それから僕はしばらくこの町クユイラに数日ほど滞在するのだった。




